ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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第28話『彼が望んでいたもの』

「自分の人生は自分自身のモノ、主人公は何時だって自分自身……」

 

 突然の言葉に、その場に静寂が訪れる。そんな中、愛子はゆっくりと立ち上がるとカナタ達や親衛隊の生徒達の方を振り返る。

 

「どんな人生であれ、それは全て自分自身のモノ。どんな行いも全て貴方達のモノ」

 

 それは、普通であれば当たり前の事。無意識であれなんであれ、誰もが抱いている気持ちだ。何かを人の所為にする事だって、それは自分の行いなのだと心の何処かで自覚しているからこそだ。

 

「つまり自分の人生は何時だって自分自身が主役のはずなんです」

 

 それは考えるまでも無く、当たり前の事だった。

 

「けれど私達教師はそんな“当たり前”を貴方達から奪ってしまっていた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教育の場に置いて、他の生徒をお手本にさせたり、比較する様な言い方は基本悪手だ。何故なら人にはそれぞれ良い所も悪い所もある。誰かを手本として挙げるなら、その人物は完璧でなければいけない。だからこそ、普通であればその様な事は行われない。けれど、悲しい事にカナタ達の世代には居たのだ。周りから見ればすべてにおいて完璧な、お手本とするのに最適な生徒が……

 

「“天之河君に追いつける様に”“天之河君みたくなれる様に”“天之河君を見習って”事ある毎にきっとみんなは彼の名前を耳にしてきた」

 

 愛子自身は、例の暴力事件がきっかけで異常に光輝を持ち上げ様とする学校の姿勢を目の当たりにしてからは、それを口にするのは止めたが、それは今も続いている。

 

 教師達とて悪意があったわけでは無い。みんなが光輝を目標に努力すれば、彼みたいに全てが万能とは行かずとも、それぞれが持ってる強みや才能は飛躍的に伸び、それぞれの道で大成功を収められる人材に成長してくれるはず、という純粋な期待によるものだった。けれど、生徒達の目標・お手本とするには、光輝は逆にどんな事に置いても完璧すぎた。

 

「自分が何をしても全て天之河君に繋がり、彼と比較される。そんな事が続けばどうなるか、少し考えればわかる筈だったのに……」

 

 勉強や部活で結果を出そうと、逆に怠けたり、悪さをしようと、教師の口から出るのは光輝の名前。良い事だろうと悪い事だろうと、自分達が何をしても教師の目に映っているのは光輝の事ばかり。そんな事が日常的に続けば、自ずと他の生徒達も自分と彼を比べる様になる。そして彼と自分との差を思い知り、やがてこう思うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

『あいつは俺達の中心。周りから見ればまさに、俺らの世代の主人公みてぇなもんだからな』

 

 

 

 

 

 

 主人公は光輝、自分は自分の人生に置いても脇役でしかない。カナタも含め、彼らの心には大なり小なり彼を主人公のように見る部分が生じていた。そして例の暴力事件を期に、清水の心は大きく歪んでしまった。

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 清水幸利にとって、異世界召還は趣味()()()けれど自分が脇役でしかない現実に絶望してからと言うもの、趣味の域を越えて、更にそれらに深くのめり込んだ。その手の創作物を読み漁っては、夢の中で何度も世界を救い、ヒロインの女の子達とハッピーエンドを迎えていた。異世界召還は清水にとって夢だった。それが現実のものでは無い夢だと分っていながらも、自分が主人公になれる唯一の居場所であり、望んでやまないモノだった。けれど、そんなある日、その夢は現実となった。

 

 突然の事態に他のみんなが混乱し、泣き叫ぶ中、清水だけは心の中で歓喜していた。この手の創作物にのめり込む事で家族からは疎まれ、クラスでも背景も同然の扱いとなり、地球での居場所が無くなりつつあった人生に絶望していた清水にとって、トータスは自分が成り上がるに新たな人生を始めるのに相応しい場所だった。日々読み漁っていた創作物はこの世界で過ごす為の参考書となり、日々行ってきた妄想はイメージトレーニングとなった。

 

 だからこそ、この異世界召還に関しては知識0の光輝より、自分の方がずっと上手くやれる。あいつを引き摺り下ろして自分こそが勇者であり、英雄としての脚光を浴びるに違いない、そう確信していた。けれど、その確信はステータスプレートが配布された時に覆された。確かに自分はチートな能力に目覚めた、けれどそれはトータスの住民と比較しての場合の上に、他のクラスメイトも同じだった。とは言え、それは特に問題は無かった、自分は周りと比べて予備知識で遥かに勝っている、そう思っていた。

 

 しかし光輝はトータス人だけでなく同じ地球人と比べてもチートと呼ぶに相応しい能力と勇者と言う特別と呼ぶに相応しい天職を得て一躍みんなの中心となった。何かあれば真っ先に光輝の名前が挙がり、王国の姫君、貴族の令嬢、女騎士、自分が交友を深める筈だったヒロイン達の傍に居るのは何時も光輝ばかり。それに引き換え自分は『勇者光輝の仲間』と言う一括り、その他大勢の一人、地球に居た時と何も変わらない名も無きモブの一人とされた。

 

 そして、世界は更に非常な現実を彼に押し付けた。オルクス大迷宮による三人の死、それを王国は光輝を引き立てるべく、事実を捻じ曲げて公表した。その事実に彼はこの世界でも自分達の人生は光輝を引き立てる為に利用されるだけと言う現実を思い知り、心が折れてしまった。清水は地球に居た時と同様に部屋に引きこもり、創作物の代わりに自身の天職である闇術の本を読み漁って過ごしていた。そうして自身の素養への理解を深めていく中である日、ふと思った。この力なら魔物を洗脳し、戦力に出来るのでは?と、そしてその目論見は的中。そして強い魔物を仲間にし、今度こそ自分が勇者として成り上がるんだと決意した。とは言え、光輝達と一緒に大迷宮に潜るのは躊躇われたので、愛ちゃん親衛隊に参加。王国を離れ、このウルの町に到着した段階で戦力となる魔物を探すべく、行方をくらました。そしてそこで魔人族に出会い、確信した。

 

 

 

 

 

 ああ、やっぱり俺は特別なんだこいつ等ならちゃんと俺の事を見てくれる、と

 

 

 

 

「清水君はさっき、私の事を偽善者だと言った。ええ、全く持ってその通りでした……」

 

 彼の事をちゃんと見てあげる事も出来ず、ましてやその心を歪ませてしまって居た事にすら気づかずにいたのだ。現にさっきも「天之河君と肩を並べて戦うことが~」なんて言葉を口にした。それは『光輝の仲間』ではなく『清水幸利』と言う一人の人間として自分を見てほしいと言う彼の望みに反する事だった。

 

「一番に伝えるべき事すら伝えず、清水君が本当に望んでいた事に気づく事も出来てなかった私の言葉が彼に伝わる筈も無かった」

 

 自分の所為で生徒が歪み、その結果その命が失われた。もしもそうなっていれば愛子の教師としての人生は終わっていただろう。生徒がより良い未来に向かって歩ける様に支え・導く筈の自分が、逆にその未来を奪い去る結果となっていたのだから。愛子は清水と視線を合わせるべく、彼の傍にしゃがんだ。そして、その頭を下げた。

 

「今まで、貴方の苦しみに気づいてあげられなくて、本当にごめんなさい……」

 

 そこで言葉を止めると、愛子はさっきと同じ様に清水の手を握った。

 

「そして、今度こそ生徒の事一人一人をちゃんと見てあげる事の出来る先生になって見せます。だから清水君……どうか私にもう一度だけ、やり直すチャンスを下さい……」

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

(何だよ……これ……)

 

 清水は本気で困惑していた。清水にとって学校の教師も、他のクラスメイトも誰も彼もが光輝しか見ていない。その名の通り光り輝くあいつによって出来た影に落ちた自分を見てくれる人、理解してくれる奴なんていない。それこそが清水の現実だった。だからこそこのトータスで魔人族に出会って、自分が主人公になれるチャンスがめぐってきた時は本気で嬉しかった。

 

(俺は特別になりたいんだ……主人公になりたいんだ)

 

 人は時に手段と目的、つまりは望みを履き違える。最初は清水にとって特別になる事、主人公になる事は“手段”の筈だった。地球では無名の脇役でしかなく、一生日陰者として誰の目にも止まる事無いまま生きていくしかない。そう思っていた清水にとってトータスに召還された事は自分を自分として評価し、見てくれる。そんな当たり前を取り戻す絶好の機会だと思っていた。

 

 けれど、結局このトータスでも地球と何一つ変わる事は無く、自分はやっぱり脇役でしかなかった。けれど、トータスに召還される事で降ってきたチャンスに沸き立った清水の心は、半ば絶望していた地球の時と違い、諦める事が出来なかった。その時から清水の中では“望み”では無く“手段”を求めるようになった。それでもままならない状況が続く中で何時しか清水は“望み”を見失っていた。

 

(自分の事をちゃんと見てもらったからって何になるんだよ? こんな手、さっさ振り払っちまえばいいだろうが……)

 

 けれど、例え見失っていたとしてもそれ自体が消えた訳ではない。だからこそ――

 

(ほら、言えよ……さっきみたいに「うるさいよ、偽善者がっ!」って“先生”の言葉なんか一蹴すればいいだろうが……)

 

 清水自身すら見失っていた望みに気づける程までに、いま自分の事を見てくれている愛子の言葉を拒絶する事が出来なかった。

 

 やがて、清水がさっきと同じ様に俯き肩を振るわせ始める。今度は油断なんてしないと言わんばかりに、全員が身構える。

 

「ちくしょう……」

 

 けれど、今度は清水は動く様子は無くやがて俯いた彼の顔からポタポタと何かが降っていた。

 

「ちくしょう……ちくしょう……」

 

 言葉に出来たのはそれだけだった。町が救われた事による住民達の歓喜の声が響く中、清水の泣きじゃくる清水の嗚咽の声は愛子の耳にハッキリと届いていおり、その姿を見たハジメはゆっくりとドンナーを下ろしたのだった。




 と言う事で、本作の清水は完全に改心とは行かずとも、今後次第では立ち直れる可能性を残し一先ず暴走は収まった。と言う形にしました。

 理由としてはうp主が原作を読んで抱いた疑問点、幾ら自分の心が折れない様にとは言え、ハジメが大事な生徒を殺してるのは事実。そんなハジメを許しはしても思うところは残る以上、一気にフラグ成立まで突き抜けるのだろうか?と。なので、この作品を作る段階で清水の救済ルートは確定していました。その方が、なんの憂いもなく、ハジメとのフラグが建つでしょうしね(ゲス顔)

 清水の心情や本音については完全にうp主の独自解釈です。ただ、あれだけ勇者勇者言ってるし、清水の暴走にはやっぱり光輝が嚙んでるのかなぁと。

 と言う事で今回の件は光輝に直接の罪は無くても、彼の存在に目が眩んだ周りがやらかしてたと言う形にしました。因みに27話の清水の心情を28話でその奥にあったものを補足する表現として太字を使用してみましたが、読みにくかったら言って下さい、文字を戻し、2重引用符で枠付けする形に直します。

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