ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

15 / 68
別名:カナタ、キレる。の巻


第14話『帝竜様の恋のお悩み相談室』

「えっと、ユエ。私も一緒にってどういう事?」

 

 ユエからの予想外すぎる言葉に、驚きを隠せなかった香織。漸く、気持ちが落ち着いてきた所で香織はユエに問い掛けた。

 

「そのままの意味……私もハジメの二人目の恋人になりたい……。だから、それを香織にお願いしに来た」

 

「二人目って、ハジメ君の彼女の座を私に勝って奪いたいとかじゃないの? 私はてっきりそうだとばかり」

 

 香織の言葉にユエは首を横に振る。

 

「別に私自身はそう言うのは気にしない……封印される前はそう言うのは当たり前だったし」

 

 香織はその言葉にハッとする。見た目こそ自分達と殆ど変わらないが、ユエは吸血鬼。人間とは違う種族なのだ。なにより、その中でも王族として過ごしていた彼女にとっては正室と側室、正妻と妾といった一人の男性に複数の妻や愛人が居るというのは当たり前の事。そんな環境で育ったユエだからこその考えでもあった。

 

「……それに、そんな事をしたらカオリが悲しむ」

 

「ユエ……」

 

「私はハジメが好き、けれどカオリの事も同じぐらい好き。……意味は違っても、大きさは同じ……だからカオリにも……悲しんで欲しくない」

 

 ハジメを独り占めして香織が悲しむのも見たくない。けれどハジメの事を諦めたくはない。ならばもう、どちらかじゃなくて、どちらも愛してもらえるようになるしかない、それがユエの結論だった。

 

「……」

 

 不安げにこちらを見つめるユエを視線を受け止め、香織は考える。彼女もユエの事は嫌いじゃない。むしろ好きな部類に入る。恋は盲目と言う事場の通り、恋の争いで友情を壊す事すらある中、ユエはハジメだけでなく香織の事も想い、この結論を出したのだ。なら、それを否定するのは地球での倫理や考えをトータスの住人である彼女に押し付ける事に他ならない。けれど――

 

「最後に確認させて」

 

「……ん」

 

「私たちの目的は地球に帰る事。ユエも一緒に来るって事はユエも地球で暮す事。それは判るよね?」

 

 ユエは頷く。

 

「でも地球ではね、ユエの考えは殆ど受け入れられてないものなの」

 

 二股やハーレムは小説やゲームの様な空想の産物としては普通に楽しまれているが、現実でそれをやれば後ろ指を指される事になるし、入籍等の法や手続き関係も、その殆どが男女1対1の関係が前提のものとなっている。

 

「ユエの望む関係は地球で暮す上で必ず色々な問題にぶつかる関係だと思う。辛い事もたくさん有ると思う、それでも良い?」

 

「……良い」

 

 彼女の言葉に、香織の表情はほんの僅かに険しくなる。しかし――

 

「その時、ハジメやカオリが少しでも辛い思いをしない様に……私も頑張る。だから――」

 

 次のユエの言葉に一瞬だけポカンとなり、やがてそれは困った様な、けれど優しげな笑みに変わった。

 

(……敵わないなぁ)

 

 香織は先ほどの問い掛けに一つ、引っ掛けを混ぜていた。地球での常識とユエの望む関係の齟齬、その問題はユエだけのものでは無い。ここで「自分は大丈夫だから」的な返事が来れば、この話は無しにするつもりだった、ユエがそれに気づくまでは。けれど、彼女は香織が求めた回答を即答して見せた。それならもう香織から言う事は何も無い。

 

「判ったよ、ユエ。なら、ハジメ君は私達で仲良くシェアしようか」

 

「……んっ!」

 

「でも、私も少しは手伝いはするけど、ユエがハジメ君を振り向かせられるかはユエの努力次第だからね?」

 

 ハジメに対して、日本人が倫理的に避ける事の多いハーレムの関係を求めるのだ。それは容易なことではない。

 

「それは大丈夫、許可さえもらえたなら後は幾らでも手はある」

 

「す、すごい自信だね。ちなみにどんな手なのかな?」

 

 すると、ユエの表情が自信に溢れる、けれど少し艶やかな笑みを浮かべた。

 

「……勿論、ハジメが入浴している時や、夜のベッドで――」

 

「ストップ! ストーップっ!!」

 

「……何で止める? カオリが良いって言ってくれたからもう遠慮はしない。全力でハジメを骨抜きにして――」

 

「言ったよっ! 確かに言ったけどねっ!」

 

 まさかいきなりそっち方面に走るとは思わなかった。見た目の幼さからそう見えないのかもしれないが、実はユエは意外と男を手玉に取ろうとするタイプなのかもしれない。顔を赤くしてうろたえまくってる香織の様子を見ていたユエは目をスッと細め――

 

「……気になる?」

 

「……ふぇっ!?」

 

「私は何百年も生きてる吸血鬼、経験は無いけど知識は豊富。男を悦ばせる方法は幾らでも知っている」

 

 香織がごくりと唾を飲む。彼氏が居る以上、何時かはこの手の事に関る時が来るのは予想していたし、興味が無い訳ではない。おのずと目は大きく見開かれ、本人も知らないうちに少し前かがみになっている。明らかに話しに食いついている。ユエはその表情のまま、ペロリと自分の唇を舐めて――

 

「カオリさえ良ければ、いろいろ教える。……二人でハジメをメロメロにしよ?」

 

「ハジメ、君を……」

 

 それは悪魔の囁き、吸血鬼も悪魔の一種とされる事があるので比喩ではなくまさに言葉のとおりだ。その時の光景を思い浮かべたのか。香織は頭から湯気をだしそうなほど顔を赤くし俯いていた。そして20秒ほどたっぷり考え込んで――

 

「……よろしく、お願いします」

 

「ん、任せて……」

 

 俯いたまま差し出された香織の手をユエもしっかりと握る。ここに後に『二大女神』ならぬ『二大正妻』と呼ばれる二人の関係が成立し、同時になにやら危ない師弟関係もまた成立したのだった。なお、これ以降カナタがハジメと一緒に風呂に入るのをやめたのは虫の知らせか、はたまた偶然だったのかは本人にも判らない事だった。

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

「で、相談ってのは?」

 

「あ、ああ……」

 

 旅の準備を始めて一ヶ月程が過ぎた。魔物肉によるステータスの強化も天井が見えてきて、最近はもっぱら新しい装備の扱いの訓練や手合わせによる訓練、カナタは竜変身の扱いの鍛錬に切り替えている。そんなある日、ユエと香織がお風呂に入っているのを見計らい、ハジメはカナタにある悩みを相談する事にした。

 

「実はな、俺……」

 

「実は?」

 

「俺……香織とユエに二股かけるのを求められているんだ」

 

「…………そうか」

 

「あいつ等最近、前にも増して仲良くなってるだろ? それ自体は悪い事じゃねぇんだが、ベッドに潜りこんで来たり、風呂に入ってる時も二人一緒になって乱入してきたり……」

 

「…………そうか」

 

 明らかに香織、そしてユエのスキンシップが過激になりつつある。そんな理性と本能がせめぎあってる中、ハジメは二人にその理由を訊ねた結果、返ってきたのが二股の件だった。

 

「正直、あいつ等も既に納得してるみたいなんだが……その、やっぱりそう言うのは人として良いのか? って所があってだな……」

 

「ハジメ……」

 

「……なんだ」

 

 物凄いジト目でハジメを見ているカナタ。その視線を受けて、普段の姿からは想像が出来ないほどにハジメは気まずそうにしている。やがて、カナタは「はぁあ~~~」と大きくため息を吐いてから口を開く。

 

「そもそもハジメ自身はどう思ってんだ?」

 

「俺自身? だから、さっき言った通り――」

 

「それは地球での一般常識や倫理観、もっと言えば暗黙の了解を加味しての事だろう。そう言うの取っ払ったハジメの本音はどうなんだ? って聞いてんだよ。香織に対する本音は既にムカつくほど判ってるから省くとして、ユエに対してもそう言う感情があるのか? って話だ」

 

 と、カナタはハジメに問い掛けてはいるが浮気や二股、その他諸々。一人対一人以外の異性関係は総じて非難される環境で育っているにも関らず、それでも即答できない時点で答えは既に出ている様なモノだと言う事も判ってる。

 

「……」

 

 本音を言えば惚れている。明るく可愛らしい香織とは対照的に、幼いながらも年長者としての大人の魅力を醸し出してるユエ。けれども、ハジメには既に香織がいる。地球に居たころの情けない自分も、そしてこの迷宮で変わってしまった自分も変わらず想い愛してくれている香織の気持ちは裏切りたくなかった。

 

「沈黙は肯定と受け取る、だったらそれが答えだろうが」

 

 それでなくても、この手の話題の一番の問題である筈の香織とユエがそれを認めるのを通り越して、逆に求めているのなら、後は当人の気持ちと甲斐性の問題だけだ。ぶっちゃけた話、なんとも贅沢過ぎる悩みである。

 

「地球に帰れば間違いなく、実際の関係と地球の倫理観や法との齟齬の問題にはぶつかるだろうが、香織がそれを見落とすとも思えないし、あいつ等の中じゃ既に覚悟が決まってるって事だろ。なら後はハジメの本音一つだよ」

 

「俺の本音……」

 

「俺が言える事はこれで全部。後は自分で答えを出せ。……ちゃんとあいつらとも話し合って、な」

 

「……ああ」

 

 ハジメがリビングを出て暫くしてから、カナタもその場を後にして住居からは離れとなっている訓練場に足を運ぶ。そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

「んな贅沢な悩み……」

 

 壁の一点を見つめ、カナタは帝竜の闘気も発動、全身から赤いオーラが立ち込める。そして拳を思いっきり振りかざし――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人に相談してんじゃねぇえええええっ!」

 

 もうすぐ平均五桁に突入しようとしているステータスを更に大きく引き上げた拳はボゴォン!と言う音と共に完全に壁にめり込む。正直、これをハジメの顔面にぶち込まなかったカナタの自制心の強さは賞賛されてしかるべきだろう……

 

「まさか目の前でハーレムが築かれるのを見せ付けられるとは思わんかったぞ……」

 

 しかも、一人の男を奪い合うタイプではなく、女の子達の方で協定を結び、相手を共有すると言う男の夢の様な形のハーレムだ。尤も地球でそれが出来る可能性は限りなくゼロなので、本当の意味で夢なのである。

 

「つーか、これどうするんだよ。光輝に反撃の隙与えちまったじゃねぇか……」

 

 いずれ、実行しようと思っていた『光輝NDK計画』。けれど今のハジメ達を見れば、光輝なら間違いなく二人も女の子を侍らす姿を全力で批判するだろう。その様子がハッキリと想像できる。

 

(やれやれ、ままならねぇもんだな……ん?)

 

 そこでカナタはある違和感に気付く、壁に突き刺さった拳。普通なら拳からは冷たい石の感触が伝わってくる筈だが、そこに感じるのは空気の感触だった。カナタは拳を引き抜き、周りの壁を調べる。よく見ると周囲の壁と微妙に色合いが違っている、間違いなくこの壁の先に何かある。けれどそれの開け方が判らなかったし、何よりその壁を一部思いっきり砕いてしまっている為、仕掛けそのモノが壊れている可能性が高い。

 

「しかたねぇか」

 

 カナタはその場で竜に変身し、火球をその壁に撃ち込みそれを粉砕する。そして砂煙が消えた時、彼の目に飛び込んできたのは――

 

「マジかよ……」

 

 机と椅子、そして金床を始めとした鍛冶施設。そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その机に立て掛けられた一振りの刀だった。




がんばれ、カナタ。きっといつか良いことがあるさ(他人事)

と言う訳で次回はオリジナルにして後の為の布石回です。安直過ぎるかもですが、この設定以外思いつかなかった・・・
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。