ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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第41話『そして人であった竜は吼える』

 光輝は困惑の極みの中にいた。昨日まで自分は勇者として上手くやって来た、何一つとして間違った事なんてしてなかった。精々、洞窟の様な狭い所で大技を撃てば崩落しかねない事をメルドに指摘されたぐらいだ。

 

(何でだ? どうしていきなりこんな事になる!?)

 

 だと言うのに今日になって全てが崩れそうになっている。勧善懲悪、光輝にとってはこの思想こそが世の中全て上手くいく為の真理だった。けれど今、その正しさに訴えても、香織も雫も納得せず自分から離れようとしている。けれど、光輝の中に根付いた思想は事此処に至っても“正しさ”を求める。きっとそれを証明できていないから、それが伝われば二人も考え直す筈だ、と。

 

 そう判断し、光輝は今日の事を思い返す。魔人族との遭遇、敗戦と窮地、そしてそこに現れたハジメ達。

 

(……あ、そうだ。よくよく考えたらおかしいじゃないか)

 

 そして光輝のご都合主義はある結論を出した。それは光輝にとっては正しさを証明しうる結論でもあった。

 

「いま、確信を持てたよ。香織、雫、二人は騙されているんだ」

 

「……光輝君?」

 

「あんた、いきなり何を――」

 

「だっておかしいじゃないか。どうしてあのタイミングで、南雲達は颯爽と登場することができた? それも正規のルートではなく、洞窟の床を破壊して飛び降りてくると言う形でだぞ」

 

 そんな事をすればひとつ間違えば崩落した天井に自分達が巻き込まれてもおかしくない。だと言うのに崩れた岩は自分達を傷つけず、破砕に使ったバンカーの杭は魔物を正確に貫いた。その光景は正に皆の窮地に颯爽と現れたヒーローさながらだった。

 

「まるでお話に出てくる正義の味方の様な登場の仕方だ。けれど、現実はそうじゃない。普通ではそんな事は出来ない筈だ」

 

 それは単に気配や魔力感知の派生技能《特定感知》により、ある程度正確な位置関係を捉えられたからと言う理由があるのと、タイミングについては完全な偶然なのだが、自分の持ってる技能にしか目を向けず、その為《特定感知》の存在を知らない光輝にとっては彼らは何らかの理由で自分達の居場所と状況を予め把握していたと結論づけた。そしてそれが出来る理由は光輝の中では一つしかない

 

「全て、二人が仕組んだ事だったんだ。南雲はこう言う展開を好むオタクだし、竜峰は俺の事をよく思ってないからね。自分こそ勇者に相応しい、俺を陥れたい、そう考えて如何にも自分が勇者やヒーローに見える様に仕向けたんだ。そもそもなんで魔人族が人間の領地に入り込めたのかも疑問に持つべきだった。きっと香織や彼女達の知らない所で二人が手引きしたんだ」

 

 このホルアドの町も人間の領地の中では比較的内側に位置する。そんなところまで、騒ぎに成る事無く魔人族がもぐりこむのは困難の筈、誰かに手引きでもされない限り。これなら納得できる。今日になっていきなり訪れた窮地も、それを最高のタイミングで現れたハジメ達に救われた事も、全てがハジメとカナタの仕込んだマッチポンプ。

 

「魔人族の女性もあいつ等に利用されていて、その口止めの為に殺された。彼女も被害者だったんだ」

 

 人は何故、何かの行いを正しいと認識するか。それはその“正しい”と対を成す“間違い”の存在があるから。“正義”は“悪”があるからこそ際立つ。正義の味方も勇者も平和な世の中ではただの人、正義を正義たらしめるには悪の存在が必要なのだ。

 

「二人とも、行ってはダメだ。あいつらこそ、周りの人間を誰一人大切に思っておらず、自分の自己満足の為に利用している最低の奴等だ」

 

 だからこそ、光輝は自分を正しいと正義とする為、明確な悪を求めた。

 

(いやだから、なんでやねん……)

 

 言い掛かりも此処まで来ると反って呆れてくる。ハジメの視線がより冷めたものになるのも気付かないまま、光輝は言葉を続ける。自分を正義とするべく彼らを悪とする為の言葉を。

 

「それにあの二人を良く見るんだ。女の子を何人も侍らして、あんな小さな子まで……しかも兎人族の女の子は奴隷の首輪まで付けさせられている。黒髪の女性もさっき竜峰の事を『主様』って呼んでいた。きっと、そう呼ぶように強制されたんだ。あいつらは、女性をコレクションか何かと勘違いしている」

 

「香織?」

 

 雫が彼女の名を呼びながらその視線を向けると香織はゆっくりと首を横に振る。奈落に落ちてからずっと香織は彼らと一緒にいた。だからこそ、光輝の言葉が事実とは真逆かを、身を持って理解している。カナタは竜の思考から前よりも自分の縁を重んじるようになったし、ハジメはむしろ身内を大切にしすぎて、逆に周りの関わりの薄い他人を蔑ろにしすぎだと愛子に指摘された位だ。

 

「二人とも、あいつらに付いて行っても不幸になるだけだ。だから、ここに残った方がいい。いや、残るんだ。例え恨まれても、君達のために俺は君達を止めるぞ。絶対に行かせはしない!」

 

 あまりの物言いに雫は溜息、香織は少し俯き何かを考えている。けれど、自分の正義の証明しか考えず、ヒートアップしていた光輝はそんな二人の様子に気付く事無く、その視線をユエ達に向けた。

 

「君達もだ。これ以上、そいつらの元にいるべきじゃない。俺と一緒に行こう! 君達ほどの実力なら歓迎するよ。共に、人々を救うんだ。シア、だったかな? 安心してくれ。俺と共に来てくれるなら直ぐに奴隷から解放する。ティオも、もう主様なんて呼ばなくていいんだ。園部さんだって戦いが怖くなって、戦いから離れてた筈。可哀想に、あいつらに無理やり戦わされたんだな」

 

 人が何人もの女性を侍らせている事を指摘しておきながら、次の瞬間には彼女達を全員自分の傍に侍らすような物言いに、その場にいた誰もが唖然とする。龍太郎すら「光輝……?」と初めて見る友人の姿に戸惑っている。そして当の勧誘をうけたユエ達はと言うと――

 

「なに……あれ?」

 

「噂とは当てにならぬものじゃな。もはやあれは歳不相応の(わらべ)の癇癪と同じ……いや、現実を見る者の物言いですらないの……」

 

「いや、まさか此処までだったなんて。流石の私も予想できなかったわ……」

 

 ユエにして「誰?」とすら認識されず、ティオは待ってる間に聞いていた勇者の評価や噂が如何に間違っているか、いや、それは周りの人によってお膳立てされて形作られたものかを実感していた。そして優花は今までずっとあんな奴をずっと支持していたと言う事実に軽い眩暈を覚えていた。

 

「解放も何も私は元から奴隷では……いえ、ある意味ではカナタさんの愛の奴隷ですが……いたっ!」

 

「シアよ、今はふざける場面では無いぞ」

 

 そんな中、シアも呆れ気味だったが、途中で乙女の顔になるもティオに扇子で額を軽く叩かれている。総じて呆れられていると言う評価に光輝は浮かべていた爽やかな笑みを引き攣らせる。

 

「光輝君……」

 

「か、香織」

 

 その時、香織が光輝の名を呼ぶ。そちらに目を向ければ見慣れた優しい笑みを浮かべた香織の姿。その様子に「分ってくれたか」と期待した光輝だったが、次の一言でそれは崩れた。

 

「なら、遠慮なく恨むよ?」

 

「……え?」

 

「この後、光輝君が何らかの方法で私達をハジメ君から引き離したら、さっき光輝君が言った通り、私は全力で光輝君を恨むから。顔も見たくない、声も聞きたくない、関わりたくも無い、幼馴染だと認めたくない、傷ついても治したくないって位、思いっきり……恨むよ?」

 

「か、香織……? 何を言って、だって、俺は君達を想って……」

 

「ホントに想ってるなら、軽々しく恨まれても、なんて口にしない。少なくても私はそんな事は絶対に言わない」

 

 香織がまだ、本気で誰かを好きになった事がない、即ち恋に恋する年頃だった時は恋愛ドラマや小説で「例え恨まれても」と言うセリフにときめいた。何時か自分もそれ位強く想われたいと思った。

 

「もしも、ハジメ君が道を外れる事があったとしても、私なら恨まれずに止める事を最後まで諦めない」

 

 そしてハジメと出会い、彼に恋をして、ドラマや小説の一場面に自分とハジメを当て嵌めた想像をしていた時、「例え恨まれても~」と言うシチュエーションを浮かべた瞬間、気持ちが一気に沈んだ。

 

「だって大好きだし、愛してるから。好きな人から嫌われたり、恨まれるなんてそんなの嫌に決まってるもん」

 

 それでもその言葉を口にすると言う事は光輝とって香織達は容易く恨まれても良い程度の相手。彼女達に嫌われない事よりも、自分の我を通す事の方が遥かに優先すべき事であるという事。自分が如何に香織と雫をそこまで大事に思っていないかの証明。あるいは……。

 

「それとも、口ではそう言っておいて、ホントに恨まれるとは思ってない、もしくは程なく仲直りできると思っていた?」

 

「そ、それ、は……」

 

 香織の指摘、後者のそれは正にその通りだった。光輝の中でこの後、二人を引き止めても二人が自分を恨むことはありえない、あるいはしばらくは不機嫌だったとしても、口も聞いてくれるだろうし、言葉を交わせるだろう。ならば後は時間の問題、真摯に訴え続ければ、いずれは「ごめんなさい、私達が間違っていたよ」と理解してくれる筈、そう確信していた。だからこそ、香織の本気の絶交宣言に光輝は更に戸惑い、もはやどうすれば良いのか分らなくなる。

 

「南雲、竜峰っ! 俺と決闘しろ! 武器を捨てて素手で勝負だ! 俺が勝ったら、二度と二人には近寄らないでもらう! そして、そこの彼女達も全員解放してもらう!」

 

 そして混乱の果て、光輝は突然カナタ達に指を突きつけて宣言した。「正義は勝つ」「勝てば官軍」この言葉の通り、もはや自分の正義を証明するには悪であるカナタとハジメを“懲らしめる”事しか思い浮かばなった。けれど武器を使えば銃火器を持ってるハジメ達では勝ち目が薄いし、万一二人を殺してしまったら自分も“悪”の仲間入り、それ故の素手での勝負。

 

「……イタタタ、やべぇよ。勇者が予想以上にイタイ。何かもう見てられないんだけど」

 

「何をごちゃごちゃ言っている! 怖気づいたか!」

 

 カナタとハジメに勝利し、彼らによって不幸にされているヒロイン達を助ける事で自分の正義を証明する。もはやそれしか頭に無い光輝は周囲の空気に気がついていない。元々の思い込みの強さと猪突猛進さ、それに初めて感じた〝嫉妬〟が合わさり、完全に暴走しているようだ。

 

 二人の返事も聞かずに駆け出す光輝に、ハジメは溜息と共に拳を握る。が、無言でカナタがそれを手で制して、前に出る。そして程なくして光輝の拳がカナタの左目辺りに刺さる。避け切れずに直撃したのだろうと光輝はフッと得意げに笑みを浮かべる。

 

「っ!?」

 

 けれどその直後、カナタの腕が光輝の鎧の下に来ている服の胸倉を掴む。光輝が驚き拳をよけるとそこには額から血を流しつつも、堪える様子も無く光輝を睨みつけてるカナタの姿。

 

「光輝……」

 

「な、なんだ……?」

 

 そして、少しだけ間があった後にカナタは静かに続きを口にした。

 

「アンタの思い込みと学校の連中によって不良のレッテルを貼られた」

 

 そう言って、もう片方の手の小指だけを閉じた。

 

「その悪評に雫を巻き込まない為、彼女から離れざるを得なくなった」

 

 次に薬指。

 

「そしてトータスに召喚されて、無能のレッテルまで貼られて、その上で命がけの戦いをせざるを得なくなった」

 

 中指。

 

「そして文字通り危ない橋を渡った結果、人間としては俺は死んだも同然……いや、人としての俺は言葉の通り死んだ」

 

「……カナタ?」

 

 その言葉の意味は光輝だけでなく雫やクラスメイトも理解できず、雫が静かに彼の名を呼ぶと同時にカナタは人差し指も閉じ、親指だけが立っている状態となった。

 

「全部、あんたが自分の気持ちのまま暴走した結果、俺に起こった出来事だ。お前にとっては全て自業自得、自分は一切悪くないと考えてるだろうし、アンタからしてみりゃ、何を勝手な!? って思ってるだろうよ」

 

 どうせ、光輝と口論しても彼の中では不良、つまりは絶対的“悪”である自分の言葉なんて考慮する処か、聞く必要すらないと感じているだろう。それが分っているからカナタも光輝に何かを求める事はしない。

 

「ああそうだよ、全部俺の勝手だ。俺が勝手にムカついて、勝手にキレて、勝手にその鬱憤を晴らす。ただそれだけだ」

 

 直後、彼のプレッシャーを感じた光輝は距離を置こうと自分を掴んでいるカナタの腕を掴み振りほどこうともがくが、振りほどけず、カナタは拳を引き絞る。

 

「そして何より、俺が一番言いたいのは――」

 

 ハッキリ言えば最初の4つはおまけでしかない、一番の鬱憤晴らすついで上乗せしてやろうという程度のモノだ。カナタが最も光輝に言いたい事はただ一つ。親指を閉じ、握る拳が作られると同時にカナタは思いっきり息を吸い込み――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雫に辛い思いさせてんじゃねぇよっ!!! この大馬鹿野郎っ!!!」

 

 人であった時からの積年の憤りを乗せて、人の形をした竜が吼え、彼の拳が光輝の顔面に突き刺さった。 




今回光輝をボコる際には物理的というより、精神的にボコボコにする事に重きをおく事は確定していました。けれど、光輝からしたらオタクのハジメやカナタの言葉なんて聞くに値すらしないモノとあっさり流すだろうと。光輝に対して言葉のトゲでダメージを与えられるとすれば幼馴染の二人が一番と考えました。

だからこそ、カナタの行動は自分の怒りのまま、言いたかった事だけ言って、顔面に渾身の一撃くれてやって自分の鬱憤を晴らすだけ。一般的みれば正しくは無くてもカナタもしたかった事をした。そんな展開にしました。
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