ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

41 / 68
第23話『漆黒に刻まれる朱』

「……もしかして、竜人族?」

 

『いかにも……妾は竜人族の一人じゃ』

 

「滅んだはずの竜人族が何故こんなところにいるんですか?」

 

「それは俺も気になるな、しかも一介の冒険者を殺すように暗示まで掛けられて。もう敵対する気が無いってんなら、さっさと吐け」

 

『う、うむ。じゃが、その前に――』

 

 とハジメが訊ねると黒竜は歯切れの悪そうな返事を返すとカナタの方へと視線を向けた。

 

『こう、押し倒されたままの姿勢は些か恥ずかしいものがある。詳しい説明をする前によけてもらえるとありがたいのじゃが……』

 

『え? ……あっ!』

 

 そこでカナタは自分の今の状態に気づく。声からして目の前の黒竜(竜人族)はメス、つまりは女性と言うのは確実。互いに竜の姿をしているとは言え、今の構図は男性が女性を無理やり押し倒している姿勢だ。

 

『わ、わるいっ!!』

 

 その構図に優花達の視線が批難めいたモノになり始めたので、カナタが慌てて彼女から離れると、身体を起こした黒竜は黒い魔力の繭に包まれたかと思ったら、それが次第に小さくなっていき人と同じぐらいのサイズになると繭が霧散。中から噛み痕から血が滴っている黒い着物姿の女性が両足を揃え、片手で自分の身体を支える形で座ってる姿を現すと、親衛隊の男子生徒達は戦慄した。

 

「なってこった……こいつは凶悪だ」

 

 二十代前半の女性、艶やかな黒髪に竜の時と同じ金色の瞳。そして、戦闘の激しさからか肩口まではだけた衣服からシアをも越える双丘がその存在を主張している。

 

「これがふぁんたずぃ~かっ」

 

「くそっ、起きろよ! 起きてくれよ! 俺のスマホ!!」

 

 と、そんな思春期真っ只中の男子特有の反応をしている男子生徒達に優花と、男子生徒の言う凶悪さで一番負けているユエからの冷たい視線が刺さる。やがて、ユエは男子生徒達から視線を外して香織から首の傷の治療を受けている竜人族の女性の方に向き直った。

 

「……一体、なにがあったの? カナタは貴方は誰かに操られてるって言ってた」

 

「その通りじゃ。妾はあの男、仮初めの主に暗示をかけられ、そこの青年と仲間達を見つけて殺せと命じられたのじゃ」

 

 今まで竜人族は俗世を離れ、隠れ里でひっそりと暮していたのだが、ある時トータスの外側の世界からの来訪者、即ちハジメ達が召還された事を察知し、その詳細の調査の為に彼女は里を出た。そして人里に紛れて情報を収拾する予定だったのだが、途中で休憩を取る事にしたらしい、竜の姿のままで。

 

「その時じゃ、あの男が現れて妾に洗脳や暗示と言った魔法を掛け始めたのじゃ」

 

 普通であれば、それを察知すればすぐさま起き上がり反撃なり阻止するなり出来た。けれど、竜化状態で眠っていたのが不味かった。何時かオットーから聞いた諺の通り、竜と言うのは守りの薄い尻か逆鱗に刺激を受けない限りはよほどでない限りは起きる事は無い。が、そもそも竜人族は他の生物と比べ精神面では非常にタフだ。普通であれば、睡眠状態でも操られるような事にはならない筈だった。

 

「恐ろしい男じゃった。闇系統の魔法に関しては天才と言っていいレベルじゃろうな。そんな男に丸一日かけて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾と言えど、流石に耐えられんかった……」

 

「それはつまり、調査に来ておいて丸一日、魔法が掛けられているのにも気づかないくらい爆睡していたって事じゃないのか?」

 

 そんなハジメの一言で全員の彼女を見る眼つきがなんとも言えないモノに変わり、女性は居心地悪そうに視線を逸らす。因みに、何故に丸一日も洗脳され続けていたのかを知っているかと言うと、洗脳されてる間の記憶も残っているらしく、洗脳が完了した後、その男は「丸一日掛るなんて……」とぼやいていたそうだ。そして、ウィル達に襲い掛かっていた時にカナタ達と遭遇、フルボッコにされた後にカナタに押し倒されて思いっきり噛み付かれた時の激痛で正気に戻ったと言う事らしい。

 

「……ふざけるな」

 

 彼女が説明を終えると、ウィルは拳を震わせながら静かに呟いた。

 

「……操られていたから…ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!」

 

 どうやら、目の前の存在が脅威で無くなった事により、他の冒険者達を殺された事に対する怒りが湧き上がってきたらしく、ウィルは声を荒げる。そして彼女はそれに対し、何の反論もせずに静かにそれを聴いていた。

 

「大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう! 大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる」

 

「……今話したのは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない」

 

「ウィルさん、彼女の言ってる事は本当です」

 

「っ、一体何の根拠があってそんな事を……」

 

「竜に属するものが“誇り”や“矜持”と言った言葉を使う時は自分の言動を決して曲げない、偽らない時です。さっきの戦闘で見せたとおり、曲がりなりとは言え俺も似たようなモノですから」

 

「……竜人族は高潔で清廉。私は皆よりずっと昔を生きた。竜人族の伝説も、より身近なもの。彼女は〝己の誇りにかけて〟と言った。なら、きっと嘘じゃない。それに……嘘つきの目がどういうものか私はよく知っている」

 

 カナタの言葉に、ユエも同意してその視線はどこか遠くを見ている。孤高の王女として祭り上げられ、そして裏切られた。それはユエの周りの人間は最初から彼女を利用する為だけに接していたと言う事。つまりは嘘で溢れていたと言う事だ。だからこそ、ユエはその経験から嘘と言うものに敏感になっている。そんな寂しそうな様子をしているユエを香織が後ろからそっと抱き締めた。

 

「ふむ、そちらの同族はともかく、この時代にも竜人族のあり方を知るものが未だ居たとは……いや、昔と言ったかの?」

 

「……ん。私は、吸血鬼族の生き残り。三百年前は、よく王族のあり方の見本に竜人族の話を聞かされた」

 

 その為か、ユエは竜人族の高潔さに対して、憧れを抱いている。だからこそ、ウィルの罵倒を止めるべくカナタに続き口を開いたのだろう

 

「何と、吸血鬼族の……しかも三百年とは……なるほど死んだと聞いていたが、主がかつての吸血姫か。確か名は……」

 

「ユエ……それが私の名前。大切な人達に貰った大切な名前。そう呼んで欲しい」

 

 そしてうっすらとだが、ユエは幸せそうな笑みを浮べ、自分を抱き締めている香織の手に自分の手をそっと重ねた。その表情と雰囲気に女性陣は何か物凄く甘いものを食べたような表情をし、男子達は、頬を染め得も言われぬ魅力を放つユエに見蕩れている。

 

「……それでも、殺した事に変わりないじゃないですか……どうしようもなかったってわかってはいますけど……それでもっ! ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって……彼らの無念はどうすれば……」

 

 ウィルもその様子に勢いこそ削がれはしたが、それでも先輩冒険者の無念は残ってるらしく、許す事は出来ない様だ。ハジメは内心、「また、見事なフラグを立てたもんだな」と変に感心しながら、ふとここに来るまでに香織が拾ったロケットペンダントを思い出す。

 

「ウィル、これは途中で拾った物なんだが、ゲイルってやつの持ち物か?」

 

 そう言って、取り出したロケットペンダントをウィルに放り投げ、ウィルはそれを受け取ると、マジマジと見つめる。

 

「これ、僕のロケットじゃないですか! 失くしたと思ってたのに、拾ってくれてたんですね。ありがとうございます!」

 

「あれ? お前の?」

 

「はい、ママの写真が入っているので間違いありません!」

 

「マ、ママ?」

 

 と、ウィルにマザコンの気配を感じはしたが、大事なロケットが戻ってきたお陰で気持ちが落ち着き、冷静さを取り戻したが。冷静になったらなったで、今度は再び洗脳され更なる被害が出る前に彼女は殺すべきだと主張しだした。が、そんなのは建前であり、ホントの理由は復讐なのだろう。

 

「操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、あの危険な男を止めるまで。あの男は、魔物の大群を作ろうとしておる。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ……勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか」

 

 魔物の大群、その言葉にカナタ達も含め全員が驚愕し、彼女と表立って戦っていたカナタに視線が集まる。その視線は一名を除いて、彼女をどうするのか?と言う意味が込められており、残りの一名は早くトドメを、と言う意味だろう。カナタは彼女に視線を向け、数秒ほどを彼女を見つめ、そして自分の考えを告げた。

 

「この件は彼女もまた被害者です。なら、猶予も何も彼女を討つ理由はありません」

 

「な、何を言ってるんですか! それで彼女を見逃して、また操られたらどうするんですか!? これ以上被害を出さない為にもここでトドメを――」

 

「狙うのなら彼女ではなく彼女を操っていた男の方です。仮にここで彼女にトドメを刺しても、その男が健在ならば、またどこかで彼女に迫る力を持った魔物を洗脳してまわりに被害を出すだけ。ならばその男を止める為に彼女の持つ情報と力を借りる方が賢明な判断です。教会も力ある者と認識している竜人族なら実力は申し分ないはずです」

 

 冷静ではあるものの、ウィルの言ってる事は自身の恨みを恨みとして受け止めきれず正当化しているに過ぎない。

 

「それは……そうですけど」

 

「それに、こうした事もまた冒険者の仕事の一部です」

 

 そう、冒険者として仕事をするという事は常に命の危険と隣り合わせ。何時何処で誰が死ぬ事になってもおかしくない。

 

「冒険者として仕事をしていくなら仲間や行きずりでパーティを組んだ人の死に立ち会う事は幾らでもあるはず。その度に恨みや憎しみに駆られて行動していれば、いずれそれはウィルさん自身を滅ぼす事になると思います。もし、それをどうしても何とかする事が出来ないのなら……悪い事は言いません、冒険者は諦めて他の道を探したほうが良いと思います」

 

 その言葉にウィルは歯を食い縛りながら俯いていた。イルワの言ってた冒険者としての素養が無い、と言うのはこうした何かを割り切る事が困難な精神面も指していたのだろう。皮肉な事に今回の事件は想定とは違いつつも、イルワの目的に沿った流れとなっていた。

 

「同族の青年よ、口添え感謝する。妾の名はティオ・クラルスじゃ。しかし、もはや竜人族は妾達、クラルス族以外滅んだと思っておったのじゃが――」

 

 竜人は遥か昔にある出来事がきっかけとなり滅んだとされている。ティオ達の一族は辛うじて難を逃れるも、人の世には基本干渉はしない事を決めて隠れ里で細々と暮していた。

 

「まだ生き残りがおったとはの。お主、カナタといっておったな、一体何処の一族の者なのじゃ?」

 

「え? ああ、残念ながら俺は竜人族じゃないですよ」

 

「何を申しておる? 先ほどの戦いでも竜人族の象徴とも言える竜化を使っておったではないか?」

 

「確かに似てますけど、あれは竜魂士という天職の能力です。なので俺自身は普通の人、間……?」

 

 カナタはそこで言葉を止めた。何故なら、ティオがこちらを見ながら驚愕していたからだ。

 

「竜魂士……いま、そなたは竜魂士と申したのか!?」

 

「は、はい……」

 

「そう、か……そうか」

 

 次の瞬間ティオは目尻に涙を溜めながらも笑顔を浮かべており、その様子にカナタ達は驚いた。

 

「彼らが父上達と共に竜魂士と言う存在を作り何百年……やっと、やっと我らが“王”は再誕を果たされたという事なのじゃな……」

 

 モットーから、アジーンと竜人族に繋がりがある事は聞いていた。けれど、ティオの様子を見た限り、竜人族にとってアジーン、そしてきっとチェトレも含めた2柱の竜はそれほどの存在だったのだろう。が、カナタは嘗てのアジーンの事は全然分らない事もあり、ティオの感じている気持をカナタが理解する事は難しく、どう言葉を掛ければ良いか分らなかった。

 

「えっと、感動している所を悪いんですけどティオさん。貴女を操っていた例の男の事についてもう少し詳しく教えてくれないでしょうか?」

 

 が、何も言わないは言わないのも居心地が悪い事もあり、カナタは話題をティオを洗脳していた男に戻すべく問い掛けると、ティオも「そうであったな」と手を離すと目尻を拭う。

 

「それと、敬語やさん付けはいらぬぞ。妾の事は普通にティオと呼んでくれて良いし、敬語も不要じゃ」

 

「ですけど……」

 

「不要じゃ。むしろそう言う風に他人行儀にされる方が妾的には不満じゃぞ」

 

「……分かった。それじゃあティオ、改めてだけどその魔物群れを作ってるって言う男の事、もう少し詳しく聞かせてくれないか?」

 

「承知したのじゃ」

 

 と、カナタが折れて接し方を変えると男子生徒の方から「あんな綺麗な人とフラグを……竜魂士、なんて恐ろしい天職なんだ」とか「竜峰、お前もか」と言う呟きが聞えたが、聞えなかったフリをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 曰く、その男は黒いローブを着ており、数千という規模の魔物の大群を作り、ウルの街を襲うつもりでいるらしい。が、流石にそれだけの数に洗脳を掛ける事は出来ない。だからこそ、群れの長というべき存在に狙いを絞って洗脳を施す事で規模を拡大していたらしい。それを聞き、ハジメ達の脳裏には魔人族の存在が思い浮かぶも、それはティオによって否定される。

 

「その男は、黒髪に黒い目をしたおぬし達と同じぐらいの歳をした人間の少年じゃった。妾の洗脳を終えると頻りに「これで自分は勇者より上だ」等と口にしており、その勇者と言う存在に対する妬みがハッキリと感じられたのじゃ」

 

 その言葉に愛子達に困惑と疑惑が混ざった複雑な表情を浮かべた。洗脳魔法は闇属性に分類される魔法、そして愛子達が探している清水はまさしく闇術使い。更に自身と比較するほど勇者、即ち光輝と近しい人物となれば、もはや否定できる部分は無い。

 

「おお、これはまた……」

 

「ハジメ君?」

 

 そんな中、魔物の群れの存在を聞いた段階でオルキスを飛ばして辺りを探っていたハジメが呟き、一行の視線が彼らに集まる。

 

「こりゃあ、三、四千ってレベルじゃないぞ? 桁が一つ追加されるレベルだ」

 

「おいおい、万単位かよ……」

 

「は、早く町に知らせないと! 避難させて、王都から救援を呼んで……それから、それから……」

 

 事態の深刻さに、愛子が混乱しながらも必死にすべきことを言葉に出して整理しようとする。いくら何でも数万の魔物の群れが相手では、チートスペックとは言えトラウマ抱えた生徒達と戦闘経験がほとんどない愛子、駆け出し冒険者のウィルに、魔力が枯渇したティオでは相手どころか障害物にもならない。

 

「あの、ハジメ殿達なら何とか出来るのでは……」

 

 と、ウィルの呟きを聞き彼らの視線が一行に集まる。

 

「そんな目で見るなよ。俺らの仕事は、ウィルをフューレンまで連れて行く事なんだ。保護対象連れて戦争なんてしてられるか。そもそも此処で群れと事を構えるなんざ一番の悪手だ」

 

「だな。街に被害を出すのを防ぐ為にも、まずは戻ろう」

 

「何故ですか? あれほどの力を持ってるのであれば魔物の群れぐらい簡単に――」

 

「これが通常の殲滅戦なら、不可能では無いです。ですが恐らくそいつらもきっと、さっきのティオみたいに、よほどでない限り俺らには眼もくれずに目的地、つまり街に向かって突撃する可能性が高い」

 

 カナタの言葉にウィルはハッとなる。目の前の脅威を正しく認識して他の魔物も自分達に向かってくる、もしくは逃げるのであれば、ハジメの重火器やブレスでなぎ払えば良い。けれど、男の施した洗脳は余計なものは出来る限り無視して目的に合わせて行動するものだし、殲滅できるといっても数万と言う規模を考えれば、数十から数百の範囲で撃ち漏らしが生じるだろう。

 

「そしてそいつらが街に到達すれば間違いなく街は蹂躙されるだけ。ならばまだ距離がある内に町への報告と住人の避難を優先した方が人的被害を0に出来る可能性は高いって事です」

 

「だったら――」

 

「言っとくが、魔導二輪や四輪は俺達で無ければ動かせない。俺らに殲滅をお願いして自分達が街に報告に戻るってのは不可能だからな」

 

 魔導二輪や四輪が何なのかは判らないがウィルが提案しようとしていた事も先に却下され、それ以上の案は無いのか、ウィルも押し黙ってしまう。

 

「南雲君、黒いローブの男というのは見つかりませんか?」

 

「ん? いや、さっきから群れをチェックしているんだが、それらしき人影はないな」

 

 入れ替わるように今度は愛子がハジメに問いかけ、帰ってきた答えに「そう、ですか……」と暗くなってしまう。やがて黒いローブの男性の正体を確かめる為に自分は残ると言い始めた。無論、戦闘能力皆無の愛子を敵の大群が来る所に置いておける筈も無く、親衛隊の生徒達は愛子を説得している。

 

「畑山先生も、黒いローブの男性が清水君かどうか気になるかもしれませんが、園部さん達の安全も考えて今は戻りませんか? きっとみんな先生を置いて戻るなんて事は絶対にしませんし、魔物への対応については私もハジメ君やカナタ君と同意見です」

 

 香織の言葉を聞き、愛子は自分が清水の事で頭が一杯になっていた事に気づいた。故意による殺人未遂を起こした檜山、魔物の群れを引き連れ町を襲おうとしている清水と思われる少年。このトータスに来て愛子にとって余りに受け容れがたい出来事が続いてしまった所為で、視野が狭くなっていたらしい。愛子が親衛隊の生徒達の方を振り返ると全員が頷いており、自分が残るとなれば彼らも残る事は簡単に予測できた。

 

「……カナタ達の言う通りじゃな。妾も魔力が枯渇している以上、何とかしたくても何もできん。まずは町に危急を知らせるのが最優先じゃろ。妾も一日あれば、だいぶ回復するはずじゃしの」

 

 そしてティオの言葉も後押しとなり、まずは街に戻る事で方針が固まり移動を始めた。

 

「あ、少し待って欲しいじゃ」

 

「どうかしたか?」

 

「じ、実はの……魔力が枯渇してしまって動きたくても動けないのじゃ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまぬの……もう少しすれば歩ける程度には回復するとはおもうのじゃが」

 

「いや、まぁ。もう少ししたらどの道ハジメの作った乗り物での移動になるから、そこまで無理はしなくても良いよ」

 

 あれから魔力切れで動けなくなったティオを誰が背負っていくかと言う話になり、男子生徒全員が「我こそは!」と名乗り出るも、明らかに下心満載の様子に優花達から却下が下る。そして何よりティオ自身の希望もありこうしてカナタがティオを背負って下山している。そんな中、ティオは自分を背負っているカナタの姿を見つめていた。

 

(まだ再誕は半ば。人としての部分も残っておるが、正気に戻り、思い返してみたからこそ分かる。あの堂々たる姿はまさしく帝竜様そのもの……)

 

 そんな中、彼女の脳裏に浮かんだのは先ほどの戦い、身を挺して自分のブレスから彼らを守り、自分に立ちはだかる堂々たる姿と、放たれたブレスの紅い輝き――

 

(まだ、竜の姿での戦いに粗こそ見られるが、仲間を守り、そして共に力を合わせ脅威を圧倒していく姿。ホントに懐かしいモノじゃ……)

 

 そして群れの仲間と力を合わせ、自分に立ち向かってきたカナタ。その強さに自分はなすすべなく圧倒され――

 

(~~~っ!?)

 

 そして彼に押し倒され、そのまま首筋に噛みつかれた時の事を思い出して、ティオは一気にその顔を真っ赤に染めた。そしてティオは噛まれた所にそっと触れる。香織の治癒魔法のお陰で傷跡は残っていない。けれど、あの時の事を意識すると嚙まれた部分が熱を持って居るかの様な錯覚を覚えた。まるで、自分の身体に竜峰カナタと言う存在が刻まれているかのように……

 

(あれは……反則なのじゃ……主よ)

 

 赤くした顔を誰かに見られまいとティオは彼の背に顔を埋めた。カナタが最後尾を移動している事もあり、彼女の様子に気づいた者は誰も居なかった。




ただしケツパイル。お前はダメだ

と言う事で、本作ではティオさんドM化は回避と言う形になりました。が、痛みを甘美に感じる性格の名残としてカナタに噛み付かれた痛みがカナタを意識するきっかけにしてみたりしました。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。