ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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きりの良いところで切った結果、今回は少し短めになってしまいました。


第6話『胎動』

 3人が落ちて行った崖には所々に横穴が開いており、更に鉄砲水が噴出している所もあった。ハジメと香織はその鉄砲水に流される形で途中で横穴に入り、後はウォータースライダーの要領で流されたからこそ助かった。けれど、それは奇跡とも言える出来事であり、奇跡とはそう何度も起こるものではない。

 

(……)

 

 例の橋があった場所の崖の底、横穴に吸い込まれなかった鉄砲水によって所々に水溜りが出来ている空間。そこにカナタは居た。しかし鉄砲水で吹き飛ばされ、壁に頭をぶつけ更には高層ビルを超える高さから地面に身体を叩き付けられたのだ。全身の骨は砕け、意識もない。当然ながら、このままでは長くは持たないだろう。暗い地の底で彼の人生は終わりを迎えようとしていた。

 

(……イル)

 

 けれど“それ”にとってはカナタが此処に直に落ちてきた事は僥倖だった。

 

(ウケツグモノ……)

 

 やがて既に骨だけとなった“それ”の、瞳だったと思われる所、その片方に紅い光が灯る。それは“彼ら”が最後に蒔いた種。その種が蒔かれた理由はもう思い出せない。それほどまでの永い永い時の果て、種は漸く芽吹いた。もはや記憶と自我は殆ど擦り切れている、けれど約束だけは覚えている。この瞬間を迎えた時の約束、そのためにずっと“それ”は意識を保ち続けたのだから。そして紅い光がそこから零れ、地面に落ちたそれは膨れ上がり、黒く染まり形作る。

 

(イズレイタルモノ……リュウコンシ)

 

 人の形をしたそれは全身が黒一色をしており、鼻も口もない。けれど、その瞳は先ほどと同じ紅い光が灯っており、その光を中心に紅い線が体中に走っている。やがて“それは”彼の傍に立ち、彼を見下ろす。

 

(サァ……チイサキトモヨ)

 

 そしてその手をゆっくりと掲げ――

 

(タイコノヤクソクニシタガイ……ワレハオマエヲ……エラブ)

 

 腕を彼の心臓に向かって突き立てた。その衝撃に一瞬だけ、カナタの身体がビクンと跳ねる。

 

(チイサキトモヨ……オマエノコレカラガ、ジユウナ……イシノモトニアランコトヲ……)

 

 微かに残った記憶の中にある友人達の口癖。それが、神代の時代よりこの時を待ち続けた“それ”の最期の言葉だった。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

「……い、……しろっ!」

 

「た……君、……を……覚ましてっ!」

 

(う、俺は……)

 

 誰かが俺を呼んでいる。まだ頭がハッキリしておらず、よく聞き取れない。やがて、意識は少しずつ浮上して――

 

「ムグッ!?」

 

 否、急激に浮上した。突然口の中に何かを突っ込まれ、そこから液体が流れ込んでくる。

 

「ごほっ! げほっ、げほっ!」

 

 いきなり事に上手く飲み込めず液体は気管に入り、思いっきりむせる。それにより意識はハッキリして俺は上体を起こす。

 

「ここは……?」

 

「大丈夫、竜峰君?」

 

 そうして声をした方に目を向けるとそこに居たのは一組の男女。白い髪をした男性と灰色の髪をした女性。

 

「あんたらは……?」

 

「わからねぇか? まぁ、無理も無いか。自分で言うのも何だが、俺も香織も随分と変わっちまったしな」

 

 隻腕の男性の口から発せられた聞き覚えのある声、更に聞き覚えのある名前。それは俺の中である結論を出す。けれど脳内では目の前の男を自分の知る人物と結び付けられずにいた。何せ、色々違う、どこがと言われればほぼ全て。その為、俺の口からでたこの問いは本当に事実を確認する為の言葉となった。

 

「もしかして……ハジメに香織か?」

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、竜峰君は橋から落ちてからずっと意識が無かったの?」

 

「なんかの弾みで俺の記憶が飛んでなければ、そうなるな」

 

 あれから俺は「なんということでしょう」と言えるほどの変貌を遂げた二人と情報を交換していた。

 

「んなわけねぇだろ、俺と香織が此処まで来るまで少なくても2週間以上は過ぎてんだ。見たところエリクサーもねぇみたいだし、そんだけ長い間気絶してたってんなら、とっくの昔に死体になってるだろ」

 

 ハジメと香織が活動し始めてからしばらくは、香織の持っていた懐中時計で時間を確認していたが探索の途中で魔物に襲われた際に壊れたらしい。なので、今はどれぐらい時間が過ぎたかは判らないが、時計が壊れた段階で探索を開始してから14日は経過しているので、それ以上の時間が過ぎている事だけは確だそうだ。

 

「エリクサー?」

 

「さっきお前の口に突っ込んだやつだよ」

 

 ハジメはそう言いながら石製の試験管を一本取り出し、目の前で軽く振って見せた。どうやら先ほど俺に飲ませた水は神水と呼ばれ、あらゆる負傷を治す上に、これさえ飲めば食事を取らずとも生きていけるとの事。(空腹感は消えないみたいだが)

 

「ハジメ君はポーションって名付けようとしてたんだけどね。やっぱりこれだけ凄い水ならポーションよりエリクサーの方が合ってると思って。竜峰君もそう思うでしょ?」

 

「いや、どっちでもいいよ別に」

 

 「よくないよぉ」と反論する香織をスルーして俺は考える。ハジメの言うとおりなら少なくても俺は半月以上は気絶してた事になる。その間ずっと飲まず食わずな訳だからハジメの言うとおり、途中で餓死してるのが普通だ。だと言うのに飢えすら感じない。すると何を思ったのか、ハジメの目つきが更に鋭くなり――

 

「今更だが、お前ホントにカナタなのか? もしかして魔物が化けてるとか……」

 

「ちょっ、いきなり銃口向けんなっ!?」

 

 と言うか、何時の間に銃なんて作ったんだこいつ!? 兎に角、身の潔白を証明する為にステータスプレートを出して二人に見せる。

 

===============================

 

 

竜峰 カナタ  17歳 男 レベル:7

 

天職:竜魂士

 

筋力:800

 

体力:540

 

耐性:440

 

敏捷:720

 

魔力:640

 

耐魔:500

 

 

技能:????(+帝竜の闘気)・魔力操作・言語理解

 

 

===============================

 

 

(何があった俺っ!?)

 

 爆発的伸びたステータス、技能も竜核形成が????に置き換わっている。同系統のスキルの中でより上位な効果、もしくはそれに関連する場合に(+○○)と表示される派生スキルも増えている。

 

「……確かに竜峰君だね。ステータスや技能は置いておいて」

 

「みてぇだな。この世界で一番の身分証明とか言ってたし、確かに本物のカナタみてぇだな。ステータスや技能は置いておいて」

 

「判ってくれて何よりだよ……と言うか、マジでどうなってんだよこれ?」

 

 14日も普通に飲まず食わずで生きてた状況、急変したステータス、正直判らない事だらけであまりの得体の知れなさに自分の事ながら恐怖を覚える。

 

「まぁいい。あんたが敵じゃないってんなら、それ以上は追求しねぇさ。それよりどうするんだ? カナタも一緒に来るだろ?」

 

「来る、とは?」

 

「この迷宮から脱出するんだろ? 俺も香織も、その為に探索進めてんだ。まさかずっと此処で過ごすつもりじゃねぇだろ?」

 

「そりゃあな」

 

 どうやら、二人が目を覚ました階層には上階への階段は無く、脱出方法を探して探索を進めているとの事らしい。

 

「とは言え、この階層にあるのはこの空間と……」

 

 ハジメはその視線をある一点で止めた。それに釣られ、俺もそちらに目を向けると、そこには白骨化した何かの生き物の死体。

 

「あの生き物の骨だけだね、それ以外は何も無いみたい」

 

「形的に巨大なトカゲ……いや、羽みたいな部位もあるし、竜か?」

 

 俺はその生き物の骨をじっと見つめる。その時だ、ふと俺の脳内に誰かの声が思い出された。

 

(チイサキトモヨ……オマエノコレカラガ、ジユウナ……イシノモトニアランコトヲ……)

 

(今のは……?)

 

 誰の声かは判らない。けれど無機質にして無感情な声であるにもかかわらず不思議と安堵を覚える声だ。

 

「何してんだ、カナタ? 早く行くぞ」

 

「竜峰君、早く」

 

「あ、ああ。今行く」

 

 そう言って、二人の後を追い、下層への階段の前で一度止まり、もう一度ドラゴンの骨に目を向ける。そして再び階段の方に視線を向けて、二人の後を追いかけた。




今回は物語に動きは無く普通の合流回です。因みにアンケートですが、次話投稿は三日か四日後に行い、それにあわせてアンケートも閉じたいと思います。

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