もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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公聴会


第8話

「次の証言者、グリフィン&クルーガー社所属戦術人形、M4A1」

 

「は、はい!」

 

 指揮官に続いてM4の聴取が開始された。

 議長に名前を呼ばれ彼女は慌てて返事する。

 ただでさえ慣れない場に大勢に見られているという状況に引っ込み思案な彼女は緊張していた。

 

「ではアイゼンハワー議員から」

 

「はい議長」

 

 最初に彼女に質問したのは民主党の上院議員だった。

 

「まず、グリフィン&クルーガー社について教えてください」

 

「は、はい!

 えっと、民間軍事会社です、えっと、社長がクルーガーさんでIoPと提携して人間の指揮官と私達戦術人形が基本的な編成の会社です、あと、軍から委託されて鉄血の封じ込めと統治を行ってます」

 

 緊張で声を上ずらせながら説明する。

 いつもより相当早口で途切れ途切れだった。

 

「ん?待ってください、軍から委託されて鉄血の封じ込めと統治?

 中央政府は?」

 

「え?」

 

「鉄血の問題は安全保障問題では?

 それを一企業に委託、その上統治とはどういうことですか?」

 

 アイゼンハワー議員はM4の最後に言った言葉に引っかかった。

 本来安全保障問題は国家の領分であり統治は国家に与えられた責務である、それらを民間企業に委託?そんな馬鹿な話があるか。

 

「えっと…」

 

「軍には鉄血を押さえるだけの力が無く、政府は統治能力を失っていると?」

 

「そうは言ってないつもりなんですが…」

 

「あなたの話しぶりではそう聞こえても可笑しくないんです。

 イエスかノーで答えてください、かの世界の政府に貴方方のいる地域を統治できる能力がありますか?」

 

 アイゼンハワー議員が強く問い詰める。

 場合によっては国連軍の規模に関わる程の問題であった。

 

「…いいえ。無いと思います」

 

「ないのですね、つまり無政府状態に等しいと判断していいですね?」

 

「そこまでは…」

 

「政府による統治が無い、これを無政府状態と言わずしてなんになるんですか?」

 

 アイゼンハワー議員がそう言い切る。

 政府による統治が及ばないのは法的には無政府と同義だった。

 

 

 

 

 

 

「続きまして、同じくグリフィン&クルーガー社所属、AR-15です」

 

「はい」

 

 M4の次はAR-15だった。

 そっけなく返事する彼女に共和党の上院議員のアンジェリーナ・リチャードソンが質問する。

 

「貴方方の世界において、戦術人形とはどういう扱いでしょうか?」

 

「どういう扱いってただの道具よ。

 人の形をしているだけのタダの道具、消耗品、誰も破壊されても気にしない物よ」

 

 彼女は言い切った、だが部屋にどよめきが広がる。

 

「道具?つまりあなたは道具であると?」

 

「ええ、何かおかしなこと言った?」

 

 リチャードソン議員にさも当然のように言い切る。

 昨日の一件である程度この世界の人形と人の関係を学んでも根底の思考は何一つ変わっていなかった。

 

「つまり権利なんてものも?」

 

「ある程度はあるわよ、欲しかったわけじゃないけど」

 

「権利運動などはありますか?」

 

「ない事はないけど殆どないわよ。

 やってるのは変な連中だけ、むしろ反人形運動、人権運動の方が多いわ」

 

「つまり差別されていると考えていいですか?」

 

「差別も何もそもそも道具を道具として扱っちゃダメなの?」

 

 リチャードソン議員に言い返す。

 アメリカという国は差別に関して相当敏感である。

 共和党もそもそも黒人奴隷解放運動を端に発した政党であり保守という立ち位置から差別主義的なレッテルを貼られがちだが実際のところ反差別の党である。

 AR-15の言い切りは波紋を呼んだ。

 

 

 

 

「では、SOPMOD2さん、鉄血との戦闘について教えてください」

 

 AR-15の次はSOPだった。

 彼女に共和党下院議員のオズワルド・ハリー・ペリーが質問する。

 

「えっとね、鉄血のクズ共を見つけたらバーン!って撃ってお姉ちゃんたちと一緒に蹴散らしてぶっ壊すだけだよ?」

 

「交戦規定等は?」

 

「交戦規定?なにそれ?」

 

「え?捕虜の取り扱いは?戦時国際法は?

 ハーグ条約は?」

 

「それって食べれるの?捕まえた鉄血はバラバラにしてるよ。

 ちょっとずつ壊していく時の悲鳴が最高に面白いよ!」

 

 ペリー議員の質問に無邪気な口調で兵役経験者も少なくない議員でさえ絶句するようなことをSOPは言う。

 人形の交戦規定は条約により通常の兵士達と同じ扱いを受けることとされている、また戦闘員の資格については戦術人形と自律人形の違いではなく所属によるとされている。

 なのでこの世界では交戦団体所属の戦術人形は戦闘員とされている。

 

「正直に言って君の事が理解できない。

 一体何をどうすればそこまで残虐になれるんだ…」

 

 マイクで拾われている事さえ忘れてペリー議員は漏らしてしまった。

 鉄血は機械的な面が強い人形を作る会社ではあるがそれでも基本構造はIoPと変わらない事も多い、だからこそ彼女の言う事にめまいを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

「最後に、グリフィン&クルーガー社所属戦術人形、M16です。」

 

「ではM16さん、早速ですが貴方方の世界について一通り教えてください」

 

 最後がM16だった。

 M16に質問するのは民主党の下院議員、アーサー・マッカーサー・ジュニア議員、先祖に陸軍の将軍を持ち一族には陸軍の元帥や駐日大使がいる下院議員の中でも華やかな一族の生まれで彼も又ウェストポイント出身というアメリカでは珍しくない軍人出身の議員だった。

 マッカーサー議員の質疑にM16が正直に歴史を語る。

 語り終わると議員も含め全員が驚いていた。

 

「つまり世界には大量の崩壊液が拡散されていると?」

 

「ああ、量は知らないが今でも広がっている」

 

 マッカーサー議員の最後の確認の質問に返答する。

 彼女の返答は重大な影響があった、即ちかの世界には量が不明だが世界中に崩壊液があるというのだ。

 崩壊液除染の必要性がある、それも世界規模で、紛争への介入程度の軍事介入でケリをつけようとしていた議員たちやロビー活動家、テレビやネットで中継を見ていた孤立主義者らはまさかの世界規模の兵力派遣の必要性が出てきたという事実は衝撃だった。

 全く同じ時間にニューヨークで行われていた国連安全保障理事会でもこの証言に驚きPKO程度で収めようとしていた代表者たちに進路変更を強いた。

 

「では、除染は?」

 

「崩壊液は除染が難しい、無力化できないからな」

 

「オー、ファッキンシット」

 

 崩壊液の無力化の研究が進んでいないと聞き本来テレビでは流してはいけないようなことを口走る。

 この言葉を聞いてI3Cもまた驚き除染の手伝い程度が仕事だと思えば除染を全部やらなければならないという事にI3C本部では上から下まで大騒ぎとなった。

 

「ところで鉄血は何故暴走を?」

 

「分からん」

 

 マッカーサー議員は話題を変えて鉄血の暴走について聞いた。

 だが彼女に言えるのは分からないの一言だけだった。

 暴走の原因が分からない、その上現地の軍は対処しない、となると軍事行動の必要性も出てくることになる。

 予想以上の大事になるという事実に議員たちは目がくらみそうだった。

 

 

 

 

「レインハート補佐官!これはどういうことだ!話が違うぞ!」

 

「ハンフォード大使もだ!これではPKOでは到底足りんぞ!」

 

 その頃、ニューヨークの国連安全保障理事会ではレインハートと米国の国連大使のジム・ハンフォード大使が非常任理事国のアンティグア・バーブーダの大使とレソトの大使から激しく問い詰められる。

 M16の証言に理事会は大荒れになっていた。

 

「君達落ち着け!」

 

「真面目に議論しろ!」

 

 議長国のブルネイの大使とトルキスタンの大使も大声で制す。

 この国連安全保障理事会のメンバーは常任理事国の5か国、米露英仏北中国政府の他に非常任理事国としてアンティグア・バーブーダ、スリナム、ブルネイ、トルキスタン、レソト、エジプト、コートジボワール、北マケドニア、フィジー、ルーマニアだった。

 それぞれの大使は激しくアメリカを攻撃し説明を求める。

 

「ですから、我々の説明した通りです。」

 

「だが君らは世界規模での派遣が必要とは一言も言ってないのだぞ!

 我々はPKO派遣で調整していたんだぞ!」

 

 レインハートの説明にコートジボワールの大使が言う。

 彼の弁論にハンフォードが反論する。

 

「我々は最初から国連軍の派遣を求めていたんです、PKOではないんです!」

 

「しかし前例がないんですよ!」

 

「それを言えばそもそも異世界への穴をあけること自体が前例のない事だが?」

 

「ラブロフ大使は派遣に賛成なのですか?」

 

「ええ、我が国はアンカレッジ条約がありますので」

 

 ロシア大使も巻き込み議論は白熱する。

 この前代未聞の前例のない事態への国連の対処、そして国際社会の対処が決定されるまでさらに数時間かかった。

 

「はぁ、では議論もし尽くした様なので採決を取りましょう。

 米国特別地域への国連軍派遣に賛成の国は挙手」

 

 数時間後の東部標準時午後11時過ぎ、数回の休憩を挟んだ12時間近い議論に疲れ切った高官たちは採決へと移った。

 ブルネイ大使の呼びかけに常任理事の中で採決に参加可能な4か国、残りの非常任理事国9か国の大使のうちレソトとコートジボワール、アンティグア・バーブーダの大使以外が挙手する。

 

「賛成が一、二、三、10か国と。

 次は反対の国は挙手」

 

 次に反対票を採決する。

 反対にはコートジボワールとアンティグア・バーブーダだけが挙手した。

 

「反対が二票、レソトはどうですか?」

 

「我が国は棄権します」

 

 最後にどちらにも手を挙げなかったレソト大使に確認する。

 ここに採決は降った。

 

「ではここに国連安全保障理事会決議435698、国連シュワルツシルト介入ミッションを可決します。」

 

 異世界への軍事介入と平和任務に乗り出すことを国際社会は決断した。




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