ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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ついにやってきましたVSティオ戦。果たして彼女はどうなるのか?


第22話『漆黒を穿つモノ』

 体長は七メートル程。全身鱗にを覆われ、長い前足には五本の鋭い爪がある。背中からは大きな翼が生えており、自身の表面をうっすらと魔力で覆っている漆黒の竜。色や細かい特徴の違いこそあれど、殆どカナタが変身した時とほぼ同じ特徴のドラゴンが翼をはためかせながら滞空している。

 

(こうして、対峙してみるとすごい迫力だな……)

 

「なぁ、ハジメ」

 

「なんだ?」

 

「俺って何時もこんな感じだったのか?」

 

「雰囲気はな……尤も、敵として向き合うのは今回が初めてだが」

 

 直後、漆黒の竜はその視界にウィルを捕らえるとキュゥワァアアアと言う不思議な、ハジメ達にとっては聞きなれた音色が響く。

 

「ブレスが来る! 全員退避だっ!!」

 

 と、カナタが叫ぶと同時にハジメ達は散開。けれど、愛子やウィルは突然の脅威に意識と体が追いついておらず動けずにおり、ウィルは少し前に遭遇した恐怖から竦みあがって動けずに居た。

 

(やばっ!)

 

 それに気付いたカナタが咄嗟に竜と愛子達の間に飛び込むと全身が赤く輝き、黒竜から暗闇を思わせる紫色のブレスが放たれる。普通であればそれは彼らを飲み込み、跡形も無く蒸発させる。けれど、深紅の輝きが膨張し、それを受け止めた。

 

「えっ? えぇえ~~~っ!!?」

 

 やがてその輝きが晴れると同時に、愛子の絶叫が響く。彼らを庇うように竜に変身したカナタが腕をクロスさせながら黒竜のブレスを受け止めていた。愛子の様に声こそ出していないが、全員が唖然としている。その内ブレスが途切れ、カナタはクロスさせていた腕を解く。

 

『っつぅ~~……いざ自分で喰らってみると結構痛いな、これ……」

 

「えっ、今の声……竜峰君!?」

 

 愛子の言葉を皮切りに他の生徒達も「うそっ!?」「はっ? あの竜、竜峰なのか?」と口々に驚きの声を出している。そこに遅れてハジメ達が合流する。

 

『ハジメ達はウィルさん達の守りを優先してくれ、流石に庇う余裕は無さそうだ』

 

「援護射撃は?」

 

『隙と余裕があれば』

 

「グゥルァアアアッ!!!」

 

 直後、突然現れた同族に対して、威嚇するように吼える黒竜にカナタも同じ様に咆哮を返して、翼を広げ竜へと突貫。二頭の竜は両手をがっちりと組み合い、拮抗状態となる。

 

「な、南雲君っ! な、何なんですか、あれっ!? 竜峰君がド、ドラゴンに!」

 

「落ち着けよ先生。まぁ、一言で言えばあれが竜魂士って天職の戦い方って奴だ」

 

「あ、あれが……」

 

「ドラゴンに変身って嘘でしょ……?」

 

「おいおい……勇者よりチートじゃねぇか、そんなの」

 

 生徒達が呟き、愛子の視線の先では黒と赤の二体の竜が殴り合ってる。

 

『ぐっ!?』

 

 やがて、黒の竜が身体を一回転。尻尾でカナタの頭部を殴った。そして、カナタが怯んだ隙に追撃――

 

「ちっ!」

 

 ――を掛けずにすぐさまハジメ達の……いや、視線の向きからウィルの方へと向かいながらブレスの発射準備に入る。ハジメと香織がドンナー&シュラーク、ナイチンゲールで銃撃を放つも、黒竜の頑強な鱗がそれを弾き、止まる様子は無い。

 

「“渦天〟!」

 

 ユエの声が響くと共に黒竜の頭上に直径4メートルの渦巻く黒球が現れ、それがドラゴンを地面に押し付ける。今までの様なほかの魔法に重力魔法を付加するのと違う、純粋な重力で相手を圧し潰す魔法。普通のモンスターなら数秒とせずに圧殺されるそれを受けても、黒竜は尚も健在。けれど、流石にブレスの発射は中断され、地面に這い蹲ったまま動けずに居る。

 

「動きは封じた……シア!」

 

「コレでもぉ……喰らえですぅっ!」

 

 ユエの言葉を聞き、彼女が黒竜の頭部に向かってドリュッケンを振り下ろす。重力魔法修得後、ドリュッケンも改造が施されており、インパクトの直前に魔力を流すだけでハンマーの重量が増し、その分破壊力も跳ね上がる。

 

「わっ、ハジメさんが付与してくれた重力魔法凄く相性が良いです!」

 

「アホウサギ! 外したら意味ねぇだろうが!」

 

「違う……あの状況からかわされた」

 

 喰らう直前、黒竜はその膂力で首を動かしてシアの一撃を避けていた。ドリュッケンは地面を叩き、地面を爆散させ小さなクレーターを生み出している。

 

「グルァアア!!」

 

 そして、そのままユエに向かって火炎弾を撃ち、ユエは重力魔法で横に“落ちる”事でそれを避けるが、その際に重力の拘束を解いてしまい、黒竜は自由を取り戻す。

 

「あっぐぅ!!」

 

 直後に放たれたテイルスイングをシアはドリュッケンで何とか防ぐもその衝撃で木々の向こう側へ吹っ飛ばされる。

 

 邪魔者が居なくなった事で黒竜は再び浮かび上がり、その視線をウィルへと向ける。殺意を孕んだ視線を向けられ「ヒッ!?」とウィルが悲鳴を挙げる。が、黒竜はすぐに何かを感じ、その視線を上空に向ける。

 

『さっきから……』

 

 そこにはドラゴンブレスのチャージに入ってるカナタの姿。それを見て黒竜も迎え撃つべくブレスの発射体勢に入る。

 

『無視してんじゃねぇッ!!』

 

「グゥアアアアアアっ!」

 

 カナタの叫びと黒竜の雄たけびが響き、両者のブレスが放たれ、赤と紫の光の奔流がぶつかりあい、二色の火花の様に辺りに飛び散る。やがて両者のブレスは拮抗していたが、込められた魔力量の差が出たのか、カナタのブレスの方が先に減衰し始め、ヤバイと察したカナタはブレスを中断し、黒竜のブレスを避ける。

 

(チャージ時間はこちらが長い筈なのに撃ち負けた!? ちっ、流石は本物の竜。竜としての戦い方はあっちに分がある訳か……。しかし、この黒竜……)

 

 周りにこれだけ直接的な障害が居るにも関らず、黒竜はそれらをスルーしてでもウィルを狙おうとしている。

 

(よく判らんが、なりふり構わずウィルさんを狙ってる?)

 

 その様子はまるでそう言う風に行動をプログラミングされてるかの様だ。そして、生物に対するプログラミングとは暗示を指す。つまり――

 

『ハジメ! 恐らくこいつ、ウィルさんを最優先で殺すように誰かに暗示を掛けられてる!! 余り時間をかけるとそれだけウィルさんが危険だっ!』

 

「ユエ! ウィル達の守りに専念しろ! 俺達は仕留めるのに専念するっ!」

 

 となると、長期戦になればその分、隙や流れ弾と言った被害が出る可能性も大きくなる。ハジメはウィル達の守りをユエに一任、黒竜を速攻で仕留めるべく攻勢に出る事にした。

 

「んっ、任せて!」

 

「香織っ!」

 

「うんっ!」

 

 香織がハジメから受け取ったシュラーゲンを構え、ハジメもオルカンの発射口を黒竜に向けて同時に引き金を引く。対物弾とロケット弾が黒竜に着弾。流石にロケット弾の爆風と対物ライフルの弾丸の直撃の衝撃は大きく、黒竜も怯むが致命傷ではない。

 

『尻尾を武器にするってのは考えが及ばなかったな、あんたが見せてくれたお陰だ』

 

 元々人間に尻尾は無い。その感覚から、今までカナタには尻尾を使うと言う事を意識していなかったが、こうして実際に竜と戦う事で「そう言えば、こう言うことも出来るのか」と感じる部分があった。

 

『こいつはお礼だっ!!』

 

「グルゥゥッ!?」

 

 カナタが身体を縦に一回転。その勢いで尻尾を黒竜の背に叩き付ける。そして地面に落ちていく黒竜の腹にハジメが“豪脚”による蹴りを叩き込むと黒竜は仰向けの姿勢で地面に落ちる。

 

「クゥワァアア!!」

 

 そこにカナタの火炎弾とハジメが投げ込んだ手榴弾が着弾&爆発。黒竜は爆炎に包まれ苦悶の声が上がる。その段階で黒竜はカナタとハジメを脅威と認識したのか、今までウィルに向けられていたヘイトを二人に移す。

 

 黒竜の放つ火炎弾をハジメは縮地や空力で回避、カナタは腕で防いだり、同じく火炎弾を撃ちこみ相殺。隙を付いて間合いを詰めたハジメが腕力を向上させる技能“豪腕”+義手のショットシェルによる激発の勢いを乗せた拳で頭部を殴り、怯んだ所にカナタが黒竜の尾を掴み、一本背負いの要領で地面に叩き付け、近距離から腹部に火炎弾を3発撃ち込む。お返しにブレスを放とうと、黒竜は口を開けたが、そこに香織がシュラーゲンを撃ち、牙を撃ち抜きブレスを食い止め、カナタとハジメは間合いを置く。

 

「グルゥ……」

 

 黒竜の鱗は所々ひび割れ、口元からは血が滴り落ちている。致命傷こそまだ無いが、確実にダメージは蓄積している。

 

「すげぇ……」

 

 黒竜を圧倒するハジメ達の様子に戦いに見入っていた男子生徒がポツリと呟いた。言葉はなくても、他の生徒達や愛子も同意見のようで無言でコクコクと頷き、その圧倒的な戦闘から目を逸らせずにいた。ウィルに至っては、先程まで黒竜の偉容にガクブルしていたとは思えないほど目を輝かせて食い入るようにハジメを見つめている。そしてハジメがトドメとばかりにパイルバンカーを装着。黒竜の腹に杭を打ち込むべく飛び掛る。

 

「グゥガァアアアア!!!」

 

 が、決死の足掻きと言わんばかりに黒竜が吼えると、黒竜の膨大な魔力が爆発。その爆風が跳躍していたハジメを吹き飛ばし、カナタも腕を顔面でクロスさせて、それを防ぐ。その一瞬を隙を付いてもはや飛ぶ事も忘れ、黒竜はウィルへと突進。

 

『……シアっ!』

 

「はいですっ!」

 

 カナタが叫ぶといつの間にか、彼らに合流していたシアが黒竜との間合いを詰める。

 

「さっきのお返し……吹っ飛びやがれですぅ!」

 

 突進してくる黒竜を打ち返す様にドリュッケンをフルスイング。少しアッパー気味に振りぬかれた一撃は黒竜を大きく仰け反らせ動きを止める。その隙をついてカナタが黒竜の腕を掴み、そのまま地面に押し倒し、大きく口を開ける。

 

『この、いい加減……くたばれっ!』

 

 そして、その牙を黒竜の首筋に突き立てる。今までのダメージで皹が入っていた鱗では竜の顎の力に耐える事は出来ず、その牙は鱗の下の肉を穿つ。

 

『っ!? あぁぁああああああああッ!?』

 

 すると、あまりの激痛に黒竜は目を見開き、先ほどまでの竜の咆哮とは違う。女性の悲鳴が響きわたった。

 

「えっ?」

 

『はっ?』

 

 突然の出来事にカナタとシアの間の抜けた声が響き、カナタは咄嗟に噛み付いていた牙を抜いた。

 

『ぐぅ、うぅ……ここは? わ、妾は、一体何を……?』

 

 誰もが状況を理解できずに居る中、ユエがハッと何かに気づいた様に口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もしかして、竜人族?」




ちょっと短いですが、今回はキリも良いので戦闘シーンのみで。本作ではケツに杭ではなく、首筋に牙が刺さる結果になりました。

しかし、最近香織がヒーラーとしてよりガンナーとして戦うパターンが多くなってる様な気がする。

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