もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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第30話

 翌日、ガーランドたちはM14と共に基地を歩いていた。

 

「あちらが国連難民高等弁務官仮事務所、向こうが国連国際崩壊液管理委員会仮事務所、その裏にあるのが大食堂です。

 で、私達の事務所はI3Cの事務所の隣の建物です」

 

「はぁ」

 

 コンテナハウスやプレハブ小屋だらけの中で4人は頷くだけだった。

 周りには多数の軍人や労務者、文民職員が行きかい誰も気にしていない様子だった。

 一方4人は修理後服もボロボロだったので廃棄され代わりに余っていた服を与えられた結果全員カジュアルな服装になってしまい微妙に目立っていた。

 

「色々あるんですわね」

 

「ええまあ。一応元はS-09地区基地だったんですけど移転してきたんで仮設ばかりですけど。

 今は隣で本格的なのを作ってる最中ですよ。」

 

 M14がStg44に説明していると向かいから海兵隊の将官とイタリア陸軍の将校が来るのを捉える。

 するとM14は直立不動になり敬礼する。

 軍人の一団がすれ違うとSASSが聞いた。

 

「あの今のは?」

 

「国連軍総司令官のグッドイナフ大将とあれは確かイタリア陸軍騎兵連隊サヴォイア騎兵連隊長のアルベルト・ディ・クロッラランツァ中佐だったはずです。

 それにしても何でディ・クロッラランツァ中佐が来ているんでしょうか?」

 

「あの、誰ですか?クロッラランツァ中佐って…」

 

「ああ気にしないでください、大したことのない話ですから。

 それじゃあ案内を続けましょうか」

 

 カービンに言われM14の疑問はそれ以上考えなかった。

 一方すれ違ったグッドイナフとディ・クロッラランツァは話しながら話していた。

 

「クロッラランツァ中佐」

 

「さっき子が例の子たちですか?」

 

「そう聞いている」

 

「中々いい子そうな子たちですね」

 

 流暢な、それこそイタリア人である事を感じさせない程綺麗なクイーンズイングリッシュでディ・クロッラランツァが言う。

 恐らく派遣部隊の中では最も伝統ある、1692年にサヴォイア家がまだサヴォイア公だった時代に生まれその後のポーランド継承戦争、オーストリア継承戦争、フランス革命戦争、ナポレオン戦争、イタリア統一戦争を経てイタリア王国となった後も一次大戦を戦い、第二次世界大戦では史上最後となる騎兵部隊によるサーベル突撃、イブシェンスキの突撃を行ったことで戦史に名を記したイタリア陸軍騎兵連隊“サヴォイア騎兵”連隊長がこの男、アルベルト・ディ・クロッラランツァ中佐であった。

 南部バーリの名門貴族家クロッラランツァ家出身で伝統的なイタリア保守派らしく信仰心に篤く紳士的で共和国に忠誠を誓った優秀な軍人であり教養にあふれ将来のイタリア陸軍のトップと渇望される程の人物である。

 

「だから君の部隊を動かす。

 イタリア陸軍の精鋭フォルゴーレ空挺旅団からの分遣部隊だ、期待しているよ」

 

「了解です。エル・アラメインで奮戦したフォルゴーレと伝統あるサヴォイア騎兵の名を受け継いだ部隊として恥ずかしくない働きをしましょう。

 それに婦女子の暴行など一人のキリスト教徒としても怒りに震えていますから」

 

「頼もしいな。では」

 

「では。」

 

 二人はたがいに敬礼すると反対方向に歩いて行った。

 クロッラランツァはヘリポートに歩いて行くと待っていた人物と合流する。

 

「よ、イタリア人」

 

「待ってたわよ」

 

 そこにいたのはスタンとイサカであった。

 するとクロッラランツァに待っていた戦術人形のM1014がイタリア語で耳打ちする。

 

「本当に良かったんですか?」

 

「別に構わんさ。ベネリはいつも心配性すぎる」

 

「坊っちゃんがお気楽すぎるだけです」

 

 クロッラランツァに注意するM1014を適当にあしらうとヘリに乗り込み離陸する。

 目的地はS-07地区。

 

 

 

 

 

 

「ここが基地か?」

 

「ああ。連絡していたから迎えが来ているはずだ。

 そろそろのはずだよな?」

 

 1時間後、S-07地区の基地の前でイタリア軍の装甲車の中でスタンとクロッラランツァが話す。

 時間通りに基地の門の前まで来ていたが固く閉じられていた。

 

「遅刻かしら?」

 

「こっちが遅刻したんじゃないか?」

 

「イタリア人全員が時間にルーズなわけではないぞ。」

 

「ええ。南部の人はルーズな人が多いですけど」

 

「ベネリ、クロッラランツァ家はバーリの貴族家だが?」

 

 M1014は目を逸らす。

 そうこう話していると前の門がゆっくりと開いていった。

 

「開いた。」

 

「入りなさいってことかな?とりあえず入ろうか」

 

 装甲車はゆっくりと基地に入る、そして司令部棟らしき建物の前に赤い服を着た男を見つける。

 その前で止まりドアを開けると男が出迎えた。

 

「ようこそ、S-07地区へ。

 私はこの基地の指揮官のサーラシ・アンドラーシュです。」

 

「ミスターアンドラーシュ、私はイタリア軍のクロッラランツァ中佐、彼女は私の部下のM1014、一応准尉だ。

 そしてこちらは」

 

「DBI捜査官のスタンフィールド、こっちは同じくイサカだ。

 よろしく」

 

 サーラシに自己紹介する。

 スタンがDBI捜査官を名乗った時、一瞬サーラシは表情が硬くなるがすぐに戻りスタンに尋ねる。

 

「なぜDBI捜査官がこちらに?」

 

「ああ、この間の摘発の件で2、3個程確認したいことがあってな。

 たまたまクロッラランツァ中佐が向かうと聞いて便乗しただけだ」

 

「そうなんですか?」

 

 サーラシがスタンを警戒しクロッラランツァに確認する、それに彼は口裏を合わせる。

 

「ああ。司令部で会議があってその帰りにばったりと。」

 

「お知り合いで?」

 

「大学の先輩後輩さ、ケンブリッジ留学時代の」

 

「まあとは言っても20年近く会ってなかったが」

 

「ケンブリッジ卒ですか、私もこう見えてもオックスフォードでして。」

 

「オックスブリッジですか、ではライバルですね。」

 

「異世界のライバル校というのも気になりますね、では行きましょう」

 

 彼らは咄嗟に嘘をつき誤魔化す。

 それに納得したサーラシは二人を連れて基地の中に入る。

 するとM1014が英語でスタンに尋ねた。

 

「スタンフィールド捜査官、坊っちゃんとはお知り合いなのですか?」

 

「な訳ないだろ?イギリスには留学したことはあるがセント・アンドルーズ大学だ。

 後、アメリカ人だからってイタリア語は出来ないと思うなよ?」(イタリア語)

 

 スタンは訛りこそあれど流暢なイタリア語で返した。

 突然の事に彼女は驚くが付き合いの長いイサカは動じない。

 

「彼を甘く見ない方がいいわよ?

 彼は見た目よりも切れ者よ、スペイン、ロシア、中国、日本、フランス語も話せるわよ。」

 

「驚きました」

 

「フフ、彼は表紙がイエローペーパーの聖書のふりをしたスーパーコンピューターよ。

 見た目は悪くて古臭いふりをしてるけど、中身は誰よりも賢い。」(イタリア語)

 

 イサカが笑ってこちらも流暢なイタリア語で言う、二人そろっての高スペックに彼女は茫然とした。

 

 

 

 

「では、幾つか確認したい点があると?」

 

「ああ。相手を撃った場所、理由、何発撃ったかなどをだ。」

 

「既に書類は上げましたよ?」

 

 目の前のソファに見た目に反して礼儀正しい態度で座るスタン、その隣で代用コーヒーを飲み顔をしかめるクロッラランツァの二人、その後ろに立つM1014とM37にサーラシは不満げに言う。

 

「不十分だったんだ、それに書類上で確認しても実際現場を見ない事にはね?」

 

「本国でもそのように?」

 

「一応そういうのを調査する人はいるのだけれどここは人手不足で彼が代わりにすることになったの」

 

 イサカも説明するがサーラシの不満そうな態度は変わらず敵意とも思える眼差しを彼女に向ける。

 その態度は上手い事隠してはいるが何かを隠しているとも取れる。

 そして明らかに軽蔑した口調で訊ねた。

 

「なぜそのような事を?悪人ですよ?」

 

「悪人かどうかは司法が決める。それに悪人だからといって殺してはいけない。

 全ての人間には生きて司法の下で裁かれる権利がある、殺すのは最終手段に過ぎない」

 

「面倒くさい、司法なんて貧乏人豚箱に放り込むか金持ちを無罪放免にするしか能のない連中じゃないか。

 だったらさっさとぶち殺した方が楽だ。

 第一そんなこと言っても本当はコレが欲しいんだろ?」

 

 サーラシは軽蔑した口調で暗に賄賂の事を言った。

 その言葉にどれほどこの世界が腐っていたかがよく理解できた。

 そしてスタンはこの侮辱的な発言にやり返す。

 

「ハハ、だが今やここはアメリカだ。

 アメリカは民主主義国家、共和制国家だ。

 法治主義で文章主義、面倒くさいがそれが民主主義だ。

 従ってもらうよ?後、俺は公定レートで一ドル25000クレジットのトイレットペーパーみたいな金で賄賂を貰うほど落ちぶれてないよ?」

 

「これは失礼した、では参加した人形を連れて来ますのでお待ちください」

 

 敵対的な雰囲気の中、サーラシは逃げるように人を呼びに行った。




・アルベルト・ディ・クロッラランツァ
イタリア陸軍中佐。騎兵連隊“サヴォイア騎兵”連隊長。37歳。
南イタリア、バーリの名門貴族家クロッラランツァ家出身でバーリの発展に尽くしたファシストのアラルド・ディ・クロッラランツァの子孫。先祖はガチガチのファシストだが彼は保守派ではあるがファシストじゃない。
文字通りの名門貴族家であり母親がバイエルン公家子女と結婚したスペイン貴族家出身であるためバイエルン王家経由でジャコバイトの王位継承権も持っている。
バーリの貴族家出身だが生まれと育ちはトリノ。
父親は投資家、ローマ大学やケンブリッジ大学で学んだ後イタリア陸軍の士官候補生となり軍人となる。
伝統的イタリア貴族家(ただし教皇党系ではなく両シチリア系貴族家)らしく敬虔なカトリック教徒であり洗礼を当時のトリノ大司教(後の教皇)にしてもらったほど。
紳士的で英語が得意。貴族らしく物腰が柔らかな人物。
士官学校の成績は大して良くないが人心掌握に長けている。
よく一緒にいるM1014は私物なのだが書類上の部下(准尉)でもある。父親が大昔に民間仕様を購入、その後私費で軍用仕様に改造されたタイプ。なお敬虔なカトリック教徒。
名前はファシスト政権期のイタリアの公共大臣アラルド・ディ・クロッラランツァから。

・M1014
クロッラランツァの私物の人形だったのだがイタリア軍曹長(兵科は騎兵)で騎兵連隊サヴォイア騎兵司令部付き将校。
なお階級自体は正規の士官教育を受けていないので下士官。
アメリカ軍のMナンバーだが製造はイタリアの会社で英語は基本プログラムに入ってる程度(日常会話レベル)しかできないし訛りも酷い。基本クロッラランツァに通訳してもらってる。
クロッラランツァの事を坊っちゃんと呼ぶ。一方クロラランツァはベネリと呼ぶ。
心配性気味で考えすぎてやらかすタイプ。
気質としては北部イタリア気質(真面目)

一応M1014はイタリアのベネリM4スーペル90なんでイタリア銃です(ただし特殊部隊装備なので騎兵部隊には配備されない)
分かりにくいネタだけどジャコバイトの王位継承権はスチュアート家からイタリアのサヴォイア=ブレス家、オーストリア=エステ家を経てバイエルン公ヴィッテルスバッハ家、更に将来的にはリヒテンシュタイン公国のリヒテンシュタイン家に移る予定(この世界の時点だとリヒテンシュタイン家が継承権持ってる)

どうでもいい話だけど某ナガンおばあちゃんの基地とコラボしたい…というか話が思い付きそうというアレ…
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