もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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第28話

 自律人形の修理はどちらかというとパソコンなどの電子機器の修理によく似ている。

 当たり前だが見た目は人と言えど中身は機械である。

 だがしかし、その構造は複雑で電子機器のワイヤー、ケーブル、骨組みの金属パーツ等々が組み込まれている。

 そのため修理には専門の技術者が必要である。

 

 基地に運ばれ、修理の為スリープ状態に落とされたガーランドが次に気がついた時に見えたのは病院のような天井であった。

 周りを見ると隣のベッドには同じようにSASSとStg44が寝ていた。

 壁を見れば一面白色、まるで病院だ。

 

「…ここは…?」

 

「気がついたか?」

 

「ひ!」

 

 突如現れた左に立つ無精ひげの男、即ちスタンが現れた途端得体のしれない恐怖に覆われる。

 腕の力で体を持ち上げるとベッドから急いで離れようとして床に落下するが気にせず這い出ると逃げようとするが逃げようとしたのは壁の方であり部屋の角にうずくまると泣き叫ぶ。

 

「来ないで!来ないで!!来ないで!!!」

 

「こりゃ駄目だな。イサカ、カリーナ、ワルサー、頼む」

 

 完全に駄目だと理解したスタンは代わりに相棒のイサカ、そしてG&Kの後方幕僚のカリーナ、指揮官の秘書役のワルサーに任せると部屋を出て行った。

 

「ガーランド?」

 

「えっと、大丈夫ですか?」

 

「落ち着きなさい、深呼吸して」

 

「いやだ!いやだ!!いやだ!!!来ないで!!触らないで!!」

 

 パニックになったガーランドは落ち着かせようとするワルサーの手を払いのける。

 パニックで周りが見えなくなりとにかく追い払おうとする。

 するとイサカが強引に両手でガーランドの頬を掴む。

 

「追いつきなさい!私よ!イサカよ!」

 

「あ…イサカ…さん…?」

 

「そうよ、怖かったわね、もう大丈夫よ」

 

 優しくイサカはガーランドの頭を撫でて落ち着かせる。

 泣きわめく子供あやすように言い聞かせると段々落ち着いて行った。

 

「落ち着いた?」

 

「は、はい。その、すいません」

 

「いいのよ。むしろ今のは正常な事よ」

 

 ガーランドをイサカは責めない、むしろ今のが正常な反応なのだ。

 人形は人間に似せようと努力しすぎた結果としてパニック障害を起こせるようになってしまっていた。

 それはどうも共通だったようだ。

 

「それじゃあ、落ち着いたことだし紹介するわ。

 こちらはG&Kセキュリティミューロック特別支局後方幕僚のカリーナさん、そちらは同じくG&Kセキュリティミューロック特別支局副局長の個人秘書のワルサーWA2000さんよ」

 

「カリーナって言います、ぜひカリンって呼んでください」

 

「私はWA2000よ。よろしく。」

 

「M1ガーランドです」

 

 二人はかがんでガーランドに目線を合わせて自己紹介する。

 二人に対してはスタンの時のようなパニックを起こさなかった。

 

「それじゃあ立ち上がれますか?

 こんなところじゃ話もできないですし」

 

「は、はい」

 

 カリーナとワルサーに支えられてガーランドは立ち上がり生まれたての小鹿のような足取りでベッドに戻る。

 そんな彼女に横から声がかけられる。

 

「ガーランド、大丈夫?」

 

「気分が悪いようでしたら無理しなくてもいいのですよ?」

 

「SASS、大丈夫よ」

 

 ベッドに寝ていたが騒ぎで気がついたSASSとStg44が声をかけた。

 ガーランドは精一杯の笑顔で大丈夫なふりをしてベッドに寝かされる。

 

「ありがとうございます」

 

「いえいえ、怪我人ですから」

 

「そうよ、パニック障害なら仕方ないけど。

 こればかりは心療内科案件ね」

 

「それじゃあ早速だけどいいニュースと悪いニュース、どっちが聞きたい?」

 

 寝かされるとイサカはガーランドに聞いた。

 

「それじゃあ、いいニュースから。」

 

「あなたを売り飛ばした指揮官、今もいるわ。

 しかもいる場所は現在我々の管理下の地域。」

 

「それって…」

 

「逮捕できるんですか?」

 

 ガーランドたちを売り飛ばしたクソッタレはまだ指揮官をやっていた。

 そしてその男は未だ指揮官をやっていた、その上S地区のであった。

 つまり国連軍はその男に逮捕権を行使できるのだ。

 

「だけど、悪いニュースは逮捕できない」

 

「え!?」

 

「どうしてですか?」

 

 逮捕できない、その事に二人が驚いた。

 

「法の不遡及の原則よ」

 

「「法の不遡及?」」

 

「簡単に説明しますと、法律によって違法とされるのは法律が効力を発揮して以降のみなのでそれ以前の行為は罪には問えないっていう近代法の原則です」

 

 二人にカリーナが説明する。

 要は法治国家であるが故に逮捕できない、法治国家であるため合衆国法が適応される以前のこの地域での犯罪行為は彼らは追及できないのだ。

 

「あなた達が売り飛ばされたのは押収した記録からして約1年前、本来なら不法な人形売買でオコンネル法と人形虐待・強姦でフィッツジェラルド法で逮捕できるけどこれらの法律がこの地域に適応されたのは3週間前、だから罪には問えないの、残念だけど」

 

「そんな…」

 

 ガーランドが悔しそうに俯く。

 彼女達、そしてその仲間たちの受けた仕打ちの法的責任を問えないという事に絶望する。

 SASSもStg44も同じような気持ちであった。そしてポツリとSASSが呟いた。

 

「だったら、いっそ殺して…」

 

「それも無理よ」

 

 ワルサーがきっぱりと言う。

 その言葉にSASSが怒りがこもった声で聞き返す。

 

「どうして、ですか?」

 

「どうしてって、汝殺すべからずよ。

 言っておくけど人を殺せば殺人罪よ?しかも憲法で自律人形も刑事的責任を問えるの。

 あんた達は被害者よ、加害者になんてならないで。」

 

「さんざん道具扱いしてきて今度は人扱いですか?」

 

 ガーランドの言葉には怒りと軽蔑のこもっていた。

 今までさんざん道具扱いしてきて突如として人扱いだ、汝殺すな?敵討ちもできないのか?

 

「支配者が変わったのよ、今ここは異世界のアメリカよ。

 法的にはアメリカ合衆国カリフォルニア州ミューロック特別行政区で連邦法とカリフォルニア州法が適応されるの。」

 

「別に復讐をしたければ一応は止めるわよ。

 それでもやりたければやればいいわよ、その代わりに貴方たち全員を逮捕するだけよ」

 

 イサカが言い切る。

 彼女達の無念はよく分かっていた。

 だが犯罪者にするわけにはいかないのだ。

 

「ま、辛気臭い話はここまでにしましょ!」

 

 そう言ってイサカは手を叩く。

 

「そういえば忘れていたけれど貴方たちに会いたいって子がいるわ」

 

「「私達に会いたい?」」

 

「ええ。外に待たせてるの、呼んでくるわ」

 

 イサカは部屋の外に行くと銀髪の眼鏡をかけた少女を連れてきた。

 その少女はガーランドたちの顔を見るや否や明るくなりガーランドたちも驚いていた。

 

「ガーランドちゃん!」

 

「M1カービン!」

 

「カービンさん!」

 

「カービンちゃん!」

 

 少女はガーランドに駆け寄ると力いっぱい抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

「しかし、大変なものを見つけましたね」

 

 オッドアイの女が書類を確認しながら呟く。

 彼女の周りには大量の書類が置かれ一つずつ丁寧に確認作業がされていた。

 

「あの、大変な物って何ですか?」

 

「ああ。ただの娼館の帳簿だろこれ」

 

 彼女の呟きに指揮官とソフィアが言う、すると彼女は首を横に振る。

 

「ただの帳簿じゃないですね。

 電子データは外から盗まれる可能性があるのでわざと紙の形で記録を残していたんですよ。」

 

「じゃあ何が書かれてるんだ?その大量の帳簿には」

 

「色々ですね、今の所見つかったのはマネーロンダリング」

 

「ふーん」

 

「売春」

 

「ま、まあ娼館ですし」

 

「それに、違法な武器・人形・薬物売買。

 それと…」

 

 そう言うと彼女は一つの書類を見せる。

 

「崩壊液売買」

 

「記録が残ってたのか?」

 

 その言葉に表情が変わる。

 

「はい、律儀な悪党だったんでしょうね、全部残ってましたよ。

 少なくともこの一月だけでも24キロは取引されてました。」

 

「一月で24キロも?」

 

「一体どこの誰に売った」

 

 部屋の中で一人だけ黙っていたコーシャが口を開いた。

 

「それがPとしか書かれてないですね」

 

「P?じゃあ誰が納品した」

 

「それがどうも…」

 

「どうした?」

 

 突如言い渋った。

 そして意を決して言った。

 

「グリフィンから流れてるようです」

 

「なんだと?」

 

「グリフィンです。詳細は不明ですがどうもグリフィンの基地が回収した崩壊液をどこかの基地が纏めて売っているようです。」

 

「分かった、この件は最大限内密にしてくれ。

 俺は親父たちに言ってくる」

 

「分かった」

 

 コーシャがドアを開けて出て行くと指揮官が聞いた。

 

「で、なんで俺達に話した?

 コーシャは一応士官だ、理解できる。

 だが俺は民間人、こいつは敵かもしれないんだぞ?」

 

「大丈夫ですよ、M16達から信用できる人物と聞いてますから。

 それに…」

 

「それに?」

 

「大統領と比較的親しい民主党員であるイシザキ議員の息子、となれば怪しい要素はありませんから」

 

「シークレットサービスらしい判断基準だな」

 

「それはどうも」

 

 そう言うと女は再び書類の解読に移った。

 女の名はRO635、AR小隊最後の一人だ。




・RO635
AR小隊最後の一人。
唯一陸軍に入らずDEA、FBI、シークレットサービスと渡り歩いた人物。
シークレットサービスでは大統領の護衛ではなく犯罪調査担当。
情報の管理が得意。
薬物関連事案だけでなくFBIのような連邦犯罪、シークレットサービスの金融犯罪案件にも対処できるので送られた。
AR小隊の一員ではあるがほぼ別行動。たまに連絡を取る程度。

・M1カービン
ガーランドたちと一緒に売られた子。
一人だけ娼館に売られず他の所に売られたが救出される。



M1カービンとガーランドの百合はいいと思うんですよ(気の狂ったような笑顔で)

後裏設定でバチカンの教皇に関する設定だと32年、48年、58年に教皇が変わってます。
32年にアメリカ人が、48年にイタリア人、58年にスペイン人が教皇になってる。
後カトリック保守派と反人形勢力が教皇を暗殺して人権失ってます。
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