「信濃」戦記録   作:扶桑畝傍

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1937年6月10日に竣工し、
各種試験・訓練を実地する筈だった
艦艇が一隻あった。

しかし、半月もせず
1937年7月6日
中国国民革命軍の不穏な動きと
日本軍の夜間演習のさい
中国軍(中国国民革命軍・以降・中国軍)からの
“実弾の発砲”と言う
火ぶたが切って落とされてしまった。


1937年 降臨・赤鬼、青鬼が逃げ出す最凶

1937年7月4日

完成した“軽巡洋艦”は、

名前を

『狩川(かりがわ)』級多機能試験巡洋艦

と、命名され、

35年に除籍、解体されていた

“日進”の乗員を放り込んで、

オマケの新兵も放り込んで、

駆逐艦“深雪”の生き残りも乗せて、

暫定乗員756名を確保し、

“龍驤”と共に、

盧溝橋事件(ろこうきょうじけん)へ

緊急参戦した。

「しかし、

 いきなり実戦とは。」

戸木田さんは頭を抱えながら俺を見る。

「言い方は悪いですけど、

 “中国”には、実験と粗だしに付き合って貰います。」

「だが、ろくに艦内を把握せず、

 兵装の取り扱いもままならん、

 大丈夫なのか?」

あ、この人は艦長の湯浅中佐

第一次大戦を士官候補生として生き延び、

着実に階級を上げて来た人で、

“一番の常識人”

「そこは龍驤の艦長にお願いして、

 “赤鬼、青鬼でさえ、龍驤と聞けば後ずさりする”

 そう言う実戦訓練で身に付ければいいかと?」

あれ?艦橋の人たちも、

戸木田さんも、湯浅さんも固まってる?

「まさか、呼んでないよな?」

「そ、そぅそぅ、呼んでないよな?」

「駄目でした?もう内火艇で向かっていると

 発行信号で確認しましたけど?」

普通はあり得ないが、

この畝傍の頭の中では

“経験者から見て盗み覚える”意味合いで

“龍驤の艦長”を呼んでいたのだ。

「ほっ!?ほうこくしますっ!?」

あ、艦長付きの方だ

「ま、まさか?」

「龍驤の艦長、

 岡田艦長大佐がイラッシャイマシタ。」

「ほぅ、奇妙な巡洋艦が着いて来てはいたが、

 なかなかどうして、良い艦だな。」

「初めまして、岡田大佐、

 私がこの艦の発端である畝傍です、

 一週間もあれば、貴方の乗組員の様に、

 一糸乱れぬ行動、実戦への適応が可能と思い

 お招きした次第です。」

「ふん、当然だ、この艦は竣工したてと聞く、

 現状の問題点は何かね?」

「はい、かき集めた人員であるが故に規律の乱れ、

 搭載航空機要員の練度も

 お恥ずかしながら初心者同様、

 なれば、“赤鬼、青鬼が龍驤と聞けば逃げ出す”と、

 ならば、そこから技術を盗み物にし、

 我が艦の生存率を上げ、

 敷いては

 帝国海軍の勝利の礎になれればと思う次第です。」

「ぶはははっ!?

 貴殿は職人気質なのか?」

「いえ、いずれは“私の構想にある”巨大空母の

 艦長をお願いしたいのもあります、

 だからこそ、空母を運用するノウハウを

 私自身、実際の現場から声を聴きたいのです。」

「巨大空母とは大きく出たな小僧、

 少佐は技官でもあるのか?」

「近い・・・ですね、なにせ、

 実現出来る物を片っ端から試しているだけです、

 出来れば、“水上戦闘偵察機・衝雷”を、

 実際に乗っていただき、

 様々な観点から“改修”の案を教授できれば

 尚嬉しいのですが、如何でしょうか?」

「なに?水上戦闘偵察機?

 どんなものだ?」

「腕は確かな搭乗員は居るのですが、

 何分、“今作戦が初陣”

 最前線を知る岡田大佐なら、

 よりいい経験を授けてくれるものと

 確信しております。」

概要を書いた“衝雷”の説明書を受け渡す。

「ほぉ、

 37mm機関砲を6発も、

 20mm機関銃を4丁、

 7.7mmと20mmの組み合わせに、

 7.7mmと航空写真撮影器、

 なにぃ?爆装も可能なのかっ!?」

「はい、

 25番(250kg爆弾)1発、60kgを3発、

 対潜水艦用爆弾を2発、増槽も付けられます、

 しかし、複座であると、25番を詰めず、

 固定兵装を、37mm機関砲1丁、

 20mm2丁か、7.7mm2丁に限定されます。」

「ふむふむ、

 ならば、複座で60kg2発と、37mmで、

 どれだけ飛べる?」

「・・・おおよそ1000kmですね、

 戦場での機動戦闘を鑑みると、

 作戦半径は、300km前後でしょうか?

 先に投弾し、60kgを降ろした後なら、

 もう少し無理が効く筈です。」

「これだけの高性能水上機、

 なぜ話題に何一つ上がらない?」

「“裏の顔”です、

 表は零戦に任せ、“裏”に徹すれば、

 より凶悪な機体を開発実現出来る物と

 思いこそしますが、受け入れられない事が

 大多数であろうと予測しての処置です。」

「・・・確かに、

 フロートでは無く、着陸装置であれば、

 “零戦”を簡単に上回れるであろうな、

 苦労して造った零戦を

 どこの馬の骨とも分らんヤツに

 追い抜かれるのだからな。」

「はい、それで航空機開発が止まっても困るのです、

 それにそれだけに集中は出来ません、

 岡田大佐に乗って貰う空母も

 造らねばならないのですから。」

「・・・はははっ!!

 ならば複座で準備せよ、

 中国軍に挨拶しに行こうでは無いか!!」

「湯浅艦長、

 十田飛曹長を起こして貰えませんか?」

「・・・はっ!?

 し、しかし、畝傍少佐、

 岡田大佐を勝手に乗せたとなると

 軍法会議物・・・って、これは?」

「戸木田さんに準備して貰ってた

 “岡田大佐が衝雷に乗る為の許可証”です、

 ほら、ちゃんと大本営の物ですよ?」

「・・・わかった、

 おい、直ぐに機体の準備と飛曹長を叩き起こして来い。」

「はっ!!」

「おい、畝傍少佐。」

「はい。」

「あれは偽造品だな?」

「流石岡田大佐、

 直ぐにバレましたか。」

「そうまでして、俺を乗せたい理由は?」

「・・・加賀、を、ご存知ですよね?」

「・・・あぁ。」

「非公式の情報筋では、

 貴方の次の乗艦は、“加賀”と

 噂が立っているのです。」

「・・・それで?」

「現職の声を聴きたいのは事実です、

 それと、

 ・・・加賀と、岡田大佐を、

 失わない為にも、必要だと思っての私の我儘です。」

「・・・そのような海戦が起こると?」

「・・・おそらく。」

「昔からな、

 “良からぬ予感は当たるのだ”」

「・・・えぇ、聞き及んでいます。」

「貴殿からはな?

 それを一切感じないのだ、

 先の加賀と俺を失わない為と言うのも、

 なんら違和感なく受け入れられたのだ。」

「・・・ありがとうございます。」

「だが、貴殿はどこの“日本”から来たのだ?」

「・・・まさか?」

「夢だと思っては居たのだが、

 しかり、“何一つ違わぬ歴史”を、

 繰り返しているのだ、

 だが、貴殿は、今まで“いなかったのだ”

 繰り返して来た歴史の中で、

 貴殿はいなかった、

 だが、ここに居る、

 つまり、変革を求められているのだと

 疑案としていたが、確信に変わったよ、

 お前も、“どこかの日本”から来たのだろう?」

「・・・そうですね、

 西暦で言えば2020年の冬から、

 俺はここ、1927年の春に飛ばされて来たのです。」

「・・・そう身構えるな、

 あの戸木田とか言う奴も“いなかった”のだ、

 貴殿が改変する歴史、

 どの様に転がるか、見せて貰おう。」

がっしりと肩を掴まれた。

「この身に代えましても。」

「意味合いをわかってて言っているのか?」

「えぇ、俺が差し出せるのはこの身一つのみ、

 “来世ならぬ、別世・大日本帝国”を、

 生き残らせて見せます。」

今、『狩川』から初の射出を試みる

『複座・衝雷』が飛び出そうとしている。

「ふむふむ、

 良い発動機の音だ、

 よし、いいぞ?」

「はっ、はぃっ!!」

「大丈夫かなぁ~。」

「よく他人事の様に喋れるよお前は。」

「そう言う戸木田さんこそ、

 “どこの日本”からいらしたんですか?」

「・・・言えぬ、

 だが今世の日本は、

 あのような結末だけにはさせぬと、

 心に誓ったのだ。」

「・・・やれるだけやって、

 それでもダメだったら、

 また、考えましょう。」

「・・・ずるいな、それ。」

「龍驤には伝えてあります、

 直ぐに護衛として、

 九〇式艦上戦闘機を出してくれるそうです。」

「・・・燃料やら、速度差を考慮するのか?」

「・・・失念してましたね、

 まぁ、出さない選択肢はないので、

 攻撃を終えて、帰還する途中で

 合流出来るでしょう、

 37mm機関砲1丁と、60kg2発、

 小型増槽一つの最大荷重装備ですからねぇ、

 好き勝手暴れて来るんじゃないですかねぇ。」

奇しくも、7月8日04:30だった

「なんだぁ?

 陸軍の奴ら、演習してたんじゃないのか?」

「大佐、戦闘ですっ!?

 戦闘が始まっていますっ!!」

「慌てるな、小型増槽の中身はどうだ?」

「は、はぃ、間も無く無くなります。」

「では投棄し、戦闘準備を始め給え。」

「はっ!!」

投下用レバーを引き、

燃料管がきちんと閉じたランプが点く

「飛曹長、爆撃の経験は?」

「それが、模擬弾程度でして、

 実弾はまだ。」

「・・・俺が落とそう、

 その代わり真っすぐきちんと飛ばせよ?」

「りょ、了解しました。」

その正確に落とされた60kg爆弾2発は、

トーチカを瓦礫に戻す手間を省いてあげたのだ。

「命中っ!!命中ですよ大佐殿っ!!」

「馬鹿者っ!!付近を警戒しつつ、

 37mmを準備せんかっ!!

 この機関砲で、

 残りのトーチカを撃ち砕く、

 今度は飛曹長の出番だぞ?」

「トーチカをですかっ!?」

「あたり前だ、撃たれているのは

 “陸軍であるが我が大日本帝国軍だ”

 友軍を助けずしてなんだと言うのだっ!!」

「はっ!!

 では、手荒くいきますよっ!!」

「望む所だっ!!」

この日中戦争最初の頃の戦闘は、

まだ、騎兵や、歩兵が中心だったが、

戦車も幾つか参戦していたが、

中国軍の“トーチカ”を破壊できる力は、

まだ、陸軍に配備されていなかった。

そして、ただ、緊急参戦しただけではなく、

“あの12.7cm高角砲”搭載戦車も陸揚げされ、

既にこの地へ向かっている事を誰も知らなかった。

「腕は確かなのだな、十田飛曹長。」

「お褒め頂き光栄であります!!」

「ただ、妙な流す癖があるな。」

「え?」

「急降下時、ラダーに触っていないか?」

「いえ、私は触っておりませんが?」

「とすると、機体の癖なのやもしれん、

 空技省に再研究させよう、

 精々の500m急降下でそれが出るのだ、

 3000m急降下で、

 どれだけ機体の負担が増えるのか、

 最悪フラッターで、

 空中分解もしかねんだろう。」

「そんな・・・。」

「ったく、こう言う粗だしも兼ねて

 現職の人間の声が欲しいとは、

 上手い事俺は利用されてしまったな。」

「大佐を利用するなんて・・・。」

「いや、なに、俺は、

 根っからの飛行機乗りだってのを、

 思い出させられたと思っているよ、

 ほれ、逃げろ逃げろ、

 見覚えのある敵機が追撃に来ているぞ?」

「うわっ!?大佐っ!!気づいてたなら

 言って下さいよっ!!」

過給機のスイッチを入れ、

一気に10000mに駆け上がる。

「ほぉ~、これが過給機の威力か、

 追撃の奴らをもう突き放しているわ。」

「ただ、今回は上手く作動してくれましたけど、

 “工作制度”によっては、2、3回で、

 壊れてしまう事もあります、

 まだまだ正式には採用されないでしょう。」

「まぁ、常に動き続けていれば燃費に響くが、

 大型艦上機なら回しっぱなしでも支障はなかろう、

 なるほど、小型機には不向きだが、

 大型機には・・・ふむふむ。」

「・・・大佐?酸素マスクしてますよね?」

あ、なにか考え事をしてらっしゃる

「・・・帰ろう。」

今後、

彼は試作機の実戦テストに引っ張りだこにされ、

事あるごとに、岡田大佐と同乗し、

機体の粗だしもとい、

岡田大佐の飛行機乗りの

ストレス発散に付き合わされる。

「十田飛曹長、只今帰還致しました。」

「おぉ!畝傍少佐!

 あの機体の改善点でな?」

「はい、お願いします!」

「戸木田さん。」

「なんですか、湯浅艦長?」

「あの岡田大佐と航空機談義やら、

 構想談義に着いて行けますか?」

「・・・いえ、あんなに楽しそうなのに、

 横やりは入れられませんよ。」

「ですが、次作戦の指示書も来ていますし、

 そろそろ・・・。」

「そうだな、岡田大佐、畝傍少佐、

 大本営から新たな作戦書が届いています、

 大本営を無視するのは

 いささか不味いのでは?」

二人に睨まれた・・・俺のせいじゃないのに

「すまんすまん、

 ・・・畝傍少佐、

 どうやら、正式に“加賀”へ艦長として

 配属が決まったようだ、

 早く上って来い、そして、

 お前の巨大空母に新型艦上戦闘機、

 期待しているぞ!」

「はい、やはり貴方にお話しと

 機体の粗だしをお任せして良かった!

 ぜひとも現場の声代表として、

 ご教授願います!!」

あぁ、がっしりと握手しておられる

てか、残りの一週間で、叩き込まれるのか

「・・・せめて殉職者が出ない事を祈ろう。」

「なにか言ったか?」

「いえ。」

「殉職者・・・まぁ、実戦訓練に

 手を抜く馬鹿は我が大日本帝国軍には、

 “いませんよね?”」

「そうとも、おらんよな?」

龍驤乗員と、狩川乗員が、

死にかけたのは言うまでも無い。

一週間の猛訓練もとい

実戦訓練(中国軍に対して)

撃たれたら“3乗返し”を実地

陸軍から苦情を受けたが、

かの12.7cm高角砲戦車を、

6台あげたら大人しくなった。

自走砲とも言うらしいが、

外付け対応の単装25mm機関銃を

オマケで付けてあげ

弾薬補充も、燃料も、

海軍を通して補給するとし

拠点防衛だけでなく、

進軍の中核を担うようになっていった。

手持ちは4台に減ったが、

諸島にまだ拠点は無いので出番が無い。

砲弾は最大射程の火薬量前提で補給するので、

撃つ時は、射角と、

敵を真ん中に入れる事に注意すれば、

8割から9割の命中率を誇り、

外しても、地面を抉り飛ばし、何らかの損傷を必ず与えていた。

 

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