ありふれた職業で世界最強~いつか竜に至る者~   作:【ユーマ】

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少し前に、ヒロインタグを追加しました。メインキャラだけ見ればハーレム人数でハジメを超えてしまってますが、先生を始めとしたサブヒロイン等は基本原作どおりなのでセーフの筈(何がだ)


第8話『奈落の底の幼き月』

「誰か……居るの?」

 

 掠れた声は周囲が無音だからこそ聞き取れる程度の小さなものだった。僅かに差し込む光を受けて、金色に輝く髪は真っ暗な空間と合わさり、何処か月明かりを思わせる。何かあるとは思っていたが、まさかに自分達以外に人が居るとは思わず、香織とカナタは驚いた表情でその少女から眼を離せずにいた。

 

「すいません、間違えました」

 

 しかし、ハジメは明らかに厄介ごとの気配を感じたのか、速攻でドアを閉めようとする。

 

「ま、待って! ……お願い! ……助けて……」

 

 こんな地底に頻繁に誰かが来る筈もない。少女の方も久しぶりの来訪者を引き止めようとさっきよりも大きな声でこちらを呼び止める。

 

「嫌です」

 

 が、それもバッサリと斬り捨てる。

 

「ど、どうして……なんでもする……だから……」

 

「あのな、こんな奈落の底の更に底で、明らかに封印されているような奴を解放するわけないだろう? 絶対ヤバイって……」

 

 そう返事をして話は終わりとばかりに扉を閉めていく。そんな様子を見ていたカナタ、そして香織の表情は複雑なものだった。可哀想と思う気持ちはある。けれど、先ほどのハジメの言葉もあり得なくは無い。それこそ解放と同時に「騙して悪いが……」と言うパターンも十分に想定できる。そうでなくても、地上に戻れない=補給等が出来ない期間がどれだけ続くか判らないのだ。こうしたリスクがある行動は控えたほうが良い。

 

「ちがう! ケホッ……私、悪くない! ……待って! 私……」

 

 そんな中、殆ど泣き叫んでいるかの様に声を張り上げる少女。けれど、今度は扉を閉めるのをやめない。やがて扉は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「裏切られただけっ!」

 

 最後の少女の一言でほんの僅かの隙間を残して止まった。

 

「ハジメ君……?」

 

 それから20秒ほど、ハジメはその場から動かず何かを考えていた。

 

「……くそっ!」

 

 そして、もう殆どしまっていた扉を再び開ける。再び差し込んだ光に、うな垂れていた少女は弾かれた様に顔を上げた。

 

(表向きは割り切ってるみたいだが……やっぱそれなりに堪えてはいるのか)

 

 既に自分たちが此処に居るのは檜山の悪意、裏切りによるものだと言う事は共通の認識となっている。そして同じく裏切られて此処に封印されたと訴える少女。その事に同族意識を感じたのだろう。そして、生きる為に恨みも含め、不要なもの全て切り捨てたと言ってるハジメにもまだ人間らしさは残っている。その事にカナタは少し安堵を覚える。

 

(香織曰く、根本的な優しさは変わっていないと言ってたが、なるほど……)

 

 

「裏切られたと言ったな? だがそれは、お前が封印された理由になっていない。その話が本当だとして、裏切った奴はどうしてお前をここに封印したんだ?」

 

 ハジメを先頭に三人は少女に近づいていく。

 

「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」

 

「お前、どっかの国の王族だったのか?」

 

 少女は無言でうなづく。長らく使われていない喉で話すのは疲れるのか、YESかNOは頷くか首を動作で答えるつもりらしい。

 

「殺せないって言ってたな、どう言う事だ?」

 

「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

 

「……そ、そいつは凄まじいな。……すごい力ってそれか?」

 

「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」

 

「適正属性ならって事?」

 

「全ての属性で」

 

「勇者様が可愛く見える程チートだな、おい」

 

 つまりはイメージとそれを補完する魔法名のみで魔法を扱えると言う事だ。目の前の少女の言葉が本当なら、魔法勝負で少女に勝てる人間は居ないだろう。人間の使う魔法が発射までの工程が幾つもある火縄銃なら、さながら少女の魔法は現代のハンドガン、その時点で実力差は明白だ。

 

「……助けて……」

 

 やがて、精根尽きたのか最後は搾り出すような声で懇願してきた少女。そんな少女とハジメが数秒ほど見つめ合う。

 

「香織、カナタ」

 

「何?」

 

「ああ」

 

「念のため、警戒しておいてくれ」

 

 そう言って、彼女を封じている立方体に手を添える。

 

「あ」

 

「錬成!」

 

 ハジメの練成の魔力が立方体に流れ込み、紅いスパークを走らせる。が、普通であればすぐに変形する筈のそれはまるで抵抗しているかのようにその形状を維持し続ける。

 

「まだまだぁ!」

 

 恐らくは今までの探索の中でも一番魔力を消耗しているだろう。立方体の方もかすかに振動をし始めるがそれでも形状は変わらずに居る。

 

「くそっ! まだ足りねぇのか」

 

「竜峰君、警戒の方はお願い」

 

 そう言って香織はハジメに対して治癒魔法“廻聖”を発動させる。この魔法の効果は魔力の移し変え、術者である自分の魔力を他者に譲渡する魔法だ。流石に魔力の消費を完全に相殺とまでは行かないが、それでも魔力の消耗速度がかなり緩和されたのをハジメは感じていた。その事にハジメはニヤリと口角を釣り上げる。やがてハジメの魔力の侵食を受けた立方体が明滅。ハジメは一瞬だけ香織の方を振り返ると互いに頷きあって、その視線を少女に戻す。

 

「上等だ! 魔力全部持って行きやがれぇ!」

 

 更に魔力を込めて錬成の威力を高め、香織もこめかみから汗が一筋流れながらも、更に魔力を込めて廻聖の効力を引き上げる。遂に立方体はその形を歪め始める。具体的な形状を指定していなかったのか、それとも無理やりに錬成を受けたからか、立方体は融け落ちる様に消滅。少女は床にペタリと座り込んでいる。

 

「マジかよ……本当に、全部の魔力……使っちまった」

 

 二人もかなり消耗したのか息を切らして、その場に座り込んだ。ハジメが神水を取り出そうとするとその手を少女がそっと掴む。

 

「……ありがとう」

 

 その様子に「むっ?」と香織の表情が少し険しくなる。

 

「……名前、なに?」

 

「ハジメだ。南雲ハジメだ」

 

「白崎香織。ハジメ君の恋人だよ。それから――」

 

「んで、二人があんたを助けてる間、見張り以外特に何もしてない俺が竜峰カナタな」

 

 香織は名前よりもその後ろの部分を強調している感じがあったが、とりあえずそれぞれが名乗ると、少女は「ハジメ、カオリ、カナタ」とその名を呟く。それは、裏切られて一人になってから何百年ぶりに出来た誰かとの縁を確かめるような呟きだった。

 

「あんたは?」

 

「……名前、付けて」

 

「は? 付けるってなんだ。まさか忘れたとか?」

 

 まぁ、具体的にどれぐらい封印されていたか知らない。けれど、吸血鬼と言う種族は何百年も前に滅んでいる。つまり、目の前の少女は吸血鬼がまだ実在してた時代の存在。これらから封印されていた期間は云百年単位に及ぶ事は容易に想像できた。そしてそれだけの時、誰とも話さず、名乗る事も無く過ごせば名前を忘れるのもありえなくなはない。けれど、ハジメの問いかけに少女は首を横に振る。

 

「もう、前の名前はいらない。……みんなの付けた名前がいい」

 

「……はぁ、そうは言ってもなぁ」

 

 三者三様に名前を考える。

 

「ルナちゃん……とかどうかな?」

 

 最初に何かを思いついたのは香織だ。

 

「うん、初めてこの部屋に来た時にこの子の髪の毛が夜空に光る月みたいにキラキラしてたから」

 

「トータスはファンタジーな世界だし、そう言うキラキラネームも悪くねぇがちょっと安直な気がするな」

 

「そうかな?」

 

 それに対してハジメが数秒ほど思案。

 

「“ユエ”ってのはどうだ」

 

「ユエ……?」

 

「ああ、これも地球じゃ月を意味する言葉だ」

 

「ユエちゃん、か……うん、悪くないかも」

 

「どうだ? 気に入らないなら別の名前考えるが――」

 

「ユエ……」

 

 少女はそっと胸に手を当てる。それはまるで大切な何かをそこに仕舞うかのような仕草に見えた。

 

「……んっ。今日からユエ。ありがとう」

 

「うん」

 

「おう、取り敢えずだ……」

 

 そう言うとハジメは今まで来ていた外套を彼女にかぶせる。

 

「これ着とけ。いつまでも素っ裸じゃあなぁ」

 

「……」

 

 そう、最初は上半身を除き殆ど立方体にめり込んでいた為、さほど気にならなかったがそれから解放されたユエは完全に裸の状態である。それに気付いた少女は顔を紅くしながら外套を羽織を羽織る。

 

「ハジメのエッチ」

 

 それに対してハジメは何も言わない。何を言っても墓穴になるし、何よりハジメの横で物凄い良い笑顔を向けている香織が怖かったのもあるのだろう。

 

(……っ!?)

 

 そんな二人の様子を少し離れた所で見守っていたカナタだったが、やがてその気配感知が何かを捕える。

 

「ハジメ、香織。急いで神水飲んで回復しときな」

 

「え?」

 

「まったく、希望が出て来たらそれで絶望は品切れ、それがパンドラの箱だってのに……」

 

 そう言いながら、背中に背負った大剣に手を掛ける。直後3人の目の前に“それ”は落ちてきた。一言で表すなら巨大なサソリだ。けれど体長は5メートルを超え、サソリの特徴であるハサミや尾の数はそれぞれ倍になっている。

 

巨人(絶望)ユエ(希望)ときて、またサソリ(絶望)。そんなパンドラの箱は聞いた事ないっつーの」

 

「おい、カナタ……」

 

「言っとくが、気配感知は常時使い続けてたぞ。こいつはホントにいきなり湧いて出て来たんだ」

 

「つまり、意地でもユエを此処から出したくねぇって事か」

 

 万一、ユエの拘束が解かれた時に召喚される様になっていたのだろう。つまりはこいつが最後の番人。

 

「上等だ、殺れるもんならやってみろ」

 

 そう言って、神水を一瓶、香織に渡す。

 

「香織、ユエを頼む」

 

「判った。ユエちゃん、こっちに!」

 

 それを受け取り、香織はユエを連れて二人から距離を取り、近くの柱に隠れる。それを確認し、ハジメはドンナーを手に持ち、カナタも大剣を構える。

 

「邪魔するってんなら……殺して喰ってやる!」

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