もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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神々の怒り作戦フェーズ2開始


第23話

「お、始まったらしいな」

 

 チョコバーを齧りながらSVDが遠くから聞こえる雷のような音に気がついた。

 隣で蕎麦の粥を食べていたSV-98がロシア製の軍用規格の腕時計を確認する。

 

「予定通りですね」

 

「ああ、全員配置に着け」

 

 SVDが命令する。

 すぐに人形たちは自らの名前と同じ銃を持ちダミーと共に配置に着く。

 SVDも配置に着くと十字を切り、双眼鏡を覗いた。

 

 

 

 

 

 

 

「フェーズ1が開始されたようです」

 

「そうか、全部隊配置済みだな。」

 

「ああ、私の部隊もだ」

 

 S-09地区基地の司令部では国連軍のデータリンクでリアルタイムで作戦状況が伝えられていた。

 するとチトフ大佐が軍帽を脱ぐと十字を切り祈った。

 戦場では時として神の存在を信じなければならないのだ。

 

「始まったか…」

 

「ああ」

 

「始まりましたね…」

 

 部屋の隅では指揮官、コーシャ、ソフィアの三者が真剣な面持ちでことの成り行きを見ていた。

 しかし、指揮官はどこか落ち着かない。

 そしてふとボヤいた。

 

「いざとなればつい数時間前まで一緒に笑ってた部下がいなくなる、この会社に入った以上覚悟はできていたはずなんだがな」

 

「大丈夫です、私はもう慣れました。そのうち慣れますよ」

 

 ソフィアが隣で同じように言う。

 すると眠気覚ましのコーヒーの入ったカップを見ながらコーシャが呟いた。

 

「士官、人の上に立つ者として、時として部下を、仲間を死地に送る者としてその感覚には絶対に慣れるな、その感覚があるうちはまだ正常な人間だ、一度仲間友人部下の死に慣れてしまえば二度と元には戻れない、死ぬまで永遠に狂い続ける、父と祖父が言った言葉だ。

 ジム、その感覚は絶対に忘れるなよ。」

 

 彼の言葉は重かった。彼の父、アーチポフ大将も、その父もロシア軍の軍人だ、だからこの言葉が軍人になった時伝えられた。

 戦争は狂わせるのだ、何もかもを。

 

「ああ、そのつもりさ。

 全く、戦争は人を世界を何もかもを狂わせる、平和こそが一番だ」

 

 だが時としてその素朴な願いは無視されるのが歴史だった。

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁあ、すごい砲撃ですね」

 

『ああ、連中曰くボストーク以来だとさ』

 

「張り切ってますね」

 

 鉄血を挟んだ反対側、頭上を砲弾とロケット弾が通り過ぎる中M14をAR小隊は無線で先鋒の海兵隊部隊を指揮するミシシッピ出身の黒人のブラウン中佐と話しながら白樺が茂っている林道の両端を歩いていた。

 砲弾の弾幕が前線部隊から後方の予備部隊へと移った頃に彼らは前進を開始、この狭い林道を中心としたルートを進んでいた。

 このルートはあくまで中心でありこの部隊は戦車5両と歩兵戦闘車10両、装輪偵察車5両からなる部隊でありその左側1キロ離れた道路を別の海兵隊部隊、戦車5両と歩兵戦闘車5両、装甲兵員輸送車4両の部隊が掩護、更に敵側となる右翼には戦車8両と歩兵戦闘車5両、その他装甲車15両の部隊が廃線になった鉄道路線を進んでいた。

 

「ストップ」

 

 すると先頭を進んでいたM16が何かに気がつき右手を挙げた。

 すぐに彼女らは止まると周囲を警戒する。

 耳を澄ませると何かが動いてるような音が聞こえる。

 

「敵か?」

 

 M16が呟く。

 彼女らは人形らしく内蔵されている暗視装置とヘルメットにつけられた暗視装置を通して周囲を確認する。

 すると右翼の森林の奥に何か動く物体を見つけた、それはよく見ると数体のニーマムだった。

 

「こちらスカウト、敵発見ニーマム数4、現在地はロメオデルタより235地点」

 

『了解、位置を確認した。航空支援要請』

 

 M14からの報告を受けると数キロ後方で待機していた本隊が無線で航空支援を要請する。

 数分後ニーマムに上空から対戦車ミサイルが放たれ破壊された。

 燃えるニーマムに照らされて周囲を確認すると敵はおらずニーマムだけだったようだ、それを確認するとM14達は数百メートル前進する。

 前進するとそこには十字路があった。

 十字路の手前で止まり両側の道路に何もないのを確認するとM14はハンドサインを出しSOPとAR-15に先に前進させる。

 二人が道路の両側から身をかがめて飛び出し横断する。

 そして何もないのを確認するとM14は地図を取り出し場所を確認する。

 

「ここは…チャーリー1ジャンクションですね。

 こちらスカウト、チャーリー1ジュリエット到着。チャーリーの安全を確認」

 

『了解。チャーリー1ジュリエットまで前進する。スカウトは別命あるまで待機』

 

「スカウト了解、チャーリー1ジュリエットで待機する」

 

 無線で連絡すると十字路の三方を警戒しながら待機する。

 氷点下の雪中で息が白くなる中5分ほど待機していると背後からエンジン音と金属が擦れる音が聞こえ始める。

 

「来たわね、早いわね」

 

「おーい!」

 

 AR-15が腕時計を確認しSOPが手を振る。

 そして暗闇の中から猛スピードで戦車が現れ十字路の手前でスリップしながら停止する。

 その勢いにAR小隊は驚いていた、何せ40トンはするだろう戦車が「高速道路のカーチェイス」のような速度で突っ込んできた上に自分達の目の前でドリフトしながら止まったからだ。

 

「ふう、レディー待ったかい?」

 

「ブラウン中佐、と、飛ばし過ぎです」

 

 車長席の胴体のハッチから顔を出した黒人の海兵隊将校にM4が言う。

 後続の戦車や歩兵戦闘車も次々と到着し合流し始めた。

 

「そんな飛ばしてないぜ、これでもまだ70キロだぜ?

 本当は90キロぐらい出せるぞ」

 

「流石韋駄天ブラウンですね」

 

「名誉勲章受勲者にも名を知られるとは有名になったぜ。」

 

 当たり前のように言うブラウン中佐、彼は海兵隊随一の機動戦の名手として知られついたあだ名が韋駄天ブラウン、海兵隊では珍しい機動戦の名手として彼は国連軍の槍の穂先として部隊を動かしていた。

 

「合流するまでに戦闘は?」

 

「3回ほど残存の人形と遭遇したが殆ど敗残兵だ、全部10秒で殲滅した」

 

 M14が聞いた。

 猛スピードで合流した彼らも敵と数回遭遇していたが事前の砲撃と爆撃で殆ど全滅していた。

 

 何せ国連軍の戦術は「敵戦力の半分以上を事前砲撃と爆撃で粉砕」であった。

 現代の戦争の戦術は大別してドイツの電撃戦から始まる理論とソ連の縦深攻撃から始まる理論の二つがあるが国連軍が選択したの後者だった。

 後者の理論、即ち縦深突破戦術では最初の一撃、つまり戦車部隊の突撃の前の砲撃の段階で「戦力の6割を粉砕する」。

 一般に戦力の3割を失えばその部隊は戦闘能力を喪失したと判断されると考えれば最初の一撃で文字通りの壊滅を狙っているのだ。

 そしてその対象は前線部隊だけでなく場合によっては後方の予備兵力さえも対象となる。

 文字通り鉄の嵐で前線部隊と予備兵力を粉砕した後、やっと戦車部隊がズタズタにされた前線を食い破るのだ。

 それもただ食い破るのではなく指定された目標まで我の損害を一切顧みない進撃を戦闘能力を喪失するまで続けるのだ、もし仮にこの牙を折ったとしても終わりではなくそこで即座に第二波の部隊が襲い掛かる、これを繰り返し目標まで進撃を続けるのがこの縦深作戦だ。

 その破壊力はもう120年以上前、独ソ戦のバグラチオン作戦で証明されている、ソ連軍は僅か一か月でベラルーシからワルシャワまで突き進んだ、鉄血は中央軍集団と同じ運命を辿ろうとしていた。

 

「ねえ!つまんない!鉄血と全然戦ってないよ!」

 

 すると後ろからSOP(グリフィン)がやってきて文句を言ってきた。

 

「戦いたい!壊したい!奴らをバラバラにしたい!」

 

「SOP!すいません、止めたのに言う事を聞かなくて…」

 

 駄々をこねるSOPを止めに隊列の後方からM4(グリフィン)も来た。

 

「ここからは敵の予備兵力が展開してるだろうからタンクデサントで行くが一緒に乗るか?」

 

 するとブラウンが提案する。

 

「本当に!」

 

「戦車乗りとしては歩兵の目が欲しいからな」

 

「分かった!行こ!M4!お姉ちゃんたちも呼んでさ!」

 

 喜ぶSOPは後方のAR-15とM16を呼びに行った。

 作戦開始からおよそ2時間、前線はズタズタに引き裂かれ楔が深く打ち込まれた。




・ブラウン中佐
海兵隊中佐
珍しい機動戦の名手、厚い皮より速い足信者

人形の戦術的運用って色々考えたけど基本的にはネットワーク中心の戦争では高度にネットワークの中に組み込まれた歩兵って扱い。
戦術人形単体でネットワークに組み込まれセンサー類は情報処理システムに直結され自らが見ている情報をリアルタイムで司令部でも確認でき、その情報を元に他の兵器も攻撃できる。
逆に他の兵器のセンサーに人形をつなげてそのセンサーを通して攻撃もできる。
用はロボット兵器の要素を組み込んだ歩兵。

国連軍基本スタンスは「どうしてそうなったとか知らねえが鉄血は全人類の敵なので根絶やしにしてやる。ELID?そっちは中和剤ばら撒きゃ済む。後平和を乱す(国連軍視点)奴らは話し合いで解決できないなら物理的に解決するぞ。現地の事情とか知らん、俺達が正義だから」とかいう典型的欧米的エゴイズム
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