そしてヤ●チンは愛を知る   作:林太郎

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 生徒会一行はお化け屋敷にも並ばずに入れた。もともとが病院であるその施設には、やはり異様な雰囲気が漂っている。

 

「キャストの方々、怖くないのかしら」かぐやが言った。

 

「うーわ。冷めてますね、かぐや様」道留は反応する。

 

「だってこんなところにずっと一人ですよ?」

 

「まぁ確かに、否めないな」白銀が言った。

 

 順路に従って、とある病室を覗いたときだった。

 

「いやああああああぁ!!!」

 

 ベッドの下から這い出てきた血濡れの女にかぐやが悲鳴をあげる。せっかくなので道留も一緒に叫んだ。

 

「白銀ぇ!どうにかしろぉ!!!」

 

 しかし例によってヘタレの白銀。叫び声をあげないのはショックが大きすぎたためだ。

 

「うわぁ。良くできてますね~」藤原は冷めたことを言う。

 

 そんな藤原を先頭にして歩くことになった。様々なトラップが発動する中、道留は後ろから来る二人組について考えていた。

 

 ここに来てからチラホラ見かけるカップルだ。広い園内で何度も遭遇するなんて偶然は、きっとない。だから恐らくかぐやの護衛。自分達のグループと後ろの二人組の入場時間があまりズラされなかったことも根拠のひとつだ。しかし、その程度のことが彼の興味を引いたわけではない。

 

 彼が気になったのは、二人組の年齢だ。二人とも自分達と同じくらいの年齢に見える。

 

 ところで道留は、学校生活において、かぐやをサポートとする四宮グループの人間が存在していなくてはならないだろうと考えていた。彼女のような国の要人を、いくら学園内だからといって放っておくというのは考えにくい。躍起になって、それが誰かを考えたわけではないが、早坂愛がサポート役なのではないかとうっすら予想していた。

 

 早坂愛のバックにあるのが四宮家だとしたら、校舎裏での彼女の言動に説明が付けられるからだ。そもそもあんなところで時間を潰していたのも、かぐやが生徒会の仕事を終えるのを待つためだというのなら納得できる。

 

 そしていま道留は、あの二人組の片割れ、女の方が早坂愛である気がしてならなかった。年齢が近いからというたったそれだけの理由で、彼はそんな気がしていた。身長が靴で調整できる範囲で伸びていたし、装いも髪の色も目の色も普段とは全く違っていたが、四宮家の人間ならそのくらいするだろう。

 

 ふと名案を思い付く。思い付いたらやってみたいし好奇心は止められない。リスクはあるが仕方ない。曲がり角で道留は意を決して、生徒会一行からこっそり離脱すると物陰に潜んで二人組を待った。曲がり角を利用したため、道留のこの行動は後続の二人には全く見えていない。彼は近くに落ちていた赤く染まったシーツで身を隠し、オブジェになりきった。

 

 二人組が来た。足音が近づいてくる。角を曲がった。道留が居なくなっていることに気づく。

 

 女は通信機に口を近づけた。

 

「Nをロスト。繰り返す、Nをロスト」

 

彼は確信した。

 

「Nって誰のこと?」道留は後ろから早坂のカツラをはぎ取った。

 

「な......」早坂が目を丸くして振り向く。

 

 男性ガードマンは、やられた、という顔をして頭を掻き、髪をくしゃくしゃにした。

 

道留はニヤっと笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課となって間もない教室は喧騒に包まれていた。

 

 早坂愛は自分の席で顔に手をつき、ぼんやりとクラスの真ん中で談笑している男子の一群を眺めている。

 

 クラス内カースト上位層のグループ。その中に西園道留がいる。会話の主導権は彼が握っていた。彼が何か冗談を言って、その周りが大きく笑う。彼の空間演出能力はカリスマ的だ。

 

 彼が生徒会で遊園地に行ったのが三日前。早坂が校舎裏で彼に遭遇したのはもう二週間も前のことだ。

 

 彼は良心的な金額を要求し、早坂が四宮の人間であることを口外しないと誓った。しかしどうしてわかったのかは教えてくれない。

 

 四宮家の一部では彼をこちら側に引き込んではどうか、という意見もあった。彼の素行の悪さからそれは却下されたが、彼は四宮家から注目される人間になった。彼が四宮家から制裁を受けていないのは、彼が利用価値のある人物だからである。

 

 かぐやでさえ、彼への評価を改めていた。とてつもなく頭の切れる男としてインプットされていた。

 

 

 

 彼を危険人物と見なして二週間。彼女は毎日彼を観察していた。にも関わらず、遊園地でのあの失態。早坂はかなり悔しかった。

 

 しかし校舎裏で見せたあの頭の回転の速さを、普段の彼の生活の中に見ることは未だにできていない。だから、いまだに情報が足りない。意図して隠しているのだろうと早坂は想像できる。

 

(じゃあ何で隠してるんだろう)

 

 彼女は思考の渦へ落ちていく。何度も考えた命題。思考は堂々巡りで結局いつも結論はでない。しかし、ふとした拍子に考え始めてしまう。何故考えてしまうのか、その理由もわからない。

 

 境界条件が足りないのだから考えても無駄だと思っているのに、彼女は今日も思考をスタートさせてしまった。

 

 三日前に彼が見せた普段とは違う表情。家族連れを眺めていたあのときの表情。早坂はその表情から、彼に親がいない可能性を考えた。しかし調べてみると西園道留の両親は存命。彼は携帯会社の長男だった。といっても上に姉が二人いる。

 

 彼女は自分の直感を信じ、深くまで調査したが西園道留は西園幸太郎の息子であることは揺らがなかった。

 あのときの彼の表情は光のイタズラだったのだろうかと彼女は思い始めていた。

 

「なーに見つめちゃってんの~?」早坂は突然話しかけられた。早坂の肩に女子生徒が手を置く。彼女の名はアヤネ。校内擬態早坂の友人の一人だ。

 

 早坂は振りかえって「何が~?」ととぼけた。

 

「ここんとこずっとだよねー」アヤネの隣に立つ女子生徒が言う。彼女の名はユキ。校内擬態早坂のもう一人の友達。

 

 早坂の二人の友人はニヤニヤと笑っている。

 

「え、どーゆーこと?」早坂が笑顔で聞く。取って付けた笑顔だが、一般人には見抜けない。

 

「好きなんでしょ?」ユキが頬にできた窪みをより深くさせながら言った。

 

 早坂の頭はクエスチョンマークで一杯になった。

 

「あたしが?」

 

「うん」アヤネが言う。とても楽しそうな顔をしていた。

 

「誰を?」

 

「西園道留」ユキが言った。

 

 早坂は対応に困った。二週間ずっと観察してたのは事実。確かに端からみれば自分が好意を持っているように思えるかもしれない。

 

「ぜんぜんそんなことないよぉ~」早坂は取り繕った。しかし遅い。

 

「いまギクッて顔したじゃん!もう誤魔化せないよ」アヤネが言った。こういうときだけ、彼女は鋭い。

 

「違う違う、ぼーっとしてただけだよぉ」早坂は手を顔の前で振りながら言った。

 

「ここんところずーっと、みっちゃんのこと見てたじゃん」ユキが言う。

 

「いやいや、ホントに、ホントに違うから!」早坂は心から言った。

 

 彼女はどうしてわかってくれないのかと憤慨した。そして彼女の冷静な部分は、いくら否定しても恥ずかしがってるだけにしか見えないということに気づいた。こういうときは、話を具体的にした方がいい。

 

「あたしあの人、むしろちょっと苦手なんだよねー」早坂は苦笑いしながら言った。もちろん、作為的な表情である。

 

「え、なんでなんで?やっぱ女関係のこと?」ユキが言う。

 

「うん......すごく遊んでるらしいじゃん?その、一晩だけ付き合って、って人が何人もいるって」

 

「それホントらしいよ。んで他校の子としか付き合わないみたい」アヤネが低いトーンで言う。彼女たちをペースダウンさせるという早坂のもくろみは上手くいった。

 

「だからさそんな人、なんか嫌だよ」早坂は危機を乗り切ったことを確信しながら言った。

 

「普段は面白いしカッコいいし紳士的なんだけどねー」アヤネが言った。「ちょっと残念」

 

「でも面白いしカッコいいし紳士的だから嫌いになれないんだよなー」ユキが笑った。「気をつけなきゃって思ってても心許しちゃうタイプだよね」

 

「同感」アヤネが笑った。

 

「二人とも、もしあたしがあの人のこと好きだって言ったらどうするつもりだったの?」早坂はふと気になって尋ねた。

 

「止めてた」ユキが急に真顔になって言う。「あの人、付き合うとなると危ないよ。もし愛があいつのことホントに好きだって言ったらやっぱ心配だし」

 

「にしては二人とも楽しそうだったけど」早坂は不思議に思った。

 

「演技。あんな感じでいかないと話してくれないかなって。二人でこそこそ計画してたの。上手かった?」

 

 一杯食わされた、と早坂は思った。そして自分が上手く誘導されたことがとても嬉しかった。彼女らのまだ見ない一面を見ることができたからだ。チャラチャラしているとはいえ秀知院学園の生徒。そこらにいる高校生と一緒にしてはいけない。

 

「ねぇ騙されたんだけど!」早坂は笑った。つられて二人も笑う。

 

 笑いが引いた頃にアヤネが口を開いた。

 

「あのね、愛」早坂はアヤネを見た。「あの人ホントに気を付けた方がいい」

 

「わかってるよ。顔もタイプじゃないし」

 

「そういうことじゃなくて」アヤネはいつになく真面目な顔だ。「最近、あの人もね、愛のことよく見てる」

 

「え?」

 

「愛はかわいいから、目ぇつけてるかも。気を付けて」

 

 

 

 

 

 

 

 

「西園道留って、知ってますよね?」早坂はとある公立高校の校門から出てきた女子生徒に話しかけた。

 

 この女子生徒が道留の元カノであることは、すでに調べがついていた。

 

「え、もっかい言ってもらっていいですか?」きょとんとした顔で女子生徒が言う。

 

「西園、道留です」早坂はゆっくり目に言った。

 

 しかし女子生徒はまるでピンと来ていない。

 

「え、誰ですかそれ」演技しているようには見えない。

 

 早坂はスマホを操作して道留の写真を表示させた。それを女子生徒に見せる。その瞬間、女子生徒の顔は明確に歪んだ。

 

「にしぞのみちるっていうのが、本名なんですか?」女子生徒が聞いた。その言葉は震えている。

 

「ええ。あなたにはなんて名乗っていたのですか?」早坂は聞いた。

 

真方葵(まがたあおい)」彼女は忌々しそうにその言葉を口にした。「私の心をもてあそんだ、クズです」

 

 西園道留が偽名を使っていた。この事実は早坂にとって大きな収穫だ。道留がクズであるということは周知の事実であったので、その方面の会話をするのは非効率的だったが、ここまで来てそれを聞かずに帰るというのも何かおかしい。それにこの女子生徒は話したがっている。早坂はそう思っていくつか質問をした。

 

 彼はどういう手法で、あなたに迫ったのかという質問をしたときだった。

 

「あの人、孤児なんです。自分には家族がいない。飛行機事故でみんな死んでしまった。俺は親父が庇ってくれて助かったけど、母さんが庇った妹の方は駄目だった。そんな弱味を吐くんです。あの派手な見た目してる人が。それで、私だけだって、俺には君しか残されてないって......」

 

 それはすべて嘘だ。早坂はそう思ったが、すぐに遊園地での彼のあの表情を思い出した。彼が元カノに語った家族構成と、遊園地で彼が見ていた家族のそれは、一致している。背筋に寒気が走った。

 

 もし、彼の言ったことが本当ならば?

 

「それ、全部、嘘ですよ」早坂は言った。「あの人には父親も母親も姉も、全員いて、全員生きてます。あの男は、クズです」

 

「ですよね。浮気されてから、もしかしてって思いました」女子生徒は泣きそうな顔で笑った。「でも、あのときは全部本当に聞こえたんです」

 

 手にいれた情報は少ないし粗い。もっと調査する必要がある。だが一度、彼にぶつけてみようと早坂は思った。

「ここにセリフあって」ここに地の文ある。「そしてここにセリフが続くというのを改行なしで書く私のやり方は読みにくい?」

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