一気に時系列が3週間ぐらい飛ぶ
第11話
「諸君らには苦労してもらわなければならない。
この世界の人々を死と破滅から救う事が我々の責務である」
――レナード・グッドイナフ大将(2062年3月6日、神々の怒り作戦開始直前の記者会見)
国連軍とは国連憲章第42条の中で第41条が定める非軍事的措置が不十分な場合に設置される国連の名の下に結成される軍である、その兵力は第43条に基づき特別協定を結んだ国が供出するとされている。
だが実際の所今までこの条文が行使されたことは今までなかった
今日までは
『タワー、ロメオパパ34、滑走路04ライト着陸許可要請』
『エドワーズタワー、ロメオパパ34、04ライトへの侵入を許可。
エコーロメオ659ノベンバー、減速180ノット、前方のロシア機に接近しすぎている』
『ラジャー、エコーロメオ354ノベンバー、減速180ノット。』
2月末、AR小隊が接触してから約一か月後、エドワーズ空軍基地には大量の輸送機がひっきりなしに離着陸を繰り返していた。
その輸送機も米国は勿論、ロシア、イギリス、フランス、イタリア、ドイツ、オーストラリア、日本、インド、パキスタン、スペイン、ポーランド、エジプト等々、世界中の50を超える国と地域から来ていた。
「ご主人様、すごい人ですね。」
「ああ、史上最大の作戦だ。
我がロシア空軍も久しぶりの出動だ、腕が鳴るぞ」
ひっきりなしに離着陸する輸送機と輸送機から降ろされる大量の装備や兵員を眺めるロシア空軍の少佐に隣に立つ場違いなメイド姿の戦術人形が圧倒されていた。
「はあ、人が増えたのはいいが手間も倍だな」
「そういう物よ。雑務は私が手伝うけど戦闘はからっきしよ?」
「殺しの為に生まれたのに?」
「コーヒーミルで人を殺せと?」
増員されたのはG&Kもだった。
へリアンの肝いりで各地から人形が搔き集められ結果として以前の倍近い人員が集められていた。
だが指揮官が悩んでいたのは急激に増えた人員だった。
何せ上はどうも各地から搔き集めたせいで北はアラスカでサーモンの数を数えていた奴から南はコロンビアでコカイン畑を焼いていた奴まで集めたせいで練度もタイプも性格も経歴もバラバラで頭を悩ませていた。
そんな彼に何とか手伝いたいがためにわざわざ職場のホノルルの高級ホテルに休職届けまで出したワルサーだったが久しく戦闘どころか銃も持っていないためできることは限られていた。
「コーヒーミルでも使いようによっては人を殺せるさ。」
「やっぱりロシア人って蛮族じゃないか?」
「酷いな、ま増員された連中よりはマシだが。
訓練の質も経歴もバラバラだ。
何とか私とAR小隊とM14総出で訓練中だ」
訓練担当のSVDが報告する。
元々派遣されていた要員でM14と並ぶ手慣れたベテラン、精鋭ロシア空挺軍上がりでM14とタイマンを貼れる数少ない人形で長らく本社の教官役の彼女が中心となり新人を再訓練していた。
「頼むよ、ドラグノフ。
ま、俺達は警備と警護がお仕事だから程々でいいぞ」
既に国連軍が大挙して押し寄せ装備も兵員も拡充された今、G&Kの仕事は後方警備程度で鉄血との戦闘は到着した各国軍や部隊が現地の状況に慣熟するのと連携の確立代わりに戦い最初の穴から周囲3キロ程度だった制圧地域は今では23キロ程に拡大していた。
「それなりに手を抜いてやるさ、期待の新人もいるしな」
「お、元スペツナズのお眼鏡にかなう新人がいたのか?」
「ああ。元ロシア海軍のSV-98だ。」
SVDは新人で元ロシア海軍所属だった戦術人形のSV-98の話を自慢げにする。
「海軍なら納得だな。どうせ元海軍歩兵だろ?」
「いや、駆逐艦ヴェドゥーシチイの水測員だ」
「水測員ってソナー使う奴?
ロシア海軍それに人形使ってるのか?」
「最近じゃどの国の海軍も水測員に人形使ってるぞ。
人間だと専門の高度な訓練が必要な業務も人形なら耳弄るだけで終わりだからな」
ソナー員というのは高度な聴覚の訓練が必要だが人形は特に必要なく精々聴覚センサーの改修とシステムの修正だけで十分だった。
そのため各国海軍ではソナー員やレーダー手、見張りなどの専門職を人形に置き換える動きがトレンドになっていた。
また地上でも高度な情報処理能力が必要な管制官を人形に代替する動きもあった。
「成程ねえ、でなんでそいつこっちに来たの?」
「ヴェドゥーシチイが去年退役して今コムソモリスク・ナ・アムーレで建造中の原子力潜水艦マンチュリアに移動になったから辞めたらしい」
「ああ…潜水艦勤務は大変だって聞くからな…」
彼は何となく海軍を辞めた理由を察した。
いくら技術が進もうとも潜水艦乗り組みが過酷なのは変わらなかった。
「照明よし、準備完了です」
「まるでテレビ局だな」
「大将はテレビに出た事は?
私は大学時代テレビの制作会社でバイトをしていたんで懐かしい」
「何度かあるがセットに呼ばれたことはないね。
息子が小さかった頃に息子を連れて見学に行った事ならあるが」
同じ基地内のある一室、中央の最も機密が厳重な司令部棟の一室に何故かテレビ局のセットのようなものが建てられていた。
それを見ながら雑談するのは国連シュワルツシルト派遣軍改め国連ミューロックレイク派遣軍の司令官のレナード・グッドイナフ海兵隊大将、もう一人は副司令官に任じられたロシア空軍ハリトーン・アレクサンドロヴィチ・アーチポフ大将、国連軍の最高幹部である。
「お二人さん、準備は出来てますかな?」
「もちろんだともヴェンク君。
アクション映画の悪役のロシア人なら任せたまえ」
後ろから二人に声をかけたのは参謀長のドイツ陸軍ゴットフリート・ヴェンク中将。
この3人、そしてもう一人いた。
「将軍たち、そろそろですよ。
G&Kは準備できてますよ」
最後の一人、上級文民代表のインド人ラシード・カーン、前インド外務副大臣だった男である。
そして国連と契約した民間軍事会社であるG&Kセキュリティのへリアンとその直属の部下である指揮官が国連軍幹部だった。
ではそのG&Kセキュリティの幹部たちはというと隣の控室にいた。
「なんで俺もいるんだ?」
「私の部下だからな。向こうとは挨拶するだけでいい。」
「テレビ電話越しで?」
「そうだ」
控室の新品らしきパイプ椅子の背もたれにもたれかかり廊下に置かれていた自販機のコーラをスーツ姿の指揮官が飲む。
隣の椅子に座って今朝の新聞を読むのは同じくスーツ姿のへリアンだ。
「汚すなよ、これから歴史的な会談だ」
「そんなヘマは流石にしませんよ」
コーラをこぼして服を汚さないよう注意すると同時に部屋のドアがノックされロシア訛りの英語で呼ばれた。
「準備できました、来てください」
「了解した」
「さてと、お仕事に行きますか」
残ったコーラを一気飲みし立ち上がった。
彼らは今から歴史が変わるようなことをしようとしていた。
それはこの世界の歴史が変わる幕開けだった。
AR小隊、更には404小隊までもが消息を絶ち早3週間、グリフィン&クルーガー社の内部は焦燥感に駆られていた。
精鋭部隊二つを失ったという事実は箝口令が敷かれていたが既に社内では噂になっていた。
「はぁ…」
悪い状況が続く中上級執行官のへリアンは溜息をつく。
するとピロリン!と着信音が鳴った。
「はい、へリアントスだ」
気持ちを切り替えいつものように真面目な顔をするとテレビ電話の画面を見る。
『久しぶりね、へリアンさん』
「UMP45か、久しぶりだな。
状況は?」
画面に映ったのは行方不明の404小隊リーダーUMP45、内心無事だという事に安堵するがそれは表に出さなかった。
『ある武装勢力に保護されて今はそこでお世話になってるわ。
で、そのリーダーたちがあなたとクルーガーさんに挨拶したいそうよ?』
「分かった」
『では、よろしくね~』
UMP45はそう言うとカメラの向きを変えた。
向きが変わると迷彩服を着た白人の男、スーツを着たインド人らしき男、そして同じくスーツを着た自分と全く同じ顔をした女とその部下らしきアジア人がいた。
『えー、ズドラーストヴィーチェ、私は国連ミューロック平和維持軍司令官レナード・グッドイナフ米海兵隊大将だ。』
『私は国連ミューロック平和維持軍上級文民代表ラシード・カーンです』
『私はG&Kセキュリティ最高執行責任者でミューロック特別支局局長のへリアントスだ。』
『G&Kセキュリティミューロック特別支局副局長ジェームズ・イシザキだ』
4人はそう名乗った。
・SV-98
戦術人形のくせしてロシア海軍の駆逐艦のソナー員だった謎経歴の人形。
優秀で将来有望らしい
・ハリトーン・アーチポフ
ロシア空軍大将で統合参謀本部副議長からこっちに来た。
子煩悩だが優秀な将官。元戦闘機パイロット
息子が二人いて両方とも空軍士官
・ラシード・カーン
元インド外務副大臣
シク教徒でベジタリアン。
穏健派のリベラル
・ゴットフリート・ヴェンク
ドイツ陸軍中将で参謀長。
参謀畑を歩んだ男で一度も部隊を直接指揮したことのないオフィスに籠るタイプの参謀。
先祖はドイツ陸軍の将軍だったらしい。
・冒頭に出たロシア空軍少佐とメイドの人形
別作の例の二人。
この作品にも出す。
空軍を辞めなかったので少佐に出世、結婚してるらしい。