「西園道留、いえ、真方葵と呼んだほうがお気に召しますか?」早坂は道留に言った。
放課後の校舎裏、早坂は彼を呼び出していた。正体を見破られた今、ギャルらしい話し方は無意味なので、四宮家に対するのと同じ口調で話す。
「あー、調べたの?」道留の表情は変わらない。「恥ずかしいな」
「中性的なカッコいい名前ですね、真方葵って。自分でつけたんですか?」早坂は煽った。
冷静さを奪えば、相手がボロを出す可能性は高くなるからだ。彼の表情が変わった。しかしそれは早坂が期待していたものではなく、人を哀れむようなものだった。
「偽名を人につけて貰うヤツなんていないだろ」いつも通りの口調で言った。
早坂は攻撃の手を緩めない。何が有効な言葉になるかわからないので、思い付くままに彼を煽る言葉をぶつける。
「その名前、気に入ってるんですね。何人に対してもそう名乗ってる」
彼が女関係においてだらしない人間だったことが幸いし、多くのデータを取れていた。
「それが非合理的だと?」
「普通はコロコロ名前を変えますよね。そうしない理由は何です?」
「女ごとに名前変えんの?めんどくない?」
「それで誤魔化せるとでも?」
「それ、君の願望でしょ?」
「どういうことですか?」
「早坂さんは俺の偽名について何らかの仮説を立てた。その仮説に俺の発言が反しているから、これが誤魔化しのための嘘であってほしい。そういう願望。ところで、どんな仮説を立てたわけ?」
一瞬言葉につまった。自分の言葉の発生に、この男は説明をつけてくる。理由を明らかにし、言葉の正当性を疑わせてくる。つまり道留は攻勢に出ていた。
しかし早坂は彼の心を揺さぶれていることを確信した。
「あなたの本名は真方葵。何らかの事情により、西園道留と名乗らざるを得なくなった。知り合った女性に本名を言うのは、真方葵としての自分の存在を確認するため」
世界中の飛行機事故の資料を漁っても、真方という性の日本人が死んだという情報は入ってこなかった。つまり、飛行機事故自体に意味はない。親がいなくなったという事実のみが意味を持つと早坂は考えた。しかし彼女の理屈は破綻している。
「早坂さんって、バカなの?」道留は笑った。「俺の親、知ってるでしょ?期待して損した」
早坂は言葉に刺を感じた。彼もまた、自分から冷静さを奪おうとしている。そう思った彼女はその作戦に乗らないように、自分に釘を刺した。
確かにそう、早坂の理論は破綻している。しかし、早坂にはその自覚があった。彼には親がいる。養子になったわけではない。血の繋がった親の存在が早坂の仮説を否定していた。彼の見せたあの表情は、根拠としては弱い。だから、本人から直接情報を得るために、早坂はここに来ている。
「あなた、誰ですか?」早坂は聞いた。前にここで彼に言われた言葉を返した。
「西園道留。当たり前のこと聞くなよ。ああ、ちょっと待って......」彼は顔を上に向けて何もないところを睨んだ。
これは彼の考えるときの癖だが、早坂はとうぜんそんなこと知らない。怪訝な顔をして、しかし彼の言葉通り少し待った。
「仲間探し?」彼が言った。
「は?」
「自分と同じように、自らを偽りながら生きてる人間を探してる?」
「違います」
即答する。冷静な言葉とは裏腹に、早坂の感情は大きく動いていた。自分の発言に自信が持てなくなる。彼の言葉を否定できたのは表面上でだけで、彼女の心の大部分は、道留が付けた理由を正しい見込みが高いものとして検証し始めている。
自分に不利な言葉の正当性を客観的に分析できるくらいには、彼女は頭がいい。
彼女は焦りはじめた。
自分は、自分のことを西園道留に理解してほしいのか?彼に期待しているのか?今まで彼について行ってきた調査は、四宮家のためではなく、自分のためのものだったのか?
答えなど出ない。こういう場合、思考を一度停止させてのちほど再度検討すべきだと彼女はわかっている。彼女はそれを行ったが、焦りはその場に残留した。
「ふーん?本当かなぁ」道留が言う。
「だいたい、自分を偽っていない人間など存在しません。ですから、もし私があなたの言うように誰かを探していたとしても、あなたのような人を選ぶ理由はありません」苦しい言い訳だなと思いながら言った。
「いや、分かってて言ってるでしょ?問題はその度合い。普通は偽り方が流動的、水っぽいんだけど君はもっと機械的で固体みたいだ。そのアーキタイプは珍しい。だから仲間を探さないと寂しい」道留はとうぜん彼女の理論の薄いところを見逃さない。
問い詰めるはずが、早坂の立場のほうが危うくなっていく。本来、このような場面は退くべきであるが、道留を呼び出したのは他でもない、早坂愛だ。
自分で呼び出しておいて、自分が先に逃げるように退散する。こんな行動は、別段プライドが高くない人間でも避けたい。そして早坂は、人並み、またはそれ以上にはプライドが高い。さらに、遊園地にて道留に正体を見破られたという悔しさも加わる。つまり、彼女は退けない。
「固体的なのは、あなたもでしょう?」
早坂は教室にいるときの彼と、こうして鋭い考察を遠慮なくぶつけてくる彼との差異から攻めることにした。
「まぁね。早坂さんと違って、アウトプットの仕方は1つだけだけど」
「私はかぐや様にお仕えするために、自分の性格を固体的にし、きっぱりとした切り替えを可能にしています。あなたはどうしてそうしているのですか?」
「だって友達は欲しいじゃん」彼はさらっと言った。
それだけ?と早坂は思った。彼のことだから複雑な動機によってのことだと思っていたのだ。
この感想は、彼が複雑な動機を抱えていてほしいという願望の現れなのだろうか。道留のせいで要らぬことを考えてしまう。早坂はこの命題についても考えるのを保留した。二つとも入浴中に処理することに決める。
「意外ですね」
「ありがとう。過大評価してくれて。ところでなんで四宮家は俺に制裁を加えないの?」
道留は急に話題を変えた。逃げたのか?彼女はその可能性を検討したが、深追いは危険だと結論付けた。話題の変更が早坂にとって有り難いことなのは、言うまでもない。
「私の変装を剥いだ件ですか?」
「そう。早坂のコスプレを剥いだ件」彼は突然呼び捨てにした。
ああなるほど、こうやってこの男は人との距離を詰めるんだなと早坂は思った。
「家の者のなかには、私の変装を見破ったあなたに利用価値があると考える者が何人かいます。その何人かが、あなたを四宮グループに引き込もうとしましたがあなたの素行が悪かったので廃案になりました。今は保険として生かされてます。よかったですね」
「じゃあ俺は、ホテル行き過ぎて高額バイトを逃したわけか」彼は全く残念そうでない顔で言った。
「去勢すればいつでも歓迎しますよ。去勢すれば」
「やだよ。これを待っている女が何人いると思ってんだ」彼は自らの下腹部を指して言った。
「セクハラですか?訴えますよ?」
「ごめん」
「ちなみに何人いるんですか?」
「六人」
「うーわ」早坂は言いながら一歩下がった。「道留さんって病気持ってたりしないですよね?」彼女も彼の呼び方を変えた。先程のカウンターである。
言及しておくが、彼女は彼に好意を抱いていない。単に、手のひらで転がせたら愉快だろうなという気持ちである。
「生でするわけないでしょ?」
ごもっともである。
「恋人は?」
「二人」
「罪悪感はないんですか?」
「俺に泣かされるヤツが悪い」
「清々しいまでにクズですね」
「恋したことがないからね。恋の辛さが全くわからないから、相手の気持ちも考えられない。一途って言葉の意味もわからない」道留は面白くなさそうに言った。「早坂は?何人キープしてんの?」
「一人もしてません。一緒にしないでください」冷たく言った。
「そんなに可愛いのに?」
自分の容姿を褒める言葉に彼女は警戒した。友人たちの言葉を思い出す。この男は自分を落とそうとしているのかもしれない。
「顔は関係ないですよ。中身がクズか、そうでないかの違い」
「ねぇ恋愛と言えばさ、うちの会長とかぐや様はいつくっつくかな」彼はまた話題を変えた。
「やっぱり気づいてましたか」これは早坂も興味のある話題だったので乗った。
「遊園地で監視してたなら、俺のアシスト見てたでしょ?」
「道留さんを誉めるのは気が進みませんが、確かにそうでしたね。まぁ、二人ともヘタレですからくっつくのはまだ先の話になりそうですが」
「恋愛相談乗ってるの?」道留が柔らかく笑う。
彼は立っているのがかったるくなったのか、校舎にもたれてすわった。早坂も座りたかったが、道留の横に座るのが嫌だったのでその場に留まる。
「のろけ半分ですけどね」
「ああそれは大変だ。ほほえましい気持ちも混ざってるだろうけど」
「道留さんも白銀会長から?」
「いや。俺みたいなヤツに真面目な恋愛相談を持ちかけてくるヤツなんていないよ」
「確かに」
「まぁ、俺が白銀の本命に気づいてるってこと、そろそろ感付くんじゃないかな。そしたら遠回しに意見求めてくるかもね」
早坂は道留の横に歩いていき、校舎にもたれかかった。道留の側に行きたかったわけではなく、ヤリチン男の目の前に何度か折って短くしたスカート、ひいては太ももを晒すのは危ないのではないかと思ったからである。だから早坂は座っていないし、彼らの間にある物理的な距離は他人行儀だ。
「ま、流石にもうすぐ夏だしさ、何かしら進展するだろ」
「本当にそう思います?」
「じゃあ、進展したらいいなぁって言い直すよ」
早坂のスマホから通知音が出た。画面をチラリと見ると同い年の主人から呼び出しが入っている。
「じゃ、用事できたので」彼女はそう言ってその場を立ち去った。
後ろから「頑張れー」と聞こえたが返事をする必要もないだろうと考えて、なにも言わなかった。
○
「今日西園先輩はどうしたんですか?」石上優はなんでもないふうに言った。
早坂と道留が校舎裏にいる頃、生徒会室には石上、白銀の二人がいた。
「遊んでるんだろ。どうした?何か用事か?」白銀が答えた。
「えーと、そういう訳じゃないんですけど」石上は言葉を切った。
彼には敬愛する白銀に聞いておきたいことがあった。
石上優は西園道留のことが好きではない。むしろ嫌いだ。理由は石上の心にできた消えない傷と道留の女遊びにある。
萩野という男がいた。嘘をつきなれたクズ、というのが石上の彼に対する評価だった。彼の悪事を止めるため石川は一人奮闘し、そして今不当な扱いを受けている。
ほとんど毎日女と遊んでいるという道留の行動は、石上の厭悪する萩野のそれと重なるところがある。ゆえに石上は道留を警戒し、それは嫌いという感情として定着した。
そんな道留が、憧れの白銀が率いる生徒会のメンバーの一員。それが石上には、どうも納得できない。人を傷つけることを悪とする白銀が、どうして彼を側に置いておきたがるのか。石上は、それが知りたい。
しかし、聞けない。道留と白銀はお互いの家を行き来するくらいに仲がいいことは、いつだったかの会話からわかっていた。仲のいい友人を批判されたら、批判した者に好印象を抱かないのは明らか。そして石上は白銀に嫌われたくない。
「石上さぁ、道留のこと好きじゃないだろ?」白銀が唐突に言った。
石上は驚いた。考えていることを当てられた驚きだ。そしてそんなに態度に出ていたかと省みる。
「あ、ええ、まぁ。すみません」石上は言った。
「謝る必要はないさ。仕方がない。そういうのは誰にだってあるし、特にあいつは評価が別れる性格してるからな」白銀はいつも通りの口調で言う。
「あの、すみませんついでなのですが、何故会長は西園先輩を......」石上の言葉が途切れた。言葉が見つからなかったからだ。
「生徒会に呼んだのか?」白銀が言葉を引き継いだ。石上は頷く。
「俺はこの学校のチャラチャラしたグループからはそこまで慕われていない。生真面目だとそういう生徒から受けが悪い。だが道留は違う。そこに利用価値があると判断した。というので納得できるか?」
「できません」石上は即答した。
「あいつが俺をブレーキと見なした、というのでは?」
よく意味がわからなかった。
「どういうことですか?」
「俺にも正確なことはわからん」白銀は席を立って窓の外を見た。「一年の頃、あいつはもっとヤバイことに手を出してた。校外だけど、彼氏持ちの女に手を出してみたり暴力沙汰起こしたり。俺は、それを面と向かって注意したことがある。その時にあいつに『ブレーキ役になってよ』と言われた。以来、どういうわけかあいつは俺を慕ってる。そして素行も、未だに悪いが、ずいぶんマシになった」
「よく、わかりませんね」石上は道留の思考を全くというほど追跡できなかった。
「そう、よくわからないから側においておきたいんだ」
「手綱を付けるってことですか?」
「いや、目の届くところにいてほしいんだ。それに、個人的に俺はあいつのことが好きだしな」白銀は少し笑った。
「すみません、全く理解できません」
危なすぎる、と石上は思った。道留が何かしたら会長の任命責任も問われる。そうなれば立場は危うい。そして生徒からの単純な印象も悪くなるだろう。
「うん、理解する必要ないよ」とつぜん扉が開いて道留がそう言いながら入ってきた。
「道留!?今日は来ないんじゃなかったのか?」白銀はついつい大声をあげてしまう。
「いや、めんどくなったから約束断ってきた」
彼はソファーに座る石上に向かい合って座る。
「で?本人が登場したわけだけど、何か聞きたいことは?」道留が石上の目を覗いて尋ねた。
他のヒロインは早坂二次創作読んできた。比較すると、なんかうちの主人公と居るときの早坂さん、可愛くなんないんだけど。なんで?
あと語彙力が無くて繰り返し同じ表現が。くそっ!
あと感想・評価してくれたらうれしょんします(お前の好きな子が)
「ここにセリフあって」ここに地の文ある。「そしてここにセリフが続くというのを改行なしで書く私のやり方は読みにくい?」
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読みにくい
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少し気になる
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別に気にしない
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むしろ読みやすい