もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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第90話

「安室さんと言いますとやはり馬主ですな」

 

「そんなに有名です?私」

 

「去年のキングジョージ6世&クイーンエリザベス2世記念ステークス勝ち馬のクァクァウティンと凱旋門賞同着優勝オセロメーの馬主ですからな。」

 

「あのレースで私のモンマスは8馬身千切られましたよ。」

 

「それはすいません、ホーキンス大臣。」

 

「私の馬は去年ニエル賞ぐらいですからな」

 

「いえいえ。ラヴィアンローズの活躍は伝説じゃないですか。

 ジュトゥヴーもいい馬ですよ、ニエル賞勝って凱旋門賞乗り込んだじゃないですか」

 

 会議が行われる国際会議場の一角、全員が揃うまでの間、部屋の一角では日本の室賀外相とイギリスのホーキンス外相、更にフランスのアズナブール外相は歓談していた。

 内容は3人揃って馬主としても著名であったという事で競馬だった。

 安室外相は日本の馬として史上初の凱旋門賞とキングジョージを勝ち、ホーキンスの馬はその馬に千切り捨てられアズナブールの馬は凱旋門賞の前哨戦は勝ったが凱旋門賞は千切り捨てられていた。

 

「ギルダ・ウルリッヒ女史、入ります!」

 

 職員の誰かが叫んだ。

 ドアが開き、護衛と秘書を連れた欧州連合のウルリッヒ女史が入ってきた。

 

「そろそろだな」

 

 3人は無駄話を止めて、ウルリッヒの方へ向かった。

 

「お待ちしておりました、ミスウルリッヒ。

 トム・カークマンです」

 

「これはどうも、カークマン大統領。

 ウルリッヒと申します」

 

 代表してカークマンが向か入れ握手する。

 その瞬間を狙って記者が一斉にフラッシュを焚いた。

 

「記者の皆様にお付き合いください。」

 

「ええ。構いませんよ」

 

 暫く笑顔で握手し続けてポーズを取る二人。

 記者の撮影が一通り終わると会議の席について会談が始まった。

 

 

 

 

 ベオグラード南方のある幹線道路の交差点近くの廃工場の陰に装甲車が隠れていた。

 

「こちらモンジュー、異常なし。レイルリンク、どうぞ」

 

『レイルリンク了解した。引き続き哨戒せよ』

 

 装甲車隊の隊長車のアラブ系の通信手が司令部に連絡する。

 司令部の返事を聞いた彼は応答すると愚痴った。

 

「了解。なんでこんな変なコールサインなんだよ、この部隊は」

 

「文句言うなよアリー。

 凱旋門賞勝ち馬からコールサインを決めたんだとよ。」

 

 傍のハッチから外を監視していた隊長は中を覗き込みながら言った。

 

「競馬じゃねえか。貴族様共の遊びの名前かよ」

 

「それでも世界最高を決める凱旋門賞を勝ったんだからある意味俺達にふさわしいかもな」

 

 彼らはドイツ連邦軍の第11装甲旅団の装甲車部隊であった。

 隊長車の周辺には30ミリ機関砲を搭載した8輪装甲車二台と8輪装甲兵員輸送車1台、二両の120ミリ砲搭載の8輪戦闘車がやや起伏のある平地の藪の中や建物の陰にそれぞれ隠れて戦闘陣形を組んでいた。

 

「パラデウスは真っ白だからな、正規軍共よりは見つけやすい。

 この辺りなら」

 

「都市部に入ったら大変ですからね」

 

「案外市街地じゃ白は目立たない物だよ。

 全く大変だよ。」

 

「そうですね」

 

 するとそこへ離れた場所から偵察用ドローンを投射して偵察を実施していた仲間の人形から連絡が来た。

 

『こちらアルバトロス、南西方向より不審な勢力接近中?

 とにかく怪しい集団が来てます』

 

「了解、こっちにも映像が来た。

 これは、パラデウスだな。

 それも戦車とか引き連れてる。

 至急司令部に連絡、戦闘用意。威力偵察を行う」

 

「了解。

 こちらモンジュー、パラデウス勢力接近中。規模不明なれど多数。

 戦車等装備、接近速度時速15キロ程度と見込む。

 これより威力偵察を実施する。」

 

『モンジュー了解した。

 直ちにエリシオを派遣する。

 エリシオ到着まで時間を稼げ』

 

「了解」

 

「ケッ、無茶言いやがる。

 各車、接近中の連中を始末する。

 幸い奴らは遅い、機動力なら上だ。

 各自威力偵察の用意だ」

 

『ヴァンツェ1了解』

 

『ヴァンツェ4了解』

 

『ヴァンツェ2了解した』

 

『ヴァンツェ5ウィルコ』

 

『ヴァンツェ6了解』

 

 各車から了解の返事が聞こえると戦闘準備を開始する。

 速度の遅いパラデウスに備えて兵士達は藪に隠れ対戦車ミサイルや無反動砲を待ち伏せの為構える。

 さらに機関砲や大砲も念入りに偽装して準備を整える。

 火力こそあれど路外機動性や防御力に劣る装甲車隊にとって鍵となるとのは最初の一撃だけだ。

 それから10分もしない間にパラデウスたちはやってきた。

 

「連中周囲を念入りに気にしてるみたいだな。

 各車、念入りに近づけて仕留めろ。セオリー通りだ」

 

 共有された映像から敵の動きを読み取った隊長が指示する。

 そして彼らが交差点にまで辿り着いたところで120ミリ砲が火を噴いた。

 一斉に2発放たれた砲弾は先頭のウーランを破壊、続けて後ろにいたウーランも破壊する。

 

『ヴァンツェ6一両撃破』

 

『ヴァンツェ4目標命中、次弾用意、撃て!』

 

「ヴァンツェ5、2攻撃開始、援護だ」

 

『ヴァンツェ5ウィルコ』

 

 それを開始の号砲として一斉に隠れていた装甲車の30ミリ機関砲が連射されると後ろにいたドッペルゾルトナーも瞬時に穴だらけとなり、後続の兵士も次々討ち取られる。

 

『ヴァンツェ2、攻撃中、給弾支援』

 

『5了解、援護する。スモーク』

 

 30ミリ機関砲弾を撃ち切った仲間の車両を援護するためスモークを発射して援護する。

 パラデウスは煙幕をもろともせず反撃する。

 そのうちの一発が一両に命中する。

 

『ヴァンツェ5被弾損傷、被害は軽微』

 

「ヴァンツェ5了解」

 

 機関銃の弾が当たっているような軽い音をBGMに報告する仲間に返事をする。

 そこへ敵被害状況の確認要請が来る。

 

『ヴァンツェ6、目標被害状況確認』

 

「確認した。敵被害は戦車9、ガンダム2、その他歩兵多数。

 よし、もう十分だ。撤退だ。ヴァンツェ1は兵員回収後退避、援護しろ。」

 

 指揮車のモニターから各社からの映像、歩兵からの映像を繋ぎ合わせて敵被害を確認し、十分な打撃を与えたと判断、撤退を号令した。

 

 

 

 パラデウスと交戦の連絡はすぐに司令部に伝えられた。

 ウスチノフは司令部の画面を頬杖をつきながら見つめて情報を聞いていた。

 

「第11装甲旅団第16装甲偵察大隊がパラデウスの軍勢を発見し交戦を開始した模様です」

 

「場所は?」

 

「ベオグラード南方のここです。」

 

 画面上の地図に交戦地点がマークされる。

 その状況にヤーララガッタが意見する。

 

「パラデウスは一匹いれば100匹いる連中です。

 至急偵察機を出して周辺地域の敵戦力を確認すべきです」

 

「ええ。ヤーララガッタ大佐の言う通りです。

 経験上彼らはELIDの多いか多かった地域では放置していると無限に湧いてきます。

 至急全戦力で叩き潰すべきです。」

 

 ヤーララガッタに在ベオグラードソ連軍作戦参謀のウラソフ大佐が同調する。

 このウラソフはつい先日何者かに殺されたフィリトフ大佐と仲の良い人物だ。

 

「ポポフ少将のご意見を伺いたい。

 ベオグラードなら君が知っているだろう」

 

「概ねウラソフ大佐と同意見だ。」

 

 ソ連軍の総司令官のポポフ少将に意見を伺うと彼はウラソフに同調する。

 ウスチノフは知らないがポポフはつい数か月前にカーター派と付き合いがあったとして中央から左遷された人物でありこの辺りの情勢には大して詳しくなく殆ど部下の将校たちに任せている。

 その上この場ではウスチノフの方が上席として扱われていた。

 

「そうか。まずは偵察機を飛ばして敵戦力を見極めろ。

 その間にアンザックとツァハルは戦闘準備を行い第11装甲旅団の援護準備だ。

 ソ連軍部隊は市内警備を行え。

 アラートを発令して会議を中断、要人の方々には脱出の準備を」

 

「「了解」」

 

 ウスチノフが全面的な指示を出す。

 それにポポフが難色を示した。

 

「しかし、この程度のパラデウスの進出は何度かありました。

 大抵小競り合いで済んでいます。過剰では」

 

「過剰で済めば万々歳だよ。

 下手にやって俺の首を飛ばしたくない。

 野犬と狼を見間違う少年は狼を捕まえられないハンターよりは役に立つ」

 

 ウスチノフはそう返した。

 

 

 

 

 

 司令部で戦乱の匂いを感じ取っていた頃、会談会場では会議が始まったばっかりであり会場の外の関係者控室では同行していた政府関係者やプレス関係などが話し合ったり取材しあったり慌ただしくしていた。

 その中で妙齢の女性が一人右往左往していた。

 

「えっと…どっちでしょう…」

 

「どうかなされましたか?」

 

 その姿に気がついたイヴァンが声をかける。

 

「はい、ウルリッヒ代表秘書官の控室はどちらでしょうか?」

 

「それなら右手の奥から3番目の部屋だ。

 プレス関係者は立ち入れないぞ」

 

 案内すると同時にこのどことなく危険な香りのする女に釘をさす。

 すると彼女はきっぱりと否定した。

 

「いえ、ウルリッヒ代表の秘書のモリドーといいます」

 

「秘書でしたか、これは失礼を」

 

 秘書と聞いてイヴァンは失礼を詫びた。

 

「いえいえ。では失礼しますね」

 

 モリドーは笑顔で手を振ると秘書の控室に向かった。

 そしてそれと入れ違いで電話が鳴った。

 

「私だ」

 

『イヴァン・ハリトノーヴィチ大佐ですね?ベオグラード防衛司令部のエッカルト少佐と申します。

 至急の要件です、ベオグラード南方にパラデウスの大群が出現、警戒態勢を上げて会談を中断、要人たちの避難準備を』

 

「了解した」

 

 司令部からの緊急連絡だった。

 それと同時にロシア軍の参謀将校が息を切らして会談会場に入っていった。

 

 

 

 

 

「ですから、我が国としましては欧州全体に…」

 

 始まったばかりの会議ではアメリカの通商代表レントン・ダグラスがアメリカ政府による欧州への経済支援の詳細に関する提案報告を行っていた。

 そこにドアが開いて軍人がやってくると秘書たちに小声で伝えていた。

 

「合計50億ドルの借款と金融支援を行う用意があります。

 また我が国は欧州全体の国々への崩壊液除染支援の予算としてそれとは別個に約70億ドル分の信用供与を行うことをウォール街の主要銀行及び欧州アジアの主要銀行25行と妥結し…」

 

「おい、それは本当か?」

 

「はい、ですから直ちに中断を」

 

「分かった。大統領に伝えてくる」

 

「私達も外相に」

 

「成るべく早く頼む」

 

 秘書たちは軍人たちの報告に驚きながらもそれぞれの主たちの下へと駆ける。

 

「というわけで、欧州全体への金融のみに絞った支援だけでも合計150億ドルを予定し…

 ん?なんだ?」

 

「代表、軍からパラデウスが接近しているので会議を中断して退避の準備をして欲しいと」

 

「なんだと!?わかった。

 会議は中断!パラデウスが接近してるそうだ!」

 

 ダグラスの言葉にざわめく会議室。

 即座に各自の秘書たちに本当かどうか聞く出席者。

 そして慌ただしく会議の中断と退避の準備を行うべく軍人たちが入ってきた。

 

「ロシア軍です!大統領たちは直ちにセーフティーエリアにお連れしてください!

 記者達も退避の準備をお願いします!」

 

「大統領閣下はこちらに」

 

 シークレットサービスも同時に入ってきて大統領を誘拐同然に連れ出す。

 会場の残された資料も秘書や軍人が慌てて回収していく。

 これが混乱の幕開けだった。

 




・アズナブール
フランスの外相
室賀、ホーキンス共々同じように馬主。
馬名にはフランスのシャンソンの題名をつける。
室賀は主に非ヨーロッパ文明の単語
ホーキンスはイギリス史から
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