ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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年末はやっぱりPCに迎える時間が少ないですね。そしてスマホの打ちずらい事・・・


第33話『迷子の海の子』

 ティオから竜の在り方を聞いたカナタ達。けれど、その余韻をぶち壊すような破壊活動と共に現れたハジメにカナタはジト目を向けた。

 

「一つ、質問して良いか?」

 

「あ、なんだよ?」

 

「何がどうなって買い物デートの筈が街の破壊活動になっているのか。そこら辺の事情を詳しく」

 

「ああ、簡単な事だ。ちょっと野暮用でこの街に潜んでる非合法に人身売買してる組織を潰して回ってた所だ」

 

「そうなった経緯は……って聞くまでも無いか。大方、香織達3人を狙ってきたからって所だろ?」

 

(まぁ、街に入る時に感じた視線からシア達が狙われる予感はしていたが、よりによってハジメの方に行ったか……)

 

 無論、カナタもシアやティオを狙って実力行使に及ぶ連中が来ようものなら、遠慮なく迎え撃って、その後そいつは保安所に放り込む予定だったが、どうやらその組織は狙う相手を思いっきり間違えたようだ。と、カナタがそう思っていると、ハジメは「う~ん」と人差し指で頬を掻いた。

 

「まぁ、それもあるんだが……それだけじゃねぇんだよなぁ」

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 優花の装備を作るのに必要な材料やらなんやらを買い揃え、こちらも街を見て回っていたハジメ達だったが、やがてハジメの気配感知にある反応が引っかかり、ハジメは足を止めた

 

「……ハジメ?」

 

「どうしたのハジメ君?」

 

「んー? いやな、気配感知で人の気配を感知したんだが……」

 

「感知も何も、人なんて周りに一杯居るじゃない?」

 

「いや、そうじゃなくてな……俺が感知したのは下だ」

 

 そう言ってハジメは自分の足元。石畳の道を軽く足で叩く。

 

「下って事は下水道よね? そんなの、下水道管理の職員かだれかじゃないの?」

 

「だったら、気にしないんだがな。何か、気配がやたらと小さい上に弱い……多分、これ子供だぞ? しかも、弱っているな」

 

 その言葉に3人は驚く。下水道に弱った子供、どう見ても遊び目的で入ってるわけじゃない。

 

「子供!? ハジメ君!」

 

「判ってる」

 

 コレを話した時点で香織達が捨て置くとも思えず、ハジメは予想していたといわんばかりに、地下をそれなりの速さで動いている気配、おそらくは下水に流されているであろう子供の気配を追い抜き、錬成で穴を開けて飛び込むと香織達もその後に続いた。そして、香織とユエは空力や重力魔法を使い、そしてハジメはまだ制空技術を持ってない優花を抱き寄せ、同じく空力で跳躍して下水道両サイドの通路に着地する。

 

「あ、ありがと……」

 

 突然、抱き寄せられた事に優花は顔を赤くしていたがすぐにハッとなり、下水道の方に目を向ける。

 

「そうだ、子供はっ!?」

 

「大丈夫だ」

 

 そう言って、ハジメは錬成で格子を錬成して子供を受け止めた。その際に斜め向きに錬成してたので、子供はそのままハジメ達のほうに流れてきて、ハジメが左腕のギミックを作動させ、その腕を伸長させると子供を掴み、そのまま通路へと引き上げた。

 

「この子は……」

 

「まぁ、息はあるし……取り敢えずここから離れよう。臭いが酷い」

 

 引き上げられた子供はその容姿から普通の子供で無い事は明らかだった。とは言え、その事について議論するにはここは不衛生極まりない。その事は一旦脇に置いて、毛布を取り出して子供を包む。そして、子供の素性から、このまま人通りのあるメインストリートに出るのは躊躇われた為、ハジメ達は最初の穴を塞いで壁に穴を開けると街の地理を思い出しながら移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、人気の無い裏通りに出てからハジメは改めて保護した子供に目を向ける見た目三、四歳辺りのエメラルドグリーンの長い髪と整った可愛らしい顔立ちをしている幼子。だが何より特徴的なのは、その耳だ。通常の人間の耳の代わりに扇状のヒレが付いているのである。しかも、毛布からちょこんと覗く紅葉のような小さな手には、指の股に折りたたまれるようにして薄い膜がついている。

 

「この子、海人族の子だよね……どうして、こんな所に……」

 

「まぁ、まともな理由じゃないのは確かだな」

 

 海人族とは西大陸の果、“グリューエン大砂漠”を超えた先の海、その沖合にある“海上の町エリセン”で生活している亜人の種族だ。けれど、シア達の様な亜人と違って海人族は王国の保護下にある。その理由は王国で流通している海産物の約8割の供給を担っている。ちなみにエリセンには海人族の他にマニーロと呼ばれる魚人の種族も暮しており、彼らは海産物に加えて、他の大陸の商品も取り扱っている。

 

「ん、明らかに穏やかじゃない感じがする」

 

 その為、そんな海人族の子供が衰弱した状態で下水道を流されている事など普通ではありえないのだ。と、その時、海人族の幼女の鼻がピクピクと動いたかと思うと、パチクリと目を開いた。そして、その大きく真ん丸な瞳でジーとハジメを見つめ始める。ハジメも何となく目が合ったまま逸らさずジーと見つめ返した。そしてそのまま数秒ほど無言の時間が続き、優花が何か言おうとすると海人族の幼女のお腹がクゥーと可愛らしい音を立てる。

 

「お腹空いてるのね。ちょっと待ってなさい。南雲、ウルで購入したお米、ちょっと使わせてもらうわよ」

 

 そう言って、優花がハジメから材料や道具を受け取り調理を始める。

 

「南雲達はその間にその子を綺麗にしてあげて。下水を流されて汚れた状態で食事をしたら菌も一緒に体に入るかもしれないし」

 

 傍ら、ハジメが錬成で即席の湯船を作り、そこに真水を入れて、お馴染みフラム鉱石で沸かす。そして幼子といえど女の子。風呂に入れるのは香織とユエの役目となり、ハジメは女の子の衣服を見繕うべく表通りに向かった。

 

 

 

 

 

 

 ハジメが衣服を調達し戻ってくると女の子は既に湯船から上がり、新しいタオルにくるまれた状態で香織に抱っこされており優花が女の子に卵粥を食べさせている。女の子の薄汚れていた髪は、本来のエメラルドグリーンの輝きを取り戻し、光を反射して天使の輪を作っていた。

 

 

 

「あ、お帰りハジメ君」

 

「おう、どうだ? その子の様子は?」

 

「うん、少し前にミュウちゃんに“浸透看破”を使ってみたけど、身体に異常は無いみたい。でも、流される過程で下水を飲んでる可能性はあるから、一応、解毒と殺菌のお薬は飲ませてあるよ」

 

 海人族の女の子はミュウというらしい。とりあえず香織が浸透看破と言う診察用の魔法を使って調べた範囲では異常は無いらしい。その報告にハジメは「そうか」と頷きながらミュウの下へ歩み寄ると、毛布を剥ぎ取りポスッと上からワンピースを着せた。次いでに下着もさっさと履かせる。そして、ミュウの前に跪いて片方ずつ靴を履かせていった。更に、温風を出すアーティファクト、つまりドライヤーを〝宝物庫〟から取り出し、湿り気のあるミュウの髪を乾かしていく。ミュウはされるがままで、未だにジーとハジメを見ているが、温風の気持ちよさに次第に目を細めていった。

 

「南雲って何だかんだ面倒見良いわよね……」

 

「なんだ、藪から棒に」

 

 ミュウの髪を乾かしながら優花の言葉に眉をしかめるハジメだったが、その姿こそ文字通り面倒見がいい証拠、その様子に優花は「別に~」と答え、ユエと香織もニコニコと笑いながらハジメの姿を見ている。

 

「それで、ミュウだっけか? この後こいつはどうするんだ?」

 

 その視線に何となくばつが悪くなったハジメは今後の事に話題をそらす。とりあえず今後の事を決める為にもミュウから事情を聞く事にした。そして彼女のから聞いた説明によれば、ミュウは海で泳いでいた所、母と逸れて迷子になっていた所を人間族の男に捕まり、フューレンに連れてこられた。その後は薄暗い牢屋のような場所に入れられたのだという。そこには、他にも人族……の幼子たちが多くいたのだとか。そこで幾日か過ごす内、一緒にいた子供達は、毎日数人ずつ連れ出され、戻ってくることはなかったという。年齢が少し上の少年が見世物になって客に値段をつけられて売られるのだと言っていたらしい。

 

「海人族を捕獲してる時点でロクな奴じゃねぇとは思ってたが、人身売買してる連中かよ……」

 

 亜人はともかく、このトータスに置いても人間族の人身売買は違法だ。ただ迷子になっただけならまだ良くある話だが、その上まともじゃない連中に捕まるとはなんとも災難な話である。そして、いよいよミュウの番になったところで、その日たまたま下水施設の整備でもしていたのか、地下水路へと続く穴が開いており、懐かしき水音を聞いたミュウは咄嗟にそこへ飛び込んだ。三、四歳の幼女に何か出来るはずがないとタカをくくっていたのか、枷を付けられていなかったのは幸いだった。汚水への不快感を我慢して懸命に泳いだミュウ。幼いとは言え、海人族の子だ。通路をドタドタと走るしかない人間では流れに乗って逃げたミュウに追いつくことは出来なかった。

 

 だが、慣れない長旅に、誘拐されるという過度のストレス、不味い食料しか与えられず、下水に長く浸かるという悪環境に、遂にミュウは肉体的にも精神的にも限界を迎え意識を喪失した。そして、身を包む暖かさに意識を薄ら取り戻し、気がつけばハジメの腕の中だったというわけだ。因みに優花がお粥をチョイスしたのは素人目に見ても衰弱気味のミュウにはまずは胃に優しい食事の方が良いだろうという考えらしい。

 

「客が値段をつける……ね。オークションか。それも人間族の子や海人族の子を出すってんなら裏のオークションなんだろうな」

 

「……ハジメ、どうする?」

 

 ユエの一言にハジメは少し考える。ユエ達の考えとしてはやっぱり自分達で親の元に連れて行きたいと言う所だろう。実際、ミュウの居る場所も目的地の一つではある為、寄り道ついでに連れて行く事は不可能では無い。が、それには幾つか懸念事項がある。

 

(だったらここは正規の手順に則った方がいいか……)

 

「やっぱりここは保安所に預けるのが無難だろうな。海人族なら手厚く保護してくれるし、ミュウの存在を通じてその組織を摘発する動きがあれば、結果的に他の子供達の保護にも繋がる筈だ」

 

「でも、せめてミュウちゃんだけでも私達で親の元に連れて言ってあげる事は出来ないかな?」

 

「道筋だけ見れば不可能じゃないが、そもそも俺等がミュウを連れて歩けば誘拐犯と間違われる可能性もあるし、大迷宮攻略時、人里に一人で留守番させていてもまた攫われるリスクはあるし、迷宮攻略に連れて行くのは論外だ」

 

 つまり、自分達が誘拐犯等のレッテルを貼られる事無くミュウを連れて歩くには、どの道、事の次第を保安所に報告する必要がある。そして報告しにいけば自然な流れで保安所側で保護する、と言う流れになるだろう。それはミュウの事に時間を割くつもりは無いと言う事ではなく、連れて行く方がミュウにとって危険が多い事、そして何より迷子を見つけたら警察(=保安所)へ、と言うのは至極全うな行動なのだ。それ以上の意見は香織達から出ず、渋々ながらも納得している事を確認したハジメは屈んでミュウに視線を合わせると、ミュウが理解出来るようにゆっくりと話し始めた。

 

「いいか、ミュウ。これから、お前を守ってくれる人達の所へ連れて行く。時間は掛かるだろうが、必ず親の元に連れて行ってくれる筈だ」

 

「……お兄ちゃんとお姉ちゃんは?」

 

「悪いが、そこでお別れだ」

 

「やっ!」

 

「いや、やっ! じゃなくてな……」

 

「お兄ちゃんとお姉ちゃん達がいいの! お兄ちゃん達といるの!」

 

 思いのほか強い拒絶が返ってきてハジメが若干たじろぐ。今まで、割りかし大人しい感じの子だと思っていたが、どうやらそれは、ハジメ達の人柄を確認中だったからであり、信頼できる相手と判断したのか中々の駄々っ子ぶりを発揮している。元々は、結構明るい子なのかもしれない。とは言え、流石にこの我儘を聞く訳にはいかず、ミュウの説得を試みるも一向に納得する様子を見せないので、仕方無しにハジメはミュウを抱きかかえて強制的に保安所へと連れて行った。悲しそうに自分達の事を呼ぶミュウの声に後ろ髪を引かれつつもハジメ達は保安所を後にした。

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

「が、それから少ししない内に、その保安所が爆破されてミュウは居なくなり代わりにこれが残されていた訳だ」

 

 そう言って、ハジメはカナタに一枚の紙を渡す。

 

“海人族の子を死なせたくなければ、女達を全員連れて〇〇につれてこい”

 

 紙には簡潔にそう書かれていた。

 

「こりゃまた、業突く張りな組織も居たものだな」

 

「で、だ。指定された場所に行ってみれば、そこには武装したチンピラがうじゃうじゃいて、ミュウ自身はいなかったんだよ。たぶん、最初から俺を殺して香織達だけ頂く気だったんだろうな。取り敢えず全員再起不能にした後、ミュウがどこか聞いてみたんだが……知らないらしくてな。拷問して他のアジトを聞き出して……それを繰り返しているところだ。因みにシアやティオが居なかった事を咎められもしたし、間違いなく二人も狙われてるぞ」

 

「……再起不能にした連中は?」

 

「アジトの連中は兎も角、チンピラどもは見た感じ日々の生活にも困ってる連中みたいだし、保安所とギルドの方にその旨を報告したよ。今頃は彼らの“住み処(牢屋)”を用意してくれてるんじゃねぇか?」

 

「それはそれは、ハジメにしてはお優しい事だな」

 

 と、ハジメがにこやかな笑みを浮かべながら言った。イルワとのパイプを作った以上、今後もフューレンには何度か足を運ぶ事もあるだろう。その時、こんな組織にシア達が狙われる事になるなんて堪ったモノじゃないし、自分達が来る度にこうした出来事が多発しては街の人たちにとっても迷惑極まりない。カナタが確認するようにティオとシアの方に視線を向けると二人も頷き、カナタはその紙を握り潰す。

 

「因みにイルワさんは組織の構成員についての処遇についてはなんて?」

 

「こちらに一任する。が、出来れば取調べの為にお偉いさんは何人か口を利ける状態にしてくれれば助かる、だとよ」

 

 どうやら例の組織“フリートホーフ”はかなり大掛かりな組織らしく、構成員全員を生け捕りにするのは困難だとギルドや保安所も踏んでいるらしい。

 

「了解」

 

 そう返事を返してカナタもその場に立ち上がる。この組織はまさしく竜の尻を蹴り飛ばし、かつてモットーの感じた越えてはいけない一線を完全に踏み越えてしまった。公的機関からのお許しもあるならば、もはや遠慮は無用だ。

 

「そんじゃ俺も、善良な国民として街の治安維持・向上に貢献するとしますかね」

 

 と言いつつカナタの顔に不敵な笑みが浮かぶ。この瞬間、裏組織フリートホーフの命運は決定した。

 

 

 

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