ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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清水編完結で、今回からミュウ編かと思いました?

実はもうちょっとだけ続くんじゃよ。





原作読んで思ったんですけど、ステータスの数値や技能って後半殆ど単なるフレーバーみたいな状態ですよね。何でいきなりこんな事言い出したか、それは今回のお話を読んでもらえれば。



第29話『少女の憂鬱』

 清水の暴走が一先ず終息した後、話は清水の今後についてとなった。デビッドを始め王国や教会の騎士達は王都に連行、キチンと然るべき裁きを受けて償いをするべきだとした。確かに普通に考えればそれが普通だろう。

 

 幸い、と言うのはおかしいかも知れないか清水の起こした件での被害者は調査に訪れていた冒険者達の一団だけ。そして危険と命がけを承知で依頼を受けた彼らを殺めた事は無関係の人を殺める事に比べればまだ情緒酌量の余地はあり、更に魔人族に唆されたと言う事実もある以上、問答無用で極刑とはならないはずだ、との事。

 

『今回の件、責任の一端は私にもあります。ですから清水君の事は私に任せてほしいんです。お願いします』

 

 けれど、愛子はそれに反対した。家族と引き離されてる以上、生徒達の保護者は自分。つまり今回の一件は保護者の監督不行き届き、だから彼の事は自分に任せてほしい、もう二度とこの様な事は無い様にする。と言う愛子の頼みを受け、デビッドは『常に自分達の監視下で行動する事。もしも愛子や自分達に危害を加える様な動きをした場合は問答無用で牢屋に放り込む』と言う譲歩案を提示してそれを了承。愛子達と行動を共にすると言う事は基本は後方支援、清水が求めていた英雄として表舞台に立っての華々しい活躍は、ほぼほぼ望めるモノでは無い。

 

光輝(あいつ)の引き立て役にならずに済むなら、もう何でも良い。下手に関わって、誰かみたいに潰されるのもゴメンだからな』

 

 主人公になれないのなら、せめて光輝と関わりこれ以上惨めな思いはしたくない。未だ心には光輝の影響は残ってはいるし、気まずさを隠すためか、カナタを引き合いにだすなど完全に立ち直れてない部分はまだあるが、清水はあっさりとその条件を飲み、その様子に当のカナタは苦笑と共に肩を竦めただけだった。

 

 また、街の住人には黒幕は魔人族、清水は魔人族に命を握られ、あの大群作るのに協力させられていた説明している。それを聞いた街の住人たちの清水に対する反応は同情的で、彼を被害者と見ている。尤も、これは街にはなんの被害も出ていないが故の事で、現金な事ではあるが街に大きな被害が出ていればこうはならなかっただろう。

 

 こうしてウルの町で起きた一件は幕を閉じ、ハジメ達はウィルをフューレンへと連れて行くべく出発……はしなかった。結局あの大群を相手取るにあたり消費した諸々の銃弾や砲弾の補充、兵装の整備などが必要となり、本格的なオーバーホールと補給はフューレンで行うにしても、繋ぎのメンテナンスは必要。ユエの魔力回復もあり、出発は明日と言う事になった。

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 自分の割り当てられた部屋で園部優花は溜息を吐いた。清水の暴走、ハジメ達との再会、そしてあの事件の真相、このウルの町では色々な事があった。

 

(言われてみれば、そっちの方が納得できるわよね……)

 

 檜山の行い、あの時は光輝が受けいれたからとそこまで深く考えなかったが、こうして彼から離れて自分で思い返してみれば確かに檜山の言い訳にはちょっと無理がある。通常の行軍時にそう言う気持ちになるのは不謹慎ではあるが、まだ判る。けれどあの時は不測の事態で誰もが恐怖に陥っていた。そんな状況下で“ゲーム感覚”と言う、ある意味での精神的余裕を残せるだろうか?

 

(となると、二人に悪い事しちゃってたな)

 

 恐らく雫は、そして香織もあれが檜山の悪意から来る行動だと気づいていたのだろう。けれど自分達は、そうとも気づかずに檜山を許した、“光輝がそう思ったのなら”その一点だけで。それが無ければもしかしたら王国側もカナタやハジメの死を、ああいう風に扱う事は無かったかも知れない。何も出来ない奴とむしろ味方に害を出す奴、どちらが厄介な存在かなんて考える間でもない。

 

(これじゃあ、南雲が自分達の事を恨むを通り越して、どうでもいいと見切りを付けるのも仕方ないか……)

 

 少し散歩でもしようと考え、部屋を出て一階のロビー兼食堂へと降りてきた優花。そんな彼女の眼に映ったのは、テーブルについてユエや香織と食事をしているハジメの姿。戦闘している時や他の人と接している時と違い、その表情は穏やかで本気で二人の事を大切にしているのが良く判る。

 

(あ、また……)

 

 あの時と同じ様にまた、胸が痛む。流石に似た様な光景を目にして、同じ様な事が起こればそれはもう、偶然じゃない。この痛みの意味を優花は嫌でも理解した。優花はその場に立って、20秒ほど何かを躊躇う様子を見せていたが――

 

(ええい、躊躇うな! 女は行動力っ!!)

 

 ――自分の頬を両手で叩いてハジメ達のテーブルに近づいていく。

 

「南雲っ!」

 

「……園部さん?」

 

「園部か、どうかしたのか?」

 

「今回はその……助けてくれてありがとう。私達だけじゃ町や愛ちゃん先生は守れなかったし、南雲達のお陰で町の人たちもみんな無事だったし、清水も無事に戻ってきた。本当に感謝している」

 

「気にすんな、単に成り行きでそうしただけだ」

 

 と、変わらず素っ気無い態度で答えるハジメに優花は少しだけ顔をしかめるが、すぐにキッと真剣な表情で南雲を見つめる。

 

「それでも、私は二度も南雲に助けられた。だから、そのお礼がしたいの」

 

「お礼?」

 

「南雲、私も――」

 

「断る」

 

「まだ何も言ってないじゃない!」

 

「どうせ、俺達を手伝う為に旅に着いていきたいとか、そんな所だろ?」

 

「うっ……」

 

 ハジメのドンピシャな予想に言葉に優花は言葉を詰まらせる。

 

「先に言っとくが、これも意地悪で言ってるんじゃねぇ。単純に実力不足ってだけだ。俺らの旅は困難なものだし、王国の様な後ろ盾もねぇ。先生の護衛とは比べ物にならんほどの厳しい道筋だ。今の実力で無理についてきて、途中で死なれても目覚めが悪い」

 

 ハジメは残った飲み物を飲み干して、立ち上がる。

 

「南雲!」

 

「お礼なら無事地球に戻った後、園部のとこの食堂で飯奢ってくれりゃ、それで十分だ」

 

 そう言い残して南雲は一足に先に部屋に戻り、その場にはテーブルに手をついて、悔しそうな表情をしている優花と、それを心配そうに見ている香織と無表情ながらも彼女を見ているユエの姿。

 

「やっぱり……」

 

 やがて、優花は椅子に腰を下ろしポツリと呟いた。

 

「園部さん?」

 

「やっぱり、もう無理なのかな……南雲や竜峰、白崎にも酷いことしちゃったし」

 

「酷い事?」

 

「うん、3人が奈落に落ちた後の事……」

 

 何時か聞いた3人の奈落に落ちた後の出来事。碌な食料も無い中、神水によって魔物肉を食料に出来た事で何とか生き延びたものの、上に戻る事もできずそのまま最下層まで決死の強行軍をせざるを得なかった。実感こそ出来ないが、話しを聞いただけでもかなり過酷な内容だ。現にその過程で南雲は目を失い、腕を失い、性格見た目共に原型も残ってない。そんな凄惨すぎる状況に追い遣った奴を自分達は謝罪一つで手打ちとした。そんな事をすれば、ハジメが嫌いを通り越して、関わりすら持とうとしないのも仕方のない事だ。

 

「えっとね……多分だけど、今のハジメ君の態度と、その事は関係ないと思う」

 

 彼女の今にも泣き出しそうな姿にいたたまれなくなったのか、フォローの為に香織が口を開いた。

 

「えっ?」

 

 あのオルクス大迷宮で生き残るには恨みや怒りも雑念でしかなかった。だからこそ生き残る為に切り捨てた。単にそれだけの事。

 

「それに最後の一言、今までのハジメ君なら絶対に口にしなかった」

 

 今までなら、同行の申し出については「要らん、足手纏いだ」この一言で一蹴していただろうし、お礼の件も「別にお礼なんていらないし、必要ない」とバッサリ斬っていただろう。あの最後の一言は礼をしたいと言う優花の気持ちをハジメなりに汲んでの事だ。

 

「そう、かな?」

 

「……ユウカは」

 

「ユエ?」

 

 その時、果物のジュースを飲んでいたユエがストローから口を離して、優花に話しかけた。

 

「シアに似てる」

 

「シアって……あのウサミミの女の子?」

 

 ユエは無言でそれに頷く。シアも最初は自分達を手助けする為に旅に同行したいと提案し、同じ様に断られた。けれど必死の思いで強くなり、カナタの事が好きだからと言う自分の意志として同行を訴え、仲間になる事が出来た。

 

「ユウカが旅に着いて来たいのはホントに恩返しの為だけ?」

 

「それは……」

 

 ユエは以降は何も言わずにジッと優花を見つめ続ける。優花はその視線から気まずそうに目を逸らす。それでも、なおジーっとこちらを見つめるユエに対して、やがて「あ~っ!!」とやけくそ気味に叫び――

 

「そうよ、ユエの言うとおりっ! 恩返しがしたいってのは建前……じゃなくて2割ぐらいは本音だけど、ホントの理由はもっと別な所――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――惚れちゃったのよ、あいつに」

 

 顔を赤くして肩の辺りまで伸びてる髪を弄りながら優花は白状し、「なんで本人じゃなくて彼女二人に先に打ち明ける事になるのよ……」とぼやいている。最初はパッとしないし、何時も眠そうにしているし、檜山達からの暴言、暴力を振るわれても、苦笑いを浮かべるだけの気弱な奴、そう思ってた。けれど、オルクス大迷宮であいつに助けられ、その後もベヒモスを足止めする等、意外と行動力がある奴と認識を改めた。その段階から既に気になってはいたが、そこに今回の再会だ。

 

「南雲の奴、なんて言うか凄いワイルドになったでしょ? ……あいつの変化はそんな軽いものじゃないってのは判ってる。そんでもって、白崎には悪いと思う自覚もあるんだけど……その、本音を言うと私的には今のあいつの方が好みと言うか……」

 

 元々、気になってた相手が自分の好みに合った方向に変化しており。その上で香織やユエと仲良さそうにしているのを見て、二度も嫉妬で胸を痛めた。此処まで来ると流石に自覚せざるを得なかった。

 

「最初はもう、恋人が居るんだし、身を引くべきだって思ってたけど……」

 

 けれどユエと香織、複数の異性と付き合う事をハジメが良しとしているのなら

 

「……私にも、まだチャンスはあるのかなって」

 

 けれど、基本ハジメはこちらに対して殆ど関わりを持とうとしない。ならばこのまま明日を迎えて別れたら、次は何時になるか判らないし、地球に戻る時までもう会う事も無いかも知れない。自分が望んだものを手に入れるには今日中に関わりを作るしかなかった。

 

「でも、南雲の言う通りよね。私と皆じゃ確かに実力に差がありすぎる……」

 

 地球の兵器を使っていると言う点もあるが、自分と今のハジメ達では実力に差がありすぎる。かと言って、今のペースでは何時までたってもハジメ達には追いつけない。気持ちの面はともかくこの実力差を縮めない限り、何を言っても聞き入れてもらえないだろう。その事実に優花の表情は暗くなり、やがて俯いてしまった。

 

「……カオリ」

 

「ふぅ……判ってるよ、ユエ。」

 

 ユエが何か言いたそうに香織の方に目を向けると香織も苦笑と共に頷く。ユエは前に、ハジメにはもっと“大切”を増やしてほしいといっていた。そして何時かの防壁での会話や、さっきの言葉からハジメにとって園部はそれになりうる相手だとユエは感じた。

 

「……ユウカ」

 

「何?」

 

「ハジメやカオリほどでなくても、すぐに強くなれる方法。一つだけ知っている」

 

「っ! ホントっ!?」

 

「……ん」

 

「でも、園部さん。この方法は本音を言えば余り人にオススメはしたくない方法でもあるの」

 

 とは言え、シアの時にみたいに時間があるわけでもない。ならば今、優花の願いを叶えられる可能性があるとすればこれでしかない。

 

「文字通り、死ぬほど辛い手段なのは間違いないよ?」

 

 香織の真剣な表情から優花は少し考えてしまう。あの大群すら余裕で相手取った香織達が此処まで言う方法なのだ。きっと生半可なモノではないのだろう……。

 

 

 

 

 

『あの時も思ったが、お前は根性のある奴だ』

 

 

 

 

(そうよ、南雲は言ってくれたじゃない……私は)

 

 やがて優花は未だこちらを見つめるユエの目を見つめ返して――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫よ……だって私、根性には自信があるから」

 

 ――力強く、決意を込めて優花はそう告げたのだった。




こりゃ近いうちに、またタグを弄くらないといけなくないな・・・

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