ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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幕間二つ目はこの二人。最初は〆にとも思いましたがあえて二番手にしました。


幕間・Ⅱ『新たな始まりは繋がる想いと共に』

 ハジメ達がホルアドを発ち、グリューエン大砂漠を越えた先にある『海上の町エリセン』を目指して出発してから暫く、途中にあった町に立ち寄りそこで補給兼一休みとして一泊する事になり、特にこれと言った出来事も無いまま、夜を迎えた。

 

「そっか……あの後、そんな事があったのね……」

 

「まぁ、合流前のハジメと香織に関しては話で聞いた程度で、その時俺は暢気に眠っていた訳だがな」

 

「何が暢気に、よ……」

 

 そして久しぶりに落ち着いて話せると言う事で雫は彼の部屋を訪れた。少し前にシアが何かを察したようにタイミング良く「ハジメさんに武器の手入れお願いしてきます~」とティオを引っ張って出て行ったが、もしや未来視でも使ったのだろうかとカナタは思っている。そんな事もあり、カナタと雫は久しぶりに二人っきりで言葉を交わしている。その内容はもっぱら、奈落に落ちた後のカナタ達の話だ。

 

「香織達みたいに助かる事も無く、落ちる所まで落ちて、瀕死の重傷を負って……」

 

 エヒト神と反逆者の歴史の真実。それも確かに驚愕だったが、それよりも雫にとってショックだったのはカナタが既に人ならざるものへと移り変わり始めていると言う事実。

 

「あの時、天之河君に言った言葉通りなのね。人としてのカナタはあの日、もう死んでいた……」

 

 それでいて、コレでもまだ状況としてはマシな方なのだ。カナタが竜魂士だったから、落ちた先にアジーンの遺骨が安置されていたから、更に言えば解放者達がアジーンを再誕させるシステムとして竜魂士という存在を生み出したから。遥か昔からの幾つモノ偶然が重なり、カナタは竜としてではあるが生を掴み取れた。そのどれか一つでもなければ彼の一生はあの日、暗い地の底で終わっていたのだろう。

 

(ホントに……ホントに酷い話よね)

 

 だと言うのに光輝はそれを名も無い脇役、所謂『生徒A』が亡くなったのと同じ程度にしか感じず、本気で悲しむ事もせずに“勇者”として、“主人公”としての自分であり続けた。

 

(き、気まずい……)

 

 この時、カナタは雫に伝えたいことがあったのだが、このどんよりとした雰囲気ではとてもじゃないが伝えられるものじゃない。

 

「ま、まぁ、俺の方はこんな所だ。それよりも雫の方こそあの後どんな感じだったんだ?」

 

 兎に角、話題を変えようとカナタが少し強引に話を切りあげ、彼の言葉に雫は「そうね……」と少し間を置いて――

 

「辛かった……一言で纏めるとそんな所よ」

 

(って、馬鹿か俺はーっ!?)

 

 兎に角自分の事から話題を変えようと咄嗟に雫達の事に付いての話を振ったが、愛子から聞いた雫の様子からすれば、その内容も碌なモノじゃない事ぐらいは簡単に予想できたはず。結局、更に墓穴を掘った事にカナタは内心頭を抱えたい気持ちになった。

 

「誰も彼もが天之河君の言葉に縋って、妄信して、香織は生きてる、二人は死んでいるって雰囲気で。彼も「何時までも落ち込んでちゃダメだ」とか「僕たちが前を向かないと死んだ二人も浮ばれない」とか言って、私を励まそうとした事もあったけど……正直、追い討ち掛けられてる様なモノだったわ……」

 

 あの一件以降、雫は光輝の事を苗字で呼ぶ様になった。昔からの幼馴染、と言う関係に対する雫なりの決別との事らしい。

 

「おまけに途中で魔物しか持って無い筈の魔力操作や天職に関係ない得体の知れない技能まで目覚めて……」

 

「得体の知れない技能?」

 

 すると雫は自分のステータスプレートをカナタに見せた。

 

(これは……)

 

 そこに記されていた技能を見て、カナタは驚き、直後に「じゃあやっぱり……」と思った。

 

「カナタ達みたいに魔物を食べた訳でもなんでもない。ホントにある日、なんの前触れも無く使えるようになったの」

 

 そして次に、雫は部屋を訪ねる際に持ってきた剣術書を見せる。

 

「そしてこの本にはね、その技能、気炎を使った剣術……それも刀を使ったモノが記されているのよ。まぁ、これは原本じゃなくてあくまで写本なんだけどね」

 

 そう言いながら、雫は本を両手でしっかりと持ってその表紙に目を向けながら続けた。

 

「怖かったわ……このトータスには私の知らない私が関係している何かがあって、私は地球人どころかただの人間ですら無いんじゃないかって思えて――」

 

 魔力操作は魔物限定の技能、それが使える時点でそもそも自分は人間ですらないのかもしれない、と思うようになり――

 

「凄く……不安で一杯だった」

 

「…………雫は」

 

「え?」

 

「雫は地球で生まれて、地球で育った紛れも無い地球の人間だ。それは間違いない筈だ」

 

「なんで、そう言いきれるの?」

 

 雫の問いにカナタは宝物庫からあるモノを取り出す。

 

「本と……刀? これって、南雲君が作った物?」

 

「いや、俺の推測通りなら――」

 

 言いながらカナタは例の日誌と刀を雫に差し出す。

 

「この二つはその剣術書の著者の物だ。そしてこの本、日誌に雫の疑問の答えも書いてある」

 

 カナタの言葉を聞き、雫はその日誌を開いた。最初はぼんやりと眺めている程度だったが、やがて少しだけ目つきが変わり真剣に読み進め、最後のページ、日誌の作者の名が書かれたページで目を見開き、その部分をそっと撫でた。

 

「これ、って……」

 

「恐らくは先祖返りの類なんだろうな」

 

 技能とは必ずしも天職や修錬で覚えるものだけではない。ユエやティオの存在こそがその証明であり、彼女達は竜化や血力変換と言った天職が関与しない部分、種族や血筋等の所謂、自身の生まれに纏わる技能を有している。

 

「何代も世代を重ねたことでその血は凄い薄くなり、亜人側の特徴は表に出なくなってたのが、このトータスに飛ばされて技能や魔力と言った要素の刺激を受けた事で発現した、俺はそう睨んでいる。恐らくだけど雫の家の家系図を遡れば似た名前の誰かが――」

 

「……八重樫 優奈(やえがし ゆうな)

 

 雫が静かにある人物の名前を呟いた。

 

「八重樫流剣術と言う名前が表れ始めた時期の八重樫家の人間の一人。時代も一致しているし恐らくその人がユナ・フィクセンだったんだと思う」

 

 日記を閉じて雫は「ほぅ」と息を吐いた。

 

「そっか、昔にも地球からトータスに召喚された人間が居たのね」

 

 とは言え神であれ人間であれ、誰かの意図によって行われる召喚ならば、前例があっても不思議じゃない。それも落ち着いて考えれば思いつくこと。

 

(その事にすら行き着かない程だった訳か……)

 

 それほどまでに自分は追い詰められていたと言う事だろう。今になって、我ながら良く折れなかったものだと思う。

 

「そう言う訳で、ちょっと特殊な血筋である事は事実だけど、雫自身は間違いなく地球生まれの地球人だって事だけはほぼほぼ断言できるって事だ」

 

(ああ、やっぱり……)

 

 こうして彼と話す時間は自分にとっては心地良いものだ。普段から「気の利いた返事は期待するな」とか「聞いてやることしか出来ないぞ」とか言ってるが、そうじゃない。意識してやってるのか、はたまた無意識かは判らないが、彼はまず受け止める事から始める。その上で言える事、出来る事を考える。そして何も無ければ、下手な励ましや行動は起こさない。そんな彼の前だからか自分は素の自分で居られる、安易な励ましの言葉に応える為に無理をしたり、心乱されずに済む。そして、今回みたいにちゃんとした裏づけがある励ましの言葉が見つかればそれを伝えてくれる。数ヶ月ぶりにこうして話してみて改めて実感する。やっぱり自分には彼が必要だ。そして何より自分は――

 

「ねぇ、カナタ」

 

「なぁ、雫」

 

 互いの言葉が重なる。その事に雫はキョトンとなり、カナタは少し気まずそうに頬をかく。

 

「すまん。今回ばかりは俺の方からで良いか?」

 

「え、ええ」

 

 こう言うのは早めにケリをつけた方が後々拗れずにすむ。だからこそ言いたい事も、言うべき事もこの場で全て纏めて伝える。とは言え、カナタは酷く緊張していた。シアの時はあちらの方から好意を伝えてきており、ある意味では答えや結果が分っている様なモノだった、でも今回は違う。無論振られる可能性もあるし、伝えるべき事を省みればその可能性は高い。たとえ精神的にも竜と化し、精神の強靭さは人より高くなっていても、この手の不安と緊張は拭えないらしい。深呼吸を一つして「……よし」と呟き、カナタは雫の目をじっと見据えた。

 

「雫、俺は……雫の事が好きだ」

 

「…………え?」

 

 姿勢を正し、何時になく真剣な表情をしているカナタから告げられた言葉。その意味を理解するのに雫はワンテンポ遅れ、そしてその意味を理解すると同時に顔を赤くした。

 

「あ、あの……好きっていうのは――」

 

「友達としてとか、そう言うありきたりなオチは期待しないでくれ。正真正銘、地球に居た時から一人の女性として雫に惚れて居たんだ」

 

「あ……うぅ……」

 

 突然の告白に雫は混乱していた。自分も確かにこの後、カナタに告白をするつもりだった。けれど、まさか先手を打って告白されるとは思ってなかった。

 

「えっと……わ、私――」

 

「ただ!」

 

 雫がしどろもどろになりながら、何かを言おうとするのをカナタは少し強めの口調で遮る。

 

「ただ、自分はそれと同時にシアの事も同じぐらいに好きなっていて、今も付き合っている」

 

 その言葉を聞き、雫は再びその意味を理解するのに少し遅れる。そして――

 

「……それはカナタが竜になっているのと関係があるの?」

 

 ここまで盛大な二股を宣言されたのだ、普通の人間であればありえない事。さっきまでのうろたえながらも、どこか浮かれていた雰囲気とはうって変わり、冷静な雰囲気、いや冷静に務めようと意識しながらで雫はカナタに問いかけた。

 

「全くの無関係……とは言い切れない。けど、自分がシアにも心惹かれた事と竜になる事に直接の関係は無いと思ってる」

 

 あくまで竜になる上での変化は複数の異性と番となる事を良しとする考え方のみ。誰に惚れて、恋をするかは当人(?)次第。竜の中にも一匹の雌にのみ、恋慕を抱くのだっている。ティオの父親がその例であり、彼は生涯、一人の竜人、つまりはティオの母親一人を愛し続けた。

 

「普通の人間であれば、シアか雫か、どちらかを選ばないといけないと言う風に考えが行くだろうけど――」

 

 けれど、もはや竜としての考え方におおよそ違和感を感じなくなった自分では自分の気持ちを抑えつけてまで、どちらかを選ぶ事は既に出来なかった。

 

「無理も承知の上だし、人間視点から見れば最低な事言ってる自覚もある。その上でだ。雫……シアと一緒にという形になるけど、どうか俺と付き合って欲しい!」

 

(いや、うん。道中のシアとカナタの様子から、仲が良いなぁとは思ってたけど……)

 

 まさか、告白と同時にそれ申告してくるとは思わなかった。恐らくだが、カナタ的には返事の後、特にOKを貰ってから言うのは不誠実だと考えた上で最初から全部纏めて伝えたのだろう。とはいえ――

 

(どう答えたら良いかそれはそれで迷うのよね……)

 

 気持ち的にはカナタからの告白は受けいれたい。けれど、恋愛は一人対一人という常識が今も残っている雫的にはシアと二人同時にと言う事に思う所が無い筈が無い、けれどきっとここが彼と自分の関係の分水嶺。ここで断ろうものなら、カナタは自分との種族や価値観の違いを気にして、自分をそう言う対象して見ようとはしなくなるだろう。かと言って返事に迷い、先送りにすればやはりそれも種族の違いを気にしていると思わせる事になり――

 

(って、これ実質一択じゃないっ!!)

 

 迷うも何も、ここでYESと答える以外、彼との関係に何らかのしこりを残す事になる。カナタの誠実さが反って雫の選択を潰す形となっていた。

 

(狙ってやってる、わけ無いわよね……。はぁ、こうなったら、あれこれ考えても仕方ない、か……)

 

 シアとの事、そしてほぼ間違いなくカナタに気があるティオとの事はこの際思い切って後回し、案外香織達みたいに上手く行くかも知れないし、何かあったその時は……その時に考えよう。とりあえず今は――

 

「二つ……二つ条件があるわ」

 

「条件?」

 

 こんな告白をしてくれた礼だ。ならばこちらも遠慮なく吹っかける事にしよう。

 

「一つ目は条件、と言うよりは頼みなんだけどね。とりあえず…………一発引っ叩かせなさい」

 

「…………えっ?」

 

 雫にとってカナタから愛の告白を受ける事は一つの望みだった。ロマンチックな雰囲気の中、他の誰も目に映る事無く、自分の事だけを見つめながら愛を告げられる。そんなシュチュエーションを雫は心待ちにしていた。

 

「好きな男からの告白は乙女にとっては一大イベント。特に私なんてこれが初めてなのよ」

 

 だと言うのに事情があるとはいえ、その告白と同時に二股宣言……いや、もしかしたら後々、二股処じゃすまなくなる可能性すらある。堂々とそう宣言されたのだ。

 

「女の子の夢にこれ以上無い位のケチをつけたんだもの。返事どうこう以前に、ビンタの一発も喰らわせないと気がすまない。むしろこれだけで勘弁してあげるんだから甘んじて受け入れなさい」

 

(まぁ、確かにそうだな……)

 

 むしろビンタと同時に振られてもおかしく無い程だ。なら、これ位の頼みを聞くのは礼儀の一つだろう。

 

「判った。遠慮も手加減も要らない、全力で頼む」

 

「潔くて結構。けどまぁ――」

 

 そう言って、雫はカナタの頬に手を添え、そして思いっきり振り上げ――

 

「元から遠慮も加減もしないわ、よっ!!」

 

 

 そしてその手が振りぬかれ「パンッ!」と言う甲高い音が部屋に響く。

 

「っ~~~~!!」

 

 超速の居合い斬りを放てるほどの瞬発力が乗せられた一発だ。当然ながら物凄く痛く、カナタは叩かれた頬を押さえ、若干涙目になっている。そんな彼の姿に満足し、「二つ目はね」と雫が再び口を開くと、カナタも頬に手をあてたまま彼女の方に目を向ける。

 

「もう知ってると思うけど……私はね、これでも結構乙女チックなのよ」

 

 雫の本心は凛々しくカッコイイ女騎士よりも誰かに守られるお姫様にこそ憧れている。誰かを支える事よりも、誰かに寄りかかり支えてもらいたい、そんなタイプの女の子だ。

 

「そんな自分を偽りながら、今までやってきたけど今回の件で吹っ切れたと言うか、折れたと言うか……兎に角そんな感じ。だから――」

 

 言葉をいったん区切ると雫の顔に笑みが浮ぶ。それはとても儚い雰囲気を纏った笑みだった。

 

「守って、私の事」

 

 光輝の為に耐えて、そして結果として無為になってしまった10年間。それを少しでも取り戻す為にも自分を偽り、心を砕くのはもう止めだ。これからは他でも無い自分自身の為に頑張りたい。

 

「たくさん甘えて、たくさん寄りかかるから。だからカナタも私の事を支えて、そして守って頂戴。言っておくけど拒否権は無いし、シアばかりに構って私を蔑ろにしたら許さないから」

 

(それは……言われるまでもない)

 

 そもそも、竜に自身にとっての特別を蔑ろにすると言う考えは無い。先ほどのティオの父親とて、敗北と淘汰を受け容れる中でも、既に物言わぬ死体であっても愛する妻だけは取り戻さんと戦場へと飛び込んだのだ。

 

「判ったよ。今まで出来なかった分、精一杯雫の事を守って、そして支えて見せる。これは、竜の誇りに誓って、だ」

 

 カナタは頬に添えていた手を離し、握り拳を作るとそれで自分の胸をトンと叩いた。そんな彼の姿を雫は数秒ほど眺め――

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぷっ」

 

 そして吹きだした。

 

「なんでそこで笑う……」

 

「ごめんなさい、でも言ってる事はカッコいいけど、ほっぺた赤くしながらだとカッコがつかないな、って」

 

 と、今も笑いそうになるのを堪えながら呟くと、カナタはハァ、と溜息を吐く。

 

「……ホントにな、悪いな、何と言うか散々な告白になって」

 

「気にしなくて良いわよ、それぐらい」

 

 先の事に不安が無いといえば嘘になる。けれど、先の事なんてまだ分らないのだ。ならばとりあえずはコレで勘弁する事にしよう。そう思い、雫は彼の瞳をじっと見つめる。

 

「……カナタ」

 

 雫が静かに彼の名を呼ぶと「ああ」とカナタも短く返事を返す。

 

「私も……カナタの事が好き。だから、これからもよろしくね」

 

 そう告げて、彼の唇に自分のそれをそっと重ねる。触れるだけのキスは数秒ほどで終わり、雫は顔を離すと「あ、そうだ」と呟くとそのまま彼の胸の中に静かに寄りかかった。

 

「やっぱり、条件もう一個増やすわ……今夜はこのままで居させて」

 

「それぐらいなら、幾らでも」

 

 そう言って、カナタもそっと雫の頭に手を添えると、雫はその感触と彼の温もりを感じながら、幸せそうに目を細めるのだった。

 

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