国連軍の基地から数百キロ離れた上空を1機の米空軍の空中給油機を4機の英軍機が飛行機雲を曳いて飛んでいた。
「こちらアレトゥーサ、これより散布準備開始」
『こちらアルテミス1、了解。退避する』
空中給油機の乗員が無線で護衛する英軍機に連絡する。
連絡を受けた戦闘機は空中給油機から離れる。
「アルテミス退避完了」
「了解、散布用意」
乗員の報告を受け機長が指示を出す。
指示を受けた乗員は機内に並べられた装置類を操作する。
「散布シークエンス開始、ブーム展開開始、ポンプ始動、圧力確認」
「メインポンプ始動、圧力正常、圧力現在30%」
「メインブーム展開完了、異常なし、放出準備完了」
「サブブーム、オールグリーン。」
乗員が胴体後部から棒状の給油ブームを出し主翼の先についたサブブームの準備をする。
更に普段は燃料を入れるタンクのポンプを始動、機内にポンプの重低音が響く。
「了解第1、第2、第3メインタンクバルブ閉鎖システムロック解除。
機長、散布準備完了」
「ラジャー、こちらアレトゥーサ、散布開始、繰り返す散布開始」
無線で機長が連絡する。
それと同時に機内でも装置を動かす。
「バルブ解放、散布開始、圧力最大、一滴でも多くばら撒け」
「了解、バルブ解放、バルブ正常に解放」
「ポンプ圧力最大、圧力正常、50%より上昇中」
「散布開始、散布正常。」
3つのブームから霧状の液体が空気中に散布される。
液体の正体は崩壊液中和剤、国連軍が鉄血掃討と同時に行っている崩壊液除染作戦「ドゥルーグ(ロシア語で友達)」の一幕であった。
崩壊液の除染という問題は国連軍の最大の懸念であり軍事行動を伴わない国連軍の作戦であったためドゥルーグ作戦は軍事行動を躊躇いがちな日本やそれほど軍を送り込めないアルゼンチンやチリ、冬季戦に不慣れと言っていい東南アジアやアフリカ諸国、中東諸国軍にも可能という事で多くの国がその要員を送り込み順調に進んでいた。
「散布正常、第一タンク残り30%。第二、第三タンクそれぞれ50です」
「了解、空になったら予備タンクに切り替え。」
「了解」
『こちらアルテミス2、方位210高度1万に国籍不明機。
恐らく軍の戦闘機だ』
「了解、散布完了次第退避。」
『アルテミス了解』
「散布完了にどのぐらいかかる」
「大体15分。」
「分かった」
この作戦は勿論この世界の軍には無許可であり警戒網も何のそのとばかりに横切ってばら撒いていた。
そのため戦闘機の護衛が必要でありこうしてよく軍の戦闘機がインターセプトしに来ていた。
別に戦闘行為をしているわけではないので一応の警戒はするができる限り接触して諍いを起こしたくはなかった。
「これが君の部隊かね?」
「は、はい。私の自慢の部下です」
「両生類のクソを搔き集めた程度だね。
あらゆる面でクソだ」
「え」
「アメリカンスキーの言う通りだ。クソだ、弾除けにすらならん」
「ええ…」
「これならアフガンの民兵を連れてきた方が千倍マシだ。
うちの部下を貸す、徹底的に再訓練して装備を整えなければ話にならん。
作戦開始は来週だ」
二人の将校、空挺軍のチトフ大佐と第101空挺師団第3旅団戦闘団長アレクサンダー・ブッシュ大佐が酷評していたのは目の前で行なわれている米露統合戦闘部隊とソフィア指揮下の人形の合同訓練だ。
その中で酷評されているのは人形たちの動きだった。
「あの、どこがダメなんでしょうか?」
「まず全体的な練度だ。個人技と分隊戦闘は及第点だが小隊規模戦闘や他兵科との連携に関しては問題だらけだ。
ひとつ聞きたいがそういった経験は?」
「ありませんというか人形は五体以上では編成できな…」
「人形は人間と混成で編成する物だが?人形だけの編成でも普通に小隊中隊規模で運用可能だ。」
ブッシュ大佐が徹底的に批判する。
とにかく彼らからすれば金科玉条ともいえる諸兵科による連携はおろか彼らの基準の小隊規模戦闘でさえ満足にできないのだ。
実際目の前で繰り広げられている演習は悲惨なものだった。
人形たちが守る陣地にあっという間に同程度の戦車部隊と連携した空挺軍部隊に制圧され折角の砲兵部隊との連携や便宜上用意されている空軍部隊との連携を一切生かせていなかった。
「どう思うよ、SVD」
「私が指揮した方がずっとマシだ。」
「できるのか?」
「こう見えても空挺軍部隊時代は一応士官だぞ?中尉だったが。
まあ必要なのは後は優秀な副官だな」
彼女から見ても酷い状態だった。
そして彼女には部隊の指揮能力があった。
「SV-98呼ぶか?」
「呼んでくれ。」
そう言うと指揮官は電話をかけて基地に連絡し10分ほど話SV-98が来る段取りを整える。
段取りを整え電話を切ると隣にいたワルサーに話しかけた。
「なあ、営業業務でもするか?」
「営業って何をするの?空気清浄機でも売るの?」
「違うよ、アイツにな」
指揮官は顎でソフィアを指す。
それを見てワルサーは何か納得したようだった。
「まあやれば?失敗しても知らないわよ」
「その時はその時だ、笑ってごまかす」
それだけ言うと徹底的に批判され落ち込んだソフィアの座るベンチに向かった。
「ひでえ目に遭ったな」
「ジェームズさんも批判するんですか?」
落ち込んだソフィアの隣に指揮官が座る。
「ああ、軍人さんの言う通り弾除けにすらならんな」
「そんな…」
指揮官にも批判されさらに落ち込むがそこに指揮官が提案した。
「そこでだが、再訓練なんてどうだ?
軍事組織の訓練支援はPMCの十八番の業務だ、どうだ?乗るか?」
「へ?いいんですか?」
ソフィアが驚いた。まさかそんな提案を受けるとは思ってはいなかったのだ。
昔から軍や軍事組織の訓練・教育支援というのはPMCの十八番だ。
現代でも米空軍や海軍などでは戦闘機部隊のアグレッサー役にPMCを使っているし中小国でもPMCが訓練を行っている、G&Kも中国や中南米諸国警察・軍の訓練にも参入している。
この世界ではすっかり消えた業務だがかの世界では今だ主な仕事だった。
「今ならセールスで1万ドルで手を打つ」
「1万ドル…」
「ただしこちらのドルだがまだ為替が無いからそうだな、基地の租借権、これでどうだ?」
まだ正式な国交が為されてない、そのため為替レートのような物もまだ決まってない、なので契約は金ではなく基地の租借権で手を打とうとする。
この二人は軍ではなく民間企業の社員だ、全てが契約と対価によって動くのだ。
「租借権…?えっとつまり基地を貸す代わりに訓練を請け負ってくれるんですか?なら…!」
「後でうちのこの手の事に通じた後方幕僚に書類とか作らせるからその時に正式契約だ」
「はい!」
ソフィアの顔がぱあっと明るくなった。
翌日、早くも書類が完成し翌朝の早朝便でSV-98と一緒に送られた契約書の契約が済むとその一時間後には早速訓練が開始されていた。
「さあ動け動け!人形の武器は持っている銃だけじゃないぞ、己の体も武器の一部だ!」
「はぁ、はぁ、これ意味あるんですか!?」
基地の周りを人形はSVDによって走らされていた。
訓練という事でテクニックのようなものだと思っていたM14が息を上げながらSVDに聞く。
「お前は底抜けのバカか!?体の動かし方を知ることは技術を知る事の基礎だ!
そのためにはお前らの基礎能力を知らなければならない!私はお前らの事をこれっぽっちも知らないからな」
彼女達は知らなかった、これに更にロシア空挺軍と米空挺部隊も参加し作戦開始までの1週間、猛烈な訓練が行われることを。
可哀想ですねーロシア空挺軍って言うロシア軍の文字通り最精鋭と第101空挺師団っていう米陸軍の最精鋭部隊から直々に教育されるなんてー
なおどうでもいいけど為替レートが無いのは「どう考えてもアメリカドルの方が強いから勝手にレート設定したら通貨システムが破綻してハイパーインフレ起こして戦乱起こるに決まってる」から