ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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第12話『瞬く光、奔る光』

 ハジメと香織は言葉を失っていた。突然現れた一匹のドラゴン。全長約7メートルに及ぶ体躯、表面は炎の様に赤い鱗に覆われ、頭には二本の角。指からは長い爪が伸び、胸周りから足の付け根の範囲だけはクリーム色の皮膚がむき出しになっており、その中央に青い宝玉の様なものが埋め込まれている。そんな2足歩行のドラゴンが牙をむき出しにし、ヒュドラを睨みつけている。

 

「カナ……タ?」

 

 光弾が迫った時、咄嗟にカナタが自分の前に庇うように立ち、次の瞬間には竜となっていた。ならば、目の前のドラゴンがカナタと考えるのが普通だ。ユエがおずおずと目の前のドラゴンに声を掛けるとドラゴンは肩越しにこちらに振り返る。

 

『ユエ……ハジメ達の所に下がっていろ』

 

「あ……」

 

 少しだけ口を開くと声が響く。まるで音響機器を通した様な響き方だが、間違いなくカナタの声だった。

 

『こいつは……俺が潰すっ!』

 

 背中の翼を広げ、一度だけ羽ばたかせた瞬間、カナタはヒュドラに体当たりをかます。10メートル以上の体格差があるにも関らず、その衝撃はヒュドラを押し出して壁に叩き付ける。その隙にユエは香織とハジメの所に戻る。

 

「……ユエ」

 

「ハジメ……」

 

 そこには意識を取り戻し、身体を起こしたハジメの姿。けれど右目は相変わらず無くなっており、出血によって赤く染まっている。

 

「ったく、一人で無茶するんじゃねぇよ……」

 

「……ゴメンなさい」

 

 少し俯きがちになりながら謝るユエの頭にハジメはポンと手を乗せる。

 

「でもまぁ、お陰で何とか動けるようにはなった。しかし――」

 

 言葉を止め、ハジメはヒュドラと戦闘を続けているカナタに目を向ける。

 

「竜にまつわる天職だとは思っていたが、竜そのものに変身か。とんでもねぇ天職もあったもんだな」

 

「うん……あれが、竜魂士の戦い方」

 

 そこには口を火球を吐き、ヒュドラにぶつけるカナタの姿。着弾と同時に爆発し、ヒュドラが一歩後ずさるが、負けじと光弾の雨を飛ばすとカナタは翼で自分の体を包み、それを受け止める。

 

(この好機は無駄に出来ない。なら、俺だけじっとしてるわけにはいかねぇな……)

 

 ハジメはカナタとヒュドラの戦闘の様子を観察する。光弾と火球が飛び交い、その流れ弾が様々なところに着弾している。

 

(あれは……っ!)

 

 やがて、ある一点が目に留まる。そして思い出される先ほどの光景、それらが合わさり、ハジメの脳裏にある作戦が組み上げられていく。

 

「ユエ、ドンナーをよこせ」

 

「あ、うん」

 

 ユエからドンナーを受け取りハジメはゆっくり立ち上がる。

 

「この戦い……俺達が勝つっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ちっ、まるで隙が無い……)

 

 カナタはヒュドラと撃ち合う中で内心苦虫を噛み潰したような心境だった。こちらも反撃とばかりに火球を飛ばして確実にダメージこそ与えているが、決定打が不足している。いや、手段はあるがこの弾幕の中では放つことが困難だ。加えて、この姿は帝竜の闘気同様に常時魔力を消耗し続けている。無論、闘気使用時の消耗速度を超えるスピードで魔力が減っているのが判る。

 

“カナタっ!”

 

“ハジメっ!? 体の方は大丈夫なのか?”

 

 その時、ハジメからの念話が飛んで来る。

 

“ああ、ユエが決死の覚悟であいつをひきつけてくれたお陰でな。それより――”

 

 ハジメが念話で作戦を伝えてくる。

 

“なるほど……”

 

 確かにその作戦ならば、こちらの必殺の一撃を叩き込めるかもしれない。

 

“オーケー分かった。それで行こう!”

 

 作戦は決まった、後は実行に移すのみだ。ハジメは二人の方を振り返る。

 

「それじゃ、勝ってくる」

 

「うん、頑張ってハジメ君!」

 

「ハジメ、気をつけて……」

 

「ああっ!」

 

 力強く頷き、ハジメも柱から飛び出す。

 

『らぁあああっ!』

 

「グルゥアッ!」

 

 カナタがヒュドラの頭部に手を添えると、そのまま地面に叩き付ける形でヒュドラを押し倒す。自分の役目はハジメの“仕込み”が終わるまでこいつを抑える事。空いてるもう片方の爪でヒュドラの目玉の片方を抉る。その直後―-

 

「カナタっ!」

 

『なっ!?』

 

 直後、カナタに向かって光弾の雨が直撃した

 

『がぁあああああっ!』

 

 光弾による攻撃は無い、カナタはそう思っていた。その時カナタはヒュドラと肉薄している状態だった。この状態でカナタに向かって光弾を放てば間違いなくヒュドラも巻き込まれる。けれど、それが油断となった。ヒュドラはそれを実行に移した。自身の胴体や首の一部にも光弾が直撃してもお構い無しにだ。そして怯んだ瞬間、大きく首を振り、カナタを吹き飛ばす。

 

「『ハジメっ!』」

 

 そして、先ほどからこの場に突入して何かをしていたハジメに向かって光弾の嵐を飛ばす。

 

 

 

 

 

(やられる、のか……?)

 

 光弾の全てが自分に向かって飛んで来る。身近に迫った死を前にしたからか、それは酷くゆっくりに見えた。

 

(何もできねぇまま……このまま目の前の“理不尽”に屈しろと?)

 

 理不尽……その言葉が思い浮かんだ時、ハジメの脳裏に幾つもの存在が浮かび上がる、跳びウサギ、巨大な熊、二尾狼、ここまでの道中に出会ってきた魔物達、そして……あの日、全ての始まりとなった暗い笑みを浮かべた檜山の顔。 

 

(……冗談じゃねぇっ!)

 

 理不尽に屈してなすがままに蹂躙されるだけ自分はもう居ない。どんな理不尽だろうが踏み越える、自分の願いの為だけに突き進む、そう決めた。

 

(帰るんだ……カナタと、ユエと……そして香織とっ!)

 

 なら、それを妨げる連中はなんだ?

 

(そう、敵だ……こいつは俺の願いを妨げる敵)

 

 脳裏に浮ぶは絶望の中で行った自問自答。ならばどうする?屈するのか、諦めるのか?違う――

 

(そのどれでもねぇ、敵は――)

 

 余計な雑念が抜けていく。目の前のそれを見据え、クリアになった思考が思う事はただ一つ。

 

「ハジメ君っ!」

 

(敵は……殺すっ!)

 

 次の瞬間、ハジメの目に映る光景から色が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……?」

 

 恐らく、それこそヒュドラをも含めた“彼”以外の誰もが何が起こったのか理解できなかった。誰もが迫る光弾の嵐に貫かれるハジメの姿を想像しただろう。けれど次の瞬間には光弾は全て彼をすり抜け、天井に直撃する。ヒュドラは怪訝そうに瞳を細め、床に着地したハジメに向けて、更に光弾の雨を放つ。先程よりも遥かに多い数、けれどその全てをハジメはまるで躍るかのごとく全て避けていく。その様子にヒュドラは驚愕のあまり目を見開く

 

 その正体は天歩の最終派生技能“瞬光”。同系列のスキルの効果を引き上げ、それに対応させるべく、使い手の知覚機能を拡大させる。結果、周りの光景の時間の進みがゆっくりになる中、自分だけはいつも通りの速度で動く事を可能とさせる。地上だろうと、空中だろうと関係ない。いまやヒュドラの攻撃がハジメを捉える事は無く、やがてハジメは仕込みを完了させる。

 

「カナタっ!」

 

『っ! ああっ!』

 

 ハジメの合図を受け、上半身を少しだけ仰け反らせる。胸の宝玉が輝きその目の前に魔法陣が展開され、カナタの眼前に火球が生成される。けれど、それは今までの奴を遥かに上回る熱量を持ち、今もなおそのエネルギーは増加し続けている。マズイ……とヒュドラは本能的に悟る。“アレ”を解き放たせてはいけない。幸い、明らかにアレの発射には時間が掛かる。その前に……仕留める!ヒュドラはそう判断し、自分の周囲に幾つもの光球を生み出す。

 

「させねぇよっ!」

 

 ハジメがドンナーを放つ。狙いはヒュドラ……ではなく天井。打ちだされた6発の弾丸が天井に着弾すると同時に爆発が起こる。

 

「グゥルアアアア!!?」

 

 そして一瞬の間の後に天井が崩落。重さ十トンをも超える大質量がそれを押し潰す。これこそがハジメの仕込み。カナタとヒュドラの撃ちあいによって所々に空いていた天井の穴に手榴弾を仕込むと同時に錬成でその周囲の材質を脆弱化。そこをドンナーで撃ち抜き爆破、崩落した天井の壁でヒュドラを押し潰したのだ。勿論、それだけではヒュドラは倒せないし、すぐにヒュドラは光弾を撃ち込み、天井の壁を瞬く間に破壊していく。だが、その数秒の時間がヒュドラの敗北を決定付けた。壁を破壊しつくし、起き上がるヒュドラの目に映ったのはもはや小さな太陽にも等しい輝きを放つ火球とこちらを睨み付ける竜の瞳。

 

『魂まで、焼き尽くせ……』

 

 一際大きく身体を仰け反らせ、そして弾かれた様に姿勢を戻すと同時にそれを放つ。それは()の竜を帝たらしめる無慈悲なる極光。

 

『カイザーブレスっ!!』

 

 奔流。ハジメ達が思わず目を覆う程の白い灼熱の輝きが、ヒュドラの身体を飲み込む。

 

 「グゥルアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!」

 

 奔流から僅かにはみ出た頭部が断末魔の悲鳴を上げる。やがて、それが収まった時にははみ出ていた首を残し、ヒュドラの胴体は跡形も無く消し飛び、ブレスが通った部分の地面はドロドロに溶解している。そしてその上に残ったヒュドラの頭部が落ち、ジュゥゥウウと焼ける音と共に接地部分から白い煙が上がる――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――それがオルクス大迷宮、その最後の番人の成れの果てだった。




原作ではユエとの共闘でしたが、今回はそれを奪う形になりました。

すまない、ユエ(2回目)
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