ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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第3話『覚え無き殺意』

 カナタが地上に着陸し、シアが降りたのを確認すると竜化を解除、シアに一声掛けようと彼女の方に目をやり、すぐさま視線を反らす。

 

(ハ、ハジメの奴……)

 

 ハジメはシアを投げる際に思いっきり服を掴んで振り回していた、それによりシアのタダでさえ布に近い衣服が更にボロボロになったり、布が少しずれたりしており、更にシア自身のスタイルの良さも合わさり、今の彼女はとても直視できる状態じゃなかった。彼女をそんな状態にした友人に内心毒づきながら、カナタは宝物庫から自分の予備のジャケットをシアにかぶせると、シアはそれを手にもちジャケットとカナタを交互に見つめた。

 

「これカナタさんと同じ? も、もう! カナタさんったら、自分とペアルックだなんて、俺の女アピールですかぁ。ダメですよぉ~、私、そんな軽い女じゃないですから、もっと、こう段階を踏んで――」

 

「いや、単に今のシアは(自分の理性の問題上)見るに堪えなかったから」

 

「辛辣っ!?」

 

 ガーンと言う効果音が聞こえそうな表情になりながらも、シアは渡されたジャケットに袖を通す。その段階でハジメ達もカナタに合流。全員が揃ったところで、一人のハウリア族の男性がこちらに駆け寄ってきた

 

「シア、無事だったか!」

 

「父様!」

 

 親子の再会、とりあえずカナタ達は何も言わずに親子の会話が終わるのを待っていたが、話が終わるとシアの父親がカナタ達の方に近づいてきた、

 

「カナタ殿で宜しいか? 私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」

 

「気にしないで下さい。前にシアにも話した通り、お礼はしっかりしてもらうつもりなので。しかし、随分とあっさり俺達の事、信用するんですね。お宅の娘さん、思いっきりぶん投げられたりとかしてたのに」

 

 と、カナタがハジメの方に視線を向けるとハジメはどこ吹く風と思いっきり視線を反らす。

 

「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」

 

 カナタにとっては想定どおりと言えばそうなのだが、流石に心配になってくるぐらいの人の良さだ。奴隷関係で一番被害を受けているのは他でも無い兎人族だと言うのに。

 

(まぁ、それについてはこちらが関与する事ではない、か)

 

 同じ人でも考え方は違うのだ、ならば種族が違えば考え方とて違ってくる。その事についてはあえて何も言わず、カナタとハジメ、カムの三人で詳しい話を纏めてから一同は大峡谷の出口へと移動を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 42人にも及ぶウサミミ達を連れて峡谷を進むカナタたち。その光景は魔物達にとってはごちそうが並んで歩いてる風景だ。当然ながら色々な魔物が襲ってきたがカナタ達はそれを瞬く間に殲滅していく。その様子に大人達からは畏敬の念を彼らに抱き、子供達からはまるでヒーローを見るかの様な視線を送っている。

 

「ふふふ、カナタさん。チビッコ達が見つめていますよ~手でも振ってあげたらどうですか?」

 

 「うりうり~」とちょっかいを掛けるシアの様子に軽くため息を吐いて、軽く手を挙げる事でそれに応える。そして香織は笑顔で子供達に手を振ってるが、その姿にハウリアの男性が数人ほど見惚れていたが、直後隣に立つハジメとユエに思いっきり睨まれ、ほんのり赤かった顔を青くしていた。そんな感じで比較的穏やか?に峡谷を進んでいた一行。やがて、ハジメの視界には峡谷の出口と思われる、壁の岩を削りだして造った階段が映った。

 

「あそこ、か……」

 

「帝国兵はまだいるでしょうか?」

 

「どうだろうなぁ。まだ粘っているのか、それとも全員魔物の餌になったと諦めて帰ったか……」 

 

「そ、その、もし、まだ帝国兵がいたら……カナタさん……どうするのですか?」

 

 これから対峙するのは魔物ではなく人間だ。今でこそ、殆ど何も感じなくなるぐらいには魔物を討つ事には慣れたが、これから対峙するのは自分達と同じ人間だ。やらなきゃいけないのは判ってる。けれど、いざその時が近づくと、久しく感じなかった躊躇いを感じ始めたのも事実だ。シアの問いにカナタが答えられずに居ると、ハジメが代わりに返事をした。

 

「残念ウサギ、お前、未来が見えていたんじゃないのか?」

 

「はい、見ました。帝国兵と相対するお二人を……」

 

「だったら……何が疑問なんだ?」

 

「疑問というより確認です。帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと……」

 

「それがどうかしたのか?」

 

「えっ?」

 

 その様子にハジメは何時もと変わらない様子で答える。

 

「だから、人間族と敵対することが何か問題なのかって言ってるんだ」

 

「そ、それは、だって同族じゃないですか……」

 

「お前らだって、同族に追い出されてるじゃねぇか」

 

「それは、まぁ、そうなんですが……」

 

「大体、根本が間違っている」

 

「根本?」

 

「いいか? 俺達は、お前等が樹海探索に便利だから雇った。んで、それまで死なれちゃ困るから守っているだけ。断じて、お前等に同情してとか、義侠心に駆られて助けているわけじゃない。まして、今後ずっと守ってやるつもりなんて毛頭ない。カナタも言ってただろうが、樹海探索が終わるまで、ってな?」

 

「うっ、はい……覚えてます……」

 

「だから、樹海案内の仕事が終わるまでは守る。自分達のためにな。それを邪魔するヤツは魔物だろうが人間だろうが関係ない。道を阻むものは敵、敵は殺す。それだけのことだ」

 

「な、なるほど……」

 

「カナタもだ。気持ちは判らんでもねぇが、こうして後ろ盾も無く旅をする以上、自分達の身は自分で守るしかねぇんだ」

 

 ハジメの場合は奈落での地獄の様な環境が引き起こしたパラダイムシフトにより倫理観が変化し、既に覚悟が出来ているが、カナタの場合はハジメ達が発見されるまで気を失って過ごしていた。つまり、ハジメの様な倫理観や思考の変化は起きておらず、殺しを忌避する環境で育った状態とそれほど大きく変わっていない。

 

「俺が何時でもフォローに入れる訳でもねぇし。覚悟は早めに決めておけ」

 

「……判ってる。ある意味、今回は丁度良い機会なのかもしれないな」

 

 この後に待っている帝国兵士との戦いに関してはハウリアとの契約の為と言う大義名分がある。少なくても単に自衛の為に殺すよりは幾分ハードルは低いだろう。やがて先頭を歩いていたハジメとその後に続いていたカナタが階段を登り切るとそこには大型の馬車数台に野営の跡、そしてその場にたむろしている30人ほどのカーキ色の軍服で統一された兵達の姿。

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」

 

「小隊長! 白髪の兎人もいますよ! 隊長が欲しがってましたよね?」

 

「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」

 

「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」

 

「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」

 

「ひゃっほ~、流石、小隊長! 話がわかる!」

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 

 彼らはまるで獲物、いや良いおもちゃを見つけたかのようにそれぞれに下卑た笑みを浮かべながら俺達の後ろに居る兎人族を品定めしている。と言うかシアは特別目を付けていたのか……少しだけ、ほんの少しだけが、その事に俺は不快感感じた。

 

「あぁ? お前等誰だ? 兎人族……じゃあねぇよな?」

 

「ああ、人間だ」

 

「はぁ~? なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ? しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か? 情報掴んで追っかけたとか? そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」

 

「断る」

 

「……今、何て言った?」

 

「断ると言ったんだ。こいつらは今は俺らのもの。あんたらには一人として渡すつもりはない。諦めてさっさと国に帰ることをオススメする」

 

「……小僧、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」

 

「十全に理解している。あんたらに頭が悪いとは誰も言われたくないだろうな」

 

 うーむ、煽る。すがすがしい位にハジメが煽りまくっている。まぁ、ハジメの中では既に戦いは始まっているんだろう。煽って冷静さを無くさせる。よくある手だ。一周回って表情が消えた小隊長さんの姿を見る辺り、効果はあった様だ。と思ったが、ふと彼の視線が自分達の後ろの何かを捉えたかと思うと、再び下卑た笑みを浮かべた。

 

「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇが唯の世間知らず糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる」

 

 その時だった。小隊長の表情と先ほどの視線から、その言葉を意味を感じ取った瞬間、自分の中で何かが灯った。それは決して良いモノではないのは判る、けれど抑え込み、無視してはいけない、それは俺の“矜持”に関わる。俺の中で彼らに対する何かが急速に消え、変わりに何かが満ちていく。

 

「くっくっく、そっちの嬢ちゃん達はえらい別嬪じゃねぇか。てめぇらの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱら――」

 

 そして俺の“――”の仲間を害し、汚すと言う悪意を明確に感じた瞬間、俺の中から目の前の存在に対する慈悲と躊躇いが不自然なまでに消え去り、それを埋めるように自分の中に灯った何かが燃え広がり、俺自身をも飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

「……えっ?」

 

 目の前の光景に対して、香織が思わず声を漏らす。何が起きたか、説明するのは単純だ。小隊長が言葉を言い終わるのを待たずに、カナタが剣を振り下ろし彼を縦に真っ二つにした。その様子にハジメも含め、誰もが驚きを隠せずに居る。そして帝国兵に向けるカナタの目は……冷酷にして無慈悲。少なくても命は尊いモノ、奪ってはいけないモノと教わり育てられたマトモな日本人のする目付きではなかった。

 

「ちっ、このガキっ!」

 

 隊長格がやられたにも関わらず、少しばかり浮き足立つ程度で他の兵士はすぐさま武器を構えて襲い掛かってくる。けれどハジメもすぐさま銃を抜き、早撃ちで兵士六人を物言わぬ死体に変える。後ろの方で魔法使いと弓使いの後衛組がそれぞれ、魔法の詠唱と弓を構えるが、それもハジメが投げた手榴弾とカナタが撃った炸裂弾により、成す術も無く壊滅、砲撃の着弾地点に居た事により、完全に下半身が吹き飛び、背骨の一部が露出している死体が一つ、剣をや槍を構え戦っていた前衛組の傍に落ち、それを見た兵士達の顔に恐怖が浮かぶ、後方からの支援が消えた以上、もはや彼らを待っていたのは蹂躙される運命のみだった。

 

 

 

 

 

 

 

「うん、やっぱり、人間相手だったら〝纏雷〟はいらないな。通常弾と炸薬だけで十分だ。燃焼石ってホント便利だわ」

 

 ドンナーでトントンと肩を叩きながら、手応えを振り返っていたハジメ。やがて「ヒィっ!!」と何かに怯えた悲鳴が聞こえ、そちらに目を向けると尻餅を付きながら後ずさる兵士と変わらぬ表情のまま、そいつにゆっくりと歩み寄るカナタの姿。

 

「た、頼む! 殺さないでくれ! な、何でもするから! 頼む!」

 

 が、そんな言葉など聞えていないかの様にカナタは剣を振り上げる。ハジメはため息をつくと空に向かってドンナーを発砲。その音にカナタは手を止め、ハジメの方に視線を向けた。

 

「……そいつには少し聞きたい事があるんだ。殺すならその後にしてくれ」

 

 そう言うと、ハジメは兵士の横に立つと彼を見下ろす。

 

「他の兎人族がどうなったか教えてもらおうか。結構な数が居たはずなんだが……全部、帝国に移送済みか?」

 

 シアの家族を守ると契約を交わした以上、もし捕まった兎人族も救出の余地があるのなら助け出す。その為に、ハジメが兵士に問い掛けると涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっている兵士は「あ、うぁ……」と言葉を詰まらせながらも、言葉を搾り出す。

 

「……は、話せば殺さないか?」

 

「お前、自分が条件を付けられる立場にあると思ってんのか? 別に、どうしても欲しい情報じゃあないんだ。今すぐ逝くか?」

 

「ま、待ってくれ! 話す! 話すから! ……多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから……」

 

 絞った……それはつまり老人や見てくれのよくない兎人は商品価値が無く、連れて行くだけ労力の無駄として間引きした。つまりはそう言う事だ、その事実にシアが口を抑え悲痛な表情を浮かべると傍にいた香織がシアの肩に手を添えて、ユエもシアを心配そうに見上げている。

 

「そうか……もういいぞ、カナタ」

 

「待て! 待ってくれ! 他にも何でも話すから! 帝国のでも何でも! だから!」

 

「……悪いが」

 

 そこで初めてカナタは口を開く。

 

群れ(プライド)の仲間を害する奴に与える慈悲は……全く持ち合わせちゃ居ないんだ」

 

 言い終わると同時に剣を振り下ろし、血しぶきと共に最後の一人も物言わぬ死体となる。

 

(……群れ?)

 

 ハジメはカナタの言い回しに違和感を覚えた、群れと言う意味合いは判る。その後に続く仲間と言う言葉からそれが自分と香織とユエの事だと言う事も。思えば、奈落で再会してからのカナタは所々か可笑しい部分が見受けられた。自分の事で精一杯だった為にその場では気が付かなかったが“あの時”のカナタの発言も今になって振り返ってみるとおかしい。

 

(まさか……な)

 

 銃をホルスターに戻しながら、ハジメは血で汚れた自分の武器を見つめるカナタの姿を見て、「ふぅ……」とため息を吐くのだった。


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