ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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第13話『反逆する者達の真実』

 意識を取り戻し最初に感じたのは、安らぎだった。ふかふかで柔らかい何かに包まれている様な感覚。やがて、それが布団……いやベッドだと認識する。

 

(俺は……なんでベッドに、それにここは……)

 

 久しぶりのマトモな寝具の感触に二度寝したい誘惑に耐えながら身体を起こす。その時だ――

 

「あ、竜峰君。目が覚めたんだね」

 

「香織?」

 

 部屋のドアが開き、香織が入ってきた。その服装はくたびれてたプリーストの正装ではなく、スラックスにカッターシャツと言う、どちらかと言うと男性向けの服だ。

 

「ここは?」

 

「ユエの言ってた反逆者の住処。おそらくだけどここは客間だと思う」

 

 あれから、ハジメと元の姿に戻ったカナタは二人そろって気絶、その後に奥の扉が開いたとの事。最初は新手を警戒していたが特に何も起こらなかった為、香織が奥を調べた所、今自分達が居る住居を見つけた。それから、ここにハジメとカナタを此処に運び、それぞれベッドに寝かせたらしい。

 

「なるほど、な。ハジメはもう起きてるのか?」

 

「うん、昨日にはもう意識を取り戻したよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと起きやがったか。ったく、ねぼすけにもほどがあるぞ」

 

 香織に案内されて、住居のリビングと思しき所に案内されるとそこには椅子に座り本を読んでいたハジメの姿。そして、その隣にはユエが座っており、ハジメが開いてる本を覗き込んでいる。

 

「わるいな。久しぶりのマトモなベッドだったもんでな。ぐっすり眠ってしまってたらしい」

 

「大層なご身分だな、こっちはカナタが寝てる間に色々調べてたんだぞ」

 

 ハジメ達3人が先にこの住居を調査したところ、ユエの推測どおり地上への転送魔法陣が存在してる事や割とこの住居はライフラインがしっかりしており無理に地上で物資を補給しなくても生活していける環境だった事、そして何より今後の方針も決まったとの事だ。

 

「なるほどな。それじゃあ、すぐ出発か?」

 

「いや、その前に――」

 

 ハジメ達はある部屋にカナタを案内した。そこは他の部屋と違い、中央に巨大な魔法陣とその奥に豪華な椅子が置かれているだけだった。

 

「そこの魔法陣の上に立ってみろ」

 

 言われるがままに魔法陣の中央に立つと、陣が突然輝きだす。それと同時に、カナタの頭の中にある魔法の仕組みと使い方等の知識が刻み込まれる。やがて光が弱まった時、カナタ達の目の前に黒衣の青年が立っていた。とはいえ、その姿は半透明である事から幻影、もしくは映像の類だと判断できた。

 

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ』

 

「これを見るのも4回目だな……」

 

「ん……」

 

「次は4人同時に入るようにしようね。私も流石に見飽きたよ」

 

『反逆者……いや、覚悟を決めて此処にたどり着いた君ならもう判っている事だね。僕が解放者、その最後の一人だ』

 

 その発言にハジメ達も「ん?」となる。この魔法陣はそこに立った者にある魔法を会得させ、尚且つこの世界の“真の歴史”を伝えるものだ。そして誰かが魔法陣に立つ度に同じ映像がその度に再生され、「もうええわ!」と言うぐらい同じ語りを聞かされ続けた。けれど、此処に来てオスカーのセリフが変わった。今まで自分達が見てたものとは違う映像が再生されてると言う事だ。

 

『他の迷宮で様々なことを知って迷ったかも知れない、もしくは関係無いと無視したかもしれない。けれど、どんな経緯や理由であれ、君がこうして“再誕”する事を選んでくれた事に僕は心からの感謝を述べる。人類はこれで“皇”に対抗する為の術を繋ぐ事が出来た』

 

 カナタ達は何がなにやらさっぱりわからなかった。迷い?経緯?理由?再誕?オスカーの言葉の全容を理解するには前提となる情報が不足している。

 

『“皇”が何を思い神の側についたのか僕には判らない。けれど彼の、神の思い通りにさせてはいけない。皇は何時か必ず再臨する、いや、もしかしたら既に再臨を果たしてるのかも知れない。そして、“皇”に対抗するには彼の力と魂を継ぎ、帝へと至った“竜魂士”、君の力が必要となるだろう』

 

「っ!?」

 

 このメッセージは竜魂士に宛てた内容、だからこそカナタが魔法陣に立つ事で再生されたのだ。

 

『君にそれを強要するつもりは無い。けれどもし君が己の意志、自由を尊ぶ者なら、“皇の最後の言葉”を考えれば、君は皇と相対する時がきっと来る筈だ』

 

 やがて、オスカーの映像が揺らぎ始める。

 

『どうやら時間だ。先ほども話したとおり、皇と戦う事を強要するつもりはない、望むなら逃げてくれても構わない。本来ならば僕たちが何とかするべき事を、君に押し付けようとしている訳だからね。けれど知っておいて欲しかった。君に発現した竜魂士という天職。僕たちが何故、持ちうる全てを結集して天職と言う概念に介入し、これを生み出したのかを……。最後に君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを』

 

(あ……)

 

 

 

 

 

『チイサキトモヨ……オマエノコレカラガ、ジユウナ……イシノモトニアランコトヲ……』

 

 

 

 

 

 それはカナタの脳裏に残る言葉と全く同じセリフ、力と魂の継承、そして帝。不明な部分は多いが、ある程度見えてきた。

 

(と言う事きっとあの骸が……そしてやっぱり俺の力は……)

 

 やがてオスカーの画像のブレが激しくなり、そのまま消えてしまい、魔法陣もその輝きを失う。

 

「なるほど、これを見せたかった訳か」

 

「いや、そうじゃねぇんだ」

 

「え?」

 

 ハジメは先ほどとは違う、自分達が聞いた話をカナタに伝えた。それは人と魔人族の戦争、それは神、エヒトの遊戯に過ぎなかった。あるとき、その真意を知った者達が神の支配から人々解放するべく“解放者”と呼ばれる集団を組織した。けれど、彼らは神と相対する事すら出来なかった。エヒト神は自身への信仰を使い、世界中の人々に対して解放者を世界を滅ぼす敵と認識させた。それにより解放者たちは自分達が救おうとした人々に襲われた。救うべき相手に力を振るう訳にも行かず、結果、中心人物であった7人を残し、解放者は全滅。その7人も散り散りになって逃走、見つからぬ様に自分の隠れ家を迷宮化させた。加えてそれぞれの迷宮攻略者に試練を与える事により、それを乗り越えた者に神に対抗する力、“神代魔法”を託す事にした。何時か神を滅ぼす力を得た誰かが、この神の支配を終わらせる事を祈って。

 

「この話がホントだとすると色々な状況が思いっきりひっくり返るな」

 

「たぶん、ホントだろうな」

 

「根拠は?」

 

「この世界の宗教の歪さ、だな」

 

 ハジメはトータスに来た時からずっとこの世界の宗教体系に違和感を感じていた。人の考えは千差万別、仏を信じる人も居ればキリストを信じる人も居る。加えて大別的には同じ神を信仰していても宗派によって違いがでる。だと言うのに、トータスの人たちは全員が同じ神を、同じ教義の元に信仰している。

 

「エヒトにとって人間がゲームの為の駒だってんなら、自分の思い通りに動かせなきゃゲームにならねぇからな」

 

「信仰を統一させる形でトータスの人達をある程度自由に出来る様にしてるって事?」

 

「だろうな、でなきゃ人間が全員、解放者を敵と見なして牙を剥くなんて考えられねぇだろ」

 

「そうだね、そしてオスカーさんの話が本当なら、暴竜アジーンの伝承も変わってくる」

 

「ホントに裏切ったのはチェトレの方、か」

 

 アジーンとチェトレ、人々を守護していた2柱のドラゴン。表向きの歴史では彼らはエヒトが遣わした存在と言われているが、先のオスカーの話どおりならばそれは偽りとなる。そして最初に人を裏切ったのも、アジーンではなくチェトレ方だ。

 

「まぁ、だからなんだって話だがな。俺らが態々何とかしてやる義理はねぇ。オスカーの奴も神殺しを強要はしないって言ってるからな」

 

「ん」

 

 そう、4人の目的は地球への帰還だ。それを妨げるならば迎え撃つが、そうでないならこちらから仕掛ける義理も必要も無いと言う訳だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、この神代魔法……生成魔法か。ハジメにぴったりの魔法だな」

 

 部屋からリビングへの帰り道、カナタは新たに覚えた技能について口を開いた。先ほどカナタも覚えた生成魔法、これは魔法を付与を通じて鉱物に任意の性質を持たせる事が出来る魔法、つまりはアーティファクトの生産及び量産を可能とする魔法だ。

 

「他の迷宮の試練を乗り越えて力を付けたら、今度は神に対抗する為の装備作りの為にって所だろうな。兎に角、他の大迷宮にも此処と同じ様に迷宮を踏破すれば他の解放者達の神代魔法も覚えられるってわけだ」

 

 竜魂士へのメッセージ通りならば、大迷宮にはある程度攻略の順番があり、このオルクス大迷宮は最後に挑むべき迷宮だったと言う事になる。

 

「更に言えば、解放者は世界の概念そのものに干渉する術も持っていたと言う事だ」

 

 解放者達がトータスの概念に干渉して生み出した竜魂士という天職。その役目は恐らく神話の時代にチェトレとの戦いで死んでしまったアジーンの力を、魂と一緒に受け継ぐ事。今まで発現しなかったのは恐らくはエヒト神がそれに気付いてこの世界の人々になんらかの干渉を行っていたのだろう。しかし、カナタはその干渉が及ばない異世界の人間、だからこそカナタの天職に竜魂士が発現した、そう言う事なのだろう。けれど彼らにとって大切なのは解放者は概念そのモノに干渉することができたと言う点だ。

 

「おそらくはそう言う神代魔法が存在してるって事だろうな。そんで、元の世界に帰る一番の手がかりはその神代魔法って事か」

 

「ああ、だから地上に戻ったら他の大迷宮も攻略する。それが俺達が出した今後の方針だ」

 

「了解した。出発は何時の予定なんだ」

 

「出発はまだ先だ。ここには色々情報や素材もある。恐らく他の大迷宮も一筋縄じゃいかねぇだろうし、できる限りここで準備を整えたい」

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 仮では無いきちんとした拠点を確保したハジメ達は旅立ちの準備の為に日々修練と準備に励んでいた。戦闘訓練、魔物肉摂取、装備作成等々。そんな生活が半月ほど続いたある日の事。

 

「それで、大切な話ってのは何かな?」

 

「……ん」

 

 ユエは香織の部屋を訪ねてきていた。けれどその表情はとても真剣で、そして何かを恐れている様にも見えた。

 

「とても大切な話……ハジメの事」

 

 ユエの言葉を聞き、香織も口を閉ざす。ユエと出会ってから今日までの彼女の様子を見て、香織も気付いている。ユエもまたハジメを好いている。それも完全に異性として、だ。だからこそこの後に続くであろう彼女の話も何となく予想がつく、間違いなく宣戦布告だろう。

 

(たとえユエでも、ハジメ君だけは渡せない……けど)

 

 何時か来ると思っていた瞬間。香織はその答えを既に用意していた。

 

「カオリ……私……」

 

「うん……」

 

 それは真正面から受けて立つ事。「ハジメ君にはもう私がいるの!」と突っぱねたい気持ちもある。けれど、同時にユエの真剣な想いも蔑ろにはしたくないと言う気持ちもあった。そう思えるぐらい、香織はユエの事も好きになっていた。ハジメ絡みでモメる事もあるが、それも今ではユエと香織にとってはコミュニケーションの一種となっている。だからこそユエの想いを認め、正々堂々勝負する。その上でユエがハジメに振り向いてもらう為に全力を尽くすのをよしとするし、考えてたくもないがハジメが私ではなくユエを選ぶと言うならそれも納得はしないけど受けいれる。その代わり、香織は一切手加減なんてしない、既にハジメと恋人同士だというアドバンテージだってフルに活用してユエを迎え撃つ。それが香織ができる精一杯の妥協だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私……私も……ハジメの特別になるのを認めて欲しいっ、香織と一緒にっ!」

 

「え……?」

 

(…………えぇえええええっ!?)

 

 けれど、目の前の少女から出て来た言葉は香織の予想のナナメ上を行くような言葉だった……。




原作のウィキぺディアにも載ってますがオルクス大迷宮は元々は他の大迷宮で得た成果を試す為の場所。

なので他の大迷宮と違い、試練的なものは存在せず、とんでもなく強力なモンスターで溢れかえってる訳ですね。

最後なのに得られる神代魔法は生成魔法と他と比べればちょっと地味な感じなのは、いきなりアーティファクト大量生産で装備頼りにならない為かな、と言う作者の予想です。

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