ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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遂に800件超え、大台の4桁も見えてきたかな。そして、小話集を読んで思った事、なんてこった、雫が可愛すぎる!!


第21話『生きる事と望む事』

 山道をハジメ特製の魔導四輪が進んでいく。が、それに乗っているのはハジメ達だけでは無い。愛子とその親衛隊の5人の生徒も乗っている、運転手たるハジメと女性陣が座席に、カナタも含めた男性陣は荷台に乗っている。何故、彼らが同行しているのか、それはまだ朝霧が立ち込め始めたばかりの早朝にまで遡る。

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

「……何となく想像つくけど一応聞こう……何してんだ?」

 

 いよいよウィルの捜索に乗り出すべく北の山脈へと出発する事になった一行。けれど、山脈方面の町の出入り口の前では腕組み+仁王立ちの愛子と親衛隊の面々が待ち構えていた。

 

「私達も行きます。行方不明者の捜索ですよね? 人数は多いほうがいいです」

 

「却下だ。行きたきゃ勝手に行けばいい。が、一緒は断る」

 

「な、なぜですか?」

 

「単純に足の速さが違う。先生達に合わせてチンタラ進んでなんていられないんだ」

 

 時間を掛ければそれだけ生存率は下がるし、やるべき事が出来た。見た感じ6人分の馬を用意してる辺り、彼らは馬で着いて来る、と言うつもりなのだろう。

 

「足の速さが違うって、ねぇ南雲。まさか馬に乗るより走ったほうが速いとかなんて言わないわよね? 私達の事はどうでも良いからって、流石にそれは断りの言葉としては適当すぎない?」

 

 王国に居た時に無能と蔑んだ事、そして檜山の暴走に見てみぬ振りをした事。戦線を離れて冷静になって自分達の行いを振り返ってみれば、自分達がハジメ達に嫌われてるのは納得できる。が、優花自身にはだからと言って「はいそうですか」と終わりにしたくない理由があった。キチンとした理由を聞くまで納得しませんと言わんばかりの彼女の様子にハジメは溜息を吐くと、その言葉は全くのお門違いだと言わんばかりに魔導四輪を取り出す。

 

「理解したか? 適当な言い訳をしたわけでも、ましてや嫌味を言った訳でもない。そのままの意味で、移動速度が違うと言っているんだ」

 

「こ、これも昨日の銃みたいに南雲が作ったのか?」

 

「まぁな。それじゃあ俺等は行くから、そこどいてくれ」

 

 と、魔導四輪に乗り込もうとしたハジメに愛子は尚も食い下がった。その理由は2点。一つは親衛隊として同行していた清水幸利という生徒の捜索。どうやら、数日ほど前に清水が突然失踪。農地改革の任務をこなしながら捜索していたのだが、手がかりが未だ見つかっておらず、未探査なのは北の山脈のみ。互いに北の山脈が目的なら一緒に行った方が良い。そしてもう一点は、檜山の行いについてだ。

 

「他の皆さんは天之河君を中心に彼が軽い気持ちでいた事による事故としていますが、八重樫さんだけは檜山君が悪意を持って二人に魔法を放ったと訴えています」

 

 勿論、大事な生徒が悪意で人を殺そうとしたなんて信じたくは無い。けれど、常に物事を冷静に見れる雫の意見である事や、ハジメに対する檜山の普段からの態度から、思い込みだと斬り捨てるのも早計でもある。それでなくてもここは地球ではない。世界規模で殺しに対するハードルは地球より低いし、ここでの罪を地球の法で裁くのは不可能。その上、いきなり力に目覚めたとなれば暴走する可能性は0ではない。

 

「だからこそ被害者でもある二人やその時、八重樫さんの傍に居た白崎さんからも詳しい話を聞きたいのです。きちんと話す時間を貰えるまでは離れませんし、逃げれば追いかけます。南雲君にとって、それは面倒なことではないですか? 移動時間とか捜索の合間の時間で構いませんから、時間を貰えませんか? そうすれば、南雲君の言う通り、この町でお別れできますよ……一先ずは」

 

 彼女の不退転と言う決意にハジメは内心頭を抱えたい気持だった。こうなった愛子は絶対に自分の考えを曲げない。ここで無視して出発したら本気で追いかけてくるだろうし、重要人物という立場で国や教会に訴え、最悪指名手配をしてでも見つけ出そうとするだろう。それぐらい『生徒の為に!』となった愛子先生の行動力は凄まじいのだ。

 

「わかったよ。同行を許そう。といっても話せることなんて殆どないけどな……」

 

「構いません。ちゃんと南雲君達の口から聞いておきたいだけですから」

 

「何処にいても愛ちゃん先生は先生やってるわけか……」

 

 と、同郷同士の会話と言う事で話に入らずに静観していたユエとシアだったが、ハジメが珍しく早々に折れた事にシアとユエは驚きを隠せなかったらしく会話に入ってきた。

 

「……ハジメ、連れて行くの?」

 

「ああ、この人は、どこまでも〝教師〟なんでな。生徒の事に関しては妥協しねぇだろ。放置しておく方が、後で絶対面倒になる」

 

「ほぇ~、生徒さん想いのいい先生なのですねぇ~」

 

「うん。だからこそみんなから慕われているんだよ」

 

 と香織が笑顔で返事をする中、ハジメは「乗れない奴は荷台な」と言い残し、運転席に座るのだった。

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 流石に女の子を荷台に乗せる訳にも行かないだろうと言う事で自ずと男性陣が荷台に座る事になった訳だ。

 

「そう、ですか……白崎さんも八重樫さんと同じ意見なんですね」

 

「はい、あの時の檜山君の顔は何時もハジメ君を虐めている時と全く同じでした」

 

 その道中、あの日の事の詳細をハジメと香織から聞いていた愛子の表情は暗い。その時の詳しい状況を聞いた感じ、ハッキリと見てない限りあの様々な魔法が飛び交う状況で誰の魔法だったかなんて区別がつかない。香織と雫がそれを目撃できたのは全くの偶然だ。それでも何とか容疑者を絞ろうとしても「火属性に対する適正が高い生徒」としか絞れない以上、手間を増やして適正属性以外の魔法を使う事で罪を逃れようとするのは理に適ってる。そして香織までが雫と同意見だし、動機も「ハジメと香織の仲に対する嫉妬」と言うのはありえなくは無い。担任では無いとは言え、普段から生徒と積極的に接している愛子だからこそ、檜山や香織の恋心も分かる。ここまで材料が揃えばもはや否定したくとも否定できない。そしてそれは人殺しをするほどまでに歪んでしまった生徒をどうやって立ち直らせれば良いのか?と言う新たな悩みを生み、愛子は考え込んでしまう。豹変したハジメの事を考えてた事に対する寝不足&早朝出発、そして馬車と違い、座り心地の良いシートと車の程よい揺れが揺り篭代わりとなり、愛子はたちまち夢の世界へ。そしてそのままハジメの膝の上に倒れた。これがシアなら遠慮なくチョップをかましているであろう状況にも拘らず、起こす様子が無いハジメにユエが声を掛けた。

 

「……ハジメ、愛子に優しい」

 

「……まぁ、色々世話になった人だし、これくらいはな」

 

「そうだね。きっと、昨日もずっと私達がどうすれば戻ってきてくれるかずっと悩んでて碌に眠れてないんだと思う」

 

 そう言いながら、愛子に優しい視線を向ける香織に目を向けてから、ユエも愛子に視線を向けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて山の麓で車から降りた一行。香織や親衛隊のメンバーが日本では滅多にお目にかかれない自然風景の芸術に見とれる中、ハジメは30センチ程度の鳥の姿をした機械。無人偵察機“オルニス”を先行させて、自分達も山道を進んでいく。

 

「はぁはぁ、きゅ、休憩ですか……けほっ、はぁはぁ」

 

「ぜぇー、ぜぇー、大丈夫ですか……愛ちゃん先生、ぜぇーぜぇー」

 

「うぇっぷ、もう休んでいいのか? はぁはぁ、いいよな? 休むぞ?」

 

「……ひゅぅーひゅぅー」

 

「ゲホゲホ、南雲達は化け物か……」

 

 が、ハジメ達と愛子達のステータスの差が出たのか、魔物の目撃情報がありウィル達のパーティも調査を行ったであろう山の6合目に到着する頃には愛子と親衛隊の面々はグロッキー状態だ。

 

「と言うか……竜峰はまだしも、白崎さんまで息一つ切らしてないのか……」

 

「なんか……男として色々負けた気がする……」

 

 そして、治癒師という、お世辞にも体力や筋力が優れてる天職とはいえ無い筈の香織までもが、普通にハジメに着いて行く事が出来ており、尚且つ息も切らしてない様子に男子生徒は男としてショックを受けざるを得ない。尤も、男子二人が地面に倒れこんでるのに対して、優花たちは木に寄りかかる程度に留まってる時点で「男として~」と言うのは今更である。そんな彼らを差し置いて、ハジメ達は周囲の探索を兼ねた小休止となり、カナタ達は近くの小川へと足を運ぶ。周囲を念入りにオルニスに探索させている合間、彼らも休憩を取っている。香織とシアは裸足になって河に入り、水の流れる感触を満喫し、途中からユエもそれに参加している。

 

「そういや流水って吸血鬼の弱点だったが……まぁ、今更か」

 

 と、カナタはそんな事を口にした。そもそもそれを言ったら日光の下でも普通に活動してる時点で、この世界の吸血鬼はカナタ達の吸血鬼とは血を吸う事以外は殆ど違っている。やがて、少し回復した愛子達と親衛隊も合流、素足で川を楽しんでいる女の子三人の姿に鼻の下を伸ばしている男子達に優花達の冷たい視線を向けてる中、ハジメが彼らを睨み付けるとその眼力に身体を震わせ目を反らす。

 

「ふふっ、南雲君はホントにユエさんと白崎さんを大事になさっているんですね」

 

 と、愛子が嬉しそうな表情で彼の隣にしゃがむ。それに対して特に何も言わずに肩を竦めるだけのハジメ。そこにユエがその通りだと言わんばかりに彼の膝の上に座り、香織もハジメに寄り添うように腰を下ろす。そしてシアもカナタの隣に座り、彼に寄りかかる。最初こそ「二股なんていけません!」と言う姿勢の愛子だったが、香織からユエの生きてた環境(教会騎士が居た為、ユエの種族に関しては伏せていた)を聞いた。世界や環境が違えば常識も違うし、そもそもハジメではなく、自分たちの方がそれを望んだ事を説明され愛子も納得せざるを得なかった。特に愛子は社会科教師、それこそ歴史を理解していく中で同じ日本でも時代や情勢が違えば常識は変わってくる事は嫌と言うほど理解しており、今は三人のこともちょっと複雑な胸中ながらも認めている。

 

「……これは?」

 

 そんな彼らの様子に園部達女生徒はキャーキャーと歓声を上げ、玉井達男子はギリギリと歯を噛み締めている中、ハジメが呟いた。

 

「何か見つけたの?」

 

「川の上流に……これは盾か? それに、鞄も……まだ新しいみたいだ。当たりかもしれない。ユエ、香織、行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 それから、大急ぎで川の上流を進んで行くと、紐が引きちぎられ中身の散乱した鞄や、大きくひしゃげた金属製の盾が見つかる。それだけでなく、周囲の木には何かが擦れたような後が見られた。その後を辿っていくうちに、折れた剣や血痕が見つかり、何かと争いながら、いやおそらくは逃げながら移動してると推測できた。

 

「ハジメ君、このペンダント……」

 

 やがて香織が一つのロケットペンダントを見つけ、それを差し出す。中を開けてみればそこには一人の女性の写真。ペンダント自体も古びた様子は無く、間違いなく最近此処に来た誰かの品だろうと言う事で回収した。更に戦闘の跡を追いながら進んでいくと、やがて奥の方に小さな滝が見える大きな川のある所に出た。破壊や戦闘による周辺への被害が一番大きい辺り、ここで誰かは逃走を諦め、何かとの本格的な戦闘に移行したようだ。

 

「ここで本格的な戦闘があったようだな……この足跡、大型で二足歩行する魔物……確か、山二つ向こうにはブルタールって魔物がいたな。だが、この抉れた地面は……」

 

 今までの戦闘の痕跡からハジメはブルタールと言うオーガやオークに似た魔物の仕業を推測していた。が、その推測を大きな川に出来ていた支流が否定している。理由は自然に出来た支流にしては流れが直線的であり、そして支流周辺の木々が焼け焦げた状態でなぎ倒されていたからだ。

 

(ブルタールにはこんなレーザーの様な熱光線を放つ手段は……レーザーの様な熱光線?)

 

 そこまで考えハジメはある可能性を思いつく。そう、この現状を作り出せる存在を自分達は知っている。そして焼け焦げた木々に触れてるカナタが表情を険しくしている辺り、その可能性でほぼ間違いないだろうと判断する。ならばあまり長居をしているのも得策ではないと、ハジメはオルニスを上流に飛ばしながら自分達は下流へ向かうことにした。何かの足跡が川縁にあるということは、川の中にウィル達が逃げ込んだ可能性が高いということだ。ならば、きっと体力的に厳しい状況にあった彼等は流された可能性が高いと考えたのだ。そして――

 

「おいおい、マジかよ。気配感知に掛かった。感じから言って人間だと思う。場所は……あの滝壺の奥だ」

 

「生きてる人がいるってことですか!」

 

 そして、下流に沿って進んだ先、上流にあったそれより遥かに大きな滝の奥から人の気配を感じた。そして、ユエの魔法で滝壺の水をモーゼの如く割ってみればそこには洞窟があり、その洞窟を進んだ先で二十歳ぐらいの青年が倒れてるのを見つけた。傍に近づき、様子を見れば特に大きな外傷も無く単に寝ているだけの様だ。そしてハジメは彼を揺すって起こす――

 

「ぐわっ!?」

 

 ――なんて優しい事はせず、男性の額に思いっきりデコピンをかました。そして、あまりの痛さに額を抑えてのたうつ青年に容赦なく問い掛ける。

 

「お前が、ウィル・クデタか? クデタ伯爵家三男の」

 

「いっっ、えっ、君達は一体、どうしてここに……」

 

「質問に答えろ。答え以外の言葉を話す度に威力を二割増で上げていくからな」

 

「えっ、えっ!?」

 

「お前は、ウィル・クデタか?」

 

「えっと、うわっ、はい! そうです! 私がウィル・クデタです! はい!」

 

 最初は状況を理解できず、うろたえていた彼だったが、ハジメが二回目のデコピンの姿勢に入ると、今も尾を引く痛みもあって、理解できないながらも何とか名乗る。

 

「そうか。俺はハジメだ。南雲ハジメ。フューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で捜索に来た。生きていてよかった」

 

「イルワさんが!? そうですか。あの人が……また借りができてしまったようだ……あの、あなたも有難うございます。イルワさんから依頼を受けるなんてよほどの凄腕なのですね」

 

 その言葉に愛子はハジメにも他人を思いやる優しさが残ってるんだと嬉しそうにしていたが、その優しさが身内限定になってる事を知ってるカナタ達には「これでイルワにより大きな貸しが作れる」と言う意味合いでの事だと言うのはすぐに理解できた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ウィルから事の経緯を確認した所、ハジメとカナタの予感した通りの答えが返ってきた。ウィル達は五日前、ハジメ達と同じ山道に入り五合目の少し上辺りで、突然、十体のブルタールと遭遇したらしい。流石に、その数のブルタールと遭遇戦は勘弁だと、ウィル達は撤退に移ったらしいのだが、襲い来るブルタールを捌いているうちに数がどんどん増えていき、気がつけば六合目の例の川にいた。そこで、ブルタールの群れに囲まれ、包囲網を脱出するために、盾役と軽戦士の二人が犠牲になったのだという。それから、追い立てられながら大きな川に出たところで今度は漆黒の竜と遭遇したらしい。

 

「やっぱり、上流のあれはドラゴンブレスの跡だったか。俺が使ってるのとほぼ同じ性質の魔力の残滓が残ってたから、まさかとは思ってたが……」

 

(竜峰君が使ってるのと同じ……?)

 

 そいつはウィル達が川沿いに出てくるや否や、特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落。流されながら見た限りでは、そのブレスで一人が跡形もなく消え去り、残り二人も後門のブルタール、前門の竜に挟撃されていたという。そして、カナタの呟きが聞え、その意味が判らず愛子は内心首を傾げていると、ウィルは突然、その場で嗚咽を漏らしながら涙を流し始めた。

 

「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで……それを、ぐす……よろごんでる……わたじはっ!」

 

 愛子は彼の傍にしゃがみ、彼の背をゆっくりと摩っている。その様子に誰も何も言えずにいた。そんな中――

 

「生きたいと願うことの何が悪い? 生き残ったことを喜んで何が悪い? その願いも感情も当然にして自然にして必然だ。お前は人間として、極めて正しい」

 

 彼の胸倉を掴み、持ち上げ宙吊りにした。

 

「だ、だが……私は……」

 

「それでも、死んだ奴らのことが気になるなら……生き続けろ。これから先も足掻いて足掻いて死ぬ気で生き続けろ。そうすりゃ、いつかは……今日、生き残った意味があったって、そう思える日が来るだろう」

 

「……生き続ける」

 

 普段であればあの姿勢から「お前の境遇や気持ちなんぞ知るか」的な事を言ってそのまま彼を連れて行くであろうハジメの意外な発言に愛子達+シアは驚いていた。

 

(……ハジメ君)

 

 けれど一人だけ、香織だけは悲しそうな表情を彼に向けていた。似ているのだ、今のウィルと豹変する前のハジメが。無力感に苛まれながらも何も出来ず、ただ誰かが助けに来てくれる事を祈るしか出来ない事への無力感。そんな様子が嘗ての自分と重なったのだろう。そしてそんなウィルが自分が生き残った事を悔いている事は遠回りに「お前が生き残っているのはおかしい」と自己の生を否定されたように感じたのだろう。

 

 ハジメに言われた事を吟味しているのか、若干呆然としているウィルをカナタ達が連れて行き、ハジメも彼らの後に続こうとした所で、香織が彼の背中から抱き付いた。

 

「私はハジメ君がこうして今も生きていてくれる事が嬉しいし、何があっても生きていて欲しい。ううん、一緒に生きていたい」

 

 正しい、正しく無いは関係ない。他ならぬ香織自身がハジメの、愛する人の生を望んでいる。

 

「もしもそれを、周りが間違いだと言うのなら……私は喜んで間違い続ける。それが私の望みだから……」

 

「香織……」

 

 そして、トコトコと近寄ってきたユエがハジメの手をそっと握る。

 

「……大丈夫、二人は間違ってない」

 

「……ユエ」

 

「……全力で生きて。生き続けて。ずっと一緒に。ね?」

 

「……ははっ」

 

 二人の言葉にハジメは自嘲気味な笑い声を挙げる。奈落の底で色々達観したと思っていたがキャサリンの懐の広さ然り、イルワの交渉力然り、まだまだ人生の先達には敵わない所も多い。さっきの発言とて、我ながら子供じみた癇癪を起こしたものだと思う。

 

(俺もまだ、20に満たない子供と言う事か……)

 

 そしてそんな自分は今こうして慰めてくれている香織やユエは勿論、カナタやシアと言った数少ない仲間に支えられながら生きている。なら、自分の生を否定するのは彼らの想いすら否定する事になる。それはハジメにとっても望む所ではない。

 

「ああ当然だ。何が何でも生き残ってやるさ……お前達を残して逝ったりなんて絶対にしない」

 

「ん」

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、一行が洞窟の外に出るとそいつは居た。

 

「グゥルルルル」

 

 低い唸り声を上げ、漆黒の鱗で全身を覆い、翼をはためかせながら空中より金の眼で睥睨する一匹の黒竜が彼らを待ち構えていた。

 

 


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