ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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さて、今回は(ある意味)日常回的なお話となります。


第10話『一時の休息』

「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」

 

「……マナー違反」

 

 無事にサソリの魔物を撃破した4人は巨人の肉やら素材やらを剥ぎ取り、ハジメの作った穴倉の拠点へと戻っていた。普通であればユエの封印されていた場所の方が部屋としてしっかりしているので拠点には最適なのだが、ユエの希望によりそれは却下となった。

 

「てことは私より年上だったんだね」

 

「んっ、だから“ちゃん”付けはもうやめて」

 

「そっか。うん判ったよ、ユエ。これでいい?」

 

「ん」

 

「吸血鬼って、みんなそんなに長生きするもんなのか?」

 

「……私が特別。〝再生〟で年も取らない……」

 

 つまりはユエは見た目は何時までも幼女のままだがその精神は既に大人の女性、と言う事になる。幼いがゆえの可愛さと内側から滲み出る大人の魅力が同居していると言う訳だ。

 

(世のロリコン、大歓喜間違い無しってか……)

 

 因みに此処に連れてこられたまでの詳しい経緯は記憶に無く、初めて会った時以上の情報は持ってないとの事だ。

 

「まぁ、そんな事より大事なのはこの迷宮の脱出方法だな。ユエ、何か知らないか?」

 

「……わからない。でも……」

 

 ユエにもここが迷宮のどの辺なのかはわからないらしい。申し訳なさそうにしながら、何か知っていることがあるのか話を続ける。

 

「……この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」

 

「反逆者?」

 

「遥か昔、神話の時代にエヒト神に逆らって世界を滅ぼそうとした集団の事らしい」

 

 けれど、反逆者は皇竜チェトレを筆頭とした人間たちの軍によって殲滅。結局、中心人物である7人だけが生き残り、それぞれの逃げた先で作り出されたのが現代で大迷宮とされる場所との事らしい。そしてその最深部には反逆者の隠れ家が存在しているとの噂だ。

 

「なるほど、それがホントなら地上への直通手段が有ってもおかしく無いか」

 

 隠れ家、と言う事は反逆者はそこで生活をしていたと言う事。ならば生活に必要な物資を揃えるのに密かに地上に出向く必要もある。そしてその度にあんな長い道のりを進むのは普通に考えてありえない。

 

「なら、このまま迷宮の最深部を目指して進むのが一番って事だね」

 

「だな。少なくても希望が見えてきたってもんだ」

 

 言いながら、ハジメは先の戦闘で消耗した銃弾や手榴弾を補充し、カナタは研ぎ石(遠征開始時に王国から支給されたもの)で剣の刃を研いでいる。そんな様子をジッと見ていたユエだったが――

 

「……三人は」

 

「ん?」

 

「三人は、どうしてここにいる?」

 

「うん、実はね――」

 

 それから特に何の作業もしてない香織がメインとなってこれまで経緯をユエに話した。いきなり呼び出されて戦う事になった事、仲間の裏切りで此処に落ちてきた事、落ちてきてからの事。

 

「で、この階層で怪しい扉を見つけたから一度探索を中断して準備を……って、どうしたの、ユエっ!?」

 

「……ぐす……みんな……つらい……私もつらい……」

 

 香織がユエの方に目を向けると、いつの間にかユエはグスッ、と鼻を鳴らしながら泣いていた。

 

「気にするなよ。もうクラスメイトのことは割りかしどうでもいいんだ、そんな些事にこだわっても仕方無いしな。ここから出て復讐しに行ってそれでどうすんだって話だよ。そんなことより生き残る術を磨くこと、故郷に帰る方法を探すこと、それに全力を注がねぇとな」

 

「そうだね。でも――」

 

 香織はそこで言葉を止めて、今も涙を流しているユエをそっと抱きしめた。

 

「……カオリ?」

 

「私達の為に、悲しんでくれてるんだね。ありがとう、ユエ」

 

「……ん」

 

「まぁ、俺に限っては恐らく王国に戻っても居場所無いどころか最悪迫害されるかもしれんしな」

 

「どう言う事だ?」

 

「さっきの反逆者の話だがな。そのメンバーの中にはチェトレと並ぶもう一匹の守護竜も居たんだ、その名は帝竜アジーン」

 

「帝竜って……」

 

「そ、“帝竜”の闘気」

 

 言葉の通りであれば、この力はアジーンに由来するもので、こうした竜にまつわる力を行使する天職が竜魂士なのだろうとカナタは推測していた。相変わらず何があってこんな状況になったのかは判らないし、もしかしたら偶然の一致と言うだけでアジーンとは無関係と言う事もありえる。

 

「が、王国もその真偽は確かめられないだろうし、そうなったら後は疑わしきは罰せよ、だ」

 

 事実は兎も角、帝竜の名を冠する技能を持つ人間を勇者の一行として扱おうとは思わないだろうし、アジーンとの繋がりを疑う人間は必ず出て来て、その歪はやがて王国への不信感に繋がる。それだけ帝竜と言う存在もしくは単語その物が忌避されており、そのリスクは王国側にとっては背負いたくないモノだ。ならば切り捨てるのは無難な選択のである。

 

「つーわけで、迷宮脱出後は俺も王国には戻らない。ハジメ達と一緒に元の世界に戻る為の旅に付き合うよ」

 

「……帰るの?」

 

「うん? 元の世界にか? そりゃあ帰るさ。帰りたいよ。……色々変わっちまったけど……故郷に……家に帰りたい……」

 

「……そう」

 

 そこで香織から離れたユエが俯きながら呟く。その声も少し沈んでいる。

 

「……私にはもう、帰る場所……ない……」

 

「ユエ……」

 

 そんな彼女の様子を心配そうに見ていた香織だったが、やがてハジメの方に視線が移る。ハジメも頭をガシガシ掻いて「う~ん……」と何か考えており――

 

「あ~、なんならユエも来るか?」

 

「え?」

 

「いや、だからさ、俺の故郷にだよ。まぁ、普通の人間しかいない世界だし、戸籍やらなんやら人外には色々窮屈な世界かもしれないけど……今や俺達も似たようなもんだしな。どうとでもなると思うし……あくまでユエが望むなら、だけど?」

 

 ハジメの言うとおり、ユエが地球で暮すには色々と問題は多いだろう。けれど300年以上の時の流れに置き去りにされ、頼れる人が今此処に居るハジメ達だけと言う状況よりはマシな筈だ。

 

「いいの?」

 

 その言葉にハジメが頷くと、ユエの顔にハッキリとした笑顔が浮かび、ハジメも思わずそれに見とれてしまっていた。が、「ハジメ君?」と怖いぐらいに良い笑顔を浮かべる香織の視線を受け、ハジメは何かを振り払うかの様に首を振って作業に没頭するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ハジメ」

 

「なんだ?」

 

 それから少し経って、今もそれぞれの作業をしている男二人。そんな中、柄に滑り止めの布を巻き直していたカナタがふとハジメに声を掛けた。

 

「後で殺傷能力抑えた爆弾作ってくれないか? ちょっと爆破したいモンがあるんだ」

 

「……嫌な予感がするから遠慮させてもらう」

 

「そっか。……君の様なカンの良い男は嫌いだよ」

 

「……」

 

 手入れと弾丸の補充は既に終えて、ハジメはなにやら新しい装備を作っている。そしてその様子をユエが覗き込んでいる。が、その距離は近く、殆どハジメに密着してるようなモノだ。そしてそんな様子に香織がなんとも思わないわけがない。対抗せんとばかりに同じく香織もユエとは反対側に陣取り、同じくハジメに密着している。両脇に美少女2人を侍らせている男。そんな光景を目の前にして爆破したくならない男など居るだろうか?

 

「……これ、なに?」

 

「あ、ああ。これはな……対物ライフル:レールガンバージョンだ。要するに、俺と香織の銃は見せたろ? あれの強力版だよ。弾丸も特製だ」

 

 ユエの問いかけにハジメは話題を変えるべく、少し上ずった口調で説明を始める。結局、今の自分の手持ちの装備ではサソリに対して明確なダメージを与えられなかった。そして、更に下の階層に潜った際にあれクラスの魔物と戦う時の為に、より高火力な装備が必要と考えた。

 

「でも、ドンナー以上の火力となると銃の強度とかは大丈夫なの?」

 

 ドンナー自体もハンドガンの範疇ではあるが一発の威力を重視しており、銃身に悪影響が出ないギリギリの範囲で収めている。つまり、それ以上を求めるとなると今の装備に使われているタウル鉱石では強度面で問題がでる。

 

「そこで、今回の武器、対物ライフル、《シュラーゲン》にはこいつを使っている」

 

 そう言ってハジメが見せたのは見慣れない鉱石。これはシュタル鉱石と呼ばれ、なんとあのサソリの外殻はこの鉱石で構成されていたらしい。

 

「魔力を込めた分だけ強度が増していく鉱石だ。後でカナタの大剣の刀身もこいつで作ったものに変えてやるよ」

 

「それは助かる。刀身も研ぎ石もボロボロになって来ていたからな……ん?」

 

 その時、カナタはふと思った。あのサソリの外殻はそのシュタル鉱石で形作られていた。そして今、ハジメはそれを錬成で加工している。つまり――

 

「なぁ、それってわざわざユエの魔法で熱してから力技で破らんでも、ハジメの錬成一発で剥せたって事か?」

 

「人が気にしない様にしていた事をハッキリと言わんでくれ……正直、その事を知った時は流石に少しヘコんだんだ……」

 

 そう、サソリの素材を剥ぎ取っている時にその事実を知った時ハジメは思わず膝から崩れ落ちそうになるほどショックを受けた。良い素材が手に入ったと割り切って頭から追い出していた事実をカナタがずばり指摘すると、ハジメの表情が心なしか暗くなる。

 

「ハジメ……元気出して」

 

「そ、そうだよ。それに、サソリと戦ってる時のハジメ君、凄くカッコよかったよ」

 

 と、香織とユエがハジメを慰めている姿を見て――

 

(錬成って、後天的に覚える事出来るかな?)

 

 なんて事を考えていた。何を作って、どう使おうと思ってるのかは、言うまでも無いだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それぞれの作業が終わればその後は食事の時間。本日のメインディッシュは封印部屋の2種類のボス。その丸焼きである。

 

(調理らしい調理も出来ないし、別に生でもあまり変わらないと思うんだがなぁ……)

 

 肉を刺した石製の串を焚き火の傍につき立てあぶっている様子を見ながらカナタはぼんやりとそんな事を考えていたが「ん?」となり、その思考を振り払う。

 

(いやいや、滅菌処理とかの点から見てもせめて焼いた方がいいだろ)

 

 余りにサバイバル過ぎる状況が長続きしすぎた所為か、食に対してずぼらになってるかもしれない。そう言う風に考えながら、カナタは焼きあがった肉を手に取る。

 

「ユエ、メシだぞ……って、ユエが食うのはマズイよな? あんな痛み味わわせる訳にはいかんし……いや、吸血鬼なら大丈夫なのか?」

 

 もはや、自分達は三人は当たり前の様に魔物肉を食べているのでその感覚でユエにも魔物肉を差し出そうとするハジメだが、やがてその手を止めた。そしてユエも「食事はいらない」と首を横に振った。

 

「三百年も封印されて生きてるぐらいだから、食べなくても大丈夫なんだろうけど、お腹とかは空かないの?」

 

「空く。……でも、もう大丈夫」

 

「大丈夫? 何か食ったのか?」

 

 ハジメが訊ねるとユエは真直ぐにハジメを指差した。

 

「ハジメの血」

 

「ああ、俺の血。ってことは、吸血鬼は血が飲めれば特に食事は不要ってことか?」

 

「まぁ、吸血鬼の食事は血、って言うのは定番だわな」

 

「……食事でも栄養はとれる……でも血の方が効率的」

 

 と、ユエがその視線をハジメに向けたまま舌なめずりをする、その様子にハジメと香織は嫌な予感を覚えた。

 

「……何故、舌舐りする」

 

「……ハジメ……美味……」

 

「び、美味ってお前な、俺の体なんて魔物の血肉を取り込みすぎて不味そうな印象だが……」

 

「……熟成の味……」

 

 曰く、沢山の野菜とお肉をじっくりコトコト煮込んだスープの様な味がしたとのこと。直後、ユエは今まで見せたこともない機敏さでハジメを押し倒す。

 

「お、おいっ!?」

 

「いただきます」

 

 そう言って再びハジメに噛み付こうとしたが、彼女の肩に手を置き待ったを掛ける人物が居た。

 

「……なんのつもり?」

 

「それは私のセリフだよ、ユエ」

 

 そこにはユエと出会ってから何度目かの良い笑顔を浮かべた香織の姿。

 

「あんまりハジメ君ばかりから血を吸いすぎるとハジメ君も体調崩しちゃうかも知れないし、素直にご飯を食べよう、ね?」

 

 そう言って、焼きあがった魔物肉(勿論、神水もセット)でユエに差し出す。

 

「必要ない。血を飲めない香織達にとって、それは貴重な食料だから私はハジメの血で十分」

 

 ユエと香織、二人の間にバチバチと火花が散っているように見える。心なしかそれぞれの背後に阿修羅と龍(この場合は体の長い方の)の姿も見えた気がした。そして相変わらずにユエに馬乗りされているハジメが、助けを求める様にカナタの方に目線を向けてきたが、カナタはそれを「ガンバレ!」と言わんばかりの笑顔とサムズアップでスルー、3人が4人になり、探索も少しだけ賑やかなものになってきたなと思いながらカナタは魔物肉に喰らいついたのだった 

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