もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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神々の怒り作戦説明回。


第14話

「というのが我々の歴史です」

 

「つまり崩壊液が撒かれなかった世界というわけか」

 

「大筋ではそうだ。そのおかげで崩壊液は危険だが同時に人類に無限の福音を齎す存在って扱われてる。

 無力化の方法もそれなりにあるしヤバいけど昔ほどじゃないって奴さ」

 

 一通り歴史の説明が終わりクルーガー達は内心驚きつつもこれからどう付き合うべきか考えていた。

 それに対してコーシャはという早速次の話を始めていた。

 

「ではクルーガー社長、ビジネスの話を始めましょう。

 G36、アレを」

 

「はい、ご主人様」

 

 手を叩いてG36に指示を出す。

 G36は持って来たスーツケースから小型のプロジェクターとパソコンを取り出した。

 その間にコーシャは窓にカーテンをし、スクリーンを下ろした。

 

「G36、例のファイルを」

 

 そして部屋の電気が落とされスクリーンに英語の文字が映し出された。

 

「これが作戦の説明かね?」

 

「ええ。何分色々無いので古臭い方法ですが。

 作戦名は神々の怒りです」

 

 出された英文は神々の怒り作戦と書かれていた。

 その下には国連軍が作成とも表記されていた。

 

「次のスレッド、まず作戦の主な戦略的目的です。

 趣旨は軍事的と政治的の両方があります、軍事的にはグリフィンの支配地域への連絡路を作り出す事。

 これによりそちらと連携し鉄血を殲滅しやすくします。

 次に政治的目的はこの世界における国連軍の軍事力を誇示し全ての交戦団体に対して軍事的な優位性を示しその軍事力を背景とした国家再建へ弾みをつけるというものです」

 

 コーシャが丁寧に説明する。

 作戦要綱は簡潔丁寧で分かりやすいものだがクルーガーの内心に何か引っかかった。

 

「国家再建?なぜする必要が?」

 

「決まってるじゃないですか、今ここは我々の定義で言うところの無政府状態ですよ?

 貴方方も我々はPMCではなく現地武装勢力と解釈してます。

 よって後で説明しようと思いましたが一応参加部隊にはハーグ陸戦協定付属書第1条の全要件を満たして貰わなければなりません。

 そうしないと我々は貴方方の交戦権を認められません、国連軍は無法者ではなく戦時国際法に基づいた作戦行動を行う組織ですので」

 

「一応聞きたいがもし要件を満たさなかった場合は?」

 

「その時は貴方方全員をテロリスト認定して徹底的に叩き潰すだけです。

 我々はテロリストには容赦はしないので」

 

 コーシャはさも当然のように言い切る。

 テロリズムには屈せず交渉せず殲滅する、もう60年以上前からの彼らの伝統的スタンスである。

 

「分かった、テロリスト扱いされるのは御免だ」

 

「ええ、我々も無益な戦は避けたいところですよ」

 

「俺として人形同士で殺し合うなんて悲劇は趣味じゃないんで」

 

 3人ともテロとの戦争なんてものは真っ平ごめんだった。

 何せ対テロ戦争は21世紀に入った最初の年から今まで休むことなく続いてるのだ。

 

「それじゃあ本題に戻りましょう。

 まず作戦参加部隊ですがまず東から左翼突破任務部隊、中央部隊、右翼突破部隊の三つに類別されます。」

 

 一旦話を戻し作戦説明が再度開始される。

 プロジェクターが映し出したのは国連軍側の戦線であり3等分に分けられて赤青緑に色分けされていた。

 

「まず左翼突破部隊、この赤の部隊ですが編成はアメリカ海兵隊第一海兵遠征軍第一海兵師団が担当します。」

 

 左翼突破部隊、鉄血への左ストレートを担うのは精鋭アメリカ海兵隊第一海兵師団通称ブルーダイヤモンド、かつてはガダルカナル、ペリリュー、インチョン、チャンチン湖などの激戦を戦った名誉あるビッグワンの師団だ。

 この精鋭が左翼から鉄血に一撃を食らわせるのだ、グリフィン相手にやってきた鉄血には過剰ともいえる部隊だ。

 

「次に右翼突破部隊、一番右の緑の部隊は我らがロシア連邦陸軍第2親衛自動車化狙撃兵師団タマンスカヤです。」

 

 強烈な右ストレートは同じロシア語を話す同胞を解放せんと士気が高く、精鋭たる親衛称号を持ち元々はモスクワ防衛という文字通り首都防衛部隊であるタマンスカヤ師団。

 今や蜜月の仲たるロシアとアメリカ、両国はこの地に精鋭師団を惜しげもなく投入していた。

 こんな部隊と正面切って戦うという向こうの世界では悪夢のような状況に置かれた鉄血の未来は知恵があればすぐにわかるだろう。

 

「続いて中央部隊、この部隊は両翼の突破と並行して鉄血を圧迫、包囲後は殲滅を行う部隊です。

 主力は英軍のマーシアン連隊とロイヤル・フュージリア連隊などの旅団規模のウォリック任務部隊とドイツ連邦軍第10装甲擲弾兵旅団、中央予備としては日本の陸上自衛隊第26普通科連隊とフランス陸軍第2外人歩兵連隊の2個連隊です。」

 

 両翼の一撃をカバーするジャブの中央部隊は英軍とドイツ軍を主体とし予備として実質専守防衛を捨てたのに伝統として今だその名を使い続ける陸上自衛隊とフランスの殴り込み部隊たる外人部隊が中央予備として配備されていた。

 彼らは突破を図る鉄血を防ぎ敵の戦力の消耗を強いるいわばおろし金である。

 包囲後は彼らが鉄血を締め上げ殲滅するという大事な任務もある。

 

「さらにグリフィン側の戦力不足に対応して第101空挺師団第3空挺旅団戦闘団ラッカサンズとロシア空挺軍第31独陸親衛空挺旅団が予備部隊として用意されています。

 そちらの要請があれば12時間以内に作戦展開が可能です。」

 

 グリフィンへの増援として2個空挺旅団も彼らは用意していた。

 この部隊は輸送機の都合で一度に送れるのが頑張っても1個旅団と制限こそあるが最も機動力の高い緊急展開部隊を担っている。

 必要とあらばS-09地区に12時間以内の展開が可能だった。

 戦力こそ重装部隊の第一海兵師団やタマンスカヤに劣れども両部隊は空挺兵という精鋭である。

 片や伝説的なノルマンディーに空から降り立ち、マーケット・ガーデンでは辛酸をなめ、バストーニュで伝説の防衛線を行い、バーシティー作戦ではドイツに空からやってきた伝説の叫ぶ鷲、片や第二次世界大戦前から存在しブダペストやウィーンからドイツ軍を追い出しチェチェンにも行った歴戦の親衛部隊だ。

 空中機動で以て世界中あらゆる場所へと迅速に展開する空の軽騎兵、もう80年近く続く伝統的な運用である。

 正面から殴る重装騎兵の突進と戦列歩兵の前進に逃げ惑う哀れな雑兵を蹴散らし止めを刺す軽騎兵だ。

 

「これに航空部隊として米空軍、ロシア空軍、カリフォルニア州兵など州兵各部隊、カナダ空軍、海兵隊航空団の合計230機全機が航空支援を行います。

 また前線への火力支援として国連砲兵司令部直轄の4個連隊と5個大隊の砲兵・ロケット部隊合計150門が。」

 

 さらに圧倒的なアドバンテージとして優勢な航空部隊、そしてソ連時代から連綿と続く砲兵火力重視たる特徴的な砲兵司令部管轄下の独立砲兵部隊という文字通り鉄血を耕す戦力、もはや鉄血が酷である。

 この圧倒的戦力にクルーガーも内心目の前にいる男達の機嫌を損ねれば自分達が天国へ転属になると理解した。

 

「うむ…凄まじい戦力だな」

 

「久しぶりにがっぷり4つに組んで殴り合えるんでね、軍も張り切ってるのよ。

 まあ俺達の仕事が減って嬉しいんだが仕事を全部取られるのは困るがね」

 

「はは…」

 

 半分空気になり内心今の国連軍の詳細をしっかりと説明された指揮官も驚いていた。

 圧倒的な戦力にへリアンは乾いた笑いしか出なかった。

 

「で、更に電子作戦として作戦地域の外側に壁を作ります」

 

「壁?」

 

「壁ですよ。電子的な壁。

 一般的に広範囲電子装置無効化装置、通称電磁シールドを使い敵を電子的に封鎖します」

 

「広範囲電子装置無効化装置?」

 

 コーシャが次に電子作戦に話を移した。

 だがクルーガー達は聞きなれない電子機器に首をかしげる。

 

「簡単に言えば電磁防御が施されていないあらゆる電子装置、文字通り人形からパソコン、携帯ゲーム機まで全部を強制的にスリープ状態にさせる装置です。

 一応技術的に完全な使用不能状態にもできますがそれだと色々と不都合が多いので、何せ謝って侵入した部隊や民間人の持っている機器まで破壊してしまうとなると色々不味いのでスリープ状態で加減されてますがこれで文字通り電子機器を使用する鉄血を締め出すことが出来ます」

 

「しかし、電磁防御が施されていたら?」

 

「我々の調査で鉄血の電磁防御のレベルは我々の言うところのレベル2と呼ばれる程度で一方の我々の使用する兵器の大半は最低でもレベル4、大半はレベル5、戦術人形は一応レベル3対応なのでレベル2程度の強度の電磁シールドで締め出せます」

 

 彼らが持ち込んだ兵器の中で最も特異なのがこの広範囲電子装置無効化装置通称電磁シールド。

 大規模電子戦という概念が滅んだに等しいこの世界にはない、国連軍の世界でも一応先進国やそれなりの規模の軍は大体持っている電子装置だが運用上民間人や民間登録の人形にまで危害を加える可能性が指摘される程の無差別性を持つこの電子機器は運用上かなり微妙な立ち位置にあった。

 何せ運用を間違えればジュネーブ条約違反というかなり危険な兵器という事もあり使用されるのはせいぜい危険な地雷原や完全な立ち入りを禁じたい場所、機密情報等を扱う施設など部外者の立ち入りを禁じたい場所など限定的だったが今回の国連軍で敵は国際法を無視した機械だけという鉄血相手にこの機械の出番がやってきた。

 何せ無人地帯なので民間人がどうこうと気にする必要もなくただ機器を展開して作動させるだけで目に見えない壁を作れるのだ。

 万里の長城のように鉄血を締め出せるのなら使わない手はなかった。

 

「これを作戦地域の丁度外側に展開します。

 航空機から投下して遠隔で使用可能で一機でおよそ直径10キロの範囲をカバー可能なので予備含めて合計12個を外側に展開させます。

 これで外側からの救援を断ちます。

 これで電子的に分断した後、実際に攻撃を開始します。

 まず砲兵部隊が前線部隊を粉砕、航空部隊が後方の司令部やインフラ、予備兵力、物資、後方陣地の類を破壊し両翼より部隊が突破、一路S-09まで南下、右翼部隊は我々がビフレストと呼んでいるルートを、左翼部隊はギャッラルブルーと呼ぶルートを突破しグリフィン支配地域までたどり着くと反転しグリフィン部隊と共に連中を圧迫、殲滅します」

 

 まず電子作戦で当該地域を孤立させると砲兵と航空部隊が徹底攻撃を加えそこを両翼から部隊が突破、北欧神話の橋の名を取ったルートを南下しグリフィンまでたどり着くとグリフィンと共同で殲滅する、極めて単純明快な作戦だ。

 これが神が見の怒り作戦のあらましだ。

 

「成程、説明ありがとう。

 しかし…」

 

 説明を受けたクルーガーはどういうわけか渋り始めた。

 

「どうかしましたか?」

 

「ああ、実はS-09の部隊は色々と問題が多い。

 所謂新人だ」

 

「それなら国連軍予備部隊を展開させますが?」

 

「他にもいろいろあるんだ、まあ一回見に行ったらどうかね?」

 

 クルーガーが提案した。

 その提案にコーシャと指揮官、G36、ワルサーは数分話し合うと首を縦に振った。




名前を出した部隊は全部実際に存在します
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