ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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ここからは前回の後書きの通り短めの幕間話を挟みます。一つ一つは短めなので一本に統合するのも良いのですが、焦点をあてるキャラが違うので別々にしました。


幕間・Ⅰ『愚かなる者の末路と蠢く狂気』

 ハジメ達がホルアドを去ったその日の晩、ホルアドの街の公園。そこの一本の木にもたれ掛かる様に、檜山は座っていた。その表情は、虚ろなものだった。覇気の無い表情で表情でボーっと月を見上げていた。

 

「愛しの香織姫が他の男に取られてたってのに、随分と静かだね。もっと荒れてるもんだと思ってたのに」

 

「……お前か」

 

 そんな彼に声を掛けるのは、あの日から利害の一致により協力関係を結んでいる人物。

 

「……もう、お前に従う理由なんてないぞ……」

 

「香織ちゃんと南雲君が既に恋人だから? 一応、言っておくけど僕が提示した方法なら今の彼女が誰を好きかなんて関係な――」

 

「そんなんじゃねぇよ……」

 

 相手の言葉を遮るように呟く檜山。そんな彼の頭の中に浮んでくるのはあの時、香織が呟いた言葉。

 

 

 

『むしろたまにはハジメ君の方から襲ってきて欲しいぐらいなんだ。何時も押し倒してるのは私の方だし。まぁ、一度ノってきたら、ハジメ君は結構激しい方なんだけど』

 

 

 

 その言葉が何を意味しているか、檜山とて分からない訳じゃない。そしてその事実を知った瞬間、彼の中で何かが一気に冷めたのだ。協力者が檜山に提示した方法は香織の身体は手に入っても、心まではモノに出来ない手段だった。けれど檜山にとってはそれでも良かった。それはその方法で無ければ光輝から香織を奪うなんて無理だと分っていたのもあるが、何より一切の穢れを知らない純粋な彼女を自分の手でドロドロに汚してやりたい、そんな欲望があった。

 

 だからこそ、あの時見せた妖艶な笑み、そして自身の情事を打ち明ける事になんの恥じらいも覚えない彼女の姿は檜山が恋焦がれていた彼女の姿から遠く離れたものだった。そして何より、あのハジメのお手つきとなってる女と言うのが気に入らなかった。ハジメ自身を見下してる檜山にとって、あいつのお下がりの女なんてのは真っ平ゴメンだった。

 

「もうどうでも良いんだよ、あんなアバズレ女なんか……」

 

 その言葉を聞いて、協力者は暫く無言だった。やがて、相手もその言葉の意味を飲み込み――

 

「あっははははっ! 所謂処女厨って奴? 檜山って悪人顔のくせして意外にピュアなんだね。あー、気持ち悪っ」

 

「うっせぇよ……さっさと消えやがれ。こっちはもうお前に用なんてねぇんだ」

 

 お腹を抱えて大爆笑。そんな相手を檜山は睨みつけるもその声は沈んでいた。もはや話す事も無い、と言わんばかりに檜山はその協力者の脇を通り過ぎ、宿屋へと戻っていく。

 

「そっか、もう香織の事はどうでも良いのか……だったら――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だったら僕も君の身体だけ貰う事にするね」

 

「…………えっ?」

 

 その直後、檜山は自分の心臓に当たる部分から太めの黒い針が飛び出してるのに気付き、程なくして同じ様な針が自分の額からも生えているのに気付いた。

 

「な……なん、で……?」

 

「だって、君は僕の本性を知ってる奴だし……協力してくれないなら生かすのは僕にとってリスクでしかないから。ああ、安心して。身体はしっかりと再利用してあげる。頭の出来はともかく、君も身体のスペックだけは高いし“手土産”には十分だからね」

 

 その人物が手を払う動作をすると勢い良く針が抜ける。と、同時にごふっ、と檜山が咽ると同時に彼の口から赤い液体が噴出し、檜山はその場に崩れ落ちた。

 

(ああ、それにしてもなんて今日は素晴らしい日だったんだろう!)

 

 近いうちに行う事になるであろう“ゴミ掃除”。その中に掃除が面倒な、所謂“粗大ゴミ”が3つ混ざっていたのだが、その内の特にめんどくさい2つは掃除する必要がなくなったのだ。

 

(彼女達については、まぁ放置で良いかな。態々薮蛇を突く必要は無いし)

 

 だったら、自分達とは何の関わりも無いところで精々仲睦まじく旅をしていてもらおう。とは言え、万一こちらに干渉してきた場合は――

 

(その時は殺す……は、ダメだね。彼ら二人を敵に回すし、それに――)

 

 こうなった以上、彼女達は殺すよりも生かす方がメリットがある。とは言え殺さずにとなれば、彼女達が介入してきた際、計画の難易度は跳ね上がるだろう。

 

「念のため……当初の予定よりももう少し多めに戦力を拡充しておいた方が良いかな。っと、出来上がったね」

 

 やがて、その場に崩れ落ちた檜山がゆっくりと立ち上がる。その表情に生気は無く、まるで幽鬼の様な顔つきだ。どうしても普段の彼と比べれば様子が違うが、失恋のショックで落ち込んでるとも見えるだろうし、王都に着けば正式な処罰が下るまで自室謹慎は免れないだろうから、バレるリスクは少ないだろう。

 

(もうすぐ……もうすぐだよ)

 

 最大の障害が消え、後に残っているのは最初の二人ほど脅威でも無い“彼女”と有象無象共だけ。彼女達の掃除を終えて、自分は“彼”と二人っきり、遠くで過ごすのだ。

 

(もうすぐ、僕達を邪魔する連中はみんな居なくなるから! その時は――)

 

 夜の公園に「フフフ」と静かな、けれど確かな狂気に満ちた笑い声が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(その時は僕しか見えなくしてあげるからね……光輝くん)

 

 そして、そんな“彼女”の姿に気づいたのは夜空に輝く月だけだった。




原作だと香織がハジメに振られ続けた果てに諦める=光輝とくっつく可能性ありな為、自分の力で確実に檜山のモノにした方が確実でしたが、ホントに結ばれているなら余計な手出しは不要。原作第3章のラストでも彼女が言った通り「ハジメに持って行ってもらった」方が確実ですからね。

檜山については“彼女”の力で自由意志が封じられた状態の香織でも良いとなってる辺り、身体だけが目的だったのかなぁ、とうp主的には感じ、この様な形になりました。

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