ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~ 作:【ユーマ】
第1話『魔を拒む大峡谷』
眩い輝きが収まった時、カナタ達の目に飛び込んできたのは地上の風景……ではなく、今までと変わらない洞窟の風景だった。
「……えぇ~」
「……なんでやねん」
出口の魔法陣に乗れば、その先はもう地上。そんなお約束を信じていた男二人は明らかにガッカリしている。そんな中、ユエがハジメのコートの裾を引っ張る。
「……秘密の通路……隠すのが普通」
「あ、ああ、そうか。確かにな。反逆者の住処への直通の道が隠されていないわけないか」
言われみればその通りだ。魔法陣の行き着く先が地上と言う事はその魔法陣が完全に露出している事を意味する。そうなれば後は魔法陣を解析されるなりして、隠れ家に乗り込まれること間違い無しだ。とりあえず洞窟を道なりに進むカナタ達、途中幾つかのトラップや封印された扉が見つかったが、それはオスカーの住居に残っていたオスカー本人と思われる遺骨から拝借した指輪で簡単に解除できた。そして、暫く進むとやがて4人は切り立った崖が遠くまで続く場所に出た。
「……戻って来たんだな……」
「……んっ」
オスカーの居住区も人工太陽が輝き、川が流れていたりとかなり地上に似せた環境ではあったが、頭上に輝く本物の太陽のまぶしさと清涼な空気、そして吹き抜ける風はやはり地底の底では味わえるものではない。それらがカナタ達に戻ってきたと言う実感を与え――
「よっしゃぁああーー!! 戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」
「んっーー!!」
「やったぁあーーーっ!」
ハジメ、ユエ、香織の三人は互いに抱き締めあい、喜びを露にしている。そんな3人の様子を「まぁ今回は良いか」と生暖かいまなざしを送るに留めていたカナタは再び周りの様子に目を向けて――
「ふっ、シャバの空気が美味しいぜ」
と、お決まりの一言を言ってみたりした。そんな風に各々が地上への帰還を喜んでいる中、突然現れた魔物達が彼らを取り囲む。
「3人とも、イチャつくのはそこまでにしとけ。団体さんのお出迎えだ」
「はぁ~、全く無粋なヤツらだな。……確かここって魔法使えないんだっけ?」
「うん、この風景。ここはきっとライセン大渓谷。放出された魔法が分解される場所だった筈」
訓練だけでなく、オスカーの住居にあった書斎でトータスの地理を始め、冒険に必要と思われる知識も吸収したカナタ達はすぐに自分の居る場所にあたりをつける。香織が試しにと魔力を外部に放出するが、すぐに霧のように霧散する。
「間違いない、か……なら、ここは俺とハジメで切り抜けるか」
「……問題ない、力づくでいく」
そう言って、ユエが掌の上に火を生み出す。どうやら、分解される以上の魔力を注ぎこむ事で魔法を発動させる力技の様だ。
「力づくって……効率は?」
「……十倍くらい」
「いや、流石にそれは燃費悪いにも程があるだろ……今回は素直に自衛程度に留めておきなって」
「……でも」
「いいからいいから、適材適所。ここは魔法使いにとっちゃ鬼門だろ? 任せてくれ」
「ん……わかった」
と、口では納得しつつも若干唇を尖らせ、拗ねている様子がはっきりと判る。そんな様子に苦笑いを浮かべながらも、ハジメはドンナーをを引き抜き、発砲。魔物の頭部が弾けとび絶命する。
「さて、と。地上で魔物と戦ったのは王国周辺での実戦訓練以来だが、今の力量差がどれぐらいか試させてもらうとしますかねっ!!」
そしてカナタも言い終わると同時に剣を振り下ろした。
「これで……ラストッ!!」
2体の魔物をまとめてなぎ払い、戦闘……いや、戦闘とすら呼べない一方的な蹂躙は終わりを告げる。ハジメとカナタがそれぞれ武器を仕舞うと、後方に下がっていたユエと香織が傍にやってきた。
「……どうしたの?」
「いや、あまりにあっけなかったんでな……ライセン大峡谷の魔物といやぁ相当凶悪って話だったから、もしや別の場所かと思って」
最初のうちは二人とも全力(ハジメは二丁銃のみだったが)だったのだが、殆ど手ごたえを感じず、カナタはあえて闘気を解除して戦ってみたが、それでも手ごたえは殆ど無いに等しかった。
「……二人が化物」
「あっはは~、ある意味化け物に変身出来る身としては、あながち否定できねぇ……」
「ひでぇいい様だな。まぁ、奈落の魔物が強すぎたってことでいいか」
「よく考えりゃ、あれクラスかそれ以上の連中が地上にうようよ居たら、そもそも人間達が生きていくのも困難ってもんか……」
もしそうなら人類の生活圏はだいぶ狭いものとなるし、各地に物資を流通させるラインも確保出来ない。そう考えれば大迷宮の魔物が法外的に強すぎたと考えるのが妥当だ。
「それで、この後はどうするの? ハジメ君」
「この絶壁、登ろうと思えば登れるだろうが……ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮があると考えられている場所だ。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進むつもりだが」
「樹海側にした理由は?」
ハジメが向かおうとしているハルツィナ樹海もそうだが、もう片方のルートであるグリューエン大砂漠にも迷宮が存在している。迷宮目的での探索ならばどちらのルートも同じだ。
「いや、峡谷抜けていきなり砂漠横断とか嫌だろ? 樹海側なら、町にも近そうだし。」
「……確かに」
「そう言えば装備以外の旅の道具、何も持ってなかったね私達」
オスカーの住居で準備できたのはあくまでアーティファクトを始めとした装備一式。テントや寝袋等、一般的な旅道具に関しては何も持ってないし、回復薬も今ある分しか残ってない神水をホイホイ使うのも躊躇われる。ならばそう言った道具を揃える必要があり、町のある方を優先するのは自然な流れだ。方針も決まったところで、ハジメは宝物庫からサイドカーの付いたバイクを取り出す。バイクと言っても運転手が直に魔力を流して動くタイプでガソリンタイプではない。メインの運転手はハジメ、その背には香織が跨り、前の方はユエが座り、カナタがサイドカーに乗り、バイクは走り始める。大峡谷は分かれ道はおろか、曲がり道すらない完全な直線。大まかな方角さえ間違えなければ特に気にする事無く樹海に到着できる。その為、四人は迷宮の入り口らしきモノが無いかだけ気にしながら走行をし続けた。
「……何だあれ?」
「……兎人族?」
そうして暫く走行し続けていた一行の視界に飛び込んできたのは二つ首のティラノザウルスの様な魔物と、それに追われているウサミミの少女。兎の特徴を持った亜人、兎人族の少女だ。
「なんでこんなとこに? 兎人族って谷底が住処なのか?」
「いや、亜人族は基本、ハルツィナ樹海に生息しているか、人間に捕まり奴隷として暮しているか、もしくは亜人という立場を隠して放浪してるかぐらいのはずだ。仮に放浪の身だとしても兎人族が好んでこんな所に来るとは思えないが」
それでなくてもこの大峡谷は罪人を此処に放置して魔物に殺させると言う処刑方法が確立されてる程の危険区域である。亜人、しかも戦闘能力に乏しい兎人族からしたら、ここに来るのは自殺行為だ。
「じゃあ、あれか? 犯罪者として落とされたとか?」
「……悪ウサギ?」
(ふむ悪ウサギ、ねぇ……)
カナタは今なおこちら向かって逃走してきている兎人族の少女を観察する。
(そうだと仮定すると、同族との縁は既に切れてると見て良い。つまり彼女に“あのお願い”しても、他の亜人や同族がちょっかい掛けてくる可能性も低い見て良いか)
一路、樹海を目指す事を決めたわけだがそれにはある問題点があった。けれどそれは今の自分達にはどうしようもないし、その問題点を無視してでも町のある方に向かいたかった。
「だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」
やがて、彼女の必死な叫びが聞こえるぐらいには距離が縮まってきたところで、カナタがサイドカーから降りる。
「カナタ君?」
2ヶ月の生活の中で、下の名前で呼ぶようになった香織が彼に声を掛けると、カナタは剣を構えて刀身に風を纏わす。
「カモが葱……いや、この場合はウサギが人参背負ってやってきたって所か、なっ!」
カナタが剣を一振りすると、風の刃がティラノサウルスに向けて飛んでいく。風爪の派生技能である風の爪を飛ばす飛爪が、ティラノ首を刎ね飛ばす。今までは2つの頭があること前提で重心のバランスを維持していたのにいきなり首を片方刎ね飛ばされたのだ。当然ながら二頭ティラノはバランスを崩しその場にひっくり返る。そしてその衝撃で兎人の少女がこちらに吹き飛ばされてくる。
「きゃぁああああー! た、助けてくださ~い! ぶっ!?」
と、顔面からこちらに向かって落ちてくる少女をカナタは頭を掴む形で片手でキャッチ。そのまま地面に降ろす。それと同時にバランスを崩した二頭ティラノが身体を起こし体勢を立て直すと同時にこちらに向かって吼えると、少女は咄嗟にカナタの後ろに隠れる。
「おい、カナタ。なんだってそんな存在がギャグみたいなウサミミなんて助けるんだよ? どう考えても面倒ごとの予感しかしねぇんだが」
と、ハジメがカナタをジト目で睨んでいるとカオリがハッとした様な表情になった。
「そう言えば、兎人族って愛玩奴隷として需要が高かったよね……」
「……ん、欲求不満?」
「ど、奴隷!? 私奴隷にされるんですっ!?」
「カナタ……お前結構溜まっていたのか……」
「仮にそうだったら、その原因はお前等だからな……まぁ」
そこで言葉を切るとカナタは砲身の根元上部のグリップを掴み、上に引っ張る。すると砲身の一部がスライドして何かを嵌めこむ部分が現れ、宝物庫から取り出した弾丸をそこにはめ込み蓋を閉じる。次に砲身側面に折りたたみで収納されていたグリップとトリガーを握り銃口をティラノに向ける。
「お願いしたい事があるのは確かだけどなっ!」
引き金を引くとドォン!と言う音と同時に真っ赤に輝く光弾が飛びティラノの首の根元に着弾。同時に爆発がおき、千切れ飛んだもう片方の首も宙を舞い、首を二つとも失ったティラノはその身体を横たえる。
「し、死んでます…そんなダイヘドアが一撃なんて…」
カナタがグリップを後ろに引くと、装弾部分の反対側の側面から薬莢が排出。二頭ティラノ改め、ダイヘドアが絶命したのを確認するとカナタは剣を背中に仕舞い、彼女の方に振り返る。
(さて、これで恩は売れただろうし早速交渉に――)
「助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです! 奴隷云々は後回しにして、取り敢えず私の仲間も助けてください!」
(……あれ?)
直後に続いた中々に図々しい言葉にカナタは内心首をかしげた。罪人ならば仲間は居ない筈。つまり仲間、と言う単語が出た時点でカナタの目論見は外れ、ハジメの言うとおり面倒な事になりそうな流れが出来ていた。