ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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今回のタイトルはちょっとしたお遊びです。特に深い意味は無いのであしからず。


第9話『――が暮す町ブルック』

 魔導2輪で平原を走っていたハジメ達。やがて彼らの視界に、堀と策で囲まれた町が見えてきた。街道に面した部分には門が立てられ、その傍には門番の詰め所と思しき小屋も建っている。

 

「さて、これから久々に町に入るわけだが、その前に幾つか注意だな」

 

 町の門からある程度離れた所で、彼らは魔導2輪から降りる。流石に、魔導2輪に乗った状態で町の傍まで行けば確実に騒がれるからだ。その他にも幾つか事前に打ち合わせておくべき事項がある。

 

「まず、俺とハジメ、香織はステータスプレートの隠蔽だな」

 

「俺と香織はそれで良いかもしれないが、カナタのはどうするんだ?」

 

 ハジメの言ってる事は天職の事だ。プレートはステータスの数値、習得技能は隠せても、名前や年齢、天職といった基本情報は隠すことは出来ない。それまで隠蔽可能となれば身分証明書としての効力が失われるからだ。

 

「詳細不明。自分自身もこの技能がどういう効果を持ってるのか、そもそもどうやって使うのかすら判らないって事にしておくよ。なんせ、ありふれなさ過ぎる天職だしな」

 

「後は武器だね、一旦全部宝物庫に仕舞った方が良いかな?」

 

「だな、まぁ街にいるガラの悪い連中程度なら素手でも何とかなるだろう」

 

 隠蔽しても実際のステータスは変わるわけではない。むしろ無手でもやり過ぎないように考える必要性があるかもしれない。特にハジメの義手はニードルガンにワイヤー、そして肘にショットガンと義手その物が一つの兵器なのだから。

 

「俺達の方は大体こんなもんか。後は――」

 

 残るはユエとシアの二人だ。二人はステータスプレートが無い以上、どうしても身元を訊ねられるのは確実だろう。

 

「ユエの方はステータスプレートを紛失したって事で良いだろ。金取るとは言え再発行も出来るって事はそう言う事があるって事だろうし。で、シアに関しては……」

 

 ちょっと言いよどんだ様子のカナタにシアが軽く首をかしげる。

 

「シアはプレート云々以前に懸念すべきことがあってだな、それに関して今後はこれを付けて行動してもらいたいんだが」

 

 そう言って、カナタが取り出したのは一つの首輪。それ見てシアは「えっ!?」ってなった。

 

「あの~、カナタさんそれってもしかしなくても奴隷の首輪……ですか?」

 

「カナタ君……やっぱり、シアちゃんを……」

 

「あんだけ散々対等に扱っておいて結局それかよ。ヒデーな、カナタ」

 

「ん……持ち上げて落す、かなり鬼畜」

 

「こらそこ、変な勘違いしない。特にハジメにはこれ作ってもらう時に予め事情は説明しただろ。変な悪ノリすんなっつーの」

 

 シアが恐る恐る訊ねると、女の子2人はカナタに非難の目を向け、ハジメはニヤニヤしながらそれに便乗する。その3人にツッコミを入れてからカナタは溜息。

 

「えっとな。確かに見た目は奴隷の首輪その物だけど、あくまで見た目だけだ。普通の奴隷の首輪みたいに付けた相手の行動を制限する様な効果は一切無い」

 

「そ、そうなんですか。でもだとしたらどうして?」

 

「結論から言えばトラブル避けだな」

 

「トラブル?」

 

「ああ、シアはハウリア族の中でも珍しい白髪。正直それだけでも、その手の愛好家にとってシアは他のハウリア族よりも価値があがる。何時かの帝国軍の隊長も個人的にシアに狙いを定めていたみたいだしな」

 

 人は自然とレア、希少と言う言葉に惹かれる。つまり従来の濃紺の髪と違い、青みかかった白髪と言うだけでシアは他のハウリア族とは一線を画してる存在だ。

 

「加えてスタイルや見た目だって、その……決して悪くは無いし、性格に関してだって結局、好みは人それぞれだから……って、どうした、シア?」

 

「も、もう、カナタさん。ハジメさん達が見てる前でいきなり何言い出すんですかぁ。そんな、容姿もスタイルも性格も抜群で、世界一可愛くて魅力的だなんてぇ……」

 

「…………加えて、未来視と言った固有の技能も持っている。これら総評するとだな」

 

 照れたように顔赤くしながらも、自分の頬に手を添えてうれしそうに身体をクネらせるシアを無視してカナタが話を続けると「スルー!? スルーですかぁ!?」とたちまちガーンと言う擬音が聞えそうな表情になった。

 

「シアは希少価値の塊、だからこそ奴隷としての価値も極めて高いんだ」

 

 更に言ってしまえば戦闘力もあるので護衛目的の戦闘奴隷としての需要もあるだろう。

 

「そんなシアが完全フリーな状態で人里の中を歩き回った日には人攫いや奴隷商に狙われまくるのは必然。帝国兵が俺らを奴隷商と勘違いしたって事は亜人を直接捕獲する仕入れ方法も認められてるって事だろうしな。まぁ、今のシアがそんなやつらに遅れをとる事はまず無いだろうが、それでも余計なトラブルを招くリスクは予め潰しておくに限る」

 

 そう言って、カナタな手に持った首輪を軽く振りながら言葉を続けた。

 

「そこでこの首輪だ。コレを付けて貰って、シアは既に誰かの奴隷なんだって周りに誤認させる。そうすれば、比較的お行儀の良い連中は素直に諦めるだろうし、商人辺りはシアのご主人。まぁ、言いだしっぺって事でその役は俺がやるが、俺のほうに交渉話を持ってきて、いきなりシアに手を出す事はしないだろう」

 

 それでもなお襲ってきた奴が居れば、その時は遠慮なく返り討ちにしてやれば良い。

 

「加えて、その首輪に魔力を流せば首輪に埋め込んだ念話石で俺らと連絡できるし、生成魔法で《特定感知》が付与された鉱石も組み込んでもらってるから、万一何かあった時は助けに行く事も出来る。まぁ、思うところはあるかもしれんが、自分の身を守る為と思って納得してくれないか?」

 

「言ってる事は判りますけど……」

 

 カナタが自分の事を思ってこの提案をしているのは判るし、彼の言葉に間違いは無い。とは言え、今まで他のハウリア族とは違う生まれをしていると言う点からシアは同族や仲間と言うものに人一倍強い憧れを持っている。そしてやっとホントの意味での仲間と出会い、彼らと一緒に旅に出たと言うに、周囲から奴隷と見なされるのはシアにとってはやはり不満ではあった。

 

「……有象無象の評価なんてどうでもいい」

 

「ユエさん?」

 

 そんな時だ、ユエがシアの傍に歩み寄り声を掛けた。

 

「……大切な事は、大切な人が知っていてくれれば十分。……違う?」

 

「………………そう、そうですね。そうですよね」

 

「……ん、不本意だけど……シアは私が認めた相手……小さい事気にしちゃダメ」

 

「……ユエさん……えへへ。ありがとうございますぅ」

 

 それは大衆の為に生き、けれどその果てに裏切られ孤独になったユエだからこそ、その言葉に重みがあった。万人に認められるような奴なんて早々居ない、ならばいらぬトラブルを招き寄せてまで無理して万人に理解してもらう必要など無いのだ。

 

「……納得してもらえたようで何より。まぁ、仮に奴隷じゃない事がバレたからって、見捨てたりはしないさ」

 

「街中の人が敵になってもですか?」

 

「国中でも、だな。それはフェアベルゲンの時と変わらない」

 

 その時は契約相手、そして今は仲間。立場は違うが……いや、仲間であるからこそ、カナタの中ではシアも既に群れの一員。ならば彼女を害すると言うのなら、それは誰であっても抗い、戦い、そして討つべき敵となる。

 

「くふふ、聞きました? ユエさん。カナタさんったらこんなこと言ってますよ? よっぽど私が大事なんですねぇ~」

 

「……言っとくがシアだけじゃないぞ。それがハジメや香織、ユエであっても同じだからな」

 

 「それ着けたらさっさと行くぞ」と恥ずかしさを誤魔化す様にハジメ達に背を向けて歩き始め、そんな彼の背に他の三人はそれぞれからかう様な視線や生暖かな視線を向けたりしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 

「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」

 

「食料の補給がメインだ。旅の途中でな」

 

これらは職務内容上定められた確認事項なのだろう。事務的かつやる気なさげに門番が問い掛けてくると、3人はプレートを提出。その際、香織に少し見とれていたが香織が「どうしました?」と訊ねると門番はハッと我に返り、プレートの記述を確認し始める。カナタのプレートを見た際に「竜魂士?」と言う疑問が出たが、カナタが予め用意していた答えを返すと、門番はカナタに哀れむ様な視線を向けた。まぁ、詳細不明でその所為で技能もろくに使えないという事は、天職がないのと同義。端から見れば可哀想な存在に見えるのは当然だろう。

 

「ま、まぁ……あれだ。もしかしたら竜魂士は物凄い力を持った天職かも知れないし、天職が無くても生きていく事は出来る。余り気を落とさないようにな……そっちの二人は?」

 

  門番がユエとシアにもステータスプレートの提出を求めようとして、二人に視線を向ける。そして硬直した。みるみると顔を真っ赤に染め上げると、ボーと焦点の合わない目でユエとシアを交互に見ている。その様子を見たハジメがわざとらしく咳払いをすると、門番は先ほどと同じリアクションで我に返り、ハジメ達の方に視線を向ける。

 

「道中で魔物の襲撃を受けてな、こっちの子のはその時に失くしちまったんだ」

 

「で、兎人族の子に関しては……皆まで言わんでも、わかりますよね?」

 

 そう言うと、カナタは人差し指で自分の首をトントンと叩く。門番がもう一度シアに視線を向けると「なるほどな」と頷いた。

 

「それにしても随分な綺麗どころを手に入れたな。白髪の兎人族なんて相当レアなんじゃないか? あんたって意外に金持ち?」

 

「まさか。ただ滅多にお目にかかれなかったののでちょっと無理しただけですよ」

 

 懐が暖かいと思われるのもトラブルの元、門番の問いにそう答えると門番は苦笑いを浮かべながらプレートを返す。

 

「まぁ、身を滅ぼさない程度にな……通っていいぞ」

 

「ああ、どうも。おっと、そうだ。素材の換金場所って何処にある?」

 

「あん? それなら、中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。店に直接持ち込むなら、ギルドで場所を聞け。簡単な町の地図をくれるから」

 

「おぉ、そいつは親切だな。ありがとよ」

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 冒険者ギルド、それはファンタジー世界なら、この手の施設が出てこない事は無いというぐらい定番の施設。それはこのトータスでも例外ではない。とは言え、ハジメ達がギルドに入り感じたのは、想像してたよりも清潔かつ綺麗な場所だと言う事だ。小説による偏見ではあるがハジメ達の中では酒場を併用したようなイメージがあり、煩雑で少しアウトローな雰囲気がありながらも、物凄く賑やかな場所と思っていたが、飲食店スペースで食事をしてる冒険者の中に酒を飲んでる人は一人も居ない。酒場ほどでは無いが、冒険者同士が談笑している様子も見られ、カナタ達的にはこっちの雰囲気の方が好みだった。そしてだからこそ、女の子三人に見とれる人こそ居ても(その結果、恋人と思しき女冒険者のビンタ喰らってる人が居ても)、この手の小説のテンプレよろしくちょっかいを掛けてくる人は居ない。この世界は小説とは違うのだから当たり前だ。そして――

 

「キレイな花を3つも連れているのに、まだ足りなかったのかい? 残念だったね、美人の受付じゃなくて」

 

 この手のギルドの受付は魅力的な女性である、と言うテンプレも外れて恰幅の良いオバちゃんが出迎えた事もまた仕方の無い事、そしてそれに対して男二人がほんの僅かに内心落胆するのはラノベやファンタジー系漫画を嗜む男の悲しき性と言うものだ。例え、背後からシアとユエの冷たい視線を受けて、ハジメの隣に立つ香織が物凄い良い笑顔で男二人の方を見ていても、だ。

 

「いや、そんなこと考えてないから」

 

「あはははは、女の勘を舐めちゃいけないよ? 男の単純な中身なんて簡単にわかっちまうんだからね。あんまり余所見ばっかして愛想尽かされないようにね?」

 

「……肝に銘じておこう」

 

 因みにその様子を他の冒険者達は「あ~あいつもオバチャンに説教されたか~」生暖かく見守っている。実際、このギルドにはカナタ達が思うようなちょっとアウトローな連中も居る。けれど、このおばちゃんの手腕と肝っ玉の太さには誰も敵わないのだ。

 

「さて、じゃあ改めて、冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら?」

 

「ああ、素材の買取をお願いしたい」

 

「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」

 

「ステータスプレートをですか?」

 

 怪しい筋からの品を買い取らない為の措置なのだろうか?そんな疑問を持ちならがカナタが問い返すとおばちゃんも「おや?」と言う表情になった。

 

「あんたら冒険者じゃなかったのかい? 確かに、買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ」

 

 その他にもギルドと提携を結んでる店屋や宿言った施設には割引が掛るし、移動用の馬車を利用する際はランクによっては無料で利用できたりと特典が多いとの事だ。まぁ、それに関しては魔導二輪や現在開発中の魔導4輪、即ち車がある為、お世話になる事は無いだろうが。

 

「う~ん、そうか。ならせっかくだし登録しておくかな。悪いんだが、持ち合わせが全くないんだ。買取金額から差っ引くってことにしてくれないか? もちろん、最初の買取額はそのままでいい」

 

「可愛い子三人もいるのに文無しなんて何やってんだい。ちゃんと上乗せしといてあげるから、不自由させんじゃないよ?」

 

 見た目どおり、なんともオカン気質に溢れるおばちゃんである。そんなおばちゃんの雰囲気にハジメも借りではなく、素直に厚意と受け取り3人はプレートを提出。少ししてから3人のプレートが返されると、天職欄の横に新たな冒険者の文字が追加され、その文字の横には青い丸のマークがついている。このマークは冒険者としてのランクを示しており一番最低の青から始まり、最高ランクで金となる。因みにこの色の並びはトータスのお金(通貨名はルタ)の色と同じで青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の順番に価値が上がっていく。因みに各色の貨幣価値は青から順に一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万ルタと基本的な考えは日本円と同じだ。何が言いたいのかというと、冒険者業界の中ではカナタとハジメは1ルタの価値しかない男であり、香織もまた同じ、と言う事である。

 

(この制度作った奴は一体どんな考えでこんな仕組みにしたのやら……)

 

「男なら頑張って黒(非戦闘系天職が到達出来る上限ランク)を目指しなよ? お嬢さん達にカッコ悪いところ見せないようにね」

 

「ああ、そうするよ。それで、買取はここでいいのか?」

 

「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」

 

 受付の仕事だけでなく、素材の査定も行える。ホントにハイスペックなおばちゃんだ。正にこのギルドの最強オカンと言う所だろう。ハジメが予め宝物庫からバッグに移しておいた素材を専用のトレーに乗せてカウンターに提出すると、おばちゃんはその一つを手にとり眺める。やがて「こ、これは!?」と驚愕の表情を浮かべながらも慎重に検めていく。

 

「とんでもないものを持ってきたね。これは…………樹海の魔物だね?」

 

「ああ、そうだ」

 

 因みにこの時、おばちゃんの鑑定技量では測定できずギルド長が登場して、例外的な高ランク昇格、他の若い女の子の職員から熱の篭った視線を、と言うテンプレを期待したが、そんな事は無かった。結果二人は背後に物騒な、例えるなら『龍に乗った般若が威圧している』そんな気配を感じ、身体を震わせていた。

 

「……あんたらも懲りないねぇ」

 

「何のことかわからない」

 

「あ、あははは……」

 

 ハジメのオタクな趣味は例え変心しても変わりはしないと言う事だろう……

 

「樹海の素材は良質なものが多いからね、売ってもらえるのは助かるよ」

 

「やっぱり珍しいか?」

 

「そりゃあねぇ。樹海の中じゃあ、人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないからハイリスク。好き好んで入る人はいないねぇ。亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入るけど、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね」

 

(亜人の奴隷持ちが樹海に……ねぇ)

 

 因みに後日、中央……つまり冒険者ギルド本部に樹海の魔物を狩ろうとハルツィナ樹海に乗り込んだ冒険者が酷く怯えた様子で逃げ帰ってきた。その尋常で無い様子に周りの人が事情を訊ねるも、その冒険者は「ウ、ウサギ……ウサギが襲ってくる……」と呟くだけで要領を得ない。そして他の冒険者が連れていた兎人族の姿を目にするや「アイエエエエ! ウサギ!? ウサギナンデ!?」と錯乱状態になったのは彼らとは何の関係も無い話である。

 

「これでいいかい? 中央ならもう少し高くなるだろうけどね。」

 

 やがて査定も終わり、提示された金額は48万7千ルタ。約50万近くの大金だ。

 

「いや、この額で構わない」

 

 しかも本来はこれにギルドの登録料が上乗せされているのだから、正確には49万ルタと言う事だろう。

 

「ところで門番の人に、ここでこの町の簡易な地図を貰えると聞いたんですけど……」

 

「ああ、ちょっと待っといで……ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」

 

 そう言って渡された地図を5人で覗く。

 

「簡易な……」

 

「……地図?」

 

 ハジメと香織が疑問の声をあげた様に、その地図は町の構造が事細かに記され、お店も主だった店については説明まで載っている。これを簡易な地図と呼ぼうものなら、世間一般の簡易な地図は子供のラクガキレベルになるだろう。

 

「おいおい、いいのか? こんな立派な地図を無料で。十分金が取れるレベルだと思うんだが……」

 

「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」

 

(マジでハイスペックすぎるだろ。このおばちゃん)

 

 正にこのギルド最強のオカンと呼ぶに相応しい。これこそまさに年季の違う大ベテラン、若い時期を越えてもなお、人に慕われる良い女の一つの形と言う奴だ。

 

「そうか。まぁ、助かるよ」

 

「いいってことさ。それより、金はあるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、その三人ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」

 

 と、最後の気配りまで忘れないおばちゃんにハジメも「そうするよ」と素直に頷き、香織とカナタも軽く会釈してからギルドを後にした。

 

「ふむ、いろんな意味で面白そうな連中だね……」

 

 そんなおばちゃんの呟きは、カナタ達が去った後に、あの3人のうち誰が好みかと言う話題で盛り上がる冒険者達の話し声の中に消えていったのだった。

 


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