ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~ 作:【ユーマ】
カナタ達は防壁の向こうに立ち、遠くに見える砂煙に目を向けている。遂に魔物の大群が肉眼で確認できるレベルまで迫ってきていた。そして壁際には万一突破された際の備えとして弓や魔法を扱える者達が集まってくる。やがて、魔物の足音や雄たけびが聞え始めるとハジメは錬成で簡易的な演説台を作って、そこに登り、戦うべく集まった人たちの視線を集めた。
「聞け! ウルの町の勇敢なる者達よ! 私達の勝利は既に確定している!」
と、彼らに檄を飛ばす。それは彼らを励ます為にという善意、ではなく単純にパニックになり、戦えなくなったりフレンドリーファイアを起こすのを防ぐ為だ。
「なぜなら、私達には女神が付いているからだ! そう、皆も知っている〝豊穣の女神〟愛子様だ!」
その言葉に、皆が口々に「愛子様?」「豊穣の女神様?」とざわつき始めた。護衛騎士達を従えて後方で人々の誘導を手伝っていた愛子が「えっ?」と言う表情で硬直する。
「我らの傍に愛子様がいる限り、敗北はありえない! 愛子様こそ! 我ら人類の味方にして〝豊穣〟と〝勝利〟をもたらす、天が遣わした現人神である! 私は、私達は愛子様の剣にして盾、彼女の皆を守りたいという思いに応えやって来た! 見よ! これが、愛子様により教え導かれた我らの力である!」
その言葉と共に、ハジメがシュラーゲンを構えて発砲。上空を飛んでいたプテラノドンもどきの魔物を撃墜していく。その際に、清水と思われる黒ローブの男が乗っていたプテラノドンモドキの翼を銃撃の余波で破壊し、男を落とした、男との接触は戦闘の後、けれどその途中で逃げられない様に逃走時に一番有効である空の魔物を真っ先に駆逐した訳だ。そしてハジメが後ろを振り返り、ハジメの姿に釘付けになってる住人を見渡して――
「愛子様、万歳!」
「「「「「「愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳!」」」」」」
「「「「「「女神様、万歳! 女神様、万歳! 女神様、万歳! 女神様、万歳!」」」」」」
と、愛子を讃える言葉を口にすると、ハジメの銃撃、トータス人から見れば正に人智を超えた超常現象とも言える攻撃に信憑性を感じた住民達も口々にその言葉を復唱し始める。因みにだが、ハジメのこの行為には勿論意味がある。それは一言で纏めれば愛子の発言力を強化する為。現状でも愛子は作農師と言う希少天職の立場から王国や教会に唯一自分の意見を通すことが出来る存在。その発言力を人々の支持を集めることで更に強化しようと言う事だ。これにより、自分達の事で協会が動いた際に“何があっても”自分達の先生、つまりは自分達の絶対の味方である愛子をアテにしやすくなると言う魂胆だ。と、同時にこの支持と名声の向上は先生にとっても他の生徒を守る際に役立つ筈、と言う恩師の為にと言う理由も少しだけ含まれている。
尤も当の本人はそんなハジメの意図など露知らず、顔を真っ赤にして何かを叫んでいる。口の動きから「どういうことですか!?」と叫んでいる様に見えたが、そんな事などお構い無しと言わんばかりに、防壁の上に戻ると香織にシュラーゲンを、シアにはオルカンを貸す。
「そうだティオ、この戦闘中はコレを貸しておく」
そして、カナタも魔力回復が十全でないティオに神結晶のネックレスを渡し、その機能を説明する。それを聞いたティオが「ふむ」と頷くとそれを首につけると、カナタは砲剣に弾丸を装填する。
「今回、俺の場合は魔力よりこっちを使う事になりそうだからな」
と、こちらも準備オッケーだといわんばかりにハジメに対して頷くと、ハジメも大型のガトリングガン“メツェライ”を取り出し、その銃口を魔物大群に向け――
「さて、やるか」
――短く呟き、その顔に獰猛な笑みを浮かべた。
※
シュラーゲンの銃弾が一直線に複数の魔物を貫き、メツェライから放たれる鉛玉の嵐が最前列の魔物を片っ端から蜂の巣にし、オルカンや帝ノ顎から放たれる榴弾やロケット、ミサイルがいたる所で着弾、爆発を起こしてその衝撃で魔物達の死体が宙を舞う。万にも及ぶ大軍を寄せ付けない銃撃と砲撃の多重奏。
「
「
そしてそのオーケストラに彩を添えるのはティオとユエの魔法。ティオの起こした炎の竜巻が魔物を黒焦げにしながら巻き上げ、ユエが生み出した“重力の天井”が魔物一角を押しつぶす。
「全ての属性の魔法を陣を省き、かつ無詠唱で行使するか。流石は古の吸血姫と言ったところかの? 魔法に関しては妾をも凌ぐと言う訳か」
「……ん」
ユエは遥か昔、王族としての心構えの見本として竜人族の話を聞いて育った。それによりユエの中には竜人族に対する憧れの様な感情がある。そんな竜人族であるティオからのお褒めの言葉に、ユエは少し誇らしげに返事を返した。
「じゃが、ユエにばかりは良い格好はさせられぬ。妾も主様に良い所を見せなくてはのっ!」
そう言うと、ティオの両手に黒色の魔力が圧縮、先日も聞いた音が響き渡り、ティオが両手を突き出した瞬間、黒と紫の光の奔流が放たれる。それは竜形態時にティオが放ったドラゴンブレスだった。
(ブレスって人の姿でも使えるのか)
ティオの話では竜魂士という存在は竜人族がモチーフとなっている部分があるとの事、ならば教えてもらえば自分も同じ事が出来る様になるのだろうか?そんな事を考えながら、目に付いたブルダールの群れに向かって榴弾砲撃を撃ち込んだ。
※
やがて魔獣の数が眼に見えて減り、最初は魔物で多い尽くされ見えなくなっていた北の地平線が見える様になった所で、魔力切れを起こしたティオが後ろにふらりと倒れそうになると、カナタが咄嗟にそれを支え、ゆっくりと座らせる。
「むぅ、妾はここまでのようじゃ……もう、火球一つ出せん……すまぬ」
「全く……無理してぶっ倒れるまで無茶する事もないだろう。でもサンキューな、ティオ。後は俺達で対処できるから先に休んでてくれ」
「うむ、口惜しいが後はお願いするのじゃ、主よ」
「了解」
目測と規模の大きさから残り1万を切った所。ハジメは冷却が追いつかなくなり、オーバーヒート直前のメツェライの銃撃を止め、仲間の状況確認を始めた。
「ユエ、魔力残量は?」
「……ん、残り魔晶石二個分くらい……重力魔法の消費が予想以上。要練習」
重力の魔法は威力も当然ながら消費も大きい。今回は同じく魔法は使わないという事で香織のアクセサリ(ネックレス)も借りて戦っていたが、その残量も心許ない量となっている。
「いやいや、一人で二万以上殺っただろ? 十分だ。残りはピンポイントで殺る。援護を頼む」
「んっ」
「香織は集団を抜けて、防壁に向かってくる奴を頼む」
「分かった、気をつけてね」
そう言って、シュラーゲンをハジメに返しナイチンゲールを取り出して、防壁を飛び降りる。
「シア、カナタ、魔物の違いわかるか?」
「はい。操られていた時のティオさんみたいな魔物とへっぴり腰の魔物ですよね?」
「へっぴり……うん、まぁ、そうだ。おそらく、ティオモドキの魔物が洗脳されている群れのリーダーだ。それだけ殺れば他は逃げるだろう」
少し後ろで「妾モドキって……」と魔物と同列な言い方に少し不満そうな声が聞こえてくるが、ハジメはコレをスルー。愛用の二丁銃を手に持つ。
「なるほど、つまり敵陣に突っ込んで直接殺るんですね!」
「……あ、ああ。何ていうかお前逞しくなったなぁ……」
「当然です! 皆さんと、何よりカナタさんと一緒に居る為ですから!」
と、オルカンを置いて、ドリュッケンを構える。
「頼もしい限りだよ。さて――」
そしてカナタも最後の空薬莢を排出、グリップを砲身の中に仕舞うと剣を肩に担ぐ。
「それじゃあ、暴れてくるとしますかね!」
「あいあいさー! ですぅ!」
「主、シア」
ハジメが先陣を切り、カナタとシアもそれに続こうとした所で、ティオがそれを呼び止め、二人が彼女の方を振り返る。
「……御武運を、なのじゃ」
その言葉にカナタは力強く頷き、シアはニパッと笑顔浮かべてそれに応えた。
※
雑魚の頭を踏み台にしながら敵陣の中央に突っ込み、そして重力魔法で自身の体重を軽減、普段よりも何倍もの高さの跳躍をすると、今度は逆に重量を増やして猛烈な勢いで落下していく。
「りゃぁあああー!」
更に付与された重力魔法加わったドリュッケンが振り下ろされる。可愛い雄たけびに反した超重量級の一撃が一体の魔物をミンチにし、地面の破片と一緒に辺りに肉片を散らす。最初は華奢見た目から舐めてかかっていた魔物も相手を脅威と見なし集団で襲いかかるが、シアはドリュッケンの柄を伸ばし、独楽のように身体を回転させ、周囲の魔物をまとめて吹き飛ばしていく。
(見えましたっ!)
そして、その奥にリーダー格。洗脳され、群れに指示を出している魔物の姿を捉え、そいつに肉薄しようとした瞬間、シアは自分のわき腹に狼の魔物が喰らいつく光景を“視た”。
(未来視っ!?)
それは未来視の強制発動、咄嗟にシアは背後に迫る四つ目の狼の存在に気づく。
(間に合わないっ!)
が、狼の機敏な動きに分っていながらもシアの回避が間に合わない。そしてシアが視た未来の通りに狼は彼女のわき腹に噛み付こうとして……横から伸びてきた大剣の砲身部分に噛み付く事になった。
「悪いが、このウサギさんを食べるのは勘弁してもらおう、かっ!」
そのまま、カナタは大剣をフルスイングして狼を吹っ飛ばす。
「カナタさんっ!」
「さっきのは喰らえば明らかにやばいレベルだったが、未来視はどうした?」
「いえ、発動はしていたんですが、その時には既に間合いに……」
「なるほど、一筋縄じゃ行かないって訳か……」
自分が受け持った区域の殲滅を終えて、群れのリーダー格の所に向かっていたカナタだったが、途中、シアの窮地を見つけ、咄嗟に割り込んでいた。
「この雰囲気……大迷宮クラスって所か」
敵の纏う殺気や雰囲気から、オルクス大迷宮(真)に居るレベルに近い奴と当たりをつける。
(とは言え、未来視の先読みを越えてくるって点は少し厄介だな)
総合力で比べれば今のシアでも十分勝てる相手だが先読みを超えるほどのスピード特化か、それに準じた能力を持ってる可能性がある事が懸念事項だった。そして現状、無理にこの場をシア一人に任せる必要も無い。そう判断し、カナタは剣を構えなおす。
「ここは二人で連携して仕留める。良いな、シア」
「はいですっ!」
そして、二人は散開。シアが狼の一体に向かってドリュッケンを振り下ろすも、相手はそれを回避。ハンマーは床を叩き、地面の破片が飛び散る。
(死角……貰ったっ!)
そしてその破片が狼の視界の一部を塞ぎ、カナタが破片ごとなぎ払う勢いで剣を振りぬく。が、剣によって砕けた向こうに狼の姿は無い。
「カナタさん、上ですっ!」
「何っ!?」
いつの間にかカナタの上空に跳躍してた狼が彼に噛み付こうと口を開きながら落ちて来たのを咄嗟に剣で受け止める。
「このっ……え?」
そして、シアがそいつを攻撃しようとドリュッケンを“振り翳した瞬間”、狼はカナタから距離を取った。
(……攻撃の前によけた?)
今の回避行動はシアが攻撃の予備動作に入った瞬間に行われた。そして、普通であればそんな動きは困難。それが出来るとすれば――
「カナタさん」
「うん?」
「この魔物、もしかしたら私と似た能力持ってるかもです……」
「つまり、こいつらも未来予知を?」
「いえ、恐らくは――」
そう言って、シアは再び狼に殴りかかり、それはあっさりと避けられる。が、シアは攻撃の手を休めず追撃をかける。やがて、ドリュッケンを翻した体勢のシアの背後を二匹の狼が襲い掛かる。この姿勢から背後の敵に対応するとなると、どうしても動きが大きくなり、そのロスからすれば迎撃は不可能だ……普通ならば。
「かかりましたね!」
が、この展開はシアが自発発動させた未来視で予知済みだった。彼女はその姿勢のまま、ドリュッケンに新たに仕込まれたギミック。ハンマーの打撃面ではなく本体内部内部に柄の延長状に仕込まれたライフルで狼二匹を撃ちぬく。
「未来視の様な、“予知”系能力ではなく、先を読む“予測”系と言ったところでしょうね」
予知と予測の違い、それは事前情報の有無だ。予測とはそれまでの行動パターンから相手の次の一手を読む事。
「この武器、ただのハンマーじゃないんですよ」
だからこそ、狼の先読みには今まで使われなかったドリュッケンの砲撃や銃撃の要素は含まれていなかった。そして――
「先を読むなら、さらにその先を読むまでです!」
シアがドリュッケンを振り翳し、残った一匹に突撃。狼はハンマーが振り下ろされるタイミングを予測、その前に彼女の背後を取るべく、あえてシアに向かって駆け出し、すれ違うように背後を取ろうとする。が、事前情報を必要としない完全な予知は既にその動きを捉えている。シアはすれ違い様に尻尾を掴み、狼を投げ飛ばす。
「カナタさんっ!」
「任せろっ!」
投げ飛ばした先には予め念話で先回していたカナタの姿。
「未来予知ウサギをなめんじゃねー、です」
そしてシアのその一言と共に振り下ろされたカナタの剣が狼の身体を真っ二つにしたのだった。
直接洗脳されたと思われる群れのリーダー格、その最後の一体が縦に真っ二つになり、左右に広がるように倒れる。周囲にはまだ魔物は残っているが、リーダーが倒された影響か、こちらを遠巻きに警戒しているだけで、襲い掛かってくる気配は無い。
(後の連中は洗脳はされていないって話だったな……なら――)
カナタが大剣を地面に突き刺し、眼を伏せる。
「カナタさん?」
「後はこいつで……仕上げだ」
そして次に眼を開くと、その瞳は赤くなっている。そして闘気発動時は赤くなるだけだったそれに加えて、眼の瞳孔が縦長に、まさに爬虫類を思わせる形に変わっている。と、同時に彼の体からあふれ出る何か。それを直接向けられていないにも関らず、シアもゾクリと背筋を振るわせた
「っ!? これは……」
そんな中、防壁で休憩していたティオもそれを感じ、カナタの居る方に目を向ける。
「ティオ?」
「この暴力的なまでの威圧感、紛れも無く帝竜様の威光そのもの……」
帝竜の暴威、威圧系に分類されるこの技能は通常の威圧よりも相手の意識の根源的な部分、つまりはより本能に近い領域に恐怖を与えるため、通常の威圧よりも抗う事が困難だ。現に、その気配に中てられた魔物達は恐怖に震える間も無く逃げ始めた。
「懐かしきものじゃ……魔物の大群を爪も牙も使わずに、その威光のみで退かせた堂々たる姿。幼き頃に感じたそれを、またこうして眼にする時がこようとは……」
懐かしげながらも恍惚とした表情で頬を染めるティオ、その横顔にユエと香織も魅入っていた。
見渡す限り、爆風や銃撃で荒れた地面とおびただしい数の魔物の死体を残し、今その場で生きているのは自分達だけだった。
「ハジメ」
「そっちも終わったか……そこのウサギはなんでカナタに背負われてるんだ?」
やがて、何かを引きずっていたハジメがシアの姿を見つけるとバイクを止めた。そして、カナタに背負われているシアの姿を見て眼を細める。
「あ~これか、帝竜の暴威をシアの傍で使っちまってな、全力の奴を」
「あ、あはは。ちょっと腰が抜けちゃいました……」
より本能に訴えると言う事は、相手が感じる恐怖をより強くすると同時にネックでもある。つまりこの技能は本能が強い相手ほど効果をより発揮する。が、逆に本能ではなく理性が強い相手、即ち人間や、本能どころか自由意志すら封じられた洗脳された相手などには効果が薄い。
(うーん、初めて全力で使ってみたが、味方が傍に居る時は使えないか……)
とは言え、大なり小なり、本能とはどの生物にも存在している。その威圧を間近で感じたシアはご覧の通りの状況になっている。敵だけでなく味方の動きも阻害するようでは使い所を選ぶ必要がある。
「……そうか」
「まぁ、そう言う事。それより……」
カナタの視線はハジメが引きずっていた何か、いや誰かに向く。黒いぼさぼさの髪をしたローブの少年。それは紛れも無く――
「清水……」
それは消息を絶っていた清水幸利その人だった。
「こりゃ、愛ちゃん先生にとっちゃ辛い展開になるかもな……」
※
流石にいきなり黒幕を街の中に連れ込むわけにも行かず、ハジメ達は町の外れに愛子達を呼んでいた。
「清水君……」
愛子が悲しそうな表情で彼の名を呼ぶ。戦場から直接戻ってきたハジメが彼を連れてきた事。それが清水こそがこの襲撃の犯人である事を物語っていた。半ば予測されたものではあったが、それでも事実としてそれを認識すると愛子の表情は自ずと暗くなる。やがて清水の意識が戻り、彼が弾かれた様に身体を起こし辺りを見渡し、ギョロりとした目は愛子の方を向いて止まった。
「清水君、落ち着いて下さい。誰もあなたに危害を加えるつもりはありません……先生は、清水君とお話がしたいのです。どうして、こんなことをしたのか……どんな事でも構いません。先生に、清水君の気持ちを聞かせてくれませんか?」
「なぜ? そんな事もわかんないのかよ。だから、どいつもこいつも無能だっつうんだよ。馬鹿にしやがって……勇者、勇者うるさいんだよ。俺の方がずっと上手く出来るのに……気付きもしないで、モブ扱いしやがって……ホント、馬鹿ばっかりだ……だから俺の価値を示してやろうと思っただけだろうが……」
愛子の問い掛けに清水は俯き、話し始めた。ボソボソと小さいながらもその声には嫉妬と恨みの色がハッキリと見えていた。
「てめぇ……自分の立場わかってんのかよ! 危うく、町がめちゃくちゃになるところだったんだぞ!」
「そうよ! 馬鹿なのはアンタの方でしょ!」
「愛ちゃん先生がどんだけ心配してたと思ってるのよ!」
反省するどころか、周囲への罵倒と不満を口にする様子に優花達が声を荒げるが、愛子は軽く手を挙げて、優花達を止めた。
「そう、沢山不満があったのですね……でも、清水君。みんなを見返そうというのなら、なおさら、先生にはわかりません。どうして、町を襲おうとしたのですか? もし、あのまま町が襲われて……多くの人々が亡くなっていたら……多くの魔物を従えるだけならともかく、それでは君の〝価値〟を示せません」
「……示せるさ……魔人族になら」
「なっ!?」
その様子にハジメ以外の全員が驚きを示す。ハジメは殲滅の途中あまりの魔物の種類の多さに疑問を覚えた。これだけの種類の魔物が北の山脈に生息しているのか?と。そして清水を扇動した黒幕の存在を疑っており、その予想は見事に的中した。
「魔物を捕まえに、一人で北の山脈地帯に行ったんだ。その時、俺は一人の魔人族と出会った。最初は、もちろん警戒したけどな……その魔人族は、俺との話しを望んだ。そして、わかってくれたのさ。俺の本当の価値ってやつを。だから俺は、そいつと……魔人族側と契約したんだよ」
周りの様子に満足し、薄気味悪い笑みを浮かべた清水は先程よりも大きく、そして力の篭った声で話す。
「契約……ですか? それは、どのような?」
「……畑山先生……あんたを殺す事だよ」
「……え?」
衝撃的な言葉に愛子もポカンとなる。清水から魔人族の名が出た段階で、魔人族が彼を唆したと思い密かに怒りを燃やしていたが、その対象が自分だとは思いもしなかった。
「何だよ、その間抜面。自分が魔人族から目を付けられていないとでも思ったのか? ある意味、勇者より厄介な存在を魔人族が放っておくわけないだろ……」
戦争において一騎当千の将は確かに戦況に大きな影響を与える。けれどそれはその将が直接参戦している戦場だけ。戦争は幾つもの戦場で戦いが展開されるモノだ。ならば、戦争全体の戦況に影響するものは何か?それは兵士達を支える国力、もっと単純に言えば食料等の物資だ。つまり愛子は、光輝の様な局所的なモノではなく、戦争の大局全体に大きな影響を及ぼす存在と言う事。食料や物資を充実させる事で人族全体の士気や勢いを増大させる愛子の存在は魔人族にとっては勇者の存在以上に見過ごせないという事だ。
「〝豊穣の女神〟……あんたを町の住人ごと殺せば、俺は、魔人族側の〝勇者〟として招かれる。そういう契約だった。俺の能力は素晴らしいってさ。勇者の下で燻っているのは勿体無いってさ。やっぱり、分かるやつには分かるんだよ。実際、超強い魔物も貸してくれたし、それで、想像以上の軍勢も作れたし……だから、だから絶対、あんたを殺せると思ったのに!」
次第に清水の表情は苦虫を噛み潰したものになり、その声音にも怒りの色が見え始める。そして、カナタ達をキッと睨みつけ、声を荒げた。
「何だよ! 何なんだよっ! 何で、六万の軍勢が負けるんだよ! 何で異世界にあんな兵器があるんだよっ! 竜峰ぇっ! てめぇが用意したのか!?」
「残念ながらハズレ。俺が銃やらミサイルやら作れるはず無いだろ?」
「清水君……」
「っ!? その声……まさか、白崎か?」
髪の色やら色々変わっているがやはりクラスのマドンナだけあって、その声を聞いただけで清水も自分の軍勢を殲滅した灰色の髪の女性が香織だと気付いた。そして――
「ってことは、そいつは……」
カナタ、香織と来れば残った一人が誰か、それは自ずと見えてきた。そして彼の天職を考えれば、兵器の出所もハッキリとする。清水はカナタ達6人を見渡すと、顔を俯かせてブルブルと震え始めた。
「……で……んだよ?」
「あ?」
そのまま小さく何かを呟き、ハジメが威圧的な反応を返すと。弾かれた様に顔を上げた清水は先ほど以上の怒りと恨みをその瞳に宿し叫んだ。
「何でお前らがそこに立ってるんだよっ!? その場所に立ってるのは俺のはずだろうがっ!!!!」
原作との違いその1:清水、自分の目論見を潰した相手の正体に気付く