もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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なんかヤバいことになった。

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第31話

「君は例の摘発に参加したのだね?」

 

「は、はい。」

 

 ベレッタM38は怯えていた。

 突如として彼女の指揮官が呼ぶと幾つか厳命するとこの二人の事情聴取を受けるように指示した。

 もしも、彼の命令を拒めばどうなるかは彼女も知っていた。数か月前、仲間の何人かが突如として行方不明となった、その何人かは全員あの男に反抗的だった人形たちだった。

 

「そんなに怯えなくていいわよ?

 私はイサカ、彼はDBI捜査官のスタン」

 

「今日は幾つか君に確認したいことがあって来た」

 

 スタンと名乗った男とその男の相棒らしき戦術人形が自己紹介する。

 密室の中3人だけだった。

 

「はい、なんでしょうか」

 

「色々と確認したいだけだ、まずこの男についてだが…」

 

 それから数十分、スタンとイサカは彼女に書類の内容を細かく確認した。

 それこそ彼女からすれば異常と思える程細かいところまで。

 

「えっと、ここは…」

 

「分かった。」

 

 スタンはそう言うと指でイサカを呼ぶ、そして小声で話す。

 

「イサカ、どう思う?」

 

「正直に言ってかなり怯えてるわね、何かあるに違いないわ。」

 

「俺もだ、意図的にある話題から離れようとしてる。」

 

「あの…何かおかしなことでも?」

 

「いや、何でもない。」

 

 ベレッタに聞かれ適当にごまかす、そしてイサカに合図すると本題を切り出した。

 

「君はM1ガーランドの戦術人形を知っているかね?」

 

「え!?」

 

 ガーランドの事を切り出すと明らかに知っているような反応を見せた。

 更にスタンは話を続ける。

 

「先日、違法な売春宿を摘発した際SuperSASS、Stg44、M1カービンと共に保護された。」

 

「今は私達の基地にいるわ」

 

 ガーランドたちの事を伝えた。

 するとベレッタは静かに泣き始めた。

 

「よかった…よかった…」

 

「心配していたのね」

 

「だから色々と教えてもらいたい、この基地の指揮官の正体を」

 

 スタンが聞いた。

 

「指揮官は…極悪人です。」

 

「極悪人?」

 

「はい、表向きはこの地域全体に善政を敷くいい人です。

 でも裏では私達を道具として使って反抗的な人形は使い捨てにするか懇意にしている業者に売り飛ばしてるんです。

 それに…」

 

「それに?」

 

 ベレッタが一瞬躊躇う、そして思い切って言った。

 

「地区内の建物や施設が犯罪者たちの倉庫や工場や拠点に使われてます。

 そこで麻薬を作ったり…」

 

「場所は分かるかしら?」

 

「はい、何度か物資輸送とか護衛とかで行ったことのある場所なら」

 

「地図で教えてくれ」

 

 スタンはタブレットで地区の地図を出す。

 ベレッタは地図で数か所をマークする。

 

「ここと、ここ、それに多分この辺りに」

 

「成程な」

 

「教えてくれてありがとう」

 

 二人マークされた場所を見ながら考える。

 するとベレッタが言った。

 

「お願いです、指揮官を逮捕してください」

 

「分かってるよ、絶対に逮捕して、罪を償わせてやるさ」

 

 ベレッタの請願にスタンは強気の口調で言うとベレッタの頭を撫でた。

 ベレッタは感謝の言葉を返すだけだった。

 

 

 

 

 

 数十分後、スタンたちは行と同じく装甲車に乗っていた。

 事情聴取で部屋の外にいたクロッラランツァが聞いた。

 

「それで情報は?」

 

「この地区内に少なくとも三か所、犯罪組織のアジトがあるのが分かった。」

 

「この地区内なら情報が揃えば今晩にでも襲撃できるが、令状は?」

 

「緊急案件なら令状なしで行ける。

 上は崩壊液関連は緊急案件の認識だ、一応確認だけ取って突入だ」

 

 緊急ならば例外的に捜索差押令状なしで突入できる、そして国連軍は崩壊液関連を緊急案件とみなしていた。

 クロッラランツァも事態がどれほど危険かを理解していたからかなり積極的だった。

 

「分かった、私だ。

 今すぐ次に言う拠点を偵察と突入作戦を立案してくれ。」

 

 クロッラランツァは即座に無線機を取り任務部隊本部に連絡する。

 だがその動きに彼の中で何か直感めいた不安がよぎる。

 

「イサカ、なんだか嫌な予感がするんだ」

 

「嫌な予感?」

 

「ああ。なんだろう、こう上手く行きすぎてる。

 嫌な事にならないといいが…」

 

 彼にできるのは不安が現実にならないよう神に祈るだけだった。

 

 

 

 

 

 数十分後、S-07地区上空を数機のUAVが飛行する。

 その機に取り付けられたカメラの映像はそこから10キロも離れていないフォルゴーレ任務部隊司令部に送られていた。

 

「ここが連中の拠点か?」

 

「見たところただの倉庫だが」

 

 クロッラランツァに参謀将校の一人が南部訛りのイタリア語で言う。

 

「ミリ波パッシブに切り替えてくれ、何かわかるかもしれない」

 

「は」

 

 クロッラランツァに言われ操作担当の空軍将校がカメラから搭載されているミリ波パッシブ撮像装置に切り替える。

 この装置はかつては空港警備に使われていた代物だったが技術発展によりUAVに搭載できるほど小型でありながら高度の制限こそあるが地上の建物を透過して調査できる優れた機械だった。

 この機械を使えばただの倉庫に見えた建物の中には銃を持った男が多数、麻薬の製造設備らしきものも多数置かれ明らかに普通の倉庫ではない事が一目瞭然だった。

 更に別の機が同じく犯罪組織の拠点とされた建物を映す、こちらもミリ波パッシブ撮像装置で確認すると倉庫の様であり、更に同じく別の建物の方も映せばこちらも倉庫か少なくとも明らかに異常ともいえる設備の建物の様だった。

 

「情報通りだな。

 建物の構造も分かるな」

 

「すぐに構造を図面に起こしてくれ。」

 

 参謀将校が突入作戦の準備を指示する。

 クロッラランツァは決断した。

 

「この三つの建物にそれぞれコードネームを付与、今晩0200時に突入する」

 

「了解しました、コードネームはそれぞれカイーナ、アンテノーラ、トロメーアと呼称。

 至急各部隊から突入班を編成」

 

 イタリア人ならば誰もが一度は学ぶダンテから裏切り者の地獄の名を取る。

 他の将校たちも急いで動き始める、イタリア人は一般に思われる程怠惰ではないのだ。

 

 

 

 

 

 夜、フォルゴーレ旅団が駐屯する基地では突入部隊の兵士と戦術人形が集まって祈っていた。

 

「主よ、わたしたちの罪をお許しください。

 わたしたちも人を許します。

 わたしたちを誘惑におちいらせず、悪からお救いください。

 アーメン」

 

「「アーメン」」

 

 従軍神父の祈りに続き祈る。

 その中にはクロッラランツァの姿もあった。

 宗教というものが死んだこの世界では奇特とも言える光景だが彼らの世界では宗教はまだ生きているのだ。

 神に祈ることでこれから行われる“罪”と折り合いをつけるのだ。

 

「各隊整列!」

 

 部隊長が叫ぶ。

 祈りが終わると兵士達はそれぞれ乗り込むヘリの前に整列する。

 

「中佐、各隊整列しました」

 

「うむ、君らには急で悪いが緊急案件で出動してもらう。

 相手は闇で崩壊液だけでなくあらゆる悪行を行っている悪党、その手先だ。

 長々としたスピーチはいいだろう、君らに神のご加護があらんことを」

 

 クロッラランツァはそれだけ言うと敬礼する兵士達の顔を眺める。

 そして返礼し兵士達はヘリに乗り込み離陸した。

 

「神よ、我が罪を許したまえ。

 彼らに神のご加護があらんことを」

 

 離陸するヘリを眺めながら呟いた。

 良くも悪くも伝統的イタリア貴族らしい言葉だった。

 

 

 

 

 30分後、フォルゴーレ旅団司令部

 

『こちらステッラ、目標へ侵攻中』

 

『ネンボゥ、ホールディングエリア2到達。』

 

『こちらピピストレッロ、目標視認』

 

「了解、ベルギー軍部隊は?」

 

『こちらワロン23、目標地点手前待機ポイント到着。それと大尉がコールサインどうにかしろって』

 

「了解した、なおコールサインだが代わりはワッフルだ」

 

『ぶち殺すぞパスタ野郎』

 

 突入部隊を乗せたそれぞれ2機編隊のヘリ部隊と地上から支援するベルギー軍部隊がネットワークシステムを使い連携していた。

 司令部の壁につけられた巨大なスクリーンには各部隊の兵士のヘルメットにつけられたカメラの映像や各部隊の位置などが映し出され一目で状況を把握できるようになっていた。

 

「流石軍ね、動きが素早いわ」

 

「警察と違い即応作戦となると軍に一日の長がある。

 俺達が出しゃばらなくて良かったな」

 

 ()()として扱われていたスタンたちはイタリア軍とベルギー軍の動きに感嘆していた。

 彼ら警察と軍とでは練度に大きな差がある、その差をまざまざと見せつけられていた。

 

「ところでクロッラランツァ中佐は前線に出ないのか?」(イタリア語)

 

「坊ちゃんは出ません。

 いたずらに上にいるものが現場に出てはいけませんから」(イタリア語)

 

「ベネリ、コーヒー」

 

「はい、かしこまりました!それでは失礼します」(イタリア語)

 

 スタンと話していたM1014はクロッラランツァに呼ばれ離れる。

 腕時計を見ると深夜二時になろうとしていた。

 

「時間だ、全部隊、状況を開始せよ」

 

 時間を確認したクロッラランツァが無線で作戦開始を指示した。

 すると画面上のヘリ部隊は片方が目標地点の傍の空き地に着陸すると一斉に兵士達が降り建物に接近する。

 もう一機は上空を旋回しながら援護していた。

 

『こちらネンボゥ、これよりカイーナに突入する』

 

『ステッラ、ブリーチ!』

 

『よし!やれ!』

 

 各部隊の兵士達の映像では目標の建物の入り口に到達するとショットガンや爆薬でドアを吹き飛ばし突入する。

 

『行け!行け!行け!』

 

『国連軍だ!武器を捨てて投降しろ!』

 

『動くな!』

 

 各隊突入する、だが何故かどの建物も中はもぬけの殻、人っ子一人いなかった。

 

『ネンボゥ、誰もいません』

 

『こちらステッラ、同じです』

 

『ピピストレッロも同じです』

 

 警戒しながら各部隊指揮官が報告する。

 クロッラランツァは頭をかく。

 

「一体どういうことだ?なぜ誰もいないんだ?」

 

「まさか、罠…な訳ないで…」

 

 コーヒーを持って来たベネリが呟いた。

 彼女の呟きを聞いて咄嗟に叫んだ。

 

「総員退避!罠だ!今すぐ退避だ!」

 

『え?』

 

 叫んだ次の瞬間、突入部隊のカメラが一瞬光ると爆音とともに消えた。

 それも3つ同時に。

 そして外から撮影していたヘリとベルギー軍部隊からの映像には建物があった場所から真珠湾攻撃の有名な写真のような大爆発が映し出されていた。

 何が起きたかは明らかだった。

 

「サバノビッチ」

 

 爆発の映像に呆然とする中、スタンが一言呟いた。




各部隊のコールサインはそれぞれ
ステッラ:イタリア語で星
ネンボゥ:イタリア語で青、またイタリア軍の空挺部隊の名前でもある
ピピストレッロ:イタリア語でコウモリ

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