ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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第20話『世代の主人公』

 あれから店員ではなく店長が出てきて、一行は愛子達が食事をしているVIP席に移動していた。そして、奈落の底に落ちた後、何があったのか色々聞かれて主にカナタと香織が事情を説明していたのだが――

 

「そんな事が……ですが、それならどうして脱出した後、すぐに戻ってきてくれなかったんですか?」

 

 その質問には二人も言葉を詰まらせた。エヒト神の真実を知った事により言われるままに戦争に参加しても戻れる可能性は低いと判断した事、カナタが神敵とされるアジーンの力を持っている事(厳密にはそれどころの話ではない)、そのどちらも神殿騎士であるデビットたちの目の前で口にする事は出来なかった。

 

「戻る理由が無い、それだけだ」

 

「理由がないって……」

 

 その時、今まで我関せずと言う様子でニルシッシルを食べていたハジメが口を開いた。その余りにシンプルな一言に愛子もすぐに返すべき言葉が見つからなかった。

 

「おい、お前! 愛子が質問しているのだぞ! 真面目に答えろ!」

 

 そんな彼女の様子を見て、怒りを覚えたデビッドはテーブルを叩きながらその場に立ち上がる。

 

「別にふざけてるつもりも、嘘を言ってるつもりもねぇよ。ホントに戻る理由がねぇからそう答えてんだ。んな事よりも今は食事中だ。行儀良くしろよ、おっさん」

 

「おっ……!?」

 

 デビッドは神殿騎士の中でもかなりの地位におり、それが理由で現在は国の重要人物となっている愛子の護衛隊の隊長を任された。その事による自尊心と、敬愛する愛子に対する態度への怒りからデビッドは一気に頭に血が昇り、顔を赤くした。そして、一行を見渡してその視線はやがてシアで止まると、反論の余地を見つけたと言わんばかりに口元を釣り上げた。

 

「ふん、行儀だと? その言葉、そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるなど、お前達の方が礼儀がなってないな。

 

「デビッドさん、なんて事を!?」

 

「愛子も教会で教わっただろう。魔法は神より授かりし力、それを使えない亜人どもは神から見放された下等種族だ」

 

「私達と殆ど同じ姿じゃないですか! どうしてそこまで――」

 

 デビッド一同、愛子を敬愛しているのは確かだ。けれど彼らは愛子と出会うまで、それこそ子供の頃から亜人を差別的に見る聖教教会の教えが浸透している環境で育ち、程度に違いはあれど亜人を差別的に見る思想と言うのは彼らの人格を形作る一部として完全に根付いている。トータスの人にとって亜人を差別する事は日本人が日本語を使うのと同じぐらい当たり前の事であり、その中でも聖教教会の信徒ともなれば、それはより顕著になるだろう。

 

「ならばその醜い耳を切り落としたらどうだ? それなら少しは人間らしくなるだろう」

 

 そして侮蔑の視線と共に言い放たれたデビッドの言葉にシアは一瞬だけ身体を竦め、そして少しだけ俯いた。周囲の言う事なんて気にする必要が無い、それはシアも判っている。けれどカナタ達と旅に出てから今日までシアが出会った人達は基本シアに対して友好的だった(まぁ、それで暴走している人達も居たが……)。だからこそ人間の亜人に対する明確な差別意識、その悪意をストレートにぶつけられたのは今回が初めてであり、今日まで普通に外の世界でも上手くやってこれていた事から、殆ど不意打ちの形でそれを受けたシアのダメージも大きかった。そしてその言葉に天丼(の様なメニュー)を食べていたカナタも手を止め、その視線をデビッドへと向ける。

 

「何だ、その眼は? 無礼だぞ! 他の使徒の足を引っ張る事しか出来ない無能の分際で神殿騎士に逆らうのか!」

 

 デビッドも教会の人間。ならば、オルクス大迷宮でおきた三人の訃報は耳に入っている。そう、無能二人が癒術士の少女の足を引っ張り、結果三人とも奈落に落ちた、と言う事をだ。その為、デビッドの中ではカナタとハジメが足を引っ張った無能と言う認識にたどり着いていた。

 

「そりゃ、大事な人が侮辱されればこんな目にもなって当然だろう。あんただって、敬愛するエヒト神や愛ちゃん先生が侮辱されれば頭に来るだろう? それと同じ事だ」

 

「貴様っ! 愛子やエヒト様を獣風情と同列に語るか!?」

 

 カナタの言葉に怒り心頭のデビッドは遂に腰の剣に手を掛ける。流石に流血沙汰はマズイと他の騎士も彼を止め様と声を掛けるが、デビッドは聞く耳を持っていない。

 

「亜人に絆された奴など、もはや異教徒も同然! そこの獣風情共々地獄に送ってやる!!」

 

 そう言って、デビッドは遂に鞘から剣を抜き放つ。直後、宿の中に発砲音が2つ響きわった。発射された2つのゴム弾の内、一つは剣を握っていた手を直撃して剣を弾き飛ばし、もう一発がデビッドの額を直撃。本人を後ろに吹っ飛ばすと同時に意識を刈り取る。

 

「お、おい、あれって……」

 

「拳銃、よね?」

 

「南雲の奴、何時の間にあんなすげぇ武器を……」

 

「白崎さんも持ってるのか、と言うか二人とも何のためらいも無く撃ちやがったぞ……」

 

 と、生徒達が再び小声で何かを話してる。

 

「カナタ君、流石にここでそれはまずいよ、先生や他のみんなも居るし」

 

 そう言った香織の視線の先には、何時かの帝国兵の一団と戦った時と同じ目をしたカナタの姿。左腕を右側に持っていってる辺り、宝物庫から砲剣を取り出すと同時に横に振りぬくつもりだったのだろう。それこそ、何のためらいも無くデビッドの首と胴を切り離すつもりで、だ。 

 

「だから、これで手打ち。その手を下ろして」

 

 カナタは香織を一瞥、そして次にその視線をシアに向けてから。ゆっくりとその手を下ろした。そして、ニルシッシルを食べ終えたハジメは「ごちそうさん」と席から立ち上がる。

 

「コレで話は終わりだ。言っとくが俺は、あんたらに興味がない。関わりたいとも、関わって欲しいとも思わない。いちいち、今までの事とかこれからの事を報告するつもりもない。ここには仕事に来ただけで、終わればまた旅に出る。そこでお別れだ。あとは互いに不干渉でいこう」

 

 そう言って、ハジメがその場を後にするとカナタ達もそれに続き、最後に香織が「ごめんね、みんな」そう言い残して彼らの後を追いかけていった。

 

「しかし、俺が言うのもなんだが最近沸点低くなってねぇか、カナタ?」

 

「まぁな……自分でもハッキリ自覚できるレベルで下がってる気がする」

 

 席を立ち部屋へと戻る通路の中でハジメがカナタに声を掛けた。その言葉にカナタも「う~ん」と唸っている。

 

「所謂これが、逆鱗に触れられるって事なんだろうな」

 

 モットーの事、あのボンボンの事。シアやみんなに手を出そうとした連中に対して自分は穏便に済ますのではなく、あくまで面倒事にならない様に動こうと考える様になってる。ボンボンについては後の処理の事も考慮してはいたがボコる事を前提に考えてたし、デビッドに至っては彼が剣を抜いた瞬間、カナタは躊躇無く彼を斬ろうと考えていた。

 

「はぁ、いかんな。一行の穏健派を自負する俺がこんなんじゃ……それでなくてもハジメの塩対応は周りに敵を作りかねないってのに」

 

「何言ってんだ、敵なんて何処にいる?」

 

「そりゃ、敵が出来たら即ドパンしてんだから確かに敵は居ないでしょうよ」

 

 と、まるで誤魔化すようにおどけたカナタの言葉にハジメも「心外な」と言わんばかりの反論をする。その時、ふとカナタの視界に今もシュンとしているシアの姿が映った。

 

(ホント……相手ぶっ飛ばすよりも先にやらなきゃいけなった事が、怒りの所為で頭から抜けてたのは良くないよな……)

 

 

 

 

 

 

「シア、余りに気にする必要ないからな。あの反応は敬虔なエヒト信者だからであって、むしろ少数派だ」

 

 部屋に戻り、ジャケットをハンガーにかけながら、カナタはシアに声を掛けた。ホントはすぐにでもシアにフォローを入れるのが先だったが、あの時は完全にデビッドを斬る事しか頭に無かった。

 

「そう……でしょうか?」

 

「そうだ。そうでなきゃ兎人族に愛玩奴隷としての需要があるはずが無いだろ」

 

 愛玩奴隷と言うのはやり方は人それぞれだが、纏めれば愛でる為の奴隷だ。

 

「つまり、愛玩奴隷に求められるのはいわば魅力。つまりは世の中の人間は兎人族をあいつ等ほど気持悪いだなんて思ってないって事だ」

 

 自分達より下の存在として見てこそいるが気持悪いと遠ざける意思は無く、むしろ傍に置きたいと思うぐらいには魅力的に感じてる人も居ると言う事だ。

 

「因みにカナタさんはどう思いますか? その……私のウサミミ……」

 

(今更それ聞くのか……)

 

 と少し呆れながらもカナタは手招きでシアを呼び、傍に近づいてきたシアをそのまま抱き締める。

 

「ふえ?」

 

「別にどうもこうもない。俺はこうしてシアの事を好きになった、それだけだよ」

 

「カナタさん……」

 

「それに俺は聖教教会の信者どころかトータスの住人でもないしな。ああ言った連中とはそもそも常識や価値観が違うんだ。だからまぁ、あんま気にすんな」

 

 ポンポンと軽く頭を叩いてやるとシアは「えへへ」と笑って――

 

「はい」

 

 そう言って、シアもカナタの背に腕を回した。

 

「と、少ししたらハジメや香織とちょっと出かけてくるから、シアは先に休んでいてくれ」

 

「何処に行くんですか?」

 

「ん? さっきは話せなかった事を話しに、な」

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 その日の夜、愛子はソファに深く座り、火のついてない暖炉をぼんやりと見つめながら今日の事を思い出していた。死んだと思われた三人が生きていた事はとても喜ばしい事だ。けれど、ハジメと香織は見た目が大きく変わっており、ハジメに至ってはその性格まで豹変している、異常なまでのこちらに対する無関心。ある程度の話はカナタと香織から聞いたが、落ちた穴の先ではそうでもしないと生き残れないほど過酷な場所だったのか。そして、そんな場所で彼らが苦しんでいた時に何も出来ないどころか、その場にすら居なかった自分に腹が立つ。けれど、そんな状態でも彼らには彼らを慕ってくれる人がおり、信頼できる仲間が居る事に安心した。

 

「なに百面相してるんだ、先生?」

 

「っ!?」

 

 色々な感情が沸き起こり、それにより表情がコロコロと変わっていた愛子の耳に今日再会したばかりの生徒の声が聞こえ、彼女は弾かれた様にそちらに目を向ける。

 

「な、南雲君?」

 

「おじゃましまーす」

 

「夜分遅くに失礼」

 

「白崎さんに、竜峰君まで。な、なんでここに、どうやって……」

 

「どうやってと言われると、普通にドアからと答えるしかないな」

 

「えっ、でも鍵が……」

 

「俺の天職は錬成師だぞ? 地球の鍵でもあるまいし、この程度の構造の鍵くらい開けられるさ」

 

「こんな時間に、しかも女性の部屋にノックもなくいきなり侵入とは感心しませんよ。わざわざ鍵まで開けて……一体、どうしたんですか?」

 

 最後に入ってきたカナタが鍵を閉める。そして三人は先生の正面に並んんで、彼女と向かい合っていた。

 

「ちょっと秘密のお話を、って所ですね」

 

「ごめんなさい。畑山先生、でも教会の人が居る前ではどうしても話せなかったことなんです」

 

「ああ、教会の連中なら発狂して暴れそうな内容だしな」

 

「話ですか? 南雲君は、先生達のことはどうでもよかったんじゃ……」

 

 ホントは戻って来たいと思ってるのでは?と期待した愛子だったが、ハジメは即座にそれを否定した。

 

「いや、戻るつもりはないからな? だから、そんな期待した目で見るのは止めてくれ……今から話す話は、先生が一番冷静に受け止められるだろうと思ったから話す。聞いた後、どうするかは先生の判断に任せるよ」

 

 そしてハジメ達は自分達がオルクス大迷宮で知った神の事実、反逆者と呼ばれる者達の正体。竜魂士がアジーンの力を行使して戦う天職である事(流石に将来的には完全に竜になる件はこの場では伏せた)、まさに教会の教義を根っこから否定するような歴史の真実を彼女に話した。因みにこれを愛子に話したのはハッキリ言えば偶然再会したから物のついでに、といった所だ。

 

 王国に戻ってそれを他のみんなに言った所でハジメやカナタの言葉なんて光輝辺りは絶対に信じない、ましてやカナタはアジーンの力、世の中の誰もが認める絶対的な悪の力を使っている。最悪の場合カナタが自分達の敵になったとまで言い出す可能性もある。そして光輝が信じないと言えば必然周りも信じない。雫辺りはキチンと吟味してくれそうだが、弟分の幼馴染を放っておけずに彼女を迷わせるだけになると踏んでいる。

 

「まぁ、そういうわけだ。俺らが奈落の底で知った事はな。これを知ってどうするかは先生に任せるよ。戯言と切って捨てるもよし、真実として行動を起こすもよし。好きにしてくれ」

 

「つまり俺の場合は戻るに戻れない状態、ってのが正しいんですよ。まぁ、戻る気も無いってのもありますけどね」

 

「な、南雲君達は、もしかして、その〝狂った神〟をどうにかしようと……旅を?」

 

「ハッ、まさか。この世界がどうなろうが心底どうでもいい。俺らは俺らなりに帰還の方法を探るだけだ。旅はそのためのものだよ。教えたのは、その方が都合が良さそうだから、それだけだ」

 

 国からも重宝されている人物の中に真相を知ってくれている人が居れば、何かと内通もしやすいだろう。目的があるとすればその程度だ。

 

「アテはあるんですか?」

 

「まぁな。大迷宮が鍵だ。興味があるなら探索したらいい。オルクスの百階を超えれば、めでたく本当の大迷宮だ」

 

「ですけど、挑むのでしたら覚悟して下さい。あそこは私達が奈落に落ちた日に戦ったベヒモスすら遥かに超える魔物で溢れかえっています。私達三人もたくさんの偶然と幸運、そしてユエとの出会いのお陰で無事に乗り越えられたほどです」

 

「いやいや、二人してなにサラッと真っ先にオルクス大迷宮潜る様に勧めてるんだよ……愛ちゃん先生、大迷宮を作った人の記録によればオルクス大迷宮は他の迷宮を攻略して最後に挑む所なので、挑むならちゃんと他の所回ってからにするのをオススメしますから」

 

 話はそれで終わりだ。と言わんばかりに三人が部屋から出て行こうとする。

 

「八重樫さんは――」

 

 が、愛子が口にした名を聞き、香織とカナタがピクリと反応する。

 

「八重樫さんは、まだ戦っています。どういう形でも一緒に地球に戻る為にと、貴方達の遺体や遺品、痕跡を見つける為に……」

 

 カナタも香織もハジメの旅に着いていくと決めているし、それは変わらない。けれど雫の事を完全に忘れていた訳では無い、愛子の言葉を聞いて二人の表情は自ずと暗くなる。そしてハジメもドアノブから手を離して再び愛子の方を振り返った。その時、カナタが静かに口を開いた。

 

「……雫は、まだ無事なのか?」

 

「は、はい。オルクス大迷宮は危険な場所ではありますが、順調に実力を伸ばして、攻略を進めているようです。時々届く手紙にはそうありますよ。やっぱり気になりますか? 竜峰君と白崎さんは八重樫さんとは仲がよかったですもんね」

 

 雫の名を聞き、カナタはふと思い出した。彼らの中に潜んでいるある危険人物の存在を。

 

「そういや、コレも一応確認しといたほうが良いか。愛ちゃん先生、あれから俺らが奈落の底に落ちた件どう処理されました? まぁ、王国側の下した判断についてはさっきの騎士様の言葉で大体察しましたが、あの時の魔法が俺らに向かって飛んできた時のこと、他のクラスの連中はどういう風に?」

 

 カナタの問いに愛子は黙り込んだ。

 

「……畑山先生?」

 

「実は……」

 

 自分達が奈落に落ちる原因を作った檜山が殆どお咎め無しで普通に使徒として活動してる事。そして三人についてはカナタとハジメは死に、香織だけは今も生存が信じられており、香織の救出も彼らが迷宮に挑んでいる目的の一つとなっている事、これらの事情を聞いて香織とカナタは衝撃を受け、ハジメはクラスメイト達の様子に内心呆れていた。

 

「勿論、貴方達の生死に関しては全員が全員って訳ではありません。中には白崎さんが生きてるなら他の二人も、って考えてる生徒もいます。ですが少なくても殆どの生徒が白崎さんの生存だけは信じている様子でした」

 

「まぁ俺らがどう扱われてるかに関しては特にどうでも良いんですけど……」

 

「そんな……何を根拠に私だけが生きていてハジメ君とカナタ君は死んでるって結論になるんですか? 普通に考えてもおかしいじゃないですか、そんなの!」

 

「いや、大体予想は付く。光輝がそう宣言してみんなを励ました。そして香織の死を受け入れたくないほかの生徒はそれに乗っかった。大方そんな所だろうな……」

 

 普通に考えれば明らかにおかしい結論だが、今まで光輝の思い通りにならない事はなかった。無論、本人もその為の努力を惜しんでいなかったのも事実だが、少なくても光輝が望んで行動を起こせば必ず結果がついてきた。そして他の生徒にとっては、クラスで一、二を争う人気者である香織の死はカナタやハジメのそれよりも受け容れ難いものだ。

 

 そんな中、光輝が「香織は生きている!」と確信して、それに準じて行動を起こすのなら、それが現実となると感じるのも無理は無く、他の生徒がその言葉に縋り、妄信するのも仕方ない。実際、香織は生きている訳だから、今回も確かに光輝の思い通りになっていると言えなくもない。

 

「良くも悪くもあいつは俺達の中心。周りから見ればまさに、俺らの世代の主人公みてぇなもんだからな」

 

「竜峰君……」

 

 そしてその主人公に真っ向から歯向かった結果が例の一件であり、不良のレッテルを貼られた。そんな皮肉と自嘲の念が込められた言葉に、愛子は何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 最後に、次に雫に会うか手紙で連絡する時があれば自分達の事を伝えて欲しいとお願いして、三人は部屋を後にした。

 

(しっかし、予想以上にキツイ状況だな……。つまりあいつの気持ち理解してやれる奴、殆ど居ないって事じゃねぇか)

 

 タダでさえ普段から本音や気持を隠して無理しがちな雫にとって、その状況は精神面においては完全に孤立無援状態に等しい。大事な友人の死による雫の辛さや悲しさを察して寄り添い、励ましてくれる人が殆ど居ない。仮に雫の方から誰かにそれを打ち明けたとしても「香織は絶対に生きている、だから希望を捨てちゃダメだ」的な、的外れな言葉しか返ってこないだろう。妄信してるにせよ、目を逸らしてるだけにせよ、他の生徒の中では香織が死んでるという可能性は既に無くなっているのだから。

 

(雫ちゃん……)

 

 明らかに表情が険しくなってるカナタと、完全に俯いている香織。そんな二人の様子を見て、ハジメは足を止めると宝物庫から地図を取り出してそれに目を落としながらと口を開いた。

 

「……通り道だな」

 

「……ハジメ君?」

 

「この一件が終わって、再びグリューエン大砂漠を目指すとなればその途中、ホルアドを通る事になる」

 

 その言葉に二人は目を見開く。

 

「その時、あいつらがまだホルアドに居るなら町で色々補給してくついでに軽く顔を見せる事ぐらい出来ると思うが、どうする?」

 

 ハジメの言葉に香織とカナタはお互いに顔を見合わせ、やがて頷く。

 

「私……雫ちゃんに会いたい。ちゃんと私達は生きてるよって事、伝えたい」

 

 その言葉に同意見だと言わんばかりにカナタも頷く。二人の言葉にハジメは地図を仕舞って軽く肩を竦ませる。

 

「そうか。まっ、俺も八重樫には何かと世話になったしな――」

 

 雫にはハジメも何かと世話になった、光輝(時には香織)がしでかした事で割を喰った時に自分に頭を下げに来たのは何時も雫だった。

 

「義理を果たす為にも顔見せぐらいはしておかないとな……」

 

「悪いな、気を使わせて……」

 

「気にすんな、今言った通り人として義理を果たすだけだ。そうと決まったらさっさと休むぞ。明日は朝一から捜索だ」

 

 そう言って、ハジメは再び歩き始め、カナタもそれに続く。

 

(うん、会いたい……そして、出来る事なら――)

 

 香織は一つの思いを胸に秘めて頷くと、二人の後に続いて歩き始めたのだった。




と言う事で、フューレンの娘騒動も待ち受けてるこの段階で、早くも義理を果たす方針に。

香織が早々にパーティに居る状況は色々と原作通りに行かん部分が多くて、展開を考える(別名こじつける)のが大変です。まぁ、それが出来るのも二次創作の醍醐味ですが。
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