もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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第29話

 グリフィン本社の一室、そこではカーン文民代表が政府当局と交渉を行っていた。

 

「なぜこんなくだらない条項に拘るのです?

 たかが人形ですよ?」

 

「たかが?今たかがと言いましたか?

 我々にとって人形とは国民です、同胞です。

 その同胞をイスラム保守派でさえ認めている女性の権利さえ認めないような場所に送れますか?」

 

 その交渉は軍事活動に始まり、人道支援、経済活動、通商関係、産業支援と多岐にわたるが暗礁に乗り上げていた。

 その議題とは「人形の権利」だった。

 

「あんたらは人形に支配させたいのか」

 

「人形に支配?素晴らしいジョークですね。

 人形を奴隷からプレイヤーにするだけですよ?」

 

「それを認めれられないから言っているのだ」

 

「今や我々は世界中どの企業も組織も人形を職員として雇っています。

 クーリエとしても多くの人形が雇われています、いや今やクーリエの大半は人形です。

 もしも人形を人と認めないならば貴方方は彼女らをウィーン条約の対象外とみなしますよね?

 しかし我々は彼女らをウィーン条約の対象とみなしています、その他の条約でもです。

 貴方方が外交問題を起こしたいのですか?折角の友好を失いたいのですか?」

 

 基本的価値観の違いから激しい対立を生み出し口角泡を飛ばす議論が続いていた。

 

「これを認められないならば我々はもう一つの方法を取りますがいいですか?」

 

「では、そのもう一つの方法とやらを取ってくださいよ。」

 

「ええ。では治外法権を認めるという方向で」

 

 カーンの一言に政府担当者は目を見開き立ち上がる。

 

「なんですか?貴方方、我々の国民に与えられた基本的人権を認めないと言っておきながら我々が国民の生命を守るための対策を講じようとすれば拒否する。

 何をやりたいのですか?外交交渉をお流れにしたいのですか?

 貴国には外交的信義という物はおありで?」

 

 カーンの言葉に政府担当者は押し黙るしかなかった。

 

 

 

 

 

 神々の怒り作戦後、グリフィンと協定を結んだ国連軍はS地区内のグリフィン基地の一部を租借できるようになった。

 その中でもソフィアが指揮していたS-09地区基地は国連軍司令部と文民代表事務所、国連難民高等弁務官事務所や国際崩壊液管理委員会、ミューロック特別裁判所などが入居し基地の規模が急拡大、それ以前の面積比で3倍、勤務人員で言えば実に50倍にまで増大した。

 

 増大した人員と施設に対応するため国連軍は現地の難民や貧困層の人間を大量に雇い、更に本国から大量の重機と資材を持ち込んで絶賛大規模工事中であった。

 この工事は国連軍の経済政策を兼ねていた、即ち貧困層や難民に食い扶持を与え尚且つ犯罪に走らない程度の給料と米国から大量に持ち込んでいる物資を与えてスラムを無くし新たな中産階級に育てるという狙いがあった。

 勿論最終的な目標が達成されるのには最低でも数年はかかるがそれでも犯罪の温床たるスラムを無くせるのはかなり大きい、もう一つの理由としてはドルが滅茶苦茶強く現地通貨が異常なほど弱いので一人当たりの人件費がカリフォルニア州の最低賃金レベル(毎時21ドル)がこの世界の中産階級の月収程度になる程である。

 ついでに雇用されている労働者は軍の食堂で食事を摂れる上に酒保での買い物も可能、希望者には住居の提供までされるといういたせり尽くせりの仕事に想定以上の応募者が殺到、本来なら順次行う予定だったゲート基地~S-09の鉄道路線やS-09に設置予定の大規模物資集積所、そこから各地の基地に繋がる道路網、電話網、水道ガス電気の基本インフラの再整備、鉄血基地の跡片付けと再整備を同時に行えるようになるほどだった。

 

 そしてその工事の間国連軍司令部に供されている臨時司令部のプレハブ小屋の中でアーチポフ大将がグッドイナフとヴェンクに息子から聞いた話を伝えていた。

 

「その話を知っているのは?」

 

「アルカード指揮官、イシザキ指揮官、それと捜査員の一部だけ」

 

 グッドイナフの問いにアーチポフが小声で答える。

 押収した資料から判明した一部の指揮官が犯罪組織と結託しているという事実は治安をカリフォルニア州の平均レベルまで下げたい国連軍には衝撃的であった。

 仲間内に内通者がいるのだ、だから国連軍はこの情報を慎重に扱っていた。

 

「グッドイナフ大将、こいつはかなりの大事だ。

 私も大統領に連絡する。」

 

「部隊の配置も変更しなければな。

 可能性が高いのは?」

 

 ヴェンクが呟くするとグッドイナフはテーブルの上に置かれたS地区全体の地図を眺める。

 

「S-07地区だ。あそこの人形が闇ルートで数体売られていたのを保護した」

 

「予定だとベルギー軍だったが交代だ、代わりにフォルゴーレ任務部隊を配置してくれ。

 グリフィンの反乱の可能性も考慮して部隊配置を変更しないとな。」

 

 ヴェンクはS-07に配備予定の部隊を弱体なベルギー軍から強力なイタリア軍部隊へと変更する。

 そしてグッドイナフはテーブルの上に置かれた電話を取ると電話をかけた。

 

「国防長官、グッドイナフです。

 グリフィンへの諜報活動をCIAに要請したい」

 

 国連軍はこの時点からグリフィンを潜在的脅威とみなし始める、だが彼らが争うことになるかは神のみぞ知るのであった。

 

 

 

 

 

 

「それで私達はこれからどうなるんですか?」

 

 SASSが聞く。

 その気持ちは隣のベッドにいる二人、そしてガーランドの手を握るM1カービンも同じだった。

 

「それに関しては大丈夫よ。

 本来なら元のオーナーに返すのが筋だろうけどあなた達の場合は別、今回は我々が保護した後民間に委託って形にする予定よ」

 

「で、その受け入れ先が私達G&Kセキュリティです」

 

「ただ一つ心配なのがあって、ガーランドの男性恐怖症をどうにかしないとね。

 人形は多いけど管理職や後方要員は男性が多いしこの部屋の外の職員は8割方男よ」

 

 イサカが懸念するのはガーランドのPTSD、SASSやStg44、M1カービンは発症していない中で彼女だけというのも気になるが軍というのは男社会であり警察も男社会だ。

 民間の経済活動が軍関連以外許可されていない現状では大半が男なのだ。

 

「だ、大丈夫です、多分…さっきのは突然現れたから、驚いただけで多分大丈夫だから…」

 

「無理しなくていいのよ?」

 

「そうだよ、ガーランドちゃん。」

 

 ワルサーとM1カービンは強がるガーランドを気遣う。

 強がるガーランドを見てイサカは溜息をつく。

 

「はぁ、カリーナさん」

 

「分かってます、ヘリアンさんから特別に部屋を用意してもらってますし指揮官も分かってますよ。

 男性との接触は出来る限り避けさせます」

 

「お願いするわ。何かあれば呼んでください」

 

「はい、分かってます」

 

 そう言うとイサカは部屋から出て行く。

 そしてスタンと合流する。

 

「イサカ、ちょっと事態が動いたぞ」

 

「何があったの?」

 

 スタンは付き合いの長いイサカでも驚くほど気が立っているようだった。

 

「崩壊液の流出経路が分かった。」

 

「何処から?」

 

 するとスタンはイサカに顔を近づけ耳打ちする。

 

「グリフィンだ。詳細は機密だがS地区のグリフィン基地のどこかから漏れてる。」

 

「それは言えないわね。」

 

「ああ。俺はあいつが怪しい」

 

「サーラシ・アンドラーシュ、S-07地区指揮官。」

 

「ガーランドたちを売った男だ」

 

 二人が被疑者として睨んでいる男、S-09の東にあるS-07地区指揮官のハンガリー人の名を出す。

 

「探りを入れる?」

 

「いや、下手に動けば俺達が消される。

 虎の尾は慎重に踏まないとな」

 

 スタンはニヤリと笑った。

 

 




・サーラシ・アンドラーシュ
S-07地区指揮官。ハンガリー人。
名前のモデルは第二次世界大戦中ブダペストで虐殺行為に手を染めた矢十字党指導者で聖職者のクン・アンドラーシュと矢十字党党首でハンガリー首相のサーラシ・フェレンツ。


サーラシ・アンドラーシュはハンガリー人なので名前表記はマジャール語方式(姓名)。欧米式(名姓)にするとアンドラーシュ・サーラシ

どうでもいいネタだけどS-09地区基地は国連軍との共用になったので国連軍によって一応名前が付けられてキャンプ・コシチュシコ。
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