そしてヤ●チンは愛を知る   作:林太郎

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四宮の別邸を訪ねた日の夜。雲の向こうで欠け始めた月が薄く光っていた。道留はマンションのベランダでタバコを吸っていた。煙で肺を満たして、ゆっくりと吐く。吐きながら今日の自分の行動について考えていた。

 

どうして自分はあの日付を早坂に教えるのか。

 

実行前とその最中は行動を客観視することは難しいというのが彼の持論だ。振り返ってみてようやく分析と呼べる分析ができる。

 

すぐに認めざるを得ない事実を頭の端から真ん中に移動させた。それは彼が早坂愛に興味を抱いているということである。それも、白銀やかぐや、藤原に並ぶほどにである。

 

では何にそれほど興味をひかれたのか。顔だろうか、と彼は思った。そのような危険な印象は排除すべきだ。自分が彼女に恋愛感情を抱いてしまったら、それはきっと腹立たしいことだ。

 

しかし彼はここで、恋愛感情を抱いていないと考えたい自分に気が付いた。論理的な検証におけるこのような主観は排除すべきである。ゆえに彼は人間に可能な分だけ主観を取り除いた。

 

その土台の上で話の道筋を考え始める。煙を吸い込んで、同時に生まれる涼しさを頭の方に流して。それをしばらく繰り返した。やがて一つの結論に達する。

 

その結論に彼は心から安堵した。自分が彼女に抱いている興味は恋愛感情などではない。その興味の原因は彼女の適度な思考速度にあった。かぐやでは速過ぎ、白銀では遅すぎ、藤原は論外。そんな中、早坂の思考速度は道留が遊ぶのにはちょうどいいのだ。いい勝負になるが最後に勝つのは自分だという見込みがある。

 

彼女があのレゴブロックを見つけるのは秋冬。だから彼女に与えられる時間はだいたい二ヶ月程度。

 

 日にちの都合を考えてみて、突発的なアイデアだったレゴブロックのメッセージがかなり整合性のとれた要因になっていることに気づいた。早坂が探偵役としてはベストだということにも。

 

「面白そうだからその方向で動こう」言ってタバコの灰を落とす。

 

 しかし彼は計画の詳細を詰めるのを後回しにした。もう少し目先の些事を考えたくなったのである。

 

 道留は白銀とかぐやの関係のことを考えた。キレイな恋愛をしたことのない道留には彼らがどこか眩しくみえるのだ。彼らは恋愛に重きを置いているようなので、成就させて幸せになってほしい。だから彼らをアシストしてきた。縁を切るまでは続けるつもりである。すると気になるのはかぐやの部屋で何か進展したのか、だ。

 

 彼はスマホを手に取った。

 

 

 

 

お湯に浸かって頭を空っぽにして、お湯の温もり体を預けていた早坂を、スマホの着信音が襲った。

 

 画面を確認した早坂はため息をついて電話に出た。 

 

「なんでしょう」

 

「なんか発展した?」彼女なら理解できるだろうと道留は会話の導入部を省略した。

 

「同衾まで行きました」

 

「はやっ!まじで?」道留は心から驚いた。

 

「まじです。白銀会長がかぐや様のベッドに潜り込みました」

 

「白銀にそんな勇気が......」

 

「かぐや様が引きずり込んだ可能性も否定できませんが」

 

「なにそれ」

 

「かぐや様、意識が朦朧としてたんで」

 

「で、同衾しただけ?」

 

「しただけです」

 

「チキンかよ白銀」

 

「欲望のコントロールがきちんとできていますよね、あなたと違って」冷たい声だった。

 

「ひどい言い様。オブラート、忘れてない?」

 

「覚えてましたよ?残念ながら包み切れませんでしたが」

 

「じゃあ仕方ない」彼はすんなり引き下がった。「ねえ、風邪ひいてるかぐや様はひいてるときの記憶がないって本当?」

 

「本当ですよ。ですからあなたの予想通り、ひと悶着ありました」

 

「長引きそう?」

 

「まあ何日かは」

 

「恋愛相談に来てくれるかなぁ?」道留は期待を込めて言った。

 

「無いでしょう。あなたの量産型恋愛とあの人たちの上質な恋愛は、もう別物といっても過言ではないですから」

 

「上質て」道留は笑った。「外側をどんなにきれいに作っても、中身は変わんなくない?」

 

「外側を飾るのは重要なことです。あなたも別のところでやっていることでしょう?」

 

「飾って失うものもある」

 

「素材の良さとやらを語るつもりですか?」

 

「違うよ。飾ることに頭を縛られたくないだけ」

 

「あなたが目指しているのは獣ですか?」

 

「その逆。本能を排除できるならそうしたいね」

 

「矛盾していませんか?その発言とあなたの行動」

 

「うん。だからさ、その矛盾を必死に解消しようとしてる」

 

「どういうことですか?」

 

「自分で考えなきゃ。俺は理解してもらおうとは思ってないんだから」彼の口調にはトゲはなかった。「でもね、楽しいよ。お前と話すの」

 

「私、秀知院の生徒ですよ。見境なくなりましたか?」

 

「だとしてもあり得ないね、早坂愛は」彼は笑う。「あんなに語尾に『し』が付く女、なんか嫌だわ」

 

「バカっぽく見えるでしょ?」早坂は微かに笑う。

 

「恥ずかしくなんないの?」

 

「仕事ですので」

 

「仕事ねぇ......」

 

「私も楽しいですよ、あなたと話すの」

 

「秀知院の生徒さんは受け付けてませーん」

 

「前々から思ってたんですけど、その決まり何で作ったんですか?」

 

「だって秀知院で敵を作りまくったら白銀に迷惑かかるじゃん」

 

「えー、意外とまともな理由......」

 

「そんなに驚くことかね」

 

「気にしなそうですから」

 

「失礼じゃん」

 

「そういう印象を与えてるのはあなたじゃないですか」

 

「否めない」

 

「一人に尽くそうって気にはならないんですか?」

 

「何が楽しいのそれ。植物育てるのと似てる?」

 

「共通部分はありますけど、ほとんど違います」

 

「わかんねー」

 

「でしょうね」

 

「早坂はどうなのさ。浮わついた話、一切聞いたことないけど?」

 

「そんな暇、私にはありません」

 

「そういうもんか。勿体ないな」

 

それから他愛もない話をした。思えばこうやって彼と友達みたいに接する機会はあまりなかった。やがてお湯に使っているのも飽きてきてそれを言うと「じゃあそろそろ切るね」と宣言して彼は通話を終了した。

 

 

 

 

 お財布に優しい価格設定で学生に人気のファミレス。今日は休日なので制服を着た学生はほとんどいない。代わりに部活動のウィンドブレーカーを着た活発そうな若者たちが店内を賑やかな若さに彩っていた。

 

 その店内の端の四人席に白銀、石上、道留が座っている。白銀以外は私服姿だ。

 

 全員がドリンクバーから帰ってきたところで「ちょっと相談事があるんだが......」と白銀がおずおずと切り出した。

 

 かぐやとの同衾から数日。白銀は相談相手を欲していた。一応和解はしたものの、あれ以来かぐやとまともに話していない。どうしたら元通りになるのかと彼は悩ん

でいた。

  

 真っ先に彼の脳裏に浮かんだのは彼の親友である西園道留だった。女を簡単に手玉に取ることができる彼に相談すれば進展するのは明らかだ。

 

 しかし白銀は気が進まない。自分と彼の恋愛は別物のような気がするし、そもそも白銀は恋愛ごとについて彼と話すのをなるべく避けていた。それは見たくない彼の一面を目の当たりにする可能性のある行為だからである。心を許せる友人が多くはない白銀にとって、彼の存在は貴重であり、失いたくないものなのだ。

 

 次に石上に頼ろうかと検討した。石上なら自分と同じ価値観から意見してくれることが予想できる。だが、道留と比べたとき、どうも力不足な気がしてならない。モルヒネを処方してもらうか、市販の弱い薬でどうにかするか悩むときの気持ちに似ているなと白銀は感じた。

 

 悩んだ末に白銀は二人ともに相談することに決めた。色々な意見が聞けた方が問題解決に向かいやすいだろうという判断をしたのである。また、男子会を開催するという事実がその判断を下すのを手伝っていた。

 

「恋ばな?」道留が聞く。

 

「まぁ、他人の話だけどな......」白銀はごまかした。

 

「それじゃあ会長の話みたいに聞こえますよ」石上が指摘する。「そんなベタなことは無いと思いますが」

 

「その前振りが無いと、もっとお前の話っぽいけどね」道留が笑う。

 

「まぁとにかく、俺の友人Aとそいつが好きなBの話だ。何か用事があったらしく、AがBの家を訪ねたんだ。するとBが風邪を引いてたらしい。Bの親が顔を見てってくれと言うからAはBの部屋に入った。んで......」

 

「ちょっと待て白銀」道留が白銀の言葉を遮った。ニヤニヤとエクボを作っている。「そのとき、Aといっしょに友人Nがいなかった?」

 

 白銀は硬直した。友人N。CでなくてわざわざNを使っている。Nishizonoである。白銀はバレてることを悟った。即座に否定すれば良かったものの、間が生まれてしまったので誤魔化しようがなくなった。しかし石上にはバレていない。さっさと認めて被害を最小限に食い止めるのが良いと判断をした。

 

「そう、Nがいたな」白銀はしぶしぶ言った。

 

 道留の笑顔が腹立たしく感じる。白銀はそこでふと思った。この相談が白銀自身のことであると知っているのは当人と道留のみ。石上はもちろん知らない。

 

 白銀は考えた。これも、いわゆる仲間外れに該当するのではないか?もともと三人で仲良く話そうという日だったのに、一人だけに秘密にして話を進めるのはおかしくないか?もし俺が同じことをされていたら、どう感じる?

 

 白銀はそういう優しい人間である。

 

「.........いや、実はな、これ、ベタなパターンの、ヤツだ」言葉を区切りながら言った。

 

「どういうことですか?」石上が聞く。

 

 道留は相変わらずニヤニヤしていた。殴ってやりたい衝動に刈られる。わかっているならお前が説明しろよと思ったが伝わらなかった。

 

「この相談はな、ほら、石上、自分で言ってたろ?これな、ベタなパターンの相談だ」白銀は赤面して言った。目線を下げ、テーブルに貼り付いた広告を注視する。

 

「え......あっ!」石上は理解した。「まじっすか会長!じゃあNって西園先輩で......二人で家に行ったって、お見舞い......四宮先輩!え!四宮先輩!?」石上のテンションが上がった。

 

「大正解だ」道留が言いながら石上の背を叩く。なんでお前が言うんだと白銀は思った。

 

「それで、何があったんですか?」石上が聞く。

 

「あー、睡眠の意味の方で、いっしょに寝た」白銀は詳しい説明を始めた。お見舞いに行ったらかぐやがアホになっていたこと。ベッドに引き込まれたこと。かぐやは白銀をベッドに入れたことを覚えていないこと。

 

「睡眠の意味じゃない方で、寝てしまえば良かったのに」道留が言う。

 

 こいつを連れてきたのは失敗だったと今更ながら思う白銀だった。

 

「いや、何もなかったよ。マジで」何もしないためにとても頑張ったことは伏せた。「けど何かしたのかと問い詰められた。もちろん、何もしてないと答えた。事実だからな。疑ってる様子だったんだけど、それは誤解だったとわかってもらえたみたいで。お互い謝ったんだわ。けど以来ちゃんと話せてないっていうか、ぎくしゃくというか、避けられてるとまではいわないけどさ......」

 

「ごめん!一応確認するけど、誰との話?」道留が真面目な顔をして言う。明らかに作り物だった。

 

「会長、この人めんどくさいタイプなのでスルーでいいと思いますよ」石上が淡々と言う。

 

 もし石上だけに打ち明けられていたならと思う白銀だった。

 

「で、どう思う?」

 

「どう接していいかわからないんじゃないの」道留がストローでコップの氷をくるくるさせながら言う。「お前と同じように」

 

「それ、ほんとか......?俺が嫌われたって可能性は?」

 

「あるけど、それ考えてどーすんのさ。何か良いこと起こる?」

 

「四宮が嫌いなら、俺と居て嫌な気持ちになるなら、あいつから退くべきだと思ってる」

 

「そんなレベルで嫌われてたら、とっくに四宮家の力で生徒会長辞めさせれてるだろ」

 

「いやまぁ、そうなんだが......」

 

「俺も嫌われてないと思いますよ。結局のところ、時間が必要なんです」

 

「それっぽいこと言うじゃん、童貞のくせに」道留が笑った。

 

「童貞じゃないです」石上が言う。

 

「え、マジで?」白銀は空気の抜けたような声を出した。裏切られた気分だった。

 

「嘘です」

 

 石上の声に白銀は安心した。生徒会の中で自分だけが童貞なのは居心地が悪い。

 

「まぁとにかく、いつも通りにしてるのが一番だと思います。お互い謝ったんですし」

 

「いつも通りか......そうだな」白銀は目を閉じて頷いた。解決策は劇的なものとは限らない。

 

「で?どこが好きなの?顔?」道留がニヤニヤしていった。

 

「それは言えん」白銀はこれから始まる猛攻を予期して顔をしかめた。

 

「会長、それはズルいですよ。相談に乗ったんですからそれくらい良いじゃないですか」

 

「そうだぞ~。誰のお陰でかぐや様と遊園地に行けたと思ってる」

 

「え、あのときからバレてたの?」白銀は目を丸くして尋ねる。

 

「いや、生徒会に誘われて三日目くらいから。よく思い出せ、俺の発言がきっかけで二人きりになることがよくあっただろう?」

 

 確かにその通りである。何となくその気はしていたが彼の立ち振舞いはわざとだったのか。白銀は自らの恋心を見破った道留の観察力に舌を巻いた。

 

「奥手なお前のために、夏休みも旅行に行く提案をするつもりなんだけどなー?」

 

 夏休みの旅行はあまりにも美味しすぎる提案だった。彼は決意した。

 

「.........最初は冷たく、無愛想な印象だった。お高く止まってるとも思ってた。けどな、実際のところ、とても優しくて、行動力があって、少し寂しがり屋で、臆病で。何て言うんだろうな、垣間見える暖かさにすごく惹かれるんだ」白銀は言い切った。

 

「べた惚れじゃねぇか」

 

「ですね。甘すぎて吐きそうです」

 

「全くの同意見だ。体全身がかゆいわ」

 

「こんなに一気にぶっちゃけると思ってませんでしたよ」

 

「とにかく、応援するよ。な?」

 

「もちろんです。お似合いだと思いますよ」

 

 白銀は嬉しかった。二人の言葉と、二人が仲良くなってきていることが。

 

 

 

 

 

「ねぇ、気持ちよかった?」

 

 オレンジ色の薄暗い照明の下、二人とも裸のままベッドに転がっていたが、道留は女に背を向けていた。上がった体温はまだもとに戻りそうにない。だが理性は既に道留の感情を支配していて、行為が終わったことに課題を完成させたときに似た安心感をもたらしていた。

 

「ねぇ」女が言う。

 

「何?」

 

「どうだった?」

 

「よかったよ」丸い口調を心掛けたが、粗削りのまま口から出た。消耗してるせいだなと道留は思った。

 

 道留と女は体だけの関係である。少なくとも道留はそう思っているし、考えが変わることはない。今はただ、汗を糊にして体に貼り付くシーツが不快だった。

 

「ホントにドライだね」女が呆れたように言った。

 

「悪いね」事務的な返答をした。

 

 シーツの擦れる音がした。女が道留の胸に手を回して自分の体を彼に寄せる。柔らかな乳房が道留の背中に触れた。他人の温もりが彼にまとわりつく。

 

 彼は女の手を自分の体から乱暴に引き剥がすと体を起こした。自分の行動とは反対に、血の巡りがまた早くなっているのを感じて死にたくなる。ベッドに手を置くと女がその手を両手で握った。彼女も体を起こす。道留はその手を再び振り払おうとしたが、今度は女は手を離さなかった。道留は抵抗をやめた。

 

「何?」道留はできるだけ冷たく言った。目線を女から外し、女の言葉を待つ。

 

 女は答えない。女はこの沈黙が破れたとき関係が終わると思っているのではないかと道留は感じた。道留は待った。女の手のひらのぬるい感覚が不快だったけれど、じっとして、黙っていた。

 

 女が鼻をすすって、沈黙は破れた。道留はゆっくりとした動きで顔を彼女のほうに向けた。窓の外の薄い明かりで、女の目から大粒の涙が落ちたのがかろうじて見えた。

 

「何、泣いてんの」道留は言う。今度はきちんと優しい声が出た。

 

「好きなの」女が涙混じりに言った。道留の手を握る力が少し強くなる。「今みたいな関係じゃ、もう嫌なの」

 

「そう」

 

「葵は、私のこと、どう思ってる?ただの、ただの......」女は続く言葉を、彼女にとってはとても残酷な言葉を声にできなかった。

 

 葵というのは、彼が女と遊ぶときに使うもう一つの名前。女は道留という名前を知らない。それがこの関係の全て。

 

「セフレだよ」道留は言った。「ただのセフレ」

 

 彼女の嗚咽は押さえきれる程度を越えていた。道留は泣かれるのには慣れていた。こういうときは無理にでも振りほどいてシャワーを浴びて、一人で出ていくのが楽だということを知っていた。ただ煙草が吸いたかった。彼女に渡した連絡先も遊ぶために作ったものだったから、さして問題にならない。だから彼の大部分は、彼の一部がやろうとしていることに批判的だった。

 

 彼は体を女のほうに向けた。空いている方の手を女の頭の上に置く。女が顔をあげた。驚きと期待が半分ずつの顔だった。彼は女を抱き寄せた。その瞬間、女の手は彼の手を握るのを止め、代わりに背中にまわって強く抱きついた。彼の胸の辺りを女の前髪がくすぐる。

 

 しばらくすると、女は泣き止んだ。彼に抱きつきながら、頭を愛撫する彼の手を感じていた。

 

「俺のこと、愛してる?」道留が問う。

 

 女は彼の胸から顔をあげて、笑いながら泣いて、頷いた。

 

「愛してる」女は彼の目を見て言った。

 

 道留の手は彼女の頭を撫でるのを止め、頬のところまで降りていった。頬は桃色をしていた。もう片手も頬にやって、二つの親指で女の目に残った涙を拭う。そして笑みを浮かべると片手は背中に回し、女を手繰り寄せるようにして、柔らかくキスをした。道留は自分の呼吸が上気していることに気がついたが、それは些細なことだった。

 

 唇が離れた。女の瞳はとろけたような視線を道留に送る。今度は女の番だった。女は自らの舌を器用に彼の唇の間に滑り込ませた。道留もそれを拒まない。彼女の舌は何かを探し求めるように蠢き、同じように動く彼の舌と絡み合い、汚ならしい水音を立てた。女は深く、深く彼を求め、彼はそれに答えることにした。お互いの舌がお互いの口内から滑り出て、粘性のある架橋を二人の間に作った。お互いに、鼻で呼吸することを既に諦めていた。道留の手が女の胸を優しく撫でる。女はわざとらしく嬌声を上げると、準備が出来ていることを知らせようと笑った。

 

 道留は女を押し倒した。再び両手で彼女の頬を包むように触れると、身を屈めてキスをする。そのキスはすぐに終わって、彼の手はするすると下へ滑る。首で止まる。頸動脈に血が流れるとくとくという感触が指に伝わる。その早さが女の興奮の程度が著しいことを伝えていた。両方の親指が首の真ん中に触れる。その真下には空気の通り道があって、彼女の血の巡りのためにたくさんの空気を今も肺に送っていることを、彼はもちろん知っている。

 

 親指に力をいれた。

 

 五。

 

 体重を乗せる。

 

 気道を潰す。

 

 万力のような力を込め、

 

 四。

 

 締め上げる。

 

 殺すために。

 

 女が苦しそうにひゅっと息を鳴らした。

 

 耐えろ。

 

 心から思う。

 

 女は抵抗をする。

 

抵抗してしまった。

 

 三。

 

 この手を引き剥がそう。

 

 女の手は生を求めもがく。

 

 男の手を引き剥がそう。

 

 二人の手が、また触れた。

 

 

 

 すると道留はあっけなく手を離して、笑った。女が跳ね起きて、咳き込む。

 

「ごめん、やりすぎた。俺、ちょっとSなんだよね。いじめたいの」そう言って、女の背中をさすり始めた。「ごめんごめん、このレベルのことは、もうしないから」

 

「うん、あー、だいじょう......いや、だいじょばないけど、うん」女は混乱しているようだ。

 

「嫌いになった?」

 

「ううん!ちょっとビックリしただけ!」そう言って笑うとまた横になる。「えと、苦しいのは怖いけど、恥ずかしいこと言わせられるとか、叩かれる、とかなら平気だから、えと、その......」女の顔が真っ赤になる。それが自分でもわかったのか、女は手で顔をおおった。

 

「その?」道留はニヤっと笑った。

 

「えと、いじめて、いいよ......?」指の間から目だけ覗かせて言う。

 

 このあと滅茶苦茶セックスした。

 

 し終わると、女はくたくたに疲れて深い眠りについた。そのうちに道留は一人シャワーを浴び、メビウスに火を付け、着替え、女の手をとり、女のスマホの指紋認証を解除し、真方葵に関するデータをすべて消すと、自分の財布の中から福沢諭吉を五人ほど召喚し、枕元に侍らせ、タクシーを呼び、自宅へと帰った。

 

 ただひたすら、残念だった。ほらねと彼のある部分が言う。その声に、期待した自分がバカだったと反省する。自分にとっての愛は、セックスでも、もちろんSMプレイでもない。あの女の愛は自分にとっての愛とは、まるで別物だった。




セフレちゃん可愛い。

「著しく性的感情を刺激する行動描写」ってどのくらいなのか。

「ここにセリフあって」ここに地の文ある。「そしてここにセリフが続くというのを改行なしで書く私のやり方は読みにくい?」

  • 読みにくい
  • 少し気になる
  • 別に気にしない
  • むしろ読みやすい

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