ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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注意:作者は零については完全に未読です。オルクス大迷宮が最後に攻略する締めくくりの迷宮だと言うのもウィキペディアで仕入れた情報です。


そして今回の話は『零』の展開との整合性を完全に放棄した内容になってるので、零の原作展開と著しい食い違いが出た時も作者の独自設定&原作改変の一種と思ってください


第5話『霧深き樹海の国』

「……なるほど。試練に神代魔法、それに神の盤上か……」

 

 ハウリア族の不手際により、10日間は足止めを余儀なくされたハジメ達はアルフレリックの招待を受けて、フェアベルゲンを訪れていた。そして村の会議所と思われる場所でカナタ達の知っている情報を話していた。解放者の存在を知っている事もあってか、アルフレリックはその事実を知っても顔色一つ変えなかった。更に彼らが解放者の存在を知っていたのは、他でも無い解放者の一人、リューティリス・ハルツィナがアルフレリックと同じエルフ、つまり亜人であり、彼女の口から聞いたからである。迷宮攻略者、神殺しになれる可能性を持つ者とは敵対せず、丁寧に扱うべきと言う長老達にのみ伝えられる口伝も彼女の言葉によるものらしい。

 

(……あれ?)

 

 その事にカナタは疑問を感じる。解放者と言う事はリューティリスも神代魔法使える。つまりは魔法を扱えると言う事だ。けれど亜人は魔法を一切扱えない種族。使えるとすればシアやユナ・フィクセンの様に突然変異で魔物同様の魔力操作を扱える忌み子とされる者達だけ。ならば、必然的にリューティリスも忌み子とされているはずでは?

 

「それで、俺は資格を持っているというわけか……」

 

 と、カナタがその矛盾を感じている間も話は進んでいたらしく、話題は今後の事に移ろうとしていた時だ。突然、ハウリア族達が待機している下の階が騒がしくなった。カナタ達が下の階に降りるとそこには鳥や熊、ドワーフ、そして狐の亜人族達がハウリア族に剣呑なまなざしを向けており、カムはシアを庇うように立ちふさがっている。二人の頬が少し腫れてる辺り、既に殴られた後と言う事だろう。やがて、その犯人と思われる大柄の熊の亜人が降りてきたアルフレリックに気付くと彼を睨みつけた。

 

「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた? こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」

 

 その間、カナタはシア達の傍に近づく。

 

「大丈夫か?」

 

「カナタさん……」

 

 赤くなった頬を押さえながら涙目になっているシアが彼を見上げる。

 

「香織、二人の治療を頼んで良いか?」

 

「うん!」

 

 そう言うと香織がシアとカムの治療を開始する。

 

「なら、こんな人間族の小僧共が資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!」

 

 その間もアルフレリックと熊の亜人、その長老の話は進んでおりやがて熊の亜人はカナタを指差す。

 

「そうだ」

 

 アルフレリックが断言すると、熊の亜人はカナタを忌々しげに睨み付けたが、やがて何かを思いついた様にニヤリと笑みを浮かべる。

 

「……ならば、今、この場で試してやろう!」

 

 そう言って熊の亜人、熊人族はカナタに向かって殴りかかる。

 

「カナタさんっ!」

 

 木を圧し折るほどの豪腕。誰もが……いや、ハジメ達を除いた全員は頭部に拳を受けて、一撃で絶命するカナタの姿を想像した。しかし――

 

「なっ!!」

 

 カナタはそれを片手で受け止めた。すぐに拳を引っ込めようとするもカナタにガッチリと握られたそれはビクともしない。そのままカナタは視線をアルフレリックの方に戻す。

 

「一つ訊ねたいんですけど、そのリューティリスって人は森人族、いえ、このフェアベルゲンに置いてもかなりの地位にあった人だったんでしょうか?」

 

 突然の問いに、誰もが「何故いきなりそんな事を?」と言う疑問を覚える。

 

「……何故、その様な質問を?」

 

 そんな中、アルフレリックだけは表情を強張らせながら問い返した。

 

「何となく、気になった事があったので」

 

 アルフレリックは数秒ほどカナタを見つめると、やがて目を伏せた。

 

「竜峰カナタ、どうかその手を離してもらえないか。そしてジン、その拳を下ろせ。これで彼らが資格を持つ者である事を貴方も十分に判った筈だ」

 

「ふざけた事を言うなっ、何が口伝だ! あんな何百年前の言い伝えの為に国の法を曲げる等許されるはずがない! アルフレリック、貴様の事も次の長老会議で処分を――」

 

「ああ、全く……」

 

 一行に話が進まない様子にカナタが呆れた様な声を出すと、ジンと呼ばれた熊人族を睨みつける。

 

「さっきから――」

 

 そしてもう片方の引き絞る。けれど拳は作らず指を曲げ、手首の付け根を突き出すような形を作る。

 

「うるさいんだよっ!」

 

「ぐぶっ!?」

 

 放たれた掌打はジンの顎を捉え、彼の下顎の骨を砕く。そしてその衝撃により脳を思いっきり揺さぶられた事によりジンは意識を刈り取られ、白目を剥いてその場に大の字に倒れる。それを見てたハジメは「あんな奴思いっきりぶっとばせばいいじゃねぇか」とぼやき、ユエも「ん、カナタは甘い」と容赦のない感想を述べる二人に香織が「まぁまぁ」と苦笑を浮かべている。そしてカナタも「全く……」とぼやいてから、アルフレリックの方に向き直り――

 

「誰かに聞かれたくないなら、上で話しますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからアルフレリックかカナタと二人だけで話をしたいとし、二人だけで先ほどの会談部屋へと戻ってきた。

 

「さて、竜峰カナタ、回りくどい言い方はやめにしよう。何が言いたいのだ?」

 

「アルフレリックさん。シアの様な亜人が差別される理由、それって単に魔物と同じ能力を持ってるからではないのでは? いえ、現在はそれで定着していますが、実は忌み子と言う考えが生まれた背景には何か別の理由があるんじゃないですか?」

 

「……そう思った理由を聞かせてもらっても?」

 

「まず疑問に感じたのは口伝について。解放者というのがどんな存在かもわからないにも関わらず、貴方達はリューティリスの言葉を口伝として現代まで語り継いできた、と言っていた」

 

 普通に考えればおかしな話だ。彼女がどういう経緯で解放者の一員となったかは知らない。が、彼女の言葉を口伝として残してるという事は少なくてもリューティリスと言う存在は亜人達の間では無下には扱われていない。ならば彼女は当時、よほどの地位にあったか、もしくは――

 

「リューティリスは解放者の事、神代魔法の事、そして神の真実。その全てを伝えた上で、迷宮を踏破した者、資格者との接し方について口伝を遺した。つまり貴方は先ほどのこちらの話に対して、あえて知らないフリをした、違いますか?」

 

「……その通りだ」

 

 当時、リューティリスは不思議な力を持っていた。その力を以って亜人達の生活を繁栄させてきた彼女は聖女として扱われていた。そして、その奇跡の力こそ彼女の持つ神代魔法だ。つまり当時は魔法扱える亜人を忌み子と見る思想は存在していなかった。むしろ、貴重な人材として重宝されていた。だからこそ、彼女の言葉は無下には出来ないとし、口伝として語り継がれる事になったとなれば話は通る。そして、この前提が成立する事で、カナタの中の2つ目の疑問と矛盾も成立する。

 

「リューティリスは魔法を使える事で聖女として祭り上げられているのに、彼女と同じ時代を生きていたとされるユナ・フィクセンは自分の力を魔物と同じものとされ、一族に迷惑は掛けられないと仲間の下を去った。この差はなんなのか? それが2つ目の理由です」

 

 カナタの口から出たユナの名前にアルフレリックは目を見開き、やがて参ったと言わんばかりにうな垂れた。

 

「そうか……君は、ユナ・フィクセンの事まで知っていたと言う訳か」

 

「オスカー・オルクスの住居に彼女の痕跡が残っていたので」

 

 魔力を扱う力を持ってる事が問答無用で魔物と同一存在と見なされるのであれば、この二人の扱いの違いはなんなのか?そして、亜人だからと言うだけで差別され奴隷と扱われる、そんな境遇から仲間意識が強くなってる亜人の中で、何故、魔力を扱える亜人を忌み子として問答無用で差別すると言う、自分達が人間にされた事と同じ様な事を行う法があるのか?その事に歪さを感じたと言うのもあった。

 

「一点だけ訂正する所があるが、概ね君の推測どおりだ。嘗ては亜人の間でも魔力を扱える存在はとても貴重な存在とされていた。何せ神に見放されたとされる我々の中にも神の祝福を受けた者は存在している。それは我々にとっても大きな支えだったからね」

 

 けれど、ある日一つの事件がおきた。それはなんて事のない痴情の縺れ。自分と付き合っていた男性は実は自分とは単なる遊びで別に好きな人が居た。裏切られた女性は酷く憤慨した、男を恨み、彼の本命の女に嫉妬した。その感情が彼女の力を暴走という形で目覚めさせた。

 

「“気炎”と呼ばれるそれは使い手の恨みや怒り、闘志といった拒絶の感情や戦う意志の大きさがそのまま炎の威力に影響されると言うものだった。強い恨みと嫉妬の感情を受けた彼女の炎は二人を灰にし、その周囲を火の海にした」

 

 その気炎の使い手こそ、ユナ・フィクセンだった。

 

「その時の彼女の姿は周りの皆にとっては魔物と同じ様に見えたのだろう。そしてその恐怖はリューティリスにも向けられた」

 

 悲しい事に人は悪い出来事の方が強く印象に残る。だからこそ、リューティリスがもたらした恩恵とユナの暴走。どちらも魔法が引き起こした事だが、当時の人々の中にはユナが与えた恐怖が強く根付き、民達からはユナと同じく魔法を扱えるリューティリスの二人を処刑するべきと言う声まで挙がった。アルフレリックが言ってた訂正するべき点はリューティリス・ハルツィナもその時点で聖女としての立場を失っていたと言う点だ。

 

「その二人とも話し合った結果、当時の各部族の長は二人を処刑したものとして密かに二人を逃がしたのだ」

 

 当時の荒れる民を鎮めつつ二人の命を守るにはそれしかなかった。けれど、その事例がきっかけとなり魔力操作を行える亜人は魔物と同等、忌み嫌われるべき存在と言う思想が広まり、フェアベルゲンが建国された際に忌み子に関する法律も作られる事になった。口伝が長老にのみ伝えられている理由もそこにある。

 

 しかし長老は代替わりしていくもの。可能な限り真実を知る一族による世襲制としているが、それでも長老を務める一族が変わってしまった部族もあった。先ほどの熊人族もその一つ。

 

「幸い、その時には既に二人の名前は歴史に埋もれており、口伝の存在を伝えてもそれに疑問を抱く者は居なかった」

 

 平行して二人の存在を歴史に埋もれさせるべく当事者達には緘口令を敷き、二人の存在も“始まりの忌み子”という風に一括りにして名を伏せた。結果、リューティリスについてもハルツィナ大迷宮の創始者と言う認識しか残っておらず、自分達が忌み子として扱ってる亜人と同類だと言う事は露にも思っていない。だが、真実を告げられないが故に起こっている弊害もある。

 

「なるほど、つまり長老の代替わりが進む中で口伝の存在を軽く見る者がで始めたと」

 

 密かに当時の事情を知る一族ならまだしも、そうでない者からすれば、大迷宮の創始者というだけで後はどこの馬の骨とも知れない人物からの言葉を律儀に語り継いでるだけという認識。更に今の今まで資格者など現れなかった事も後押しし、口伝を軽んじてる者が出てきた。

 

「その結果が――」

 

 直後、再び下の階から打撃音と木製の何かが砕ける音が響く。カナタとアルフレリックが下の階に戻ると、そこには拳を突き出したハジメと何かが突き破り、破壊されている壁、そして姿の消えてるジン。やがてハジメはいまだ呆然としている他の長老達に目を向けて――

 

「で? お前らは俺の敵か?」

 

 淡々とそう問い掛けた。その様子から二人は何があったか悟り、アルフレリックは片手で顔を隠し、首を横に振った。

 

「こう言う輩が現れるって事ですか……」

 

「お恥ずかしい限りだ」

 

 聞くとジンが意識を取り戻すと、目に付いたユエにいきなり襲いかかった。それをハジメが庇い、義手の肘部分に仕込まれたショットシェルの試運転も兼ねて一撃喰らわせたそうだ。なお、ハジメ曰く――

 

「人の女、傷つけようとしやがったんだ。ホントはありったけの銃弾喰らわせてやっても良かったんだが、折角の交渉を拗れさせる訳にもいかねぇし、一度目は拳で勘弁してやったんだ。二度目はねぇがな」

 

 との事。なお、ジンは辛うじて一命こそ取り留めつつも戦士としては完全に再起不能状態となり、この時点で交渉が拗れるのは確定しているのだが、ユエに手を出そうとして即死させられなかったのは確かにハジメ基準ではかなりの温情なのだろうと思い、カナタも何も言わなかった。

 


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