もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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感想くれ


第17話

「で、情報は送ったのか?」

 

「ああ。スキャンしたチャートと飛行場関連情報、それに地形図。

 明日の午前中にでも第一陣が来ると思う」

 

 持ち込んだ専用の通信機器(ロシア軍の装備らしく民間人の指揮官は触れない)を使って情報を送ったコーシャがG36が淹れた紅茶を飲みスプーンですくったジャムを食べる。

 傍ではG36が紅茶を用意しワルサーと指揮官は彼の横でチェスをしながら彼と話していた。

 近くではG36CとSVDが本を読んでいた。

 

「これで仕事は終わりか?」

 

「まだまだだな、あのお嬢さんと色々詰めないと。」

 

「兵舎とか食事?」

 

「食事は持ち込みだがやっぱり兵舎と司令部施設だな。

 司令部施設はこの基地の間借りができるかどうか聞いてみないとな」

 

 3人が話していると突如ドアがノックされた。

 

「ん?はい、誰だ」

 

「アルカードです、入ってもいいですか?」

 

「どうぞー」

 

 ドアを開けたのはG36(グリフィン)を連れたソフィアだった。

 

「失礼します」

 

「アルカード指揮官、どうかしましたか?」

 

「いえ、ちょっとお話したいなーと思いまして」

 

「別に構わないぞ、どうせ仕事もひと段落したしな」

 

 コーシャが丁寧に応対しソフィアは彼の向かい、ワルサーの隣に座った。

 一方G36(グリフィン)は彼女の後ろに控える。

 

「それで、お話とは?」

 

「いえ、そんな大したことじゃないですよ。

 貴方たちの世界に事について差し障りのない範囲で教えていただけたらなーと」

 

「別に差し障りのない範囲って正直言って聞かれたら何でも答えるぞ?

 こいつのスリーサイズでも」

 

「別にいいわよ、こいつの頭に穴が開くだけだし」

 

「殺すのか」

 

「じゃああんたを餌にシャークフィッシング、運が良ければ生き残れるわよ。」

 

「完全殺す気じゃねえか」

 

 ワルサーと指揮官が互いにジョークを言い合う。

 それに彼女は乾いた笑いをする。

 

「ハハ…そう言うのじゃなくて、ほら、例えば崩壊液とか街の事とか」

 

「そういう奴ね。」

 

「そうだなぁ、やっぱり人形の登場で色々変わったか?

 物心ついたころには人形が一般化してたからそんなに気にしてないけど親父曰く人形が登場してからは社会構造が一変したって。

 今や戦術人形が人形の代表格になり誰もが人形を持つ社会だな。」

 

「誰もが戦術人形を持つ?」

 

 コーシャの話に彼女が食いついた。

 誰もが戦術人形を持つとはある意味考えられない事だからだ。

 

「ああ。戦術人形の普及率はすごいぞ、今や誰もが持っているって言ってもいい。

 銃の代わりに戦術人形なんてのが一般的だ。

 誰もが持ってるしどこにでもいるから強盗も最近めっきり減ったからな。」

 

 戦術人形の普及は相当なものである。

 IOP系戦術人形はかつて某アメリカの銃器団体が「銃を持った悪い人間を止められるのは銃を持った良い人だけだ」と言ったが戦術人形は基本的にその「良い人」になる、製造段階で違法行為のリミッターがかけられ嘘をつけなくなっている(民生モデルだけ。軍用モデルは別)戦術人形はシステム上自衛を除く犯罪を犯せずなおかつ特定の銃器に習熟し、見た目も人間と変わらない、その上戦術人形の銃火器は銃規制の対象外という事もあり大規模に普及、今や銀行だけでなく殆どの商店やバスには少なくとも一体の人形が乗っているぐらいだ。

 その結果としてアメリカでは強盗件数が20年前の1/5まで低下していた。

 殆どの社会学者はこの犯罪率の激減を戦術人形の普及と関係あるとしている。

 

「信じられない…あんなゴツイ戦術人形が…」

 

「いや、戦術人形の主流はIOPシリーズって呼ばれる系譜の人形だ。

 ベルギーのIOPが開発した技術を基幹にした系譜でもう戦術人形の殆ど全てがこのシリーズの人形と言っていい。

 鉄血も作ってたがあっちは軍事に特化しすぎて民間にさっぱり売れず軍でも特殊過ぎてそれほど売れちゃいない。

 何分IOP系は今や軍事作戦の主流たる治安維持など非対称戦向きだから鉄血のようなタイプは合わないんだ。

 そもそも鉄血自体戦術人形は各種無人兵器の延長線上として作ってたところがあるからメインはその他の無人兵器、人形はロシア軍でも鉄血のを主にスペツナズに鉄血とIOPの混成かIOPのみって感じ。

 その鉄血も蝶事件で倒産、破産して今や別のコングロマリットの傘下、一方IOPは今や人形業界のトップに君臨する絶対王者、毎年のように反トラスト法やら独占禁止法に引っかかってるぐらいには巨大な企業だよ。」

 

 戦術人形の世界的な主流はIOP系の人形であった。

 IOPはそもそも民間用人型ロボットメーカーとAI開発企業の合弁企業として生まれた会社だったため民間用の側面が強く戦術人形に関しても「自律人形を警備に使いたい」や「人形が盗まれないように自衛させたい」という民間の要求と「汚職が蔓延して警察が機能しにくい」、「従来の人だと犯罪に対処しようにも人手が足りない」などと言った警察側の要求がマッチしたため本来は警察・警備用に戦術人形が生まれ、時を同じくしてエッチング技術やダミーリンク技術も生まれそれを搭載し民間・軍・警察向けに販売した経緯がある。

 このコンセプトは平時は平和の配当として予算が削られがちな各国軍にとっては戦闘以外にも多くの仕事に使え、今や多くの軍が行っているPKOなどでも使えることから爆発的に普及、民間でも警備員より安く、お手伝いさんのように使え、何よりその両方より長期的に見ればずっと安いという点でこちらも爆発的に普及した。

 

 一方の鉄血はそもそもロシアと中国の合弁無人兵器メーカーで中露向けに各種無人兵器やUAVを開発していた会社だったため戦術人形はあくまで「無人兵器の延長線上の兵器」という側面が強く戦闘特化でAIの性能などは優秀だったのだが「高すぎる」「民間用には威力過剰」「軍用だと汎用性が不足している」「既存の兵器体系に組み込めない(IOPは組み込めた)」「とにかく何かにつけて高い」と酷評され中露両国軍とその影響を受けているパキスタンや北朝鮮、ベラルーシや中央アジア諸国ぐらいしか売れず当の鉄血も「あくまでメインの商品は無人兵器」というスタンスを崩さず人形販売には大して興味を示さなかった(どちらかと言えば西側への当て馬的にやっていた節があった)。

 

 蝶事件以降は別の軍事コングロマリットに買収されその傘下で無人兵器の製造開発会社となったため今では人形業界のシェアはIOPとその影響を受けた企業の独占状態であった。

 それこそ何かしらの理由で何かにつけて各国から独占禁止法や反トラスト法を食らうぐらいには。

 

「なんか…すごいですね…」

 

「この世界と比べればすごいんだろうがそもそもポストアポカリプスやらかして核のパイ投げやるなんて狂気の沙汰だからな。」

 

「そうね、はい、チェックメイト」

 

 指揮官が話す横でワルサーはチェスに勝っていた。

 するとG36(コーシャ)が二人分の紅茶を持って二人の前に置いた。

 

「お二人様、紅茶にございます」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

 二人は紅茶を一口飲み目を見開いた。

 

「お、美味しい」

 

「今まで味わったことがない程の美味しさです」

 

「ありがとうございます」

 

 一見すればG36がG36を褒めてG36に頭を下げるという中々奇妙な光景が生まれた。

 

「我が最愛の妻の紅茶は格別でしょう?

 茶葉自体もロシアではなかなか手に入らないバングラデシュのシレット、個人的に好きなBOPの茶葉ですよ。

 本音はラプサン・スーチョンがいいんですけどね、アレ経済制裁で中々手に入らなくて」

 

「なんだかよく分からないですけどものすごく美味しいです!」

 

 コーシャが茶葉の説明をする。

 その説明にこの手の事に詳しいワルサーも驚きよく分かっていない指揮官に説明する。

 

「なあワルサー、そのシレットとかラプ何とかってなんだ?」

 

「紅茶の茶葉よ。シレットはバングラデシュ産の茶葉で紅茶の芸術とまで評される程の高級品。

 その素性から本当に限られたルートからしか買えない超高級品。

 ラプサン・スーチョンは中国福建省産のフレーバーティー、かつては中国の貢物として使われていた程の代物。

 最近は福建省が南についたせいで経済制裁食らって正規ルートで流れてる茶葉は年200トンしかない、ある意味シレット以上のレア物よ。」

 

「この紅茶の淹れ方をご教授願えますでしょうか?」

 

「ええ、喜んでお教えしますよ。」

 

 G36(グリフィン)にG36(コーシャ)は笑顔で答えた。




設定上長江以南の中国製品は経済制裁で禁輸食らってます(なので中国茶葉の一部は超レア物と化した)
しょうもない設定だと中国茶の年輸出量制限はラプサン・スーチョンが年100トンだったが某B国がなぜかゴネて200トンになった。
中国茶の年輸出量全体だと年1000トン(ただしラプサン・スーチョンは別枠)
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