戦術人形というのは個性がある、たとえ同じモデルでもかなり個性というのが出るのだ。
基本的なプログラムこそ同じながら趣味嗜好技術などはその後の生活によって変わっていく。
例えば指揮官が持っているWA2000は仕事の関係でコーヒーに相当な拘りを持っている、M14は元海兵隊の特殊部隊で通常の射撃や海兵隊格闘術だけでなく日本の銃剣道をマスターし同時に日本文化に親しみ読書家である。
「何を読んでいるのですか?」
「ん?マルクス・アウレリウス・アントニウスの自省録だ。」
護衛として外に出されたSVDとG36Cの二人も個性というものが出ていた。
片や椅子にちょこんと座り行儀よく座っているG36C、片や椅子に深く腰掛け足を組みながら熱心に分厚い本を読むのはSVD、彼女にG36Cが聞いたのだ。
「マルクス・アウレリウス・アントニウスって確か五賢帝の最後の方ですよね」
「そうだ、その彼が書いた哲学の本がこれ。
かのマッドドッグマティスも読んでたらしいってM14がお勧めしてくれてな。
読むか?」
読んでいたのは古代ローマの哲学書「自省録」、五賢帝の一人マルクス・アウレリウス・アントニウスが書いた哲学書である。
彼女はこれを同僚から勧められ読んでいた。
「いいんですか?」
「ああ、まだいくつか本は持ってきてるからな。
ああ、時々ロシア語を読まないと忘れるからな」
そう言うと傍に置いたバッグからロシア語の小説「ドクトル・ジバゴ」を取り出して読み始める。
G36Cもつられて英語で書かれた自省録を読み始めた。
二人は読んでいると足音が近づいてくるのに気がついた。
だが無視して読み続ける。
足音は二人の前で止まり話しかけられた。
「ねえ、あんた達何やってるの?」
「古き良き文学の泉に酔いしれてる」
夢中になって読んでいたSVDは適当に返した。
すると突然本を取り上げられる。
「戦術人形が本ねぇ」
「人形が芸術を消費しては駄目か?」
本を取り上げたのは彼女が良く見慣れた戦術人形、ワルサーWA2000だ。
「何この本」
「ドクトル・ジバゴ、ボリス・パステルナークが書いた近代ロシア文学の金字塔だ。
世界はノーベル賞で価値を評価したがソ連政府は発禁処分という文学への冒涜で評価したが。」
「ふーん、こんなの読むのねぇ」
「たまにロシア語を読まないと忘れるんでね。返してくれ」
ワルサーは小説をSVDに返す。
だがいちいち癪に障るような返しをするSVDにワルサーはイライラする。
「で、あんた達は何処の所属?見慣れないけど」
「私はG&Kセキュリティ、連れはロシア空軍の少佐殿の物さ。
ちなみに今そこで会議中、私達は留守番だ」
前の会議室を指さしてワルサーに説明する。
だがその説明が癪に障ったようだった。
「何処の会社よその何とかセキュリティって、それに戦術人形を個人所有って出まかせ言うんじゃないわよ」
「出まかせじゃないさ。身分証なら持ってるぞ。
ま、通用するかは話が別だが」
「あのー、口論はやめましょう?コーシャさんや指揮官さんに迷惑がかかるかもしれませんし…」
「もっともな意見だな。
生憎喧嘩を買うほど裕福じゃないんで殴り合いでもしたければ他所で探してくれ」
G36Cが口論を止める。
彼女に言われSVDも冷静になる、こんな大したことない事で波風起こしても何の得もないのだ。
「あっそ、戦術人形だっていうのに喧嘩が怖いのね」
「能ある鷹は爪を隠すってだけさ。臆病者とでも何とでも言え。
あんた達には一切関係のない事だからな」
ワルサーが嘲るがSVDは怒りを飲み込みながら大人の対応をする。
彼女らの間に知らぬ間に見えない溝ができていた。
今にも喧嘩になりそうな権幕の中で会議室のドアが開き指揮官たちが出てきた。
「終わった終わった、あー疲れた」
「お、終わったか?」
気がついたSVDは手を挙げて声を上げる。
「ああ、SVD。ロシア訛りの英語を聞くのは飽きた」
「ハハ、私もロシア訛りの英語だが?」
「同じ英語なら女の声の方がいい。男のケツに欲情する趣味はねえからな」
ワルサーの隣に立つとSVDと仲良く話していた。
「ふーん、これがあんたの指揮官ねえ」
「ん?ワルサー?」
「私なら反対側よ」
「ん?いつの間忍者になったんだ?」
隣にいたワルサー(グリフィン)に気がついた後反対側のワルサーの方を向く。
二人のワルサーも気がついたようだった。
「忍者じゃないわよ、グリフィンの私でしょ?」
「あんたこそ何処の人形よ」
グリフィンのワルサーがもう一人のワルサーに強い口調で聞いた。
ある意味大人げない態度にワルサーは極めて冷静に大人の対応をする。
「私はこいつの私物よ?
こっちの事情は知らないけど人形の個人所有は銃を持つぐらい一般的よ」
「はぁ?あんたら一体何者よそもそも」
グリフィンのワルサーが大声で聞いた。
それに彼女はウィットに富んだ答えで返す。
「名乗る程でもないビジネスの話をしに来たしがない合衆国国民よ。
さ、行きましょう?これ以上は大人の話よ、出直して来なさい
あからさまに馬鹿にした口調で華麗に受け流した。
一方のバカにされたも同じワルサーは顔を歪ませた。
数時間後、6人はグリフィンの人間に連れられて食堂で夕食を摂っていた。
だがその味はというと「シベリアや北極の基地の食堂の味」だの「食えない事もないが美味いって訳じゃない」などという微妙なもの。
悪さの原因はこの手の事に仕事柄通じているG36やワルサーは「食材の質が料理人の腕以上に問題」と考えていた。
「まあ、今まで食った飯の中ではマシな方だけどな」
「今まで一番ひどかった飯は?」
大して美味くない見た目も工業品みたいなステーキを食べながらコーシャが指揮官に聞いた。
大して美味いわけでもないがかといって酒がある訳でもない以上適当に話をして気分を紛らわせるしかなかった。
「大学時代に日本の留学生に食わされたナットウとクサヤ」
「そりゃ酷い。俺は5年前に北方軍管区の演習で配られた野戦糧食。
賞味期限切れで飯の時間に任務で遅刻した俺の機の乗員全員にそれが回されて翌朝全員朝からトイレから出られず吐いてた。でそのまま衛生兵に担がれてヘリに乗せされてムルマンスクの海軍病院に放り込まれた」
「食中毒とはヒデェな」
「まあ万事塞翁が馬ってことわざが中国にあるだろ?
その代わりに俺達は4日間宿営地のクソみたいなベッドの代わりに柔らかい病院のベッドで美人の看護師に世話されながら過ごせた」
「ハハハ」
二人は大笑いする。
二人の話を聞いていたSVDやワルサーも口を押えて笑うのを押さえる。
「幸い俺は食中毒になった事はないな。
手術も受けた事ないし、子供の頃一度肺炎で病院にぶち込まれたことぐらいだな」
「病院と裁判所と警察署はお世話にならないのが一番だよ」
「そうだよな、俺らの仕事も暇が一番だよな。
無駄飯食いって言われる軍隊ってある意味では一番幸せな事だよな」
「英雄がいる世代は不幸だが英雄を必要とする世代はもっと不幸だ、そのような言葉もあります。
何事も平和が一番です」
「全くその通りだよG36」
そう言うとコーシャはG36の頬にキスする。
「おいおい、お熱いのはよそでやってくれ。」
「いいじゃないか、減る物じゃないんだし」
大げさに言う指揮官、一方のコーシャはあっけらかんとしていた。
「ロシア人ってのは公衆の面前って概念が無いのかい?」
「恋は盲目だからな」
「だいたいバカなカップルはどこでもこんなことするわよ。
まが常識があるだけマシよ、こいつら」
二人共ある意味達観していた。
まあこういう事もあるだろう、何せこういうのはいつの時代も別段珍しくもなんともない、丸一日適当なレストランの席に座ってれば一回ぐらいは見るだろう。
ある意味見慣れた光景だがそれに文句を言う者というのもそれなりにいる。
「おい、そこのお前ら」
「ん?俺達か?」
突然後ろから声をかけられた。
振り返ると赤いコートを着た大柄な男、恐らく40代ぐらい、見た目はそれなりにいいが腕時計を見ると相当趣味の悪そうなのをつけた男だった。
「ああ、そこの人形なんかと一緒に飯を食ってるお前らだ」
「それで何の用かな?」
コーシャが警戒するG36を手で制し右手を腰に吊るしたマカロフに手を当て聞いた。
「この食堂は人間専用だ、人形はさっさと追い出せ」
偉そうな態度で酷いルーマニア訛りの英語で命令する。
だがそれに指揮官は白々しい程綺麗なアメリカ英語で返した。
「それは困る。俺の部下だからね。
食事中に仕事の話をしちゃいけないのかい?
第一俺達はビジネスで来てるんだ、この会社のルールとやらに従う義理ってのはないんでね。
もしこの件でビジネスが破断になったら…お宅の社長さんに責任を取ってもらうけどいいかな?」
「な…」
やんわりと脅す。
普段はやる気のない男だがどういうわけかここぞという時はかなり口が回るのだ。
「それと、食事中に喧嘩なんかするのはマナー違反だよ?」
「チッ」
その男は舌打ちをすると離れて行った。
「無礼な男だな」
「全くだ、
指揮官の言った言葉にコーシャもクスリと笑った。
グリフィンのモブ指揮官も出す。(悪役だけど)
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