ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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今回の話で投稿話数50話です。けれどまだ書籍4巻の最序盤。これは確実に話数3桁は行きますね


第32話『古き帝から今の帝へ』

 依頼を終えた日の夜、カナタ達は漸く優花に自分達の旅の詳細を説明していた。

 

「何よそれっ!? それじゃあ、仮に魔人族との戦争を終わらせても私達帰してもらえないって事!?」

 

「落ち着け、園部。あくまでその可能性が高けぇってだけだ」

 

「もしかしたら、戦争が終わった段階でエヒトは俺達に飽きて、帰してもらえる可能性もゼロじゃない。けれど神様の気持ちは、まさに神のみぞ知るって奴さ」

 

 けれど逆に今度は人間同士で争いを起こさせ、更には王国とは別の勢力に同じく地球人を呼び出し、同郷の人間同士で争わせる可能性もある。そんな不確定な、言葉のとおり神の気まぐれををあてにするつもりは毛頭無い。だからこそ自分達は独自で地球への帰還方法を探している。

 

「それにカナタ、その完全に竜になるって、それって――」

 

 そこでカナタは人差し指を口にあてる、暗に「その話題は出すな」と言う意志を伝える。既に大半察してはいるだろうが態々口に出す必要ない。ハジメもそんな彼を一瞥、その意志を汲んだかのように話を戻した。

 

「まぁ、そう言う訳だ。つまり俺達は王国や教会が崇高するエヒト神の御意志とやらに逆らって動いてるからな。連中からして良く思われないのは当然、最悪の場合は異端者認定だ」

 

「あ、じゃあ。南雲達は私達を巻き込まないために?」

 

「いや、単に言っても信じてもらえないだろうからだ」

 

「まぁ、確かに天之河辺りは絶対信じないでしょうね……」

 

 その事実を受け入れるという事は暗に自分達の行いは意味がなく間違っているという事を受け容れる事になる。そんなのは誰だって信じたくないだろうし、常に正しい事をしてると信じ切ってる光輝からすれば受け容れがたい事実だろう。

 

「そう言う事だ、コレ聞いた上で園部が――」

 

「ストップ、そこから先を言う必要は無いわよ」

 

 この事実を聞いて、もしも優花がやっぱり無理、と思ったのならホルアドで雫達に預けるつもりだったが優花はハジメの言葉を途中で遮る。

 

「私だって、一番の目的は日本に帰る事だもの。……まぁ、今まで最前線に出てなかった私が言っても説得力ないけど……」

 

 言いながら優花はフライドチキンならぬ、フライドプテラノドンモドキに齧り付く。

 

「それでも、今度は途中で投げ出さないで最後まで着いて行くわよ。南雲達の旅に」

 

「……そうか」

 

 元々魔物肉を食った段階で彼女の意志は尊重するつもりだった、ならば何も言うまいとハジメも優花の言葉を聞き入れた。

 

「なら、この話は此処までだな。今後の予定だが、フューレンで補給や武器の整備を終えたら、ホルアドに向かう」

 

「ホルアドに?」

 

「ああ、八重樫に俺らの生存報告をしに、な」

 

(まぁ、香織まで居なくなったんじゃああなるのは仕方ないか……)

 

 それを聞き、優花は一度王国に戻ってきた時の雫の様子を思い出す。いつもの様なリーダーシップと苦労人気質が同居してるような雰囲気はなく、明らかに無理をしており、それを保つ為に凄い気を張り詰めて幼馴染の光輝とすら、一歩距離をおいてる感じだった。

 

「つーわけで、明日は手分けして色々買出しな」

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 買出し、と言ってもそれほど買い足さないといけないものは少なく、程なく頼まれたものを買い揃えた後はフューレンでシアやティオを一緒に街を見て回っていた。その途中、休憩する為にオープンカフェの席の一つに陣取っていた。

 

「主様、シアよ。ちょっと良いかの?」

 

 各々飲み物やスイーツに舌鼓を打ちつつ、休憩をしているとティオが二人に声を掛けた。

 

「ちょうど良い機会じゃからの。ここで一度、妾達、竜人族がどう言う種族か説明しておこうと思っての」

 

 普通ならば、生まれた時からその環境の中で生きてく事で自ずと身に付いていく事をカナタは独学で学ぶ必要がある。

 

「その話って私も聞いていいんですか?」

 

「シアも主様と……竜と添い遂げるつもりなのじゃろう? ならばむしろ聞いておいた方がよいじゃろう」

 

 自分が飲んでいた紅茶のティーカップをソーサーに置いてティオは真剣な表情で語り始めた。

 

「妾達竜人族、そして竜の中でも人語を話せるほどの知性を持つ者、賢竜と呼ばれる存在はかつてはこのトータスの守護者とされておった」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「うむ、あらゆる種族、国、その全てを受け入れ共に手を携え平穏を守っておった」

 

「今の考えとはまるで逆だな」

 

「変えられてしまったのじゃ……神によっての」

 

 竜人族が脅威とされたのは解放者達と同じ経緯、神による認識操作。人を駒にしていると言う事実は竜にとっては許しがたい事。ならば竜人族や、当時賢竜として竜の王というべき存在だったアジーンやチェトレが解放者に手を貸すのは当然の流れ……その筈だった……。

 

「しかしチェトレは解放者たちを裏切り、帝竜様は崩御。それから数年で妾達竜人族は世界の敵とされてしもうた」

 

 竜人族は魔物であり、あらゆる種族をその力で支配している。その牙は何時、偉大なる我らが神に向けられても可笑しくない。竜人族と賢竜は、竜は神の敵であると。

 

「駆逐された……って、竜が人に早々遅れを取るとは思えないが……」

 

 竜の力の強大さはそれを使っている自身がよく分かっている。竜人族が本気で抵抗すれば人間相手に負ける道理は無い筈だ。

 

「妾達を討伐しに来た異種族混成の連合軍の中には完全に神の配下となったチェトレもおったからの。それに何より、妾の父上や嘗ての竜人族も解放者同様、人相手に抵抗する事は出来なかった、いや――」

 

 「しなかったのじゃ……」と少しだけ声のトーンが下がり、ティオはカップに目を落とす。今でもハッキリと覚えている、焼け落ちて行く自分達の国。見せしめと言わんばかりに張り付けにされた同胞や母の死体、それらを目にして尚、敗北と淘汰を受け容れた父の最後の姿。

 

「それはあれか? 解放者たち同様、守るべき相手に力は振るえなかったって事か?」

 

「如何にも、何より竜は神敵であると言う世情においてなお、妾達竜と共にあろうとしてくれた人々を無闇に犠牲にせぬ為。神によって引き起こされた竜を巡る人々の争いを早急に鎮める為に竜人族は贄となったのじゃ」

 

「なんだってそこまでして……」

 

 カナタの疑問の声にティオが「うむ」と一つ頷くと、その金色の瞳でカナタを見つめる。まるで重要なのはこれからだと言わんばかりだ。

 

「妾達が世界の守護者である為、人々から受け入れられる存在として終わる為じゃな……」

 

 竜が世界の守護者と受け入れられたのは、トータスの民にとって竜は味方だったからだ。その牙は何時も人々の脅威に向けられ、強靭な鱗は人々の盾となっていた。けれど味方にとっては頼もしい存在も、敵にとっては脅威。竜がその強大な力を自衛の為とは言え、人々に向けた時点でその信頼は崩れ去る。何せ、竜の牙は自分達に人々に向けられる事もあるのだから。

 

「じゃからこそ、父上は愛する妻を奪われようとも報復には及ばなかった。下手に抵抗すれば人々も傷つける事になる。自分達が敗れ、滅び去る事があの争いを止め、人間達の犠牲を少なくする唯一の方法だと、そう言っておった……」

 

「そんな……」

 

 シアには判らなかった。なにせそれは自分達に置き換えるなら「自分達は忌み子として生まれたのだから、潔く死にましょう」と言ってるようなものだ。

 

「そしてそれが帝竜様の遺したモノを守る事でもあった。妾達竜が世界の守護者となれたのは、他でも無い帝竜様のお陰じゃからの」

 

「アジーンの……」

 

「かつて帝竜様はこうおっしゃった」

 

『汝等、己の存在する意味を知らず』

 

『その身は獣か、あるいは人か、世界の全てに意味あるものとするならば、答えは他ならぬ己の中に』

 

『人か獣か、答えを欲するならば決意を以って魂を掲げよ』

 

『竜の眼は一路の真実を見抜き、欺瞞と猜疑を打ち破る』

 

『竜の爪は鉄の城を切り裂き、巣喰う悪意を打ち砕く』

 

『竜の牙は己の弱さを噛み砕き、憎悪と憤怒を押し流す』

 

『仁、失いし時、汝らはただの獣なり。されど理性の剣を振るい続ける限り――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――汝らは気高き竜人である」

 

 その視線はカナタをジッと見つめているが、その瞳は何かを懐かしむように此処では無い何処かを見ている。そんな表情をしているティオの姿をカナタとシアは無言で見つめていた。

 

「このお言葉があったからこそ、妾達竜は“恐れられる存在”ではなく“畏れられる存在”となり、その畏れを畏敬へと昇華させておったのじゃ。妾は主様に竜という種、そして戦い方の何たるかを教えると言った。じゃがその前に、嘗ての帝竜様のお言葉をまず伝えたかったのじゃ」

 

 自分達のように世界の守護者になる必要は無い。けれど、竜の力を無闇に振るい続ければ、たとえ教会や神の介入がなくてもカナタは人々から恐れられる存在となっていく。

 

「今の詩。特に最後の二文。これだけは常に胸に刻んでおいてほしいのじゃ」

 

 それは嘗てのアジーンから竜人族(ティオ)を通じて今代のアジーン(カナタ)へと伝えられた詩。それを自ずと頭の中で声を出さずに反芻していたのは自分もまたアジーンである事の影響か。カナタはいつの間にか伏せていた目をそっと開く。

 

「まぁ、竜としての大先輩からの言葉だ。うん、今の詩、最後の部分だけと言わずにちゃんと、全部覚えていく」

 

「うむ……」

 

 カナタの言葉にティオは嬉しそうに微笑むと、カナタは少しおどけたように肩を竦める。

 

「それに自重を止めるようにした今でもこの力は伏せる方針だしな。竜の力を振るい過ぎて悪目立ちするつもりは無いさ、なにせ――」

 

 直後、近くの建物の壁が爆せて、ティオとシアの髪を揺らす。

 

「ぐへっ!!」

 

「ぷぎゃあ!!」

 

 そしてそこから二人の男が顔面で地面を削りながら悲鳴を上げて転がり出てきた。更に、同じ建物の窓を割りながら数人の男が同じように悲鳴を上げながらピンボールのように吹き飛ばされてくる。その建物の中からは壮絶な破壊音が響き渡っており、その度に建物が激震し外壁がひび割れ砕け落ちていく。突然の出来事に往来の人々とティオがポカンとなっている中、カナタとシアだけはどこか遠い目をした。

 

「よぉ、やっぱりお前らの気配だったか」

 

 そして、崩れた壁から出てきたのはハジメであり、先ほどまでの破壊活動など無かったかのように軽い口調でカナタ達のほうに声を掛けてきた。

 

「なにせ、それでなくても自重を止めたこいつらが騒ぎを持ってきてどの道、目立つ事になるだろうからな……」

 

 と、カナタの少し呆れ気味な呟きを聞き、ティオは顔をひきつらせたのだった……。


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