ヘブンズドアー・ガール   作:あたたかい

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人生に必然はない。

 

真っ当に努力を積み重ねても報われないこともあれば、時にはまったくの偶然で一生の幸福を得ることもある。そもそも、生まれたときから決定している人生だってある。

 

この理不尽の世界で、私たちは一度しか選べない選択を繰り返しながら生きている。間違えてしまっても、決してやり直すことはできない。

 

この世界はすべて偶然でできている。

私がここにあることも、今まで生き残ってきたことも。

誰かから与えられたわけでもなければ、自分で手にしたわけでもない。

私の人生は、すべて偶然でできている。

 

 

 

◇◇◇

 

流行りにはいつも乗れなくて。

私には合ってない。人に合わせることなんて。

少し変わってる、そう言われると多少は救われる気がした。

 

商業的に作られた流行りの音楽を聴いて、オシャレかなんて関係なく流行りのブランド物を身に付けて、

作られた『普通』をなぞっていたくはないって思ってた。

そんな私は、『普通』の人たちから見たら輪から外れた変なやつで間違いないだろう。

 

 

「ほんと何にも興味ないよね?」

 

そう、普通な私の友達、ヒナコは言う。

そんなことないよ、と私は訂正する。

ただ、興味を持てることが少ないだけで、他人に合わせるのが苦手なだけで、あまり人に自分のことなんて話さないだけで。

だって、B級ホラー映画の話なんて彼女はわからない。

 

「明日の世界史の小テストの範囲には興味あったりしてない?私、寝てて聞きそびれたんだよね」

 

「もう授業いらないから寝てたんでしょ?小テストも適当でいいじゃん」

 

「ダメだよぉ、あれ、全部評定に入るんだから。大学入学の前に高校卒業できなくなっちゃうよ」

 

評定を気にしてるなら寝ないほうがいいのに。

彼女のこういうところは最近、ちょっと気になる。もう高校三年生の九月、自分の気持ちがピリピリしてるのかもしれない。

もう大学が決まっているヒナコ。去年までは毎日のように二人で学校帰りに遊んでいた、一方的に遊びに付き合わされていたとも言えるかも、でも三年生になってまったくしなくなった。

学校からまっすぐに駅に向かう毎日。ヒナコは進路が決まっているから遊び呆けててもいいのにその素ぶりを見せないのは彼女なりの気遣い?

そんなことさえも余裕のない私には嫌味に思えてしまう。ただ時間だけが過ぎて、焦りだけが増す日々だ。

 

 

「15章から17章まで?えーこんな範囲まだやってなくない?」

 

「だってヒナコ、寝てたじゃん、、あ」

 

世界史の問題集の範囲を見せながら帰りの電車がホームに入ってきたことに気付いた。

 

「うわー、わかんないよー、こんなの。もう死のうかなぁ」

 

「そんなこと言うもんじゃないよ、飛び込み自殺って一番他人に迷惑かかるでしょ?」

 

「あー、たしかにそうかも」

 

プシューという音ともに電車のドアが開く。18時36分、学校帰りの学生や会社終わりのサラリーマンの下車の波。

 

「てかさ、最近飛び込み多いの知ってる?」

 

「え、そうなの?」

 

やっと車内に入ることができた。結構な大人数が降りたと思ったのに、座席はちょうど全て埋まっていて、私とヒナコは入ってきたのとは反対の扉にもたれかかった。

 

 

「流行ってるんだよ、飛び込み」

 

「流行ってるの?タピオカミルクティーみたいにってこと?」

 

「そうそう、高校生の間で流行ってるんだって」

 

「狂ってるじゃん、リピーターは絶対いないところがおもしろいね」

 

「ミキ信じてないかもしれないけどこれ本当だよ」

 

「そんな流行あるわけないじゃん、たしかに人身事故は多いけど一、二ヶ月にあるかないかくらいだし、聞いたことないよ。ていうか自殺に流行りとかあるの?ヒナコの悪い冗談でしょ、ホント意味わからないんだから」

 

18時39分、電車が再び動き出した。

 

 

 

「まあ噂というか、オカルト的な話ではあるんだけどね。

一部の人たちの間で、ある決まった時刻に、電車に飛び込むと神さまに会えて、願いを1つだけ叶えてくれるっていう話が広まってるらしくて」

 

 

「それって、死んで死後の世界でってこと?」

 

「いや、願いを叶えてもらえてしかも自分は死んでないらしいよ。なんかよくわかんないんだけど、コンマ1秒違わないピタッとその時間!ていう時間ぴったりに飛び込むとその現象が起きて神さまが助けてくれるみたいな」

 

「その時間!ていう時間じゃないとどうなるの?」

 

 

「それは普通に死ぬらしいよ」

 

「へえ」

 

「本当に死にたいほど辛い思いをした女の子が飛び込んで、神さまに会って救ってもらったんだって。それがネットとかで広まって、実際にやってる人たちもいるって。

『飛び込み占い』って言うんだって」

 

 

「こわいよ、ヒナコ、それ。私はいいかな、死にたくないし」

 

「私もやりたくはないよー」

 

ヒナコは笑って言う。

 

「…でももし、死んでもいいから叶えたい願いがあって、神さまでしか叶えれなさそうなことがあったら試す価値はあるかもね。もしかしたら、人身事故で死んでる人は失敗した人たちで、たくさんの人が成功して願いを叶えてるかも」

 

「えぇ、その願いって例えばどんなこと?」

 

「うーーーん、…過去をやりなおしたいとか?」

 

 

 

 

「過去をやりなおす…」

 

その飛び込み占い、しないでねと言ってからヒナコと別れた。私のほうが学校から近い。

 

駅のホームに降りて、ちょっと怖い話を聞いてしまったと思った。

人生賭けてまで叶えたい願いがなくてよかった。

ていうか、こんなオカルト信じたくない。

 

流行りだとしたら、私が嫌いなやつだし。

 

 

 

 




少し
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