「よーし、ランプ展開。固定ロック解除!」
いくつかの巨大な荷物が積まれた輸送機の機内で腕時計を確認した士官が大声で指示を出す。
指示に従い乗員はてきぱきと荷物の固定金具を外し後部ハッチを開ける。
開けると針葉樹林が広がり氷点下の外気が入り込む。
「安全確認!オールクリア!
リリース!リリース!リリース!」
荷物を固定しているパレットの固定を解くとパレットは荷物を積んだまま床を滑り機外に出る。
機外に出るとパラシュートが開きゆっくりと地面に落ちていった。
時に2062年の3月4日、作戦開始まで二日を切った頃だった。
「作戦準備はどうなってる?」
作戦室でグッドイナフ大将が参謀将校たちに聞く。
参謀長のヴェンクは持っているタッチパッドを操作し目の前に置かれた電子地図を見せる。
「先ほど“壁”の設置が完了したとのことです。
設置個所は6か所、予備も含めてです」
地図の端に6つの点が現れる。
そしてその周りが赤く変化し電磁シールドとその効果の範囲を示す。
「そうか、物資の準備は」
「空挺部隊にも必要十分の量を輸送済み、こちら側は言うまでもないです」
「航空部隊もだ、既に偵察を行い敵のバンカー、補給拠点、通信施設、陣地を確認済み。
すぐにでも一斉攻撃が可能だ」
隣に座るアーチポフ大将も航空部隊の状態を伝える。
航空部隊も地上部隊も作戦準備は完了していた。
「後は実行だけです」
「うむ、諸君、連中に戦争を教育してやろう」
グッドイナフが不敵に笑った。
もはやルビコン川を渡り賽を投げるだけだ。
3月4日夜、基地の食堂にはスピーカーが設置され一部が片付けられていた。
その周りには空挺軍と空挺師団の兵士が大勢集まりワイワイ騒いでいた。
「ああ…疲れた…!」
「お菓子食べたい…」
その横で疲れ切ったM14とFNCがテーブルに突っ伏す。
周りのテーブルでも同じように基地の人形が座ったり死屍累々だった。
「みんな、お疲れ様」
ソフィアは人形たちの労苦をねぎらう。
人形たちも少し落ち着いたか笑顔を見せていた。
「SVD、やり過ぎでは?」
「これぐらいでちょうどいいさ。
生き残るためには限界を知った方が早いしな」
「ええ。一応これでも手は抜いたほうなんですよ?」
指揮官が苦笑しながら聞くとSVDとSV-98はさも当然のように言い切った。
「はは…」
「あんまり追い込まないでよね?」
「分かってるさ、それにこれから軍楽隊の演奏だぞ」
これから開始されるのは国連軍主催の軍楽隊の演奏であった。
演奏するはロシアのアレクサンドロフ・アンサンブルと米海兵隊軍楽隊、米空軍軍楽隊の国連軍合同軍楽隊。
「友好と理解には音楽が必要不可欠である」というロシア側の要請で作られた臨時軍楽隊だった。
「にしても軍楽隊ごときで士気は上がるのか?」
「上がるぞ。歌の力はすごいさ」
「ましてやロシア人は世界一の歌好きだぞ」
すると仕事が終わったのかコーシャもG36を連れてやってきた。
「ロシア人が言うならそうなんだろうな。」
「それに、今回は生じゃなく中継だ、思う存分歌えるさ」
「歌うつもりなのか」
「悪いか?」
「いや、別に」
そう言うと指揮官は視線を移す。
そして突如スピーカーから特徴的な音が鳴ると英語でアナウンスが聞こえた。
『レディース&ジェントルメン、そして人形の皆様。
これより国連軍合同軍楽隊の演奏を開始したします。
オープニングの演目はArmed Forces Medley
「あ、始まったわ」
AR-15がパブリックビューイングで遠く離れたロサンゼルスのコンサートホールで行なわれている演奏を見ながら呟く。
周りには基地の軍人たちやG&Kの人形や職員、AR小隊(グリフィン)も集まっていた。
「Armed Forces Medley?」
「聞いたことはあるんだが何だったかな…」
どこかで聞いた事のある題名にM16(グリフィン)は思い出そうとする。
彼女達には題名はどこかで聞いたことがあるがそれがどんな曲なのか思い出せなかった。
「最初はArmed Forces Medleyですか」
「各国軍のバランスを取る演目だろうな。」
M16とM4は演目を考察する。
この曲はアメリカの5軍、即ち沿岸警備隊、空軍、海軍、海兵隊、そして陸軍の行進曲のメドレー曲なのだ。
AR小隊達もそうであり、彼女らは一応陸軍の退役軍人であり未だ現役退役問わず軍人という存在がアメリカ中どこに行っても敬礼を持って迎えられる文化の国では軍人だったという事に一種の誇りと名誉を持っていた。
だからこそこの軍の魂たる行進曲のメドレーに内心興奮していた。
『
会場のコーラスの歌声が響き渡る、
Armed Forces Medleyは色々なバリエーションのある曲だが今回は沿岸警備隊の行進曲「常に備えよ」から始まるバージョンだった。
この場には沿岸警備隊出身者はいなかったが会場には何人かいたようで所所で起立している人物がいた。
常に備えよが終わると曲調が変わる、すると見ていた空軍軍人が立ち上がる。
「「『
大声で空軍軍人がコーラスに合わせて歌う。
アメリカ空軍の軍歌「アメリカ空軍の歌」だ。
『
続いて流れるは米海軍の正式な行進曲ではないが事実上公式の行進曲と化している「錨をあげて」。
これも海軍出身者がいないのでパブリックビューイングでは誰も立ち上がらなかったが何人かは歌を口ずさむ。
コンサート会場では海軍出身者が立ち上がって歌っているようだった。
そしてまた曲調か変わるとM14、そして海兵隊員たちが立ち上がると大声で歌いだした。
「「
彼らが大声で歌ったのは合衆国海兵隊の賛歌「海兵隊賛歌」、一度海兵となったものは永遠に海兵たる彼らの讃美歌だ。
だから元海兵隊員でもあるM14が大声で歌ったのだ。
そしてまた曲調が変わる。
「これは…」
「歌いましょ?我らの歌なんだから」
その歌に気がつきAR-15が誘った。
M4は頷くと曲に合わせて歌いだす。
「「
見ていた陸軍軍人とAR小隊(G&K)が大声で歌った。
歌ったのは陸軍行進曲「陸軍は進んでいく」。
元陸軍レンジャーのAR小隊にはなじみ深い、そして割合的に最も多い陸軍軍人にとって非常に大切な曲である、
メモリアルデーなどのコンサートでこの曲が演奏されれば会場にいる陸軍の現役退役問わない軍人たちが大声で歌いだす程度には。
『素晴らしい演奏とコーラスでした。
ではここでコーラス隊の交代です。』
アナウンサーがアナウンスするとコーラス隊が退場し始め、代わりにグリーンの軍服を着た集団、即ちロシア連邦軍でもたった二つしかない赤軍合唱団の正式な末裔、かつて一度航空機事故で全滅するも復活を遂げロシア軍のあらゆるイベント・戦域でその歌声と演奏で鼓舞し続けた集団の歌唱隊とソリストが登壇した。
作品に登場する軍歌は実際にありますしメモリアルデーとかの演奏の映像見ると退役軍人や現役軍人が演奏に合わせて歌ってます。