「信濃」戦記録   作:扶桑畝傍

4 / 14
「ふぅ、さぶっ。」
スケッチブックを
抱えるだけ抱え
台車にも山積みにして
海軍本部へ向かっていた。


1939年 真珠湾迎撃作戦前夜

1939年冬、

再び海軍本部へ呼び出された、

例によって

大量のスケッチブックを抱え込んで。

「久しいな。」

「はい、対空駆逐艦、

 重砲撃型重巡洋艦も

 “一艦隊分”

 拝見させていただきました。」

そう、このおっさん、

もとい山本五十六大将は、

真珠湾攻撃用艦隊に、

竣工、竣役仕立ての新型艦を、

全て編入し、猛訓練をさせていたのだ。

「しかし、

 10cm連装高角砲を

 両用砲として使うとは

 思い切った発想だったな。」

「ソレに関しては、

 “12.7”は使い慣れている反面、

 砲弾が重いと言う点が

 解決出来ずに困っていましたが、

 10cm砲弾であれば、

 自動装填装置も容易で、

 故障時の人力装填でも、

 左程射撃能力の低下を

 見ずに済むだろうと考えて、

 構想に組み込んだのです、

 そしてソレ用の測距儀を付与し、

 より命中率の向上に

 繋がるように描いた次第です。」

「特型駆逐艦の主砲も、

 長10cm連装高角砲に換装が進んでおるし、

 大型艦艇の対空装備は

 就役時の3倍は増えているぞ。」

「それでも足らなくなるかと思われます、

 それと、潜水艦はどうなりましたか?」

「それは今一つだ、ただ、

 海中輸送船団構想は受け入れられてな、

 順次竣工待ちとなっておる。」

「衝雷の潜水艦搭載は?」

「まだ図面だ、しかし水密扉と、

 カタパルトの問題さえ解決出来れば

 直ぐに起工出来ると返事が来ている。」

「資源の確保はどうでしょうか?」

「フィリピンに関しては

 意外と好意的だったな、

 土木事業に関して

 工作機械の保守保全を売りに、

 海水から真水を作る機械は

 大変喜ばれたそうだ。」

「南方諸島解放の足掛かりが出来ましたね。」

「ただ、

 パプワニューギニア、ソロモン方面は、

 既に米国の手に落ちていたよ。」

「なんですってっ!?」

「オーストラリアが

 アメリカに対して何らかの情報なり

 供与をしたのだろう、

 スパイとして

 潜り込んでいた者から連絡が入ってな、

 “パナマ運河”を通れる艦艇を

 続々とこっちに送っているそうだ。」

「早い・・・ならば、

 ハワイ強襲を早めねばいけませんね。」

「だが、それは出来ん、

 北方艦隊からの情報では、

 北太平洋の艦艇が

 活発に動いていると連絡が来ている、

 ウェーク経由で出来ないか

 今試算させている。」

「それこそ無理があります、

 燃料タンクを作るにも地盤から固め、

 そこから組み立て埋設する、

 それだけでも

 最低4、5カ月はかかるんですよ?」

「わかっておる、だからこそ、

 海中輸送船団を

 前倒しで推し進めているのだ、

 既に竣工各種試験を進めているのが6隻、

 間も無く竣工するのが4隻、

 ぎりぎり間に合うのが2隻なのだ、

 今しばらく大人しくしてはくれんか?」

「“一号艦、二号艦”はどうですか?」

「艤装が間に合わん、訓練もままならんし、

 早くても41年の夏だ。」

「・・・長門、陸奥の艤装強化は。」

「それは終わっておる、

 岡田君の悪い感が働いてな、

 主砲の不具合も発見できた、

 口径を50口径3連装に改め、

 バルジ追加、機関増強、

 対空装備も追加、“試験運用の電探”も今頃

 試験を開始している筈だ。」

「今後も艦隊中核を担うんです、

 不注意の爆沈は洒落にならないですからね。」

「扶桑型、伊勢型も済んでいるぞ?

 速度は25.4ノットまで出せるようになったし、

 主砲は55口径3連装35.6cm3連装砲に改め、

 水上機用プラットホームを付け、

 衝雷・改・乙を12機搭載できる、

 主砲数は減じたが、12門の門数は変わらず

 打撃力は向上したと言えよう。」

「・・・その、出来たら、

 “山城に一度でいいので”

 乗船させて貰えないでしょうか?」

「構わんが、どうした?乗りたいなどと

 初めてでは無いか?」

「いえ、個人的な我儘です、

 一度でいいので、目に焼き付けて置きたくて。」

「・・・丁度、

 横須賀沖で夜間発艦の訓練をしておる、

 明日の昼には出航予定だ、

 見に行くか?」

「叶うならば。」

「ふむ、よかろう、私から

 電話を入れて置く、

 明朝・・・0730、横須賀駅でどうだ?」

「・・・それって、始発でそこに向かっても

 間に合わないですよね?」

「・・・そうだったな、

 先に向かえ、話して置く。」

「ありがとうございます。」

深夜、

横須賀駅に到着するも、

最早真っ暗で何も見えない。

「貴方が畝傍大佐、でありますか?」

「・・・貴方は?」

「山城、艦長の付き人です、

 今宵の内に山城へ案内せよと、

 山本五十六大将閣下から厳命されたと、

 艦長から伝えらえまして、

 迎えにまいった次第です。」

「艦長はまだ起きていらっしゃいますか?」

「えぇ、

 本来なら明日の出航に備え眠る段階でしたが、

 大佐が一度でいいからなどと言わなければ

 睡眠の邪魔をしなかったでしょう。」

「・・・艦長と同階級に対して、

 随分な口だね、まぁ、

 俺はそんなに気にしないのと、

 その階級に見合った経験も、能力も

 持ち合わせに無いと思っているのだがね?」

「・・・まだ、気付きませんか?」

え?

「初めまして、

 私が“五藤(ごとう)存知(ありとも)”ですよ、

 畝傍大佐。」

「は?」

あ、別な若い軍人が服を差し出して来た

それに袖を通し、着替えると

「・・・大変申し訳ございませんでしたっ!?」

反射的に土下座をしてしまう。

「同階級なんですから、

 早く立ってもらえませんか?」

「は、はい。」

「いやいや、

 山本さんから電話で起こされたのは驚いたけど、

 どうして、山城に乗りたいと?」

「・・・私にとっては、

 大事で、思い出のある艦なんです、

 触れる事すら出来なかった時を幾つも過ごし

 ようやくそれが出来る立場を承ったので、

 居ても立っても居られず、

 訓練を終えた直後にお邪魔するとは、

 失礼なのはわかっています、

 でも、戦争が始まる以上、

 “何時会えなくなってもおかしくない”

 そう思うと、我慢の糸が耐えきれずこのように

 事を起こした事を、お詫び申し上げます。」

「・・・わかりました、

 貴方の構想によって、

 生まれ変わった“航空戦艦・山城”を、

 心行くまでご覧になって下さい、

 すぐそこに、内火艇を着けてあります、

 さ、行きましょう。」

「はい、ありがとうございます。」

あぁ、ようやっと会えた。

「これが・・・山城なんですね。」

扶桑と並んで錨を降ろし、停泊している姿は

正に仲の良い姉妹その物

「畝傍大佐、そこまで・・・。」

涙して、側舷に触れて泣き崩れてしまったのだ。

「は、ぃ、

 こうして、ようやく、ようやく、

 会う事が叶ったのです。」

「・・・時間が惜しいです、

 艦橋へ上がりましょう。」

うなずき、辛うじて立ち上がる。

「っ!?艦長っ!?」

「よい、今宵の事は他言無用に。」

「は、了解しました。」

(はて、あの大佐殿は、

 泣きながら艦内を歩っておられた、

 如何様な事があれば、あぁも

 “懐かしみを持つ目で”見られるのだろうか?)

「どうぞ。」

しん、と、静まり返った艦橋は

何時でも死地へ向かう心がけとして、

全ての備品はぴかぴかに磨かれ、

新品同様の月明りを反射していた。

「・・・ありがとうございます、在知艦長、

 そして、“山城”は、

 新しい装備を搭載し、今の姿になった。」

「えぇ、艦尾に水上機用プラットホームを搭載し

 航空戦艦と言う新たな艦種を生み出しました、

 楽しかったですよ?

 戦艦・陸奥、航空戦艦・山城と、

 こうも戦い方に違いがあり、

 癖の強い戦艦は初めてでした。」

「確か、陸奥、八雲を兼任されてたんですよね?」

「陸奥は兎も角、八雲までご存知とは、

 良く調べておられる。」

「はい、ラムを残す艦艇の一つとして、

 記憶しております。」

「まさか、アレがまだ有効だと?」

「・・・実は、

 “ラム”を使う重装甲戦艦も構想にあるのです、

 今の戦艦は

 自身の攻撃力を想定した

 防御を施されるのが通例、

 ですが、“ラム”は違います、

 全力でド突くのです!!

 そこにロマンがあるじゃないですかっ!!」

「・・・ぉ、おぅ、

 急に元気になったな。」

「はっ!?しっ!?失礼しましたっ!!」

今度は普通に頭を下げる。

「ふむ、単艦で敵艦隊に突撃するか、

 そんな事をすれば

 集中砲火にて撃破されてしまうだろうに。」

「そこを、航空隊による援護で、

 “戦艦同士の殴り合いに持って行くのです”

 在知艦長も聞いている筈です、

 “真珠湾攻撃作戦”を。」

「・・・噂が真実になってしまったのか。」

「はぃ、開戦は避けられません、

 五十六閣下も、心を痛めながら、

 作戦書を作成していると

 おっしゃっていました。」

「・・・機密なのでは?」

「最早周知の事実だそうです、

 五十六閣下は、俺が会う方々には、

 伝えていて欲しいとおっしゃっていました。」

「そぅ、か、

 しかし、その航空機による援護があっても、

 “一度止まった戦艦はただの的だぞ?”

 それを如何様に解決するのだ?」

「簡単です、

 “ド突いたまま推し進める強度にて”

 その接触部分を破壊し

 圧し折り、破壊し、

 そのまま引き裂くのです、

 そうすれば“止まる必要はありません”」

「ふは、フハハハハハっ!?

 そんなバカげた戦艦があるのなら

 そのじゃじゃ馬娘、

 私が乗りこなして見せようっ!!」

「・・・言いましたね?」

「男に二言は無いよ。」

「では、

 早速五十六閣下に“起工”を具申して行きます。」

え?

「・・・冗談、なんだよな?」

「流石に真珠湾攻撃には

 間に合わないかもしれませんが、

 “気合で間に合わせます”」

1941年の五藤在知司令の日誌には

「言うんじゃなかった。」

と、書いてあったとかなかったとか。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。