ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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遂に小話集を発見、時期が過ぎて差し込めない話も有るけど、今後はちょいちょい差し込んで行きたい。

そしてそう言えば香織はシアの事呼び捨てにしてた事にそれを呼んで思い出した自分です。執筆難航してる時に、ちょいちょい治していかないと。


第19話『湖の街に落ちる落雷』

 平原をハジメの造った魔導四輪が走る。ライセン大峡谷では魔力の分解の影響でどうしても速度が出づらかった乗り物も十全の機能を発揮し、時速80キロに迫るスピードで平原の街道を走っている。運転席にハジメ、助手席に香織、流石にバイクみたいにハジメの前に座ると運転の阻害となる為、ユエは香織と重なる形で座っている。要はそれほどまでにハジメの隣に座りたいということだろう。因みに大峡谷では見張りの為に荷台に乗っていたカナタとシアも今は後部座席に座っている。

 

「しかし、交渉の時はあれだけ渋ってた割には、いざ依頼を受けてみれば、随分積極的に行動するんだな? どういう気持の変化だ?」

 

 依頼を受けたその直後に出発。トータスの交通手段を考えれば車というだけでも十分早いのに、時速80キロ越えと言う警察に見つかれば即スピード違反で罰金と言うレベルで飛ばしている。

 

「そりゃあ、生きているに越したことはないからな。その方が感じる恩はでかい。これから先、国やら教会やらとの面倒事は嫌ってくらい待ってそうだからな。盾は多いほうがいいだろう? いちいちまともに相手なんかしたくないし」

 

「……なるほど」

 

「それに聞いたんだがな、これから行く町は湖畔の町で水源が豊かなんだと。そのせいか町の近郊は大陸一の稲作地帯なんだそうだ」

 

 その言葉に香織とカナタの視線がハジメの方を向いた。

 

「稲作……てことは」

 

「おう、つまり米だ米。俺達の故郷、日本の主食だ。こっち来てから一度も食べてないからな。同じものかどうかは分からないが、早く行って食べてみたい」

 

 トータスの主食は基本パン系だ。無論それでも良いのだが、やはり日本人なら米と言う食べ物に惹かれないはずがない。

 

「お米かぁ……もし売ってたら、是非とも買っておきたい所だね」

 

「ハジメ達の世界の食べ物……ん、私も食べたい」

 

「私は、料理だけじゃなくてレシピにも興味ありますね」

 

「あ、だったら後で私が知ってるので良いなら教えるよ?」

 

「良いんですか!? 是非、お願いします」

 

「うん、任せて」

 

 と、一行の食事係二人が米料理についての話で盛り上がっていると、やがて遠くに一つの町が見えてきた。

 

「あれが、湖畔の町・ウル、か」

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

「はぁ、今日も手掛かりはなしですか……清水君、一体どこに行ってしまったんですか……」

 

 カナタ達の目的地、ウルにて小柄な少女がトボトボと歩いている。否、正確には彼女は少女ではなく二十代の大人の女性である。彼女の名は畑山愛子、このトータスにて作農師と言う天職が発現して以降、戦争からは外れて各地で農耕関連の任務に就いている。と言うのも作農師とは一人居ればその国の食糧事情は大よそ解決すると言われるほどの伝説的な天職であり、更に現在は魔人族との戦争の最中。どうしても食料や物資は戦場で戦う兵士達に優先的に回されて市場に出回る量は少なくなり、戦時価格として物価は高騰、それが戦争に出ない民の不満に繋がる。けれど、作農師が居ればそれらの問題が一気に解決する事が出来る。そんな人材を戦わす為に遣わされた人間だからと、戦場に出すなんて愚の骨頂。真っ先に彼女は戦場に出る事を止められ、各地で農耕関係の任務についている。

 

「愛子、あまり気を落とすな。まだ、何も分かっていないんだ。無事という可能性は十分にある。お前が信じなくてどうするんだ」

 

「そうですよ、愛ちゃん先生。清水君の部屋だって荒らされた様子はなかったんです。自分で何処かに行った可能性だって高いんですよ? 悪い方にばかり考えないでください」

 

 そんな彼女に声を掛けたのは任務で各地を巡る愛子の護衛の任に就く事となった教会騎士の一人デビットと“愛ちゃん親衛隊”と呼ばれる地球人のパーティの一人、園部優花だ。愛ちゃん親衛隊のメンバーは生徒の気持を無視して戦線復帰を促してくる王国に猛抗議する彼女の姿に心打たれ、前線で戦えないがせめて各地を回る先生の護衛ぐらいはしたい!と奮い立った生徒達で構成されている。因みにだがこの親衛隊にはもう一つの名前が存在している。

 

 その名は“愛子をイケメンから守る会”と言うのもデビットを始め、彼女の専属の騎士となった騎士たちはみな、よりすぐりのイケメンであり、生徒達も一目見て、これが王国や教会が愛子をこの国に繋ぎとめようと言うハニートラップの一種だと理解した。確かに25歳と言う婚期や生き遅れと言う言葉の足音が遠くに聞えてきそうな年頃。そんな独身女性にイケメン騎士をぶつけるのは効果的だろう。尤も、国側の思惑は既に破綻している。その理由は、同行を申し出た生徒達を思い止まらせる様、愛子と一緒に生徒を説得した騎士の言葉が物語っている。

 

「心配するな。愛子は俺が守る。傷一つ付けさせはしない。愛子は…俺の全てだ」

 

 神殿騎士ならエヒト神こそが全ての筈なのに、その対象がいつの間にか愛子に変わっていた神殿騎士専属護衛隊隊長デビッド。

 

「彼女のためなら、信仰すら捨てる所存です。愛子さんに全てを捧げる覚悟がある。これでも安心できませんか?」

 

 教会の人が聞けば、即不信者として罰せられかねない危ない言葉を、躊躇い無く口にした神殿騎士同副隊長チェイス。

 

「愛子ちゃんと出会えたのは運命だよ。運命の相手を死なせると思うかい?」

 

 心の中で生徒一同『誰が運命の相手だ!』と言う総ツッコミを受けた近衛騎士クリス。

 

「……身命を賭すと誓う。近衛騎士としてではない。一人の男として」

 

 と言う宣言と共に騎士の職務を思いっきり遠くにぶん投げた、近衛騎士ジェイド。

 

 以上4名、愛子を懐柔する為に遣わされたイケメン騎士全員が、逆に愛子に懐柔されると言う事態になっていた。そしてこの状況に「愛ちゃんをどこの馬の骨とも知れない奴に渡せるか!」と言う気持ちが芽生え、反って生徒達は頑なに護衛を申し出て押し切られる結果となった。

 

「皆さん、心配かけてごめんなさい。そうですよね。悩んでばかりいても解決しません。清水君は優秀な魔法使いです。きっと大丈夫。今は、無事を信じて出来ることをしましょう。取り敢えずは、本日の晩御飯です! お腹いっぱい食べて、明日に備えましょう!」

 

 生徒と騎士の励ましを受けて、自分の両頬をペシッと叩き愛子は親衛隊と生徒達の方を振り返り、声を挙げると生徒達も「はーい!」と元気良く返事を返し、騎士たちはそんな彼らの様子を微笑ましげに眺めながら、ウルの町での拠点である水妖精の宿へと入っていく。

 

 

 

 

 

 

「えっ!? それって、もうこのニルシッシル(異世界版カレー)食べれないってことですか?」

 

「はい、申し訳ございません。何分、材料が切れまして……いつもならこのような事がないように在庫を確保しているのですが……ここ一ヶ月ほど北山脈が不穏ということで採取に行くものが激減しております。つい先日も、調査に来た高ランク冒険者の一行が行方不明となりまして、ますます採取に行く者がいなくなりました。当店にも次にいつ入荷するかわかりかねる状況なのです」

 

 店員からの言葉にニルシッシルがお気に入りだった優花がショックを受けた。

 

「あの……不穏っていうのは具体的には?」

 

「何でも魔物の群れを見たとか……北山脈は山を越えなければ比較的安全な場所です。山を一つ越えるごとに強力な魔物がいるようですが、わざわざ山を越えてまでこちらには来ません。ですが、何人かの者がいるはずのない山向こうの魔物の群れを見たのだとか」

 

「しかし、その異変ももしかするともう直ぐ収まるかもしれませんよ」

 

「どういうことですか?」

 

「実は、今日のちょうど日の入り位に新規のお客様が宿泊にいらしたのですが、何でも先の冒険者方の捜索のため北山脈へ行かれるらしいのです。フューレンのギルド支部長様の指名依頼らしく、相当な実力者のようですね。もしかしたら、異変の原因も突き止めてくれるやもしれません」

 

 その言葉に騎士達がその冒険者の一行に興味を持った。何せ支部長からの指名依頼と言う事は支部長自身がその実力を認めていると言う事になる。それも、フューレンの様なピンからキリまで大量の冒険者を担当しているであろう大都市のギルド支部の長ともなれば尚更だ。騎士たちの中では最低でも黒以上、普通に考えれば金クラスの冒険者だろうと予測し、自分達が知っている該当する冒険者達を脳内でリストアップする。そんな中、宿の二階、客室フロアへの階段から誰かの話し声が聞えてくる。

 

「おや、噂をすれば。彼等ですよ。騎士様、彼等は明朝にはここを出るそうなので、もしお話になるのでしたら、今のうちがよろしいかと」

 

「そうか、わかった。しかし、随分と若い声だ。〝金〟に、こんな若い者がいたか?」

 

 声からして5人のパーティだが、そのいずれも若者、一人に至っては幼い女の子の声を思わせる。騎士達が脳内でリストアップした冒険者たちは皆、年季の入ったベテラン達。つまり、今聞こえている声は自分達の知る者達とは誰にも該当しないと言う事だ。やがて、彼らの会話の内容がハッキリと聞こえてくる様になった。

 

「此処に来る途中で田園を見たが、トータスの米って夏に収穫するもんなのか?」

 

「ううん、宿の人の話しだとトータスのお米と地球のお米って殆ど差が無いみたい。いま、収穫してるのは特別な事情があるんだって」

 

 と、その言葉に生徒と愛子が目を見開く。何せその少女の声はクラスの皆にとっては決して忘れられない、クラスの二大女神の片割れの声と瓜二つだ。そしてその少女の言葉に混ざっている地球と言う単語、もはや間違いない。愛子が大急ぎで席を区切るカーテンを開けると。そこに居たのは二人の男性と三人の女の子。

 

「竜峰君?」

 

 他の男女は見覚えこそ無いが、残りの一人だけは格好を除けばあの日、奈落の底に消えた竜峰カナタその人だ。

 

「……畑山先生!?」

 

「…………先生?」

 

「え、愛ちゃん先生? ああ、先生の天職ってそういえば……だからこの時期でも稲が収穫可能レベルまで育ってるのか」

 

「その声……そっちの二人は南雲君に白崎さんですね!?」

 

 体格や髪の色と色々変わって居る為、町ですれ違う程度では気付けないが、こうしてじっくりと見れば面影が残ってる。何より、二人は自分を見て先生と、香織に至っては自分の苗字まで呼んだのだ。先生の言葉に親衛隊の男子も「えっ、白崎さんっ!?」と先生の傍に近づいてきた。

 

「良かった……三人とも、ホントに……生きていたんですね……」

 

 愛子はこのトータスに飛ばされた時、全員を無事に地球に帰す事を使命としていた。が、その使命とは裏腹に生徒達の傍に居れない状況を不満に思い、挙句の果てに王国に一度戻ってみれば待っていたのは三人の生徒の訃報。使命を果たせなかった事、大事な教え子が死んでしまった事、何よりその時に傍に居る事すら出来なかった事の三重苦で寝込んでしまった事すらあった。そんな彼女にとって三人の生存と再会はまさに僥倖、愛子は涙腺が緩み涙目になっていた。

 

「いえ、人違いです。では」

 

「へ?」

 

「「えっ!?」」

 

 が、直後のハジメの人違い発言に涙も引っ込み、カナタと香織共々呆然。そんな様子にも留めず、ハジメは空いてるテーブル席へと歩いていくが、正気に戻った愛子は彼の袖口を掴む。

 

「ちょっと待って下さい! 南雲君ですよね? 先生のこと先生と呼びましたよね? なぜ、人違いだなんて」

 

「いや、聞き間違いだ。あれは……そう、方言で〝チッコイ〟て意味だ。うん」

 

「それはそれで、物凄く失礼ですよ!」

 

「流石にその誤魔化し方は無理があると思うぞハジメ。俺は外見そんなに変わってないし、香織に至っては苗字まで呼んでたし」

 

「……言うな。俺も流石に無理があるとは自覚してんだよ」

 

 ハジメ自身もこの言い逃れは口にした直後に「ないわ~」とは自覚していた。そして、今回の一件もスムーズに行く気がしなくなった事にハジメはガックリと肩を落とした。

 

「どうして誤魔化すんですか? それにその格好……白崎さんもですけど何があったんですか? こんなところで何をしているんですか? 何故、直ぐに皆のところへ戻らなかったんですか? 南雲君! 答えなさい!」

 

「……離れて、ハジメが困ってる」

 

「な、何ですか、あなたは? 今、先生は南雲君と大事な話を……」

 

「あ、あの、畑山先生。事情は説明しますから、落ち着いて下さい」

 

 香織の言葉を受けて、愛子も自分が暴走しかけていた事を悟り、そしていつの間にか彼の袖を掴んで居た事に気付くと顔を赤くしながら手を離した。

 

「すいません、取り乱しました。改めて、南雲君ですよね?」

 

「ああ。久しぶりだな、先生」

 

 こうなっては誤魔化すのはやはり不可能、とハジメも降参し頭を掻きながらそれを認めた。

 

「やっぱり、やっぱり南雲君なんですね……生きていたんですね……」

 

「ああ、色々あったが香織やカナタ共々、何とか生き残ってるよ」

 

「よかった。本当によかったです」

 

 と、その時親衛隊の生徒達の方から「おい、南雲の奴、いま白崎さんの事……?」「ああ、思いっきり“香織”って呼んでたな?」とヒソヒソと話し声が聞えた。そんな中、ハジメはそのままテーブル席に座り、メニューを開く。

 

「お、このニルシッシルって奴、カレーみたいだな。コレにするか」

 

「……なら、私もそれにする。ハジメの好きな味知りたい」

 

「……って、南雲君! まだ話は終わっていませんよ。なに、物凄く自然に注文しているんですか。大体、こちらの女性達はどちら様ですか?」

 

「依頼のせいで一日以上ノンストップでここまで来たんだ。腹減ってるんだから、飯くらいじっくり食わせてくれ。それと、こいつらは……」

 

「……ユエ、ハジメの女2号」

 

「あ、私シアといいます。えっと、カナタさんの女です」

 

「お、女……!?」

 

 その事に先生がどもりながらユエとシアを交互に見る。そして他の生徒も「南雲の奴に女!?」「うそだろ、竜峰の奴、何時の間にあんな可愛いウサミミと」とどよめいている。

 

「ちょ、ちょっと待て! いまあの子、2号って言ったよな……?」

 

 そんな中、ある男子生徒の言葉に親衛隊と愛子の全員がハッとなり硬直した。2号と言う事なら当然1号が存在する。そしてシアというウサミミの女の子はカナタの女だと名乗った。つまり一号は……先生と親衛隊全員の視線が香織に集中する。その視線を受けて香織は気恥ずかしさに頬を赤くしながらも――

 

「えっと……どうも、ハジメ君の女1号です」

 

 「テヘっ」と笑みを浮かべて言葉の爆弾を投下した。そして直後に男子が「「なにぃ~~~~!!?」」と叫び声が挙がった。周りの客に迷惑だとか、そんな事は完全に頭から消えている。

 

「嘘だ! 南雲と白崎が……嘘だといってくれー!!」

 

「修羅の気配が感じられない……バカな! あれはまさか男の夢、ハーレム!?」

 

「ちょ、ちょっと優花、しっかりしなって!?」

 

 ショックから天を仰ぎ絶叫してるもの。ハジメがハーレムを作ってる事実に戦慄してる者、ショックで硬直してしまっている優花を揺すってる者など、生徒一同大騒ぎ。店員さんが「あ、あの他のお客さんも居るので、お静かに……」とおずおずと注意するも収まる様子は無い。そして、本来なら彼らを真っ先に諌める筈の愛子は俯いてプルプルと震えている。ユエと香織が宣言した通り、今のハジメは2人の女性を侍らせている。

 

「ふ、二股なんて! 直ぐに帰ってこなかったのは、遊び歩いていたからなんですか! もしそうなら……許しません! ええ、先生は絶対許しませんよ!」

 

 そして全うな地球人で尚且つ教育者である愛子からすれば、生徒の一人が堂々と二股かけているのを見過ごす事など出来る筈も無く――

 

「お説教です! そこに直りなさーーい!」

 

 穏やかな湖の町・ウル。その宿屋の一角で“先生の怒り”と言う名の雷が落ちたのだった。


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