もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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S-09地区編


第16話

「なんでこんなオンボロ機がまだ飛んでるんだよ!」

 

「俺に言われても知らん!」

 

 翌日、冬らしく雲が多いが所々青空も見える空を飛ぶヘリの騒音に満たされたキャビンで指揮官は向かいに座るコーシャと大声で話していた。

 

「アメリカ人の俺でもこいつは博物館と航空ショーでしか飛んでる姿見た事ないぞ!

 落ちないだろうな!」

 

「落ちたら落ちたでその時だ!」

 

「そんなこと言われてもなあ!先月アリゾナの航空ショーでこいつが落ちたからな!」

 

「そりゃあ50年物のブラックホークだからな!」

 

 彼らが乗っているのは50年以上前のヘリコプター、UH-60通称ブラックホーク。

 初飛行が1974年で総生産機数は3000機以上で彼らの世界では40年以上前に生産が終わり今では傑作ヘリコプターの一機として航空史に名を刻んだ存在である。

 簡単に言えば「超オンボロ機」である。

 軍どころか民間でもとっくの昔に世代交代して今や博物館かヴィンテージ機を飛ばす愛好会ぐらいしか飛ばしていないこの機を平然と戦闘任務に駆り出すグリフィンに指揮官は恐怖していた。

 何せこいつはもう現代の戦闘に対応できないはずだ、一発食らえば終わりだ。

 

「俺はまだ死にたくないぞ!次の大統領選で民主党に票入れるまでは死ねねえ!」

 

「俺もだ!次の戦勝記念日に勲章一杯つけてモスクワのパレードに参加したいからな!」

 

 この整備が行き届いてるようとはいえオンボロのヘリが落ちない事を祈りながらヘリは飛んでいった。

 

 

 

 

 

 1時間後、目当ての基地に辿り着いた。

 ヘリが基地に隣接するヘリポートに着陸すると指揮官はすぐにヘルメットを脱ぎ捨てシートベルトを外しドアを開けて降りた。

 

「畜生!もう二度と乗るかってんだ!」

 

「同感よ、五月蠅すぎて耳鳴りが…」

 

「う…気持ち悪い…」

 

 降りた指揮官は悪態をつきワルサーは頭を抱えSVDは機体の傍で酔ったらしく吐いていた。

 片やコーシャは元ヘリパイロットという事で慣れていたようだが慣れていないG36姉妹はG36は耐えていたがG36Cはふらついて指揮官に抱えられていた。

 

「ご主人様、大丈夫ですか…」

 

「G36こそ大丈夫?こっちは完全にダメだけど」

 

「コーシャさん、申し訳ありま…う!」

 

「あー、そういう時は思いっきり吐いた方が楽だよ」

 

 こうなったのは着陸直前、乱気流に巻き込まれ50年前のヘリという事もあり彼らの世界のヘリと比べても圧倒的に揺れたためだった。

 阿鼻叫喚の渦の中一人だけ平然としていたのはついて来たへリアンだけだった。

 

「…大丈夫か?」

 

「これが大丈夫ならスターリングラードでドイツ軍が勝ってた」

 

 指揮官が一言返す。

 そしてこの光景を見ている影が二つあった。

 

「あれ、大丈夫なのかな?」

 

「ご主人様、心配ならば声をかけてはいかがでしょうか」

 

 片方の赤い服を着た銀髪のボブで髪先が赤い女性がS-09地区司令官ソフィア・アルカード、もう片方は彼女の副官のG36だった。

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

「これは…」

 

 指揮官は渡された書類の裏側にも何か書かれていないか確認しコーシャは頭を抱える。

 

「あの、何か問題でもありましたか?」

 

 自身なさげにソフィアが聞く。

 良いとは言えない出会いからしばらくして、基地の執務室でこの基地の資料を渡された二人は早速頭が痛くなっていた。

 何せその資料の内容は二人の酔いが醒めるぐらいには酷かった。

 

「マジでこれだけなのか?」

 

「はい、それがこの基地の全戦力ですが…」

 

「ざっと計算して…ロシア軍の一般的な歩兵中隊の半分相当の戦力…

 よくこの手駒で防衛できたとしか」

 

「だな、奇跡と言ってもいい。

 参謀部はS-09地区の戦力推定を最低でも一個連隊って見込んでたけど蓋を開けてみれば中隊すら満たないとはな」

 

 この基地の正面戦力はざっと計算して「一般的な歩兵中隊の半分」。

 中隊とは「軍における独立した作戦行動が可能な最小の部隊単位」だという事を勘案するとかなり弱いのである。

 勿論これは正面戦力だけなのでまだ後方部隊などもあるのだが。

 

「後方部隊や支援部隊とかも併せて計算すると…おおよそ2個中隊程度の戦闘団。」

 

「それって具体的にどのぐらい?」

 

「大体300人ぐらい、一応一個大隊は3個から4個中隊で1000人ぐらい」

 

 それでも合計して300人相当の部隊しかないというのだ。

 これで鉄血とやり合っていたのだから奇跡に近いのだ。

 

「消耗した一個連隊程度がいると思えば無傷の中隊しかいなかったとは」

 

「空挺部隊には迷惑をかけるなぁ」

 

 二人は想定以上の悪さに頭を抱えていた。

 

「あの、へリアンさん、このお二人って軍の人ですよね?」

 

「そうだ、そう言う事にしておいてくれ」

 

「はぁ…」

 

 彼女には実は全く話が伝わっていなかった。

 この二人の事は「グリフィンと軍の共同作戦の為の調査要員」として知らされていた。

 

「とりあえずこれで君の部隊の立ち位置がはっきりしたな。

 はっきりと言えば君らの部隊は我々の部隊に組み込んで運用するが構わないかね?」

 

「は、はい!お願いします!」

 

 コーシャがはっきり言うとソフィアは頭を下げる。

 それに二人は困惑する。

 

「え、いやいや、そんなことしなくても」

 

「人形たちを百戦錬磨の正規軍の一員として…」

 

「いやいやいやいや、君、何か勘違いしてない?」

 

「え?」

 

 彼ははっきりと彼女の勘違いを指摘する。

 

「多分君の言う軍隊ってのは俺達の言う軍とは全然違うよ?

 だって俺達異世界の国連軍だもん。

 君らの部隊を組み込むのもロシア空挺軍と米陸軍空挺師団だし」

 

「冗談、ですよね?」

 

「本当でしょうか?」

 

 信じられないようにソフィアとG36が言う。

 当たり前だが理解できないのだ。

 

「信じられないようだが本当だよ?

 一応君にもこれを渡そうと思って持って来た、我々の攻勢、神々の怒りの作戦書類。」

 

 そう言うとバッグから書類、神々の怒り作戦の作戦書類を慌てる彼女の前に置いた。

 

「これをよく読んで立場を理解してくれ。」

 

「は、はい!」

 

 混乱する彼女は訳も分からず大きな声で返事をする。

 そして一通り読むと驚いた。

 

「こ、これって!じゅ、重大じゃないですか!」

 

「ええ。この地区がキーですからね」

 

「こ、これって私なんかでいいんですか!?」

 

「落ち着けよ、な?一回深呼吸しろ」

 

 慌てるソフィアを指揮官がなだめる。

 言われた通りに何度か深呼吸して落ち着くとコーシャが説明する。

 

「この地区が鍵だからこそ君は何もしなくてもいい。

 増援の空挺部隊の指示に従って部下共々動けばいいだけだ。

 君らと違って空挺部隊は百戦錬磨、精鋭中の精鋭だ。

 指揮官も優秀だし君は大船に乗ったつもりでやればいいんだ」

 

「は、はい!」

 

 大声で返事した。

 その直後、後ろのドアが突然音を立てて開いた。

 

「うわ!なんだ!」

 

「いててて…あ…えへへ…」

 

 驚いて咄嗟に腰に吊るしたマカロフ拳銃をコーシャが取り出し、空気になってドアの傍で話し合いを見ていたSVDも咄嗟に持っていたM1911を取り出し、G36CやG36(コーシャ)も銃を向ける。

 そこにいたのはスコーピオンなどこの基地の戦術人形たち数人だった。

 

「スコーピオン!FNC!ガリル!バイキング!」

 

「お三方、覚悟はよろしいですね?」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「ま、まてや!うちはスコーピオンを止めようとしただけや!」

 

「ぼ、僕はスコーピオンに…!」

 

「あー、ほら、もしもの事があったら…ね?」

 

 言い訳をする4人にそれまで以上に恐ろしい表情をしたG36(グリフィン)が迫る。

 4人は少しづつ後退りすると立ち上がって走って逃げて行った。

 

「「ごめんなさーい!!!」」

 

「全く…」

 

「大変申し訳ございません、うちの人形がご無礼を」

 

 G36(グリフィン)が代表してコーシャ達に謝る。

 

「いやいや、元気があっていい部下ですね」

 

「まぁ、元気だけが取り柄みたいな子たちですから」

 

「少なくともあんたが部下に慕われるいい性格してるってことだけは分かるよ?

 良い上司ってのは下手な珍獣より貴重な生き物なんだぜ?」

 

「そうですか、では、基地の方を案内させていただきますね」

 

 ソフィアは立ち上がると一行を連れて部屋の外に出て行った。

 

 




・ソフィア・アルカード
S-09地区指揮官。
銀髪のボブ。22歳。
いい人だがいかんせん経験が無い。副官はG36。

・S-09地区
国連軍の基地から南西におよそ50キロの場所にある。
山岳地帯と平野の混在で大規模な部隊の展開が可能な広さがある。
鉄血との戦闘の最前線だがどういうわけか戦力はたいして多くない。
基地に隣接して2500m程度の滑走路のある空港がある。


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