ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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執筆頑張らないと言いつつ、ヴァーサスを購入した自分。5000石、おいしいです


第36話『命の序列』

「竜峰! ホントに竜峰なのか!?」

 

 冒険者ギルドホルアドに立ち寄ったカナタ達一行はそこで嘗てのクラスメイト遠藤浩介と再会を果たしていた。

 

「ああ、正真正銘、あの日奈落にまっさかさまに落っこちた竜峰カナタその人だよ」

 

「そっか、生きてたんだな……」

 

 と、感慨深く呟いた遠藤だったが、次の瞬間、ハッと何かに気づいたように辺りを見渡す。

 

「そうだ!? 竜峰が生きてたんなら南雲は!? 白崎は!!? 二人は一緒じゃないのか!?」

 

「何言ってんだ、遠藤。俺達ならここにいるじゃねぇか」

 

 ハジメがそう返事をするが、遠藤は辺りを見渡すだけでハジメに気付く様子がない。

 

「くそっ! 声は聞こえるのに姿が見当たらねぇ! 幽霊か? やっぱり化けて出てきたのか!? 竜峰に取り憑いてるのかっ!? 俺には姿が見えないってのか!?」

 

「いや、目の前にいるだろうが、ど阿呆。つか、いい加減落ち着けよ。影の薄さランキング生涯世界一位」

 

「!? また、声が!? ていうか、誰がコンビニの自動ドアすら反応してくれない影が薄いどころか存在自体が薄くて何時か消えそうな男だ! 自動ドアくらい三回に一回はちゃんと開くわ!」

 

「いや、そこまで言ってねぇよ……」

 

「と言うより、以前は三回に二回は開いてた筈だったのに、影の薄さが更にパワーアップ(?)してたんだね、遠藤君……」

 

「今の声は白崎か!? くそっ、やっぱり声はしても姿が見えねぇ!」

 

 愛子達ですら、少し目を凝らしてみれば二人に気づいたと言うのによっぽど気が動転しているのか、未だに二人に気付く気配がない。仕方ないので、カナタは未だに辺りをキョロキョロしている遠藤の肩を叩き、二人の方を指差した。

 

「ま、まさか……お前達が南雲と白崎、なのか?」

 

「そうだよ。と言うより私の場合は髪色以外は余り大きく変わってないのに気付かないなんて酷いよ、遠藤君」

 

「す、すまん……」

 

「全くね。私達や愛ちゃん先生でさえ、ちょっと注意してみればすぐに気付いたわよ」

 

「え、その声……園部か? なんで園部も竜峰たちと? と言うよりその髪……いや、それどころじゃねぇ!」

 

 香織の少し不満げな言葉に、気まずそうに謝罪した遠藤だったがすぐに緊迫した表情となりカナタの方に向き直った。

 

「お前達冒険者なんだよな? それも金ランクの」

 

「まぁ一応、な」

 

「なら頼む! 一緒に迷宮に潜ってくれ! 早くしないと皆死んじまう! 一人でも多くの戦力が必要なんだ! 健太郎も重吾も死んじまうかもしれないんだ!」

 

「ちょ、ちょっと待て。いきなりなんだ!? 状況が全くわからないんだが? 死んじまうって何だよ。天之河がいれば大抵何とかなるだろ? メルド団長がいれば、二度とベヒモスの時みたいな失敗もしないだろうし……」

 

 他のクラスメイトは引き続き迷宮で訓練を続けている事はウルの町で愛子から聞いた。ならば、その実力は以前とは比べ物にならないほどに成長している筈だし、そこに年長者であるメルドが居ればよほどの事にはならないだろうとハジメ達は踏んでいた。

 

「……んだよ」

 

「は? 聞こえねぇよ。何だって?」

 

「……死んだって言ったんだ! メルド団長もアランさんも他の皆も! 迷宮に潜ってた騎士は皆死んだ! 俺を逃がすために! 俺のせいで! 死んだんだ! 死んだんだよぉ!」

 

「……何があった?」

 

「話の続きは、奥でしてもらおうか。そっちは、俺の客らしいしな」

 

 何時かのベヒモス戦でも光輝は頑なにメルドを置いて退く事を良しとしなかった。そんな中、メルド達が囮、もしくはしんがりとなって遠藤を逃がそうとすれば彼は間違いなく「メルドさん達を犠牲にするなんて絶対だめだ!」とか言って止めている筈だ。それがなされて無いと言う事は、光輝達自身にも何かがあったということ。カナタが険しい表情を浮かべながら先を促した所で左目に大きな傷跡がついている60代くらいのガタイの良い男性の力強くも落ち着いた声が響いた。その男性こそ、冒険者ギルドホルアド支部の支部長、ロア・バワビスだった。

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 時は少し遡り、遠藤は魔物に注意しつつ、大急ぎで元来た道を戻っていた。雫や永山が危惧したとおり魔人族は一人ではなく、複数の魔物を引き連れていた。姿の見えない魔物にブルタールがより筋肉質な肉体となった魔物など、今まで遭遇した事もない強敵からの奇襲や先制攻撃を受け、戦いの流れを一気に持っていかれた。地球組の中でも飛び抜けて強かった光輝は何とか抵抗できたものの、他のメンバーでは歯が立たず、光輝に次ぐ戦力であった雫や永山がクラスメートのフォローに回らざるを得ず、一気に自分達は追い詰められた。それでもみんなの危機に、苦手である事をおして降霊術を行使した恵里のお陰でどうにか撤退に成功。その後、遠藤はこの緊急事態をメルドに伝えるべく、パーティを離れたのだ。

 

「団長! 俺です! 気づいてください! 大変なんです!」

 

「うおっ!? 何だ!? 敵襲かっ!?」

 

 第70階層、そこには第30階層との直通の転移陣が設置されており、既に実力的に足を引っ張るだけだったメルド達は転移陣付近に陣取り、帰りのルートの確保に当たっていた。そんなメルド達に遠藤が声を張り上げた瞬間、メルド団長がそんな事を言いながら剣を抜いて飛び退り、警戒心たっぷりに周囲を見渡した。他の騎士達も、一様にビクッと体を震わせて、戦闘態勢に入っている。

 

「だから、俺ですって! マジそういうの勘弁して下さい!」

 

「えっ? って、浩介じゃないか。驚かせるなよ。ていうか他の連中はどうした? それに、何かお前ボロボロじゃないか?」

 

「ですから、大変なんです!」

 

 それから、魔人族の遭遇と敗戦、そして自分一人だけ報告の為に逃がされた事を伝えた。その事に対する負い目から話し終わる頃には涙ぐんで嗚咽を漏らしていた遠藤の肩に手を置き、メルドは励ます様に声を掛けた。

 

「泣くな、浩介。お前は、お前にしか出来ないことをやり遂げたんたんだ。他の誰が、そんな短時間で一度も戦わずに二十層も走破できる? お前はよくやった。よく伝えてくれた」

 

 その言葉を受けて、遠藤は袖で目を擦ると先ほど自分が戻ってきた道の方に向き直った。

 

「団長……俺、俺はこのまま戻ります。あいつらは自力で戻るって言ってたけど……今度は負けないって言ってたけど……天之河が〝限界突破〟を使っても倒しきれなかったんだ。逃げるので精一杯だったんだ。みんな、かなり消耗してるし、傷が治っても……今度、襲われたら……あのクソったれな魔物だってあれで全部かはわからないし……だから、先に地上に戻って、このことを伝えて下さい」

 

 その言葉を聞き、メルドは悔しそうな表情を浮かべながら遠藤に自分達の持っていたポーション等の渡した。

 

「すまないな、浩介。一緒に、助けに行きたいのは山々だが……私達じゃあ、足手纏いにしかならない……」

 

「あ、いや、気にしないで下さいよ。大分、薬系も少なくなってるだろうし、これだけでも助かります」

 

 そう言葉を返すも、メルドの表情は未だに晴れず、むしろ更に険しくなっている。それは光輝達の窮地に対し、何もできない自分達への不甲斐なさ……だけではなかった。

 

「……浩介。私は今から、最低なことを言う。軽蔑してくれて構わないし、それが当然だ。だが、どうか聞いて欲しい」

 

「えっ? いきなり何を……」

 

「……何があっても、〝光輝〟だけは連れ帰ってくれ」

 

「え?」

 

「浩介。今のお前達ですら窮地に追い込まれるほど魔物が強力になっているというのなら…光輝を失った人間族に未来はない。もちろん、お前達全員が切り抜けて再会できると信じているし、そうあって欲しい……だが、それでも私は、ハイリヒ王国騎士団団長として言わねばならない。万一の時は、〝光輝〟を生かしてくれ」

 

 現状、光輝が人間族側の最大戦力であるのは間違いない。そんな光輝が死ぬ事は確かに戦力面で大きな損失でもある。しかし、それ以上に勇者が魔人族と戦い死亡したという事実が出来てしまえば、それは魔人族の強大さを際立たせる。そしてその実力差がもたらす絶望は他の兵士達の士気にも大きく響く。こうなれば今はまだ辛うじて膠着状態と言えなくもない戦局が一気に傾くだろう。

 

「……俺達は、天之河のおまけですか?」

 

 それはこのトータスに飛ばされてから誰もが薄々感じていた事。常に自分達の中心は光輝だし、リリアーナの様な国の重鎮との謁見や外交に関わるのも光輝がメインだし、王族側からのコンタクトを直接受けるのも光輝であり、裏を返せば自分達がそのような人たちと関わる事なんて殆ど無く、相手側にもその意志は無かった。そんな状況だからか、自分達がトータス人の中で一番親しかったのは間違いなくメルドであり、自分達にとっては歳の離れた兄貴分の様な存在だった。そんな彼から自分達の命に序列を付けるような言葉が発せられた事が酷くショックであり、頭ではそれが必要な事と理解しつつも、心の方は酷い裏切りを受けたような気持ちとなり、遂に常々感じていた事が遠藤の口から言葉となって溢れた。

 

「断じて、違う。私とて、全員に生き残って欲しいと思っているのは本当だ。いや、こんな言葉に力はないな……浩介、せめて今の言葉を雫と龍太郎には伝えて欲しい」

 

 その言葉に、返事を返す事が出来ず、無言で頷いて遠藤は改めて光輝達の所に戻ろうとした。その直後──

 

「浩介ッ!?」

 

「えっ!?」

 

 メルド団長が、突然、浩介を弾き飛ばすとギャリィイイ!! という金属同士が擦れ合うような音を響かせて、円を描くようにその手に持つ剣を振るった。そして、そのままくるりと一回転すると遠心力をたっぷりのせた見事な回し蹴りを揺らめく空間に放つと揺らめく空間は後方へと吹き飛ばされる。そして、五メートルほど先で地面に無数の爪痕が刻み込まれた。

 

「そ、そんな。もう追いついて……」

 

「チッ。一人だけか……逃げるなら転移陣のあるこの部屋まで来るかと思ったんだけど……様子から見て、どこかに隠れたようだね」

 

 そして遠藤にとっては聞きなれた、それでいて一番聞きたくなかった声を響かせ、魔人族の女性が複数の魔物を連れて現れた。魔人族の女性も直通の転移陣の事は知っており、光輝達が撤退したとなれば間違いなく此処に来るだろうと当たりをつけてこの場所に直行してきたのだ。

 

「まぁ、任務もあるし……さっさとあんたら殺して探し出すかね」

 

 直後、一斉に魔物が襲いかかった。キメラが空間を揺らめかせながら突進し、黒猫が疾風となって距離を詰める。ブルタールモドキが、メイスを振りかぶりながら迫り、四つ目狼が後方より隙を覗う。

 

「円陣を組め! 転移陣を死守する! 浩介ッ! いつまで無様を晒している気だ! さっさと立ち上がって……逃げろ! 地上へ!」

 

「えっ!?」

 

「ボサっとするな! 魔人族のことを地上に伝えろ!」

 

「で、でも、団長達は……」

 

「我らは……ここを死地とする! 浩介! 向こう側で転移陣を壊せ! なるべく時間は稼いでやる!」

 

「そ、そんな……」

 

 全員で撤退しても、すぐさま魔人族と魔物の軍勢も陣を潜って追って来るだろう。仮に目当ては勇者だからと言う事で魔人族は追ってこずとも自分達をそのまま見逃すとは思えない、魔物ぐらいは差し向けてくる筈だ。となれば誰かが残り、そして今メルドが指示したとおり向こうで転移陣を破壊して追いかける手段を無くすしかない。そして今此処で犠牲になるべきは自分達だと言う事をメルドは理解していた。

 

「無力ですまない! 助けてやれなくてすまない! 選ぶことしか出来なくてすまない! 浩介! 不甲斐ない私だが最後の願いだ! 聞いてくれ!」

 

 情を排して、命に序列をつけて取捨選択をせざるを得ない自分だ。ならば、その選択肢の中に自分を含まなければ、自分は正真正銘の外道だろう。だからこそ、メルドは今、自分が犠牲になる事を選ぶ。それは戦力の面も然る事ながら、本来ならば全くの無関係なトータスの為に戦ってくれている遠藤たちを生かしたいと言う情も含まれていた。

 

「生きろぉ!」

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

「……それから、魔物が一匹だけ追いついてきて、30層の転移陣を守っていた騎士の人たちも……」

 

「そんな……」

 

「うそ、でしょ……」

 

 遠藤の話を聞き、香織は口元を手で多い、優花も唖然とした表情で呟き、カナタとハジメも険しい表情で遠藤を見つめている。少し離れた所でユエがシアに抱っこされているミュウにお菓子を食べさせているが、その視線は遠藤の方に向いている。

 

「さて、イルワからの手紙でお前達の事は大体分かっている。随分と大暴れしたようだな?」

 

 丁度、話が途切れたのも見計らい、ロアが会話に加わり、ハジメ達に受け取った便箋を軽く振りながら口を開いた。

 

「まぁ、全部成り行きだけどな」

 

「あるいは正当防衛、ともいえますがね」

 

「手紙には、お前の〝金〟ランクへの昇格に対する賛同要請と、できる限り便宜を図ってやって欲しいという内容が書かれていた。一応、事の概要くらいは俺も掴んではいるんだがな……たった数人で六万近い魔物の殲滅、半日でフューレンに巣食う裏組織の壊滅……にわかには信じられんことばかりだが、イルワの奴が適当なことをわざわざ手紙まで寄越して伝えるとは思えん……もう、お前達が実は魔王、もしくは()の暴竜の化身だと言われても俺は不思議に思わんぞ」

 

「バカ言わないでくれ……魔王だなんて……そこまで弱くないつもりだぞ?」

 

 暴竜に関してはある意味、当人(?)が隣にいるしな。と心の中で付け加えたハジメだが、そんな事はつゆも知らず、ロアはハジメの返事に対してフッと口角を釣り上げる。

 

「ふっ、魔王を雑魚扱いか? 随分な大言を吐くやつだ……だが、それが本当なら俺からの、冒険者ギルドホルアド支部長からの指名依頼を受けて欲しい」

 

「……勇者達の救出だな?」

 

「そ、そうだ! 一緒に助けに行こう! お前達がそんなに強いなら、きっとみんな助けられる!」

 

 ハジメとロアのやり取りを聞いていた遠藤は希望に目を輝かせた。あの事件の後、自力で迷宮を脱出したのだ。ならば、それなりに強くなっているだろうと踏んでいたが、それでも精々、例の転移陣の修復とその警備が出来る程度だろうと思っていた。けれど聞けば聞くほど今目の前に居る彼らは間違いなく、それこそ光輝をも超えるほどの強さを持っている。実際、魔人族に敗戦したのは主に自分達が足を引っ張ったからであり、光輝自体は善戦していた。そんな彼を超えるほどの戦力が何人も居るのだ、勝てない道理は無い。しかし、遠藤の表情は即答しない彼らの様子に次第に戸惑いに変わっていく。

 

「お、おい――」

 

「その前に、一つ確認したい」

 

 遠藤が何か言おうとした所で、今まで無言だったカナタが口を開き、それを遮った。

 

「遠藤が一行から離れた時点の話で構わない。雫はまだ無事たったか?」

 

「あ、ああ、皆無事だ、魔人族の話だと、どこかにうまく隠れてるみたいで……でも、それだって時間の問題で、今頃はもう見つかってるかもしれない……」

 

「ハジメ」

 

「判ってる、どの道俺らは八重樫に用があって此処に居るんだ」

 

「来てくれるのか!?」

 

「行かないって選択肢は無いからな」

 

「そうか! それじゃあ――」

 

「ただ、先に言っておく。もし光輝達のところにたどり着いて雫にもしもの事があれば――」

 

「あれば?」

 

 救助に行くのは構わない。けれど、カナタの中でこれだけははっきり伝えなければいけない事があった。

 

「恐らく俺は光輝を再起不能……最悪の場合、殺す可能性すらある」

 

「……え?」

 

 トータスに来る前から抱いていた不満。光輝の自己中心的な正義の振る舞いによって雫との関わりが少なくなっていた事、そんな状態にしておきながら彼女の気持ちを汲み取りホントの意味で守ろうとしない彼のへの強い八つ当たりじみた不満。それが竜の思考、群れと言う概念の影響を受け、明確な怒りに昇華されていた。現に自分の正義感のままに窮地を招いていたと言う事実が加わった時点で、『光輝NDK計画』なんて回りくどい事等せず、光輝の顔面に一発ブチかましたい気持ちだったのだ。加えてそこに、挙句の果てに雫を死なせていたと言う事実も加われば……自分でも何をしでかすかは判らない。もしも既に雫の事は手遅れとなっていたのなら、少なくても自分は救出には参加しないつもりだった。それぐらい、自分はまだ竜としては精神的に未熟、それどころか半端な状態だからだ。

 

「こちらも出来る限りは冷静に務めるつもりだが、抑えが利かない可能性の方が高い。だから全力で光輝を逃がしてくれよ」

 

「こ、殺すって……な、何言ってんだよ竜峰!? お前が光輝の事よく思ってないのは知ってるけど、でも同じクラスの仲間だろ! 何でそんな――」

 

「仲間? なに勘違いしてんだ遠藤?」

 

「南雲?」

 

「はっきり言うが、俺がお前等にもっている認識は唯の〝同郷〟の人間程度であって、それ以上でもそれ以下でもない。他人と何ら変わらない」

 

「なっ!? 何を言って……」

 

「勇者の救出を受けるのだって、八重樫に俺らの無事を知らせる事、その目的のついでで出来る事だから受けたんだ。それが終わったらすぐに此処を立ち去るし、その過程で八重樫以外の誰が死のうが助かろうが、俺には関係ない」

 

 光輝の救出はギルドからの依頼だが、それだけだ。無論、光輝の救出にも全力は尽くす。が、仮に光輝に万一の事があっても、それはハジメにとっては「依頼に失敗した」、と言う以外の意味は持たない。

 

「そ、そんな……」

 

「そもそも、あの後すぐ香織を除いて、俺とカナタの事は既に死んだ者だとバッサリ切り捨てたんだろ? ウルの街で先生から聞いたぞ。それがすごく強くなって戻ってきたからって何食わぬ顔で仲間扱い……幾らなんでも虫が良すぎだと思わねぇか?」

 

 その言葉に遠藤は押し黙るしかなかった。確かに三人とも生存が絶望的な中、自分達は香織の生存だけを諦めなかった。それは裏を返せばカナタとハジメは特に生きていて欲しいと思っていないことと同じであり、三人の命の重さに序列をつける行為、メルドが光輝だけは生かそうとした事と然程変わり無い事だった。

 

 違うのは一点。メルドのは断腸の思いで悩みぬいた果ての苦渋の判断だった事であるのに対し、自分達は光輝の言葉に流されるがままの判断という事、どちらがより冷たいかと問われれば答えは明白だった。

 

「とりあえず話はコレで終わり。兎に角今はみんなの所に案内してくれ……時間が惜しい」

 

 そう言って、カナタとハジメはその場から立ち上がり応接室を後にする。そして遠藤が香織と優花に縋るような視線を向けるも、かつては同じ状況だった優花は気まずそうに視線を反らし、香織も悲しそうな表情を遠藤に向けるだけで何かを言う事なく、彼らの後に続き、遠藤は一瞬だけ俯くも、すぐに「今はそれどころじゃない!」と言う風に頭を振ってから彼らの後に続いた。

 

 ――向かう先はオルクス大迷宮、全ての始まりとなった場所で再会の時は刻一刻と近づいているのだった。




今回、感想にて雫の窮地という状況なのにカナタが空気状態なのは可笑しく無いか?的なアドバイスがあり、これについては後書きや感想で補足(と言うなのの言い訳)では済ませるのは良くないと判断し、大幅に手直しを加えています。

みなさんのご期待に添えるものになったかは判りませんが、自分なりに、感想での指摘・アドバイスは吟味したいと思いますので、これからもよろしくお願いします。

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