もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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P基地ってSVD、SV-98、M14、M1カービンいたっけ(500何話もあると誰いて誰いないか分からない)


ジェネレーションギャップ

 さて、M4達は自称アイドルらしい農家と交流し、M14達はバカな上司に呆れていたその頃、唯一蚊帳の外とも言うべきM16・SOP組は基地内のラボにいた。

 

「ほーう、掃除ロボットか。」

 

「そんなに珍しいの?」

 

 ラボの主、鉄血ハイエンドモデルのはずのアーキテクトの前でM16は掃除ロボットを眺めていた。

 

「いや、20年前にオランダのフィーテン社が出してたフィーテンRS225に似てたから気になってな。」

 

「フィーテン?」

 

「ああ、オランダの電機メーカーで12、3年前にパッカード・エレクトロニクスに買収されて消えた会社だ。

 最初に買った家電が中古のフィーテンの掃除ロボットだったから懐かしくてな」

 

 昔使っていたオランダ製の家電に似ていたらしい、そんな彼女達の様子を見ているとアーキテクトの中の技術屋らしい好奇心が疼いた。

 

「ところでさ、君たちの世界ってどんな技術があるの?」

 

「え?技術?」

 

「私も気になります」

 

「俺も気になる」

 

 アーキテクトの質問にラボの手伝いの88式とキャロルも乗っかった。

 

「うーん、そうだな。

 大前提だが崩壊液なんて世界中にばら撒かれなかったし第三次世界大戦も起きなかったから基本的に技術的後退の要素が無い。

 だから技術格差としては20年ぐらいあるんじゃないか?」

 

「「20年!?」」

 

 M16の言った20年の技術格差に驚く。

 それなりに技術格差はあるとは思っていたがまさか20年もとは思っていなかったのだ。

 

「崩壊液関連は別だと思うが。

 I3C結成以降遺跡からの技術に頼るのはかつて植民地にされたアジアやアフリカの人々のように成りかねない、そうなれば恐ろしい結果が待ち受けるかもしれないって考えが支配的になってな。

 だから遺跡関連の技術より崩壊液の平和的利用法の方が重要だよ、崩壊液発電なんてのもあるしな」

 

「なんだかつまらなさそうな技術だね。もうちょっと楽しそうなのあるじゃん」

 

 崩壊液発電に対して感想を漏らす、エキセントリックな発明家――言い方を変えればただのマッドサイエンティスト――である彼女には発電に使うなんてとてつもなく退屈な技術だ。

 

「崩壊液に物質、本当に何でもいいんだがそれを崩壊させて生まれる莫大なエネルギーを電力に変換するって発電方式だ。

 ゴミは殆ど生まれないし崩壊液も再利用可能、事故が起きても即座に中和剤を流し込めば安全な技術だからかなり有望だぞ。

 まだ世界でも片手の指で数えられるほどしかないが」

 

 退屈そうな名前と裏腹に崩壊液発電の有効性は素晴らしい。

 何せ原子力発電や核融合炉以上の高効率でその上ゴミもあまり出ないという素晴らしい技術だ。

 その上崩壊させるのは何でもいいのだ、水でも酸素でも二酸化炭素でも。

 だから危険ではあるが対処をした上で現在世界中で少しずつ実用化に向けて動いていた。

 

「人形技術だと色々あるがまず完全防弾構造にコアとメンタルモデルのブラックボックス化、耐衝撃性の向上とかだな。

 一応設計上5000G程度は耐えられるし銃弾だとキャリバー50をぶち込んでも耐えれるそうだ。

 火災だと1500度で40分、水圧だと水深6000メートル程度までなら大丈夫らしい」

 

「…え?なんでそこまで頑丈なんだ?」

 

「そんな需要が…まさか…」

 

 M16の話した人形の耐久性にキャロルは疑問を持ち88式はとんでもない想像をしてしまった。

 もしかしたらそんな任務に平然と使われているのかも知れないと。

 

「防弾性に関しては軍用規格がそのまま民間に回されたって事情がある。

 それ以外に関してはまぁ…何でだろうな?衝撃とか火災は分かるけど水圧はいらないと思う。」

 

「確かに」

 

 謎の耐久性の高さにM16でさえ首をかしげる。

 それほど無駄な耐久性なのだ。

 

「他には?」

 

「そうだねー、ダミー技術が無いかなぁ」

 

 続いてSOPがかなり重要な事を言った。

 この世界の人形には標準装備のダミー技術が無いのだ。

 

「え?無いの?」

 

「いや、あることはあるが殆ど使われてない。

 むしろその技術を元にした統合型コントロールシステムの方がよく使われているな。

 この技術はダミーの代わりにいわゆるUAVとか各種無人兵器をコントロールするシステムだ。」

 

 驚くアーキテクトにM16が説明する。

 元々ダミー技術そのものが大してコストパフォーマンスが良くない、ならばUAVや無人兵器をコントロールできるようにした方がいいのでは?という至極当然の意見からオミットされ代わりにそのコントロールシステムが搭載された。

 とは言っても軍用モデルのみで民生用には使われていない、後付けは出来るが。

 

「へぇ、変わってるね~」

 

「そもそも戦争の形態が違うからな。

 我々の戦争はネットワーク中心型戦争をより強化した戦争だからな。

 厚い皮より速い足、それ以上に情報と判断速度を重視ってスタイルさ」

 

 戦争の形態が違うからそもそも兵器体系をも違い技術も違うのだ。

 その後もしばらくの間、彼女達は技術の話で盛り上がったのだった。

 

 

 

 

 

 数時間後、夕食の時間になった頃P基地の食堂の一角でコーシャ達は夕食を摂っていた。

 

「では、偉大なる勝利に!」(ロシア語)

 

「戦火に斃れた全ての者に!」(ロシア語)

 

「斃れた者達が作り上げ、それを守り続けた全ての人々に!」(ロシア語)

 

「「万歳!!」」(ロシア語)

 

 コーシャとSVD、SV-98、G36、G36Cはウォッカで乾杯し一気に飲む。

 

「今日は祝いの日だ、偉大なる勝利の日だ。

 いつもなら赤の広場を行進していたが今年は仕事だ。」(ロシア語)

 

「ご主人様、気を付けてくださいね?」(ロシア語)

 

「お姉さんの言う通りですよ?

 またモスクワ川に落ちるなんてことしないでくださいね?」(ロシア語)

 

「今日は祝いの日だ、今日ぐらいはいいじゃないか」(ロシア語)

 

 酒を飲み過ぎないようG36が釘を刺す。

 だが全く聞くそぶりを見せない。

 

「喜びと感謝の日ですよ、私達への。」(ロシア語)

 

「そうとも!45年のあの5月の朝の勝利、それ以来守り続けたのは俺達ロシア軍だ。

 アフガン、チェチェン、オセチア、アブハジア、シリア、マンチュリア、中国、その全てに俺達はいた!

 祖国ロシアと国民を守るためにな!」(ロシア語)

 

 他のメンバーは話しながらだがそれでもそれなりに静かなのにコーシャ達は酒を飲みながら話していた。

 大騒ぎする彼らを眺めながら他の人形も噂していた。

 

「アレがお客さん?なんか大騒ぎしているけど」

 

「お姉さんも私も全然違いますね」

 

 ネゲヴとG36C(P基地)が噂する。

 また別の人形たちは

 

「ねえ、ノアを一撃で倒したってホント?」

 

「ホントですよ、目の前で見ましたもん」

 

 ワルサーWA2000とFMG-9が噂する。

 ノアを筆頭にこの基地の腕っぷしの強い人形を片っ端から倒したM14の話は既に広まっていた。

 

「あれが国連軍…」

 

「ロシア連邦やアメリカなどを自称して表向きは友好関係を築いているけど…」

 

「一体何をしでかすか分からない不気味な沈黙を保ち、同時に圧倒的な経済力で食いつぶされかねない存在。

 そのおかげで街には物が溢れかえってるんだけどね」

 

 TAC-50、AUG、Px4も噂する。

 最後のpx4の言った通り、S地区全体で大量の米国製品が流入、同時に大量のドルも流れ込みこれまで以上に物で溢れていた。

 

「お母さんたち大丈夫かな…」

 

「さっきあの男の人がお母さんに怒鳴ってるの聞いた!ホントだよ!」

 

「え、じゃ」

 

 シャフトやP7、TMPたちはユノの事を心配していた、特にP7はダミーの一人が格納庫でキレていたコーシャの会話を聞いていたのだ。

 結果としてコーシャはなぜか危険人物扱いされていた、実際(いざという時には基地を制圧しユノの殺害さえ許可されているという点では)危険なのだが。

 

「「Полюшко-поле(草原よ、草原よ)~♪

  Полюшко, зелёно поле(草原よ、緑の草原よ)~♪

  Едут по полю герои(草原を英雄たちが駆けて行く)~♪

  Эх-да Красной армии герои(そう!赤軍の英雄たちが!)~♪」」

 

 酔っ払いコーシャとSVDとSV-98は周りを気にせず肩を組んで歌っていた。

 その騒ぎにユノとナガンが近づいてきた。

 

「お主ら一体何を騒いでおるのじゃ?」

 

「何って勝利の日じゃないか!さあ、飲もうじゃないか同志」(ロシア語)

 

 SVDが返事と共にウォッカの瓶を出しユノは困惑する。

 

「えっと…」

 

「今日は祝うべき日だ。なぜ祝わない?偉大なる勝利の日だぞ?

 君らには申し訳ないがロシア軍人としてこの日ぐらいは盛大に祝いたい、誕生日と新年にに次いでな」

 

 英語でコーシャがどんなに大切な日か力説する、だが次のユノの言葉で盛大に打ち砕かれる。

 

「あの、勝利の日って、なんですか?」




歌ってるのは比較的知られたソ連軍歌「ポーリュシカ・ポーレ」の10番。
なお赤軍時代の歌なのでソ連軍でもなく赤軍表記(ソビエト軍になったのは47年、それまでは労農赤色軍。この曲は33年に発表されたレフ・クニッペルの交響曲第4番「コムソモール戦士の詩」ヘ短調の第1楽章第二主題を独立させたもの)

ユノの音楽への知識とか興味薄いのにコーシャ達はロシア人だから音楽は何でも大好き。

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