ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~ 作:【ユーマ】
ハー○マン式訓練法というのが存在している。これは地球のとある国で海兵希望の新兵に施される訓練方法なのだが、この訓練内容がまたえぐい。
「ボス、お題の魔物キッチリ狩ってきやしたぜ」
「ボ、ボス? と、父様? 何だか口調が……というか雰囲気が……」
シアは旅の同行の許可をもらえた事を報告しようと修行開始前を最後に一度も会ってない父に報告しようとして、足をとめた。
「……俺は一体でいいと言ったと思うんだが……」
因みにハジメがお題に指定したのはハイベリア、初めて会った時に襲われていた飛竜種。ハウリア達が強くなる目的はあくまで自衛の為。だからこそ、危機に直面したの際は一族全員で事にあたるのだから全員で一体狩れれば上出来、だったのだがカム達が提出した素材は明らかに10体分近くの量だ。
「ええ、そうなんですがね? 殺っている途中でお仲間がわらわら出てきやして……生意気にも殺意を向けてきやがったので丁重にお出迎えしてやったんですよ。なぁ? みんな?」
「そうなんですよ、ボス。こいつら魔物の分際で生意気な奴らでした」
「きっちり落とし前はつけましたよ。一体たりとも逃してませんぜ?」
「ウザイ奴らだったけど……いい声で鳴いたわね、ふふ」
「見せしめに晒しとけばよかったか……」
「即ちインガオホー、ショッギョ・ムッジョ」
さて、先ほど上げたハー○マン式訓練法とは簡単に言えば人格否定にも等しい罵倒と扱いの元、全ての新兵の人格を戦士として相応しいものに変えていく手法だ。その効果はお墨付きで地球でも彼らのように優しさ極振りだったある高校のラグビー部もこの訓練を受ける事でパント(キックの事、勿論反則)で一人を無惨に叩きのめして相手に恐怖を植え付けたり、タックルで倒した相手に「くそっ! まだ生きてやがる……」と吐き捨てる様な頼もしい(?)ラガーマンに変貌を遂げたと言う逸話がある。
「ど、どういうことですか!? カナタさん! 父様達に一体何がっ!?」
「いや、実は途中から訓練指導はハジメが行ってたんだが……」
そう言って、カナタとシアがハジメに視線を向ける。
「……別に、大して変わってないだろ?」
「貴方の目は節穴ですかっ! 見て下さい。彼なんて、さっきからナイフを見つめたままウットリしているじゃないですか! あっ、今、ナイフに〝ジュリア〟って呼びかけた! ナイフに名前つけて愛でてますよっ! 普通に怖いですぅ~」
その後も、シアは彼らに何をしたのか、ハジメに問い詰めるがそれを気まずそうながらも尋問をかわしている。まぁ、あのテレビや文章にすれば規制が入る事間違い無しの言葉をシアは勿論、恋人二人に聞かせる訳にもいかないだろう……。
「父様! みんな! 一体何があったのです!? まるで別人ではないですか! さっきから口を開けば恐ろしいことばかり……正気に戻って下さい!」
「何を言っているんだ、シア? 私達は正気だ。ただ、この世の真理に目覚めただけさ。ボスのおかげでな」
「し、真理? 何ですか、それは?」
やがて、ハジメへの尋問を諦めたシアは豹変した家族に訴えるとカムの表情は修行開始前の温厚なモノに戻る。が、彼の言う真理に激しく嫌な予感を覚えたシアが恐る恐る先を促すと――
「この世の問題の九割は暴力で解決できる」
以前と変わらぬ穏やかな笑顔で以前からは想像も出来ない言葉を口にした。どうやら彼らは真理の扉を開く代償として、かつての温厚な性格を持っていかれたようだ……。
「やっぱり別人ですぅ~! 優しかった父様は、もう死んでしまったんですぅ~、うわぁ~ん」
※
その後、何時かのお花の少年パム改め、“必滅のバルドフェルド”というお花が好きな森の兎から、コーヒーが好きな砂漠の虎に改名した少年の報告から大樹へのルートに熊人族の集団が武装して待ち構えて居る事が判明した。どうやらカナタの推測どおり、自己責任と言う扱いから本格的に殲滅を行うつもりの様だ。今はまだ契約の途中なので、カナタ達で殲滅してもよかったのだが、他でも無いカム達が自分の実力を試したいとの事で任せてみた結果――
「ほらほらほら! 気合入れろや! 刻んじまうぞぉ!」
「ドウモ。クマビト=サン、ハウリアです」
「アハハハハハ、豚のように悲鳴を上げなさい!」
「イヤーッ!」
蹂躙とはまさにこの事。カナタの思った通り、ハウリア族は気配操作、気配察知、人並みはずれた聴覚を駆使し、奇襲やヒット&ウェイ、スリングショットやボウガンの狙撃を駆使して熊人族を圧倒していた。もしも、真正面から殴りあうことが出来れば熊人にも勝機はあっただろう。だが、180度豹変した彼らに動揺し、浮き足が立った彼らでは殴り合いに持ち込む事など出来ず、良いように翻弄されるままだった。
「ちくしょう! 何なんだよ! 誰だよ、お前等!!」
「アバーッ!」
「こんなの兎人族じゃないだろっ!」
「グワーッ!?」
そんな阿鼻叫喚の地獄絵図にカナタ達はドン引き。そして事の張本人であるハジメも――
(うん、完全にやりすぎたなコレ)
とハジメにして自身の非を認めるレベルだ。尤も、だからと言って反省や後悔をしたかと言われれば話は別となる。
「クックックッ、何か言い残すことはあるかね? 最強種殿?」
やがて、部下の大半が地に倒れ、自身も傷だらけで膝を付いてる熊人族の臨時のリーダーレギンの正面にカムが立つ。
「……俺はどうなってもいい。煮るなり焼くなり好きにしろ。だが、部下は俺が無理やり連れてきたのだ。見逃して欲しい」
「なっ、レギン殿!?」
「レギン殿! それはっ……」
「だまれっ! ……頭に血が登り目を曇らせた私の責任だ。兎人……いや、ハウリア族の長殿。勝手は重々承知。だが、どうか、この者達の命だけは助けて欲しい! この通りだ」
熊人族は亜人の中でも生粋の武闘派一族。そんな彼が武器を捨てて土下座で命を請う事は熊人族の沽券に関わる行い。けれどほぼ私怨にも等しい行為に連れ出した部下をこれ以上死なせるわけにはいかないと、レギンは断腸の思いで頭を下げる。
「だが断る」
が、それに対する返事は残酷な一言と、投げナイフ。そして、それ皮切りに飛び道具の嵐が彼らに向かって飛ぶ。
「なぜだ!?」
「なぜ? 貴様らは敵であろう? 殺すことにそれ以上の理由が必要か?」
「ぐっ、だが!」
「それに何より……貴様らの傲慢を打ち砕き、嬲るのは楽しいのでなぁ! ハッハッハッ!」
「んなっ!? おのれぇ! こんな奴等に!」
周囲は飛び道具を何時でも掃射できる状況のハウリア族に囲まれ、うかつに動く事の出来ない。レギンはもはやこれまで、と目を伏せる。そしてカムの持つ小太刀が振り下ろされ――
「何のつもりだ。シア、カナタ殿」
横から割り込んできた大剣の刀身に弾かれると、カムはその視線を横から割り込んできたカナタとそれについてきていたシアに向ける。そして二人が熊人族を庇うようにカムと向き合う。
「いやまぁ、まともに指導できなかった俺が悪いのもあるけど、流石にこれ以上は止めた方が良いかなと思いまして」
「まさか二人とも、我らの敵に与するつもりか? 返答によっては……」
「いえ、彼らの生死は別にどうでも良いんですけど」
「「「「いいのかよっ!?」」」」
「だって、俺らに手を出した場合は自己責任って話だろ? それであんた達がどうなろうが、助ける義理もないわけだし」
「そうですよ! 殺意を向けて来る相手に手心を加えるなんて心構えでは、ユエさんの特訓には耐えられません。私だって、もう甘い考えは持っていませんよ」
「ふむ、では何故止めたのだ?」
「そんなの決まってます! 父様達が、壊れてしまうからです! 堕ちてしまうからです!」
「壊れる? 堕ちる?」
「まぁ、とりあえずコレ見てください、よっ!」
そう言ってカナタは剣を地面に突き立てる。一部が銃身になってるとは言え、巨大で幅広な刀身はまるで鏡の様にカムの顔を映し出す。
「今の貴方の顔……誰かに似ていると思いませんか? 例えば、この間俺達が戦った帝国兵とか」
「……っ!?」
カナタの言葉にカムは驚愕の表情を浮べ、小太刀を地面に落とし自分の頬に手を当てた。
「思い出して下さい。ハジメさんは敵に容赦しませんし、問答無用だし、無慈悲ではありますが、魔物でも人でも殺しを“楽しんだ”ことはなかったはずです。訓練でも、敵は殺せと言われても楽しめとは言われなかったはずですよ?」
「シ、シア……私は……」
それと同時に辺りを覆っていた殺意が霧散していく。
「まぁ、今まで弱者と扱われたり、負け続けたりしてた分、初めての大勝にテンションマックスになる気持ちは判りますがね……。さて、教え子の不手際は教官の不手際。何か言う事あるんじゃないか? なぁ、ハジメ先生」
と、そこでカナタがジト目でハジメに話を振ると、ハジメは気まずそうにしていたが、やがて観念してカムに目を向けて軽くだが頭を下げた。
「あ~、まぁ、何だ、悪かったな。自分が平気だったもんで、すっかり殺人の衝撃ってのを失念してた。俺のミスだ。うん、ホントすまん」
「ボ、ボス!? 正気ですか!? 頭打ったんじゃ!?」
「メディーック! メディーーク! 重傷者一名!」
「ボス! しっかりして下さい!」
ホントに素直に珍しく素直に(大事な事なので以下略)謝罪したハジメに驚愕し、更に彼の正気を疑う反応をする辺り、この10日でハウリア族がハジメに抱いた印象というのもがよく判る。が、今回の件は完全にこちらに非がありキレる事が出来ないハジメは怒りを堪えつつ彼らを素通り、レギンの目の前に立つと彼を見下ろし、銃を突きつける。
「さて、潔く死ぬのと、生き恥晒しても生き残るのとどっちがいい?」
「……どういう意味だ。我らを生かして帰すというのか?」
「ああ、望むなら帰っていいぞ? 但し、条件があるがな」
「条件?」
殺すつもりで来た相手は容赦無し。それが信条のハジメが彼を見逃すと言ってるのだ。コレにはシアも含めたハウリア族一同困惑だ。尤も香織とユエ、カナタはハジメがそんな優しいたまじゃない事を知っている。
「ああ、条件だ。フェアベルゲンに帰ったら長老衆にこう言え。〝貸一つ〟ってな」
「……ッ!? それはっ!」
「で? どうする? 引き受けるか?」
長老会議の決定はハウリア族に手を出す事は自己責任とした、普通であればこれを貸しにする事は出来ない。しかし、今回レギンが襲ってきたのは樹海の案内が終わる前、つまりカナタ達とハウリア族が交わした契約がまだ生きてる最中だった。つまり、レギンの行いはフェアベルゲン一同、カナタ達と敵対しますと言う意思表示と取られてもおかしくないのだ。それをあえて見逃すという事はまさしく貸し一つである。
「五秒で決めろ。オーバーする毎に一人ずつ殺していく。判断は迅速に、基本だぞ?」
「わ、わかった。我らは帰還を望む!」
「そうかい。じゃあ、さっさと帰れ。伝言はしっかりな。もし、取立てに行ったとき惚けでもしたら……」
ドンナーをホルスターに戻し、レギンの肩に手を置くハジメ。そして、射殺す様な眼つきに残忍な笑みを浮かべながら最後の言葉を告げた。
「その日がフェアベルゲンの最後だと思え」
その表情に完全に怯えきるレギンの様子に「ん、やっぱりハジメはいつも通り……」「うん。これでこそハジメ君だよね」と恋人二人は笑顔で互いに頷いていたのだった……。
※
「ボス! 大樹が見えてきました」
熊人族の襲撃以外は特に何事も無く、カナタ達は遂に目的の大樹へたどり着く。
「……なんだこりゃ」
「これが、大樹?」
4人は目の前の大樹と思しきそれを見上げる。そう、目の前の大樹は既に枯れており、葉の一枚も付いていない。
「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちることはない。枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが……」
「けど、ここが大迷宮の入り口で間違い無さそうだぞ」
そう言って、根元に視線を移したカナタはある物を指差す。そこにはアルフレリックの言葉通り、石碑が建っていた。
「これは……オルクスの扉の……」
「……ん、同じ文様」
そしてその石碑に刻まれているのはオスカーの指輪と同じ紋章。そして、石碑を調べると裏に何かを嵌めこむ窪み。そこにオスカーの指輪をはめ込むと、石碑全体が淡く輝き、程なくして光は幾つかに分かれる形で収束し文字を形作った。
〝四つの証〟
〝再生の力〟
〝紡がれた絆の道標〟
〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟
「……どういう意味だ?」
「……四つの証は……たぶん、他の迷宮の証?」
「じゃあ、再生の力と紡がれた絆の道標って言うのは?」
「う~ん、紡がれた絆の道標は、あれじゃないですか? 亜人の案内人を得られるかどうか。亜人は基本的に樹海から出ませんし、カナタさん達みたいに、亜人に樹海を案内して貰える事なんて例外中の例外ですし」
「再生の力、ユエの事か……いや、違うか」
ユエはオルクス大迷宮に封印され、そして再生の力を持っている。が、そもそもオルクス大迷宮は締めくくりの迷宮。その前段階の迷宮に入る為の鍵をそこに封印するのは順番的におかしい。念のためにと自分の指の先を薄く切って再生能力を発動させつつ石版に触れるも変化は無い。
「……ん~、枯れ木に……再生の力……最低四つの証……もしかして、四つの証、つまり七大迷宮の半分を攻略した上で、再生に関する神代魔法を手に入れて来いってことじゃないか?」
「この枯れた大樹をその魔法で再生、尚且つ他の迷宮4つの証を手に入れることで初めて入り口が開くって事かな?」
「オスカーの指輪でも反応した辺り、万一の例外は想定してたみたいだが、つまりオルクスとハルツィナ以外の大迷宮のうち4つを攻略、その後ここを攻略して〆にオルクス。これが解放者の七代迷宮のシステムって所か」
「はぁ~、ちくしょう。今すぐ攻略は無理ってことか……面倒くさいが他の迷宮から当たるしかないな……」
ハジメはすぐに気持ちを切り替えると周囲を警戒していたハウリア族に集合を掛ける。
「いま聞いた通り、俺達は、先に他の大迷宮の攻略を目指すことする。大樹の下へ案内するまで守るという約束もこれで完了した。お前達なら、もうフェアベルゲンの庇護がなくても、この樹海で十分に生きていけるだろう。そういうわけで、ここでお別れだ」
「ボス、我々もボスのお供に付いていかせて下さい!」
「えっ! 父様達もハジメさんに付いて行くんですか!?」
修行開始前は自分達に付いて来る様子も無く、許可が下りれば送り出す気マンマンだったカムの突然の言葉にシアは驚愕した。
「我々はもはやハウリアであってハウリアでなし! ボスの部下であります! 是非、お供に! これは一族の総意であります!」
「ちょっと、父様! 私、そんなの聞いてませんよ! ていうか、これで許可されちゃったら私の苦労は何だったのかと……」
「ぶっちゃけ、シアが羨ましいであります!」
「ぶっちゃけちゃった! ぶっちゃけちゃいましたよ! ホント、この十日間の間に何があったんですかっ!」
まぁ、ハウリア達にとってはこの樹海は言ってしまえばぬるい場所。つまりはこのハウリア族一同「俺より強い奴に会いに行く」精神と言う事だ。
「却下」
が、ハジメはそれを速攻で却下する。
「なぜです!?」
「足でまといだからに決まってんだろ、バカヤロー」
「しかしっ!」
「調子に乗るな。俺の旅についてこようなんて百八十日くらい早いわ!」
「嫌に具体的だな、しかも半年あれば足手纏いにじゃなくなるって事かよ……」
ホント、性格が才能をダメにしていた兎達である。
「お前等はここで鍛錬してろ。次に樹海に来た時に、使えるようだったら部下として考えなくもない」
「……そのお言葉に偽りはありませんか?」
「ないない」
「嘘だったら、人間族の町の中心でボスの名前を連呼しつつ、新興宗教の教祖のごとく祭り上げますからな?」
「お、お前等、タチ悪いな……」
「そりゃ、ボスの部下を自負してますから」
それでも、ハジメに対して揺さぶりを掛ける辺り何とも強かだ。言葉の通り正にハジメの弟子にして部下そのモノである。
「それと、カナタ殿」
「はい?」
「娘を……シアの事、どうぞよろしくお願いします」
カムはカナタに向き直ると姿勢を正し頭を下げた。シアが同行する事は既に話してある。そして、その旅がとても危険だと言う事も(それを承知で彼らは楽しそうだからと同行をと申し出た訳だが……)。となれば、娘を心配するこの反応は当たり前の事。たとえ戦闘狂になろうとも一人の父親である事は確かなのだろう。
「約束します。娘さんを酷い目に合わせる事だけは絶対にしません。……俺の、誇りに誓って」
「カナタさん……」
だからこそカナタも、最近は口にする事に何の疑問も抵抗も無くなった『誇り』と言う言葉を以って、カムの言葉に応え手を差し出すとカムもそれに応じ、二人はしっかりと握手を交わしたのだった。
「次に合う時は是非ともお義父さんと呼んでくれるのを期待していますよ」
「あはは……それについてはノーコメントと言う事で……」
こうして、樹海でやるべき事はひと段落つき、カナタ達は新たにシアを仲間に加えてハウリア族に見送れらながら樹海を後にし、本格的な旅支度の為に一路ブルックの町を目指して魔導2輪を走らせるのだった。