ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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他の二次創作もここのお話が一つの節目となってるのが多いですよね。そしてその例にもれず、この作品でもそうなりました。(大体はオリヒロのパターンが殆どですが)


第15話『心の壁、打ち壊す為に』

 トイレに流されるが如く、水流に流されている一行。辺り一面水な事もあり息継ぎを出来る場所がない為、壁に身体をぶつけたり等、何かの拍子に息を吐こうモノなら窒息待ったなしだ。何とか、体勢を整えながら流されているカナタ達を水中生物である魚はスイ~と追い抜いていく。

 

(っ!??!?)

 

 そんな中、シアの視界にある魚?が映った。いや、魚と呼んで良いのだろうか?何せ人型だ、手足にヒレがついてるし、背中から頭にかけて背びれも生えている。革のツナギにサンダル、肩掛け式の大きめなバッグ。地球組が見ればサハギン?と思えるようなオレンジ色をしたそいつは大きめなソロバン片手に優雅に泳いでいる。その異常な姿にシアは思わず息を吐きそうになり咄嗟に口を塞ぐが、それでも目の前の得体の知れない生物から目が話せないで居た。そんな中、そいつはシアの視線に気付き、彼女の方を振り返る。激流に流され(相手は泳ぎながら)互いに見つめあう二人、やがて――

 

「儲かってまっか?」

 

 と、サハギンもどきがそんな挨拶を残し、途中で枝分かれしていたところで別の方向へと泳いでいき、後には口をあんぐりと開けて白目を向いたシアが取り残された。

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 

 

「どぅわぁあああーー!!」

 

「んっーーーー!!」

 

「きゃぁあああーー!」

 

「うぉおおおおー!?」

 

「……」

 

 やがて、吹き上がる水の勢いのままに彼らは打上げられ、それぞれに悲鳴を挙げながら草の地面に落ちる。どうやら、どうやら街道付近の湖の様だ。

 

「ゲホッ、ガホッ、~~っ、ひでぇ目にあった。あいつ何時か絶対に破壊してやる。お前等、無事か?」

 

「ケホッケホッ……ん、大丈夫」

 

「コホッコホッ、うん、私も大丈夫」

 

「こっちも問題無い……おいシア、大丈夫か? ……シア?」

 

 辺りを見渡すとシアの姿が見えない。やがて湖の方に目を向けるとそこにはドリュッケンの重みで沈んでいくシアの姿が映った。もがいて無い辺り意識を失っている様だ

 

「シアっ!!」

 

 カナタが宝物庫から大剣を背負ってそれを重り代わりに一気に潜行、彼女を引き上げて仰向けに寝かす。顔色が青くなっており、呼吸も止まっている。カナタが咄嗟に彼女の心臓の所に耳を当てる。場所が場所だが緊急事態と言う事もあり、感触だとかそんなのを気にする余裕は無かった。

 

(心臓も止まってる、両方かっ!!)

 

 やがてカナタは学校で習った手順を思い出しながら、心臓マッサージと人工呼吸を始める。その様子に3人が「「「あ……」」」と呟くが彼の耳には届いていなかった。幸い、心肺停止してから然程時間は経っていなかったらしく、程なく彼女は咳き込みながら水を吐き出す、後は吐き出した水が気管に入らない様に、顔を横に向ける。

 

「とりあえずはこれで大丈夫か……香織、心臓マッサージで肋骨と胸骨が何箇所か折れてると思うから治癒魔法を頼む」

 

「う、うん……」

 

 と、顔を赤くしながら香織が治癒魔法を彼女に掛ける。

 

「ケホッ、ケホッ。カナタ……さん」

 

「気が付いたか。全く、気が付いたら窒息して心肺停止してるし、一体水中で何が……ムグッ!?」

 

 うっすらと目を開け、こちらに話しかけてくるシアに安心した様子で「ハァ」とカナタは息を吐く。そして何があったか訊ねようとしたがそれは突然シアがこちらの唇を塞ぐ事で止められた。

 

「んっ!? んー!!」

 

「あむっ、んちゅ」

 

 ご丁寧に身体強化込みで彼に抱きついて頭を抱えて唇を重ねている。その様子をハジメとユエは「「おー……」」と唖然とした様子で見ており、香織も「うわぁ……シアちゃん大胆」と声を漏らしている。

 

「わっわっ、何!? 何ですか、この状況!? す、すごい……濡れ濡れで、あんなに絡みついて……は、激しい……お外なのに! ア、アブノーマルだわっ!」

 

 そして、更に不幸な事にそんなシアのディープキスを目撃している外野が居た。ハジメ達3人が声をした方に目を向けてハジメは内心ギョッとした。そこにはマサカの宿の看板娘ソーナと3人の冒険者風の男、そして――

 

「あら? あなたたち確か……」

 

 筋骨隆々な巨体に三つ編み、そしてブーメランパンツ一丁で身体をクネらすブルックの町が誇るいろんな意味で最強の漢女、服屋の店長クリスタベルだった。やがて、カナタはシアを引き剥がすと彼女の額にちょっと強めにチョップをかますと「ぎゃうん!?」と言う悲鳴と共にシアが額を押さえる。

 

「ったく……救命措置からいきなりキスとか、なに考えてんだ」

 

「うぅ~、酷いですよ~カナタさんの方からしてきたんじゃないですか~」

 

「呼吸も心臓も止まってんだから仕方ないだろ……つか、それが分かってるって事は意識あったのか?」

 

「う~ん、なかったと思うんですけど……何となく分かりました。カナタさんにキスされているって、うへへ」

 

「へんな笑い方すんな、あくまで救命措置の一環だからな……。それより、胸とか痛く無いか? 人工呼吸に加えて心臓マッサージもしてるからその時に胸の骨何本か折ってる筈だ。一応、香織に治癒魔法は掛けてもらったが」

 

「あ、はい……特になんともありませんよ」

 

「そっか……ならいい」

 

「あのぉ、カナタ君……」

 

「ん? どうかした……か……」

 

 おずおずと香織に声を掛けられ、そちらに目を向けたところでカナタも漸くソーナ達の存在に気付いた。しばし無言のまま見つめあうカナタとソーナ、やがて先に動いたのはソーナの方だ。

 

「お、お邪魔しましたぁ! ど、どうぞ、私達のことは気にせずごゆっくり続きを!」

 

 と言い残し、とんでもない誤解をしたままその場から立ち去ろうとしたソーナをクリスタベルが猫みたいにつまみ上げこちらに歩いてきた。ソーナは隣町の親戚に見舞いの品を届けに、クリスタベルさんは服の素材集めの為に町を出ており、冒険者3人は任務を終えてブルックの町に帰るついでに二人の護衛を買って出たらしい(ホントに護衛が必要なのかは疑問ではあるが……)。そして、休憩地点として知られるこの泉に立ち寄った時に丁度、カナタ達が出てきたと言う事だ。

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

「はぁ……えらい目にあった……」

 

 あれから、カナタ達はソーナ達の乗ってる馬車に乗せてもらいブルックの町に帰還(その間、カナタとハジメは、護衛についてた冒険者からの嫉妬の視線に晒されていたが)。再びマサカの宿に部屋を取り、入浴と食事を終えてカナタはベッド縁に座るとそのまま後ろに倒れこんだ。トータスでは治癒魔法がある為か、ああ言った救命措置は知れ渡ってないらしく、その為明らかに何か勘違いをしているソーナ達に事細かに事情を説明し、何とか誤解を解こうと試みたが――

 

『あらん? それなら態々、お兄さんがしなくても、そっちのお嬢さん(香織)がすればよかったんじゃないの~ん?」

 

 と、言われてカナタは何も言えなくなった。冷静になってみればその通りだ。それこそ人工呼吸は香織にお願いすれば良かっただけの話なのにあの時のカナタはそれが思い浮かばなかった。それぐらい、心肺停止状態のシアを見て、気が動転していたという事だ。

 

(いや……違うか)

 

 シアが死んでしまうと思い、居ても立っても居られなかったと言う事だろう。

 

「カナタさん」

 

「ん?」

 

 気が付けば自分の隣にシアが座っていた。風呂上りだからか髪を上げて、フリルの付いたキャミソールを着ている。その表情はこちらを心配そうな視線をこちらに向けていた。

 

「……大丈夫ですか?」

 

「……何の事だ?」

 

「ミレディさんが言ってた事ですよ、いずれ竜になってしまうんですよ」

 

 最初は周りと同じでも、そこから時間をかけて外れていく、そして自分が少しずつ違う何かになっていく。それは元から周りとは違う存在として生まれたことで、ある種の諦めと開き直りが出来たシア以上に辛い事と言える。

 

「ああ、その件か。それに関しちゃ大丈夫だ。あの時言った通り、むしろ核を継がなかったらそもそも俺は死んでたんだ。人としての俺は確かに死んだも同然だがそれでも竜峰カナタとしての俺はこうして生きてるわけだしな」

 

「違いますよ」

 

 カナタの言葉に彼女は首を横に振る。カナタの言葉は本心だ、もし仮にカナタの意志を確認できていたとしても生き残る為に彼は核を継ぐ事を選んだだろう。けれど、シアが言いたかったのはそこではない。

 

「カナタさん達の住んでる世界は魔法も無い、私達の様な亜人も居ない……そして勿論、竜も存在してない……」

 

「……」

 

 この世界では当たり前の存在も、地球では幻想の存在。そして、そんな存在が実際に現れた日には良くて捕獲されて研究材料にされるか、もしくは危険な存在として軍や自衛隊が出てきて処分されるかのどっちかだろう。

 

「地球に……元の世界に帰れないも同然なんですよ!? なのに――」

 

「シア」

 

 カナタがシアの言葉を遮り身体を起こす。

 

「あいつ等の前でその事は口にするなよ? まぁ、ハジメ辺りは薄々感づいてる可能性はあるだろうけどな……」

 

 ハジメ達の目的は地球への帰還、それは変わる事は無い。けれど、その中でカナタだけが帰れない、厳密には帰れなくは無いが、まずまともに生きていくことは出来ないだろう。それこそトータス人であるユエやシア以上にだ。

 

「態々それを口にしてあいつ等の決意や信念を揺さぶる必要は無いからな」

 

「カナタさん……」

 

「まぁ、まだ完全に帰れないって決まった訳でもないし、結論が出るのはまだ先の話だ。だからシアもそんなに気にする必要は――」

 

 カナタが口に出来たのはそこまでだった。シアに抱きつかれ、彼は言葉を止めた。

 

「私が貴方を好きになった理由。その一つは竜に変身した貴方の背に乗った時の事が含まれているのは覚えていますよね?」

 

 むしろあれが彼を意識するきっかけになった。そして自分を対等に見てくれている事を知って、それまでのフラグが全て成立して一気に好きになった。

 

「ですから、カナタさんが何時か完全に竜になったとしても私の気持ちは変わりません。何があっても、カナタさんの事が好きだと言う気持ちは変わらないんです。カナタさんがカナタさんである限り」

 

 だから私は貴方の傍に居ます。遠回りにそう伝えてくるシアにカナタは何かを言おうと口を開き、そして閉じた。

 

「いいのか?」

 

「なにがです?」

 

 そして、彼は彼女に問い掛けた。姿かたちの問題ではない。それ以上に問題とすべきことが他にある。

 

「ミレディも言ってただろ。竜は“特別な絆”を一人に定めない」

 

 竜にとって友愛を抱いた相手は皆友人であり、家族の情を抱いたものは皆家族であり――

 

「恋慕の情を抱いた者は皆愛する者と見る。それが竜と言う種の考え方だ」

 

「……」

 

「今はまだ、人としての部分があるからこの考えに違和感を感じているが、やがてはそれも無くなって行く」

 

 人としての記憶を残している以上、地球での法や倫理観との兼ね合いは考慮はするだろうが、素直にそれに従う事はしないだろう。

 

「シアが望んだように、雫じゃなくて自分を見てもらうってのは、もう出来なくなるって事だ。それでも――」

 

「それでもです」

 

 彼の言葉にシアはハッキリと告げ、カナタから腕を放すと彼の眼を真直ぐに見つめる。

 

「むしろホッとしてます、雫さんとの勝ち負けを気にしなくて良い訳ですし、誰と比べるでもなく、私自身が振り向いて貰える様に頑張れば良いだけですからね。そもそもそれ言ったら、人間なのに平然と恋人二人も作ってるハジメさんはどうなるんですか?」

 

「あ~、あいつらの関係は特殊と言うか……奈落で色々ぶっ飛んだ価値観に変わってると言うか」

 

 自分達3人だけ(明確には4人だが)と言う特殊の環境が3人の関係をより強いモノにした。それはユエと香織の関係も同然で、だからこそ地球での価値観や倫理観を降して成立した関係だ。

 

「それと同じですよ。むしろカナタさんの方が理由がハッキリしてるじゃないですか」

 

 何かを考えるようにカナタは黙り込み、やがてゆっくりと口を開いた。

 

「……いいんだろうか? それを……理由にしても」

 

 将来的には自分の価値観として定着していくと判っていても、今のカナタにとってはそれを理由にするのは免罪符に縋る事の様に感じていた。

 

「雫さんがそれを納得してくれるかどうかは判りません。けれど少なくても、私の想いだけは変わりませんよ。それだけはハッキリと言えます」

 

 そもそも、同族は皆家族と言う考えを持っているのがハウリア族だ。自分の想いの為に誰かと険悪な関係になる事は出来る事ならしたくない。雫と言う女の子が彼をどう思っているのかまだ判らないが、もしも自分と同じ気持ちなら、出来る事ならその人とも仲良くしたい。同じ人を好きになった者同士として。

 

「ですから、どうか自分の気持ちに嘘を吐く事だけはやめて下さい。それはとても……辛い事です」

 

 その言葉で彼の中で何かが切れたのか、気が付けばカナタはシアを静かに押し倒し、彼女はそれに驚く様子も見せず、逆らう事なくストンとベッドに横になった。

 

「全く……これ以上無いってくらいドンピシャな事言ってくれたが、ひょっとして未来視でも使ったのか?」

 

「むっ、失礼ですよカナタさん。流石の未来視でもここまで詳しくは見れませんよ。正真正銘私自身の言葉です」

 

「それもそうだったな……」

 

 言葉一つ、行動一つで未来は変化していく。それを一つ一つ確認していく事は未来視でも不可能だ。とは言え、シアが未来視を使っていないというのは、厳密には嘘だった。竜へと変わっていく中で、さまざまな事が変化していく彼の事が気になり、シアは密かに彼の未来を見た。そして知った、自分と周りの考えの相違から、周りの為にあえて孤立しようとする彼の姿を。だからシアは今、彼の心に踏み込んだ、彼の壁を壊す為に。地球に帰る事が絶望的ならば、せめて彼を一人にしない様に、自分も含めて誰かが傍に居てくれるように……他でも無い彼自身が自分にそれを許す様に。

 

「ありがとな、シア」

 

「フフフ、でしたらお礼は身体で払ってもらいましょうか? 私をこうして押し倒してるって事は……そう言う事ですよね?」

 

「それ、普通は男側が言うセリフだぞ……」

 

 ――その言葉を最後に、二つの影は静かに一つとなっていくのだった。




リーマンの救出にはハジメのアーティファクトを使用。けれど、その時のデート回は勿論原作とは変わるわけで、原作どおりいくとリーマンと会うのはカナタとシアになります。この二人で気づかれる事なく(騒ぎの有無は置いておいて)救出するのは難しい。と言う事で、リーマンさんまさかの降板・・・そして代わりにブレスオブファイア要素として○ニーロさんゲスト出演です。例のデート回で出すかどうかはまだ未定です。

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