「信濃」戦記録   作:扶桑畝傍

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第一次世界大戦と呼ばれた戦争が終わり
その傷を癒す為、
より軍備増強に動き出していた。



1930年・序章「居る筈の無い人間」

 

それは日本が、まだ“大日本帝国”を

名乗っていた頃の

1930年“ロンドン海軍軍縮条約”の制定により

軍部は揉めに揉めた

「ふざけるなっ!!」

ある軍人は叫んだ。

「・・・いや、

 アイツならやってのけるだろう、

 誰か、“畝傍”を呼んでくれ。」

「幽閉されて、

 叶わないかと思いましたよ。」

少し痩せてはいたが、

内に秘めた“炎”は消えていなかった。

「まさか、本当に軍縮条約が

 制定されてしまった以上、

 貴殿に“我が軍の強化策”を

 陛下に提示していただく。」

「・・・わかりました、お願いします、

 “戦争で負けても

  ただでは終わらせない為に”」

「うむ、

 して、どれだけ必要なのだ?

 自由に出来る量も限りがあるのだ。」

この軍人も、懐が厳しいのだろう

「スケッチブックがあれば

 俺が記憶していて

 実現性の高い物に限れば、

 30冊ぐらいで済むかと。」

あ、ほっとしてる。

「早速始めよう、

 して、いきなりコレか。」

「はい、

 船越二郎と言う方に

 連絡が必要です。」

「・・・理由は?」

「“表の最強戦闘機”を造って貰う為です。」

「表?」

「俺が覚えているのは

 “陽の目”を見なかった物や、

 戦局悪化により、部品すら作れなくなって、

 計画書倒れの物ばかりです、

 なので、“裏の最強戦闘機”や、

 陸上兵器、海上兵器もそれに伴う物、

 そして、“油田の記憶も無くなる前に”

 書き起こしたいのです。」

「無資源国家ゆえの宿命だな、

 わかった、海軍には

 俺から話を進めておこう。」

「戸木田(ときた)大佐、

 俺を上手く使って下さい。」

「対、中国が来年、

 ・・・対、米開戦まで僅かに7年か、

 間に合うかな?」

「帝国海軍に弱気は要りません、

 違いますか?」

「・・・そうだな、畝傍、

 資料の書き出し、急げよ?」

「は、この命に掛けましても。」

史実をなぞりつつ、“二人の日本人”により

日本は変わって行く

ドタドタと、誰かが走って来る

「畝傍っ!!」

バタンと荒々しく開けられた扉は

取っ手が壁に跡を付けていた

「始まったぞっ!!満州事変だっ!!」

「戸木田さんっ!!

 大至急、これを実現させてくださいっ!!」

「来て早々なんだ?

 ・・・これはっ!?」

「12.7cm砲なら、腐る程造れます、

 単装砲ですから、工程を簡略化出来ます、

 前面装甲に関しては

 チハの装甲板を2枚ずつ重ね、

 隙間を開け三層構造にし、

 チハ二台の資材で

 現状の戦車に対応出来るのは居ません!!」

「しかし、これを陸軍が聞き入れる訳が。」

「誰が陸軍に開発を依頼するんですか?

 海軍ですよ、海軍陸戦隊の

 “主力戦車”にするんです、

 実用性、汎用性、機関部の部品統一による、

 全体資材の消費削減、

 そして艦艇用ジィーゼル(ディーゼル)の

 機関開発部にも、指導を依頼するんです、

 ガソリンを

 ふんだんに使えないのは周知の事実、

 “菜種油”など、植物性油で動く機関を

 造って貰うのです。」

1935年12月

「これが量産試作戦車。」

「あぁ、畝傍さんのトンでも発案で

 出来上がっちまった、化け物戦車だよ。」

「何両、出来たのですか?」

「・・・20両だ、

 まさか、コイツ等を中国に持ってくとか

 言うんじゃねえよな?」

「5両で良いです、

 5両を部品取り、残り10両を、

 南方戦線に送り込みます。」

「あ?南方だぁ?」

「我々の油を求めるには南方以外、

 現状はありません、

 ゴムやそういう工業資源も、

 アメリカから止められている、

 もう、残された時間はないのです。」

「畝傍、輸送船の手配は出来たが、

 護衛はどうする?」

「確か、大湊の第二水雷戦隊があった筈です、

 彼らにお願いしましょう、

 津軽海峡、日本海の荒波を

 重々知っているでしょうから。」

「ちょっと待ってください、

 20両を全て動かすんですか?」

「はい、今はなりふり構っていられないのです、

 南方へはまだ進出出来ないので

 今しばらく10両は残ります、

 その間に、

 “新型の開発を進めて欲しいのです”」

「この試作戦車だけでも

 “嬉しさ半減、金策が苦しい”のです、

 出来る限り進めはしますが、

 追加の資金、資材が無い事には。」

「わかっています、

 御上にも、お伝えしておきます。」

「で、だ。」

「はい。」

「ガーラット式蒸気機関車の資料だと?」

「はい、

 現状のD50では、いずれ力不足になります、

 それを、“国内長距離戦時貨物急行”に

 充当すべく、

 開発を川崎車両に大至急お願いしたいのです。」

「正気か?

 確かに鉄資源が厳しくなるのは周知の事だが、

 残存しているD50を解体、ガーラット式に改造、

 川崎が承認するか・・・。」

「海軍が注目していると言う噂を流すんです。」

「・・・しかし。」

「我が大日本帝国の長距離路線は

 ほとんどが“狭軌”1.067mmです、

 この軌間を最大限使うには

 キツイ勾配、

 曲線をいかに早く駆け抜けるかに掛かっています。」

「機関士、補助機関士の二人で、

 “重連”の能力は魅力的だろうが、

 維持管理はどうするのだ?

 デメリットを鑑みると、

 慣れているD50を素直に重連し、4人で運用すれば。」

「それと並行して、

 単機での馬鹿力担当も試作、

 製造を進めて貰いたい物があるのです。」

「なにぃ?」

スケッチブックを見せる。

「艦船用の蒸気タービンで使う“復水器”を、

 炭水車二両の容量で効率化だと?」

「それと、石炭が不完全燃焼する際、

 “一酸化炭素ガス”を再燃焼に使い、

 さらなる熱量をボイラーに叩き込みます。」

「・・・これは、“艦艇にも?”」

「ソレ用はコレです。」

「“仮称・改・天龍型軽巡洋艦・石炭機関想定計画”

 ・・・魚雷も4連装2基、

 しかし、この主砲は?12.7cm連装高角砲これでは、

 火力不足ではないのか?」

「これは対航空攻撃用です、

 主砲はこれにします。」

「15.5cm三連装砲艦首2基、

 これならば大抵の敵に対処出来るだろうが、

 艦尾のこれは?」

「水偵の甲板です、

 この先の戦いは、“目”の戦いです、

 電探の開発は鈍重と言わねばならない程に遅いのです、

 これは中島飛行機に依頼します、

 恐らく、三菱は“表の最強戦闘機”の製作で

 最大限工場を稼働させるはずです、

 なので、この戦闘偵察機は、

 “裏の水上戦闘機”になります。」

「・・・お前の言う、

 世界大戦の1939年か、1940年は、もはや目前、

 中島飛行機には、海軍からの直接依頼として出そう、

 しかし、改・天龍型の製造をどこにやらせるか。」

「条約脱退前提ですから、

 改装で主砲、高角砲の変更はできます、

 ・・・浦賀船渠では出来ませんか?」

「浦賀を?良く知っているな、

 あそこなら駆逐艦の実績もあるし、

 丁度空いていたな、

 早速発注を掛けよう、

 となると、輸送船やら・・・。」

「だから、

 “国内長距離戦時貨物急行”用の機関車の製造も

 大至急お願いしたいと言ったのです。」

「そうすると、東海道線の“重量対応更新工事”を

 大急ぎでやらねば成らぬな、

 横須賀線は元々の対応工事が進んでいるから、

 大きな問題は無い、まったく、

 お前の頭はどうかしているよ。」

「・・・否定する要素が少なくて困るんですけどね。」

 

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