もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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この章、話の都合で主人公はコーシャになる。
基本軍目線の大作戦


第38話

 突如ドアがノックされ、部屋の主たるコンスタンティン・ハリトノーヴィチ・アーチポフロシア空軍“中佐”はパソコンを弄る手を止める。

 

「はい、開いてるぞ」

 

「よー出世したなー」

 

「ジム、ハワイ帰りか?」

 

「ああ、今朝返ってきたばかりだ」

 

 入ってきたのは休暇から帰ってきた指揮官だった。

 およそ二か月間、彼は休暇中だった。

 一方の彼は毎日毎日仕事であった。

 何せ司令部付きの将校というのは暇を持て余しているような人材ではなく司令部の手の回らない部分を行う雑用係でありグリフィン部隊の統制に始まり訓練、補給、人材交流、更には法的事務というPMC関連業務だけでなく正規軍との折半や住民の陳情など多種多様な仕事があった。

 

「お前はいいよな、休暇で二か月もハワイなんだから。

 こっちはこの二か月ロスにすら行ってないんだぞ。」

 

「大変だねぇ、はい、出世祝いのコーヒーだ」

 

「俺が紅茶党だからってバカにしてるのか?」

 

 机に脚を乗せながらコーシャは話す。

 この二か月の間に少佐から中佐に出世し先週には司令部付きから司令部内に新たに設けられた外部軍事支援局という部署の部長に出世していた。

 

「ハハ、それもあるが上司をいびりたいだけさ」

 

「もう仕事を増やすのは勘弁してくれ。

 部下が大量に増えたのはありがたいが俺の仕事はPMCの指揮管理と正規軍との協力体制構築と折半なんだぞ」

 

 外部軍事支援局の仕事は鉄血との戦争に従事する各PMCや正規軍らと国連軍の窓口業務と契約下で働くPMCの指揮管理であった。

 部下も増えていたがそれ以上に仕事も増えていた。

 

「部下に仕事を回せばいいじゃないか」

 

「それでも足りないんだよ、最近正規軍が鉄血との戦争に乗り気になってな、近いうちに向こうのボスがこっちに来るんだ。

 その事前準備とかいろいろあるからな」

 

「はぁ、軍人さんも大変だねぇ。

 こっちは契約以上の事は何もしないから楽だよ、受注した契約を履行して代金だけ頂けば終わりさ。

 ダラス条約で戦争は軍のお仕事だしね」

 

 仕事の多さを愚痴っているとドアがノックされた。

 

「開いてるぞ」

 

「コチェットコフです」

 

 入ってきたのは銀髪のガタイの良い最近派遣されたエストニア陸軍所属のロシア系エストニア人の将校、エゴール・コチェットコフエストニア陸軍大尉だった。

 

「コチェットコフ大尉、どうした?」

 

「先方が来週、非公式ながら会談したいとの要請です」

 

「はぁ、分かった、とりあえずグッドイナフ大将に聞いてみる。」

 

「了解しました」

 

 深いため息をつく。

 仕事が増えた事に頭を抱えていた。

 そして出て行こうとするコチェットコフに一つ指示を追加する。

 

「大尉、それとこのアメリカ人を。

 もうお帰りだそうだ」

 

「了解しました、こちらです」

 

 指揮官を帰らせようとする。

 彼は立ち上がりコーシャと握手する。

 

「あいよ、まあ久しぶりに話せてよかった。

 嫁さんと仲良くな」

 

「言われなくても分かってるよ、お前の方も部下は大事にしろよ?

 そこの大尉殿は独身だから女を取られるなよ?」

 

「大丈夫さ、先客がいるからな」

 

 最後に笑うとコチェットコフに連れられて出て行った。

 

 

 

 

「ただいま、帰ったぞ」

 

「お帰りなさい指揮官」

 

「やっとこの仕事から解放されるんですね~」

 

 数分後、G&Kセキュリティのオフィスに指揮官が入る。

 それに指揮官代行だったカリーナと補佐役をやっていたM14が返事をする。

 

「予定通りだから文句を言うな。

 次の休暇はお前の番だぞ、カリーナ」

 

「分かってますよ!明日から休暇で3週間バカンスですよ。

 どこ行きましょうかねー」

 

「ルーマニアに帰るってのはどうだ?」

 

「嫌ですよあんな肥溜め。というか私の故郷はもうシアトルです。

 ルーマニアなんかじゃないですよ」

 

 楽しそうに二人は雑談する。

 現状この辺りは交代で休暇を取れる程安定しているのだ。

 

「ハハ。ところでワルサーとガーランドは?」

 

「二人なら土産物をアルカードさんの所に持って行ってますよ」

 

「アルカードは最近どうしてた?」

 

「ちゃんと仕事してますよ、グリフィンとG&Kの架け橋としても頑張ってくれてますよ」

 

 一緒に仕事しているグリフィンのアルカードも最近は慣れて主にグリフィンとG&Kの横方向の繋がりを作る架け橋として頑張っていた。

 状況はある種の小康状態なのだ。

 

「ならよかった。で、今日の仕事は?」

 

「今日の分の仕事ならもう終わらせましたよ。後は定時までのんびりしておいてくださいね」

 

「あいよ」

 

 カリーナに返事をすると彼女は満足そうに出て行った。

 彼女が出て行くと机に脚を乗せM14に言う。

 

「M14、暇だな」

 

「暇でいいじゃないですか。暇で」

 

「そうだな、ハワイの話でも聞くか?」

 

「いいですよ」

 

 M14と指揮官は雑談を始める、それほど暇だった。

 

 

 

 

 

『グリッドエックスレイ34に鉄血部隊約一個中隊。

 動き変わらずアンバールート5で接近中』

 

 画面に上空の無人偵察機が撮影している接近する鉄血部隊の様子が映し出される。

 それを見てこの司令部の司令官がポーランド語で指示を出す。

 

「射撃開始」

 

「了解、各部隊射撃開始」

 

 指揮官が指示を出す、数秒後砲撃の振動と音が聞こえ、更に数秒後に鉄血部隊のど真ん中に砲弾が着弾した。

 

「命中、修正の必要はないようです」

 

「このまま押し込め」

 

 副官の言葉にマイクを取り指示を出す。

 ここは前線、国連軍の組織改編で西部作戦群と呼称されている戦線左翼に展開しているポーランド陸軍第21ポドハレ・ライフル旅団の司令部だ。

 指示を出していたのは旅団長アンジェイ・プロターシューク大佐だ。

 

「相変わらず、鉄血は雑魚ですね」

 

「油断するな、相手を侮ることは何よりも危険だ。」

 

 楽観的な事を言う副官に口数少なく忠告する。

 物静かな男だがプロの軍人である彼の言葉に言い返す者はこの司令部には誰もいない。

 

「鉄血の僅かな動きも見逃すな。

 見つけ次第叩き潰せ」

 

 プロターシュークの命令は国連軍の前線全体での緊張感に繋がっていた。

 

 

 

 

 時間が飛び翌週、エドワーズ空軍基地と繋がるゲート基地には多数の兵士やメディア、そして国連軍幹部や合衆国国務長官が来てとあるとても重要な来客を出迎えていた。

 

「ソ連政府代表団に敬礼!」

 

 グッドイナフが号令を取ると将軍たちが駐機する旅客機のドアから降りるソ連政府高官らに敬礼する。

 その客とはロサンゼルスで開催される初の国際会議に出席する代表団であった。

 

「ミスタートルストイ、お待ちしておりました。」

 

「ミスターファニッツ、お会いできて光栄です」

 

 国務長官のマーヴィン・ファニッツと代表団のリーダーのトルストイ外務大臣が握手する。

 その光景を狙って記者達が一斉にフラッシュを焚いた。

 

「それにしても随分マスコミが多いですね」

 

「ええ。歴史的な国際会議ですから当然です。

 世界中が注目してますので」

 

 記者の数を気にかけるがファニッツ長官からすれば当然、いやむしろこの歴史的重要性を勘案すればこれでも少なすぎる程の記者の数だった。

 

「国務長官!一言お願いします!」

 

「そうですね、この会議の重要性は勿論すること自体ですが、最も重要なのは今後の経済的関係の構築や安全保障に関することです。

 こういった点で何かしらのいい結果が生まれることを願ってます」

 

「トルストイ大臣も一言!」

 

「彼の言う通り、貿易や安全保障の面で互いに満足する合意を導き出したいところです」

 

「ソ連政府としては国連軍の行動をどう思いますか?」

 

「当政府としては我が国の不安定な地域情勢の安定化や現在進行形で行われている除染などで大きな成果を上げている彼らを大変心強く思っています。

 ですので彼らの行動を阻害するのではなくより深く強固な関係を築けたらと願っております」

 

「国連軍との関係強化で欧州連合との外交交渉に影響は?」

 

「ないと断言しましょう。これとそれとは話が別ですので」

 

「国務長官、現在イスラエルのパールマン首相がイスラエル軍の派遣を求めているようですが派遣はありえますか?」

 

「それについてはお答えできません」

 

 

 記者らの質問に二人は的確に、当たり障りのない返答をしていった。

 

 

 

 

 

 代表団とマスコミ、そして政府高官らがエドワーズ空軍基地、更にロサンゼルスに移った頃、司令部ではとある人物と国連軍の幹部の話し合いが始まっていた。

 

「まさか代表団の来る日に話し合いを行うとは…我々も人間ですよ?」

 

「分かっていますとも。

 ですが多くの人の注意が代表団に向けられるからこういった話し合いがしやすいのですよ。

 それに、貴方は元特殊部隊員。この程度造作もない事では?」

 

「ほう、我々の事をちゃんとお調べになったようですね、カーター将軍」

 

「ええ、グッドイナフ海兵隊大将。

 これから交渉する相手の事を調べるのは交渉の基本ですよ、それに我々も馬鹿ではないので」

 

 正規軍特殊部隊KSSOを指揮するカーター将軍が答えた。




・エゴール・コチェットコフ
指揮官全員の敵エゴール大尉のこちらの世界版。まさかのエストニア人。
エストニア北東部国境の町ナルヴァ出身のロシア系エストニア人。
ロシア系エストニア人では珍しい3世代前にエストニアに帰化した正真正銘エストニア人。
エストニア人らしく4カ国語(エストニア語、ロシア語、ドイツ語、英語)が得意(エストニアでは4つの言語をマスターして初めて教養のある人物とみなされる)
大学から数年民間企業で働いた後軍に入った変わり者。
コーシャより2歳年上。
謹厳実直な性格で命令されたことを命令された通りにこなせるタイプ。
エストニア陸軍大尉で歩兵科出身。
独身。顔が良く鍛え上げられた肉体を誇るイケメンなので裏では女子(ついでにアッチ系からも)大人気。こっちに送られた理由の一つがエストニアで痴情の縺れによる騒動があったらしい。
なお典型的な鈍感タイプ+実はこっちに来て好きな人が出来たらしくアプローチ中の噂あり。
交渉のやり方が上手いのでかなり便利屋扱いされがち。
徳物はシグザウエルP239DAKカスタム


・アンジェイ・プロターシューク
ポーランド陸軍第21ポドハレ・ライフル旅団旅団長
大佐。
寡黙だが有能な指揮官。
慎重で堅実なタイプで一歩一歩着実に追い詰めるのが得意なタイプ。


・マーヴィン・ファニッツ
アメリカ合衆国国務長官。
サウスカロライナ州出身。


エゴール君普通のロシア軍人なら面白くねえから西側の武器使わせたくてロシア系エストニア人にした。
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