もしも白蘭島事件が起きなかったら   作:ロンメルマムート

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第40話

『続いてのニュースです。

 本日現地時間午前12時過ぎ、ベルギー議会においてレオン・フェルホフスタット首相の不信任決議案がベルギーの両院議会において全会一致で可決されました。

 これは先月発覚したフェルホフスタット首相の汚職と特別背任、EU貿易法違反に関連するもので…』

 

「フェルホフスタットやっとクビか」

 

「遅いですよね」

 

「ああ、KCMにベルギー軍の旧式兵器と中国で武装解除した武器を横流ししていたんだからな。

 普通とっくの昔にムショだろ」

 

 ケーブルテレビのニュースから流れるベルギー首相の不信任決議案の話をしながらコーシャとコチェットコフは昼食のハンバーガーとポテトを食べる。

 カーターとグッドイナフの会談が行われているのと同時進行であった。

 

「カタンガの鉱山が魅力的なのは分かるがコンゴに首を突っ込むとか時代錯誤過ぎるだろ。」

 

「ええ、全く百年前の事を忘れたんでしょうか」

 

 ニュースから流れるベルギー首相の汚職事件の話をしながら食べているとコーシャの肩が叩かれた。

 

「ん?」

 

「ご主人様」

 

「G36か、どうした?」

 

 肩を叩いたのはG36だった。

 コーシャの質問にG36は食堂の出入り口に立つ正規軍の将校を指さした。

 

「ご主人様に会いたいという正規軍の将校が」

 

「分かった。連れてこい、ただしこっちは休憩中だからな」

 

「分かりました」

 

 G36は離れるとその正規軍将校を連れて戻って来るとその将校が敬礼する。

 だがその顔にコーシャとコチェットコフ、そしてその挨拶した将校さえ固まった。

 

「KSSOのエゴール大尉でありま…す」

 

「あ、ああ。国連軍外部軍事支援局局長コンスタンティン・ハリトノーヴィチ・アーチポフ、ロシア連邦空軍中佐だ。

 そっちはエゴール・コチェットコフ、エストニア陸軍大尉だ」

 

「よ、よろしく」

 

 エゴール大尉と名乗った将校とコーシャ、コチェットコフは握手する。

 だがエゴールの顔はコーシャの隣に座るコチェットコフと瓜二つだった。

 

「コチェットコフ、双子の兄弟がいるのか?」

 

「いませんよ、姉貴分の人形はいましたが」

 

「君に幼い頃に生き別れになった双子の兄弟は?」

 

「おりませんが、中佐殿」

 

あまりにも二人はそっくりで一応確認するが二人共兄弟はいない、コチェットコフは実家に姉貴分の人形がいるがそれ以外に兄弟姉妹はいない。

 つまるところ、異世界の同位体とも言うべき存在なのだろう。

 

「ところで、お二人は何を見ていたのですか?」

 

「ケーブルのニュースだ。

 見ての通りベルギーの話だよ、先月ベルギーの首相のレオン・フェルホフスタットがコンゴのカタンガ・コッパー・マインとその配下の民兵団にベルギー軍の余剰武器と中国内戦で押収してその後倉庫に死蔵されていた兵器類をスクラップ名目で密輸したのをAFPがスクープして世界的スキャンダルになったんだ。

 それで今日やっとベルギー議会がフェルホフスタットの不信任決議案を採決したとさ」

 

 エゴールがニュースの内容を聞きコーシャが答える。

 ニュースは先月発覚したベルギー首相のコンゴへの武器密輸事件であった。

 

「まあ、ここから揉めそうですけどね」

 

「?」

 

「知らないのか?ベルギーはフラマン人とワロン人とドイツ人、それにフランス人がいる国だぞ。

 それに南北対立も重なって毎回政権交代時には相当揉めるんだぞ」

 

 ベルギーは南北対立や言語間対立などから政権交代のたびに大規模な混乱が起きる国だ。

 それこそ世界史上最も長い間戦乱や中央政府消失以外の理由で正式な政権が存在しなかった国という記録も持っている国なのだ。

 だから今回も揉めるのは確実に思えるのだ。

 

「フェルホフスタットはフラームス系左派でベルギーの現政権はフランス・フラマンの両左派政権だからな。

 次の政権は揉めるぞ」

 

「下らない民主主義ですね」

 

「下らないとは失礼だね、面倒だしこういうこともあるが、それが民主主義さ。

 俺たちはそれも勘案して使ってるもんさ」

 

 民主主義を蔑む発言をするエゴールに注意する。

 

「それは失礼しました」

 

「エゴール大尉、君は軍人だ、軍人ならその一挙一投足がそのまま外交問題に発展することもあるってことを理解したほうが君のためだよ?」

 

「了解しました。」

 

 エゴールにコーシャは忠告した。

 軍人の振る舞いが時として政治的な問題を引き起こす例は枚挙にいとまがない。

 だから振る舞いには気をつけなければならないのだ。

 

「ところで、正規軍は鉄血との戦争をどう終わらせたいんだ?」

 

「それを話すと思いますか?」

 

「君個人の意見でいい。

 意見を持ってはいけないとか言うなよ?」

 

 エゴールに尋ねた。

 彼は少し考えると答える。

 

「さあ、分かりかねます。私は一大尉です。

 そのようなことを知る立場にないので」

 

「無難な回答だな。

 それを言えばこっちだってただの中佐と大尉さ。

 俺たちのボスが一体何考えてるかなんて知ったこっちゃないし、どうするかを決めるのは政治家さ。」

 

 無難な回答をするエゴールにコーシャが言う。

 

「まあ、正式に決まるかどうかはさておき、これからはあんたらと長い付き合いになるのは確かだ。

 色々驚くことも多いだろうが、よろしくな」

 

「ええ、よろしくおねがいしますアーチポフ中佐」

 

 エゴールとコーシャはそう言うと握手した。

 

 

 

 

 

「つまり、貴国との合同軍事作戦ですか?」

 

「ええ。対鉄血方面でも貴方方と協力できないかと思いまして」

 

 数時間後のロサンゼルス、国際会議の会場となっているロサンゼルスのホテルでトルストイ外務大臣と会談しているカークマンが彼に提案した。

 カークマン政権の狙いは早期、それもこの年の11月に行われる中間選挙までに鉄血との戦争を終結させることとソ連政府との強固な関係を築くことだった。これが成功すれば中間選挙での共和党に追い風となるのだ。

 彼の提案にトルストイは安堵した。

 

「実を言います、我が国も同じことを提案しようとしていたのです。

 これは大統領に一本取られましたな」

 

 彼の国も同じことを提案しようとしていた。

 ここではカークマンに先を越されてしまったが互いに同じことを考えていたことに安堵していた。

 

「そんなことはないです。

 結局の所は我々は同じゴールを目指したい、違いますか?」

 

「そのとおりです。共通のゴールである鉄血の殲滅とELIDの駆除、これを行いたいのです。」

 

「では、正式な作戦協力を?」

 

「行いましょう」

 

「感謝します」

 

 トルストイは了承する。

 翌日、正式な作戦協力を行う合意、通称ロサンゼルス合意が締結された。

 これにより正規軍と国連軍の合同作戦が決定された。

 

 

 

 

 

 数日後、国連軍司令部は大忙しであった。

 

「大変だぞ全く」

 

「ご主人さま、紅茶です」

 

「ありがとう。G36、これからは大変だぞ。」

 

 合同作戦決定ということに作戦部では電子作戦のインヴィジブル・ハンドと攻勢作戦のファイブ・グッド・エンペラーの作戦内容が大幅修正が必要になり正規軍の作戦参謀が来るのを待っている一方、外部軍事支援局はと言うと正規軍との仲立ちで中心的な役割を担うことが確定したため増員が決定され大変な事になっていた。

 

「連絡将校とかそういうのを大幅増員だ。

 これからは接待とかもしなくちゃならない、俺は軍人だぞ」

 

「ハハ、お坊ちゃんにはいい試練じゃないか」

 

「ええ。空軍将校なんですから少しは陸軍将校の苦労を感じてはいかがでしょうか」

 

「誰がお坊ちゃんだ」

 

 突然後ろから声をかけられ振り返る、するとそこには黒髪の一人の女性将校と銀髪のやや小柄で冷たい印象を与える人形が腕を組んで壁にもたれかかっていた。

 

「なんでここにいるんだ、リーナ、アーニャ。

 お前らモスクワじゃなかったのか?」

 

「正規軍との連携が決まっただろ?それでモスクワからこっちに送り込まれた。」

 

「コーシャ、私の場合チェルケスからだが」

 

「そうかい、お前らと組むのはいつ以来だ?」

 

「フルンゼ以来になるな」

 

「リーナとコーシャと一緒になるの初めてだが」

 

 コーシャと二人が親しく話していると彼の方に冷たい手が置かれた。

 

「ご・主・人・様、そのお二人について詳しく説明してもらえますか?」

 

 いい顔をしたG36だった。

 突如「最愛の人」と親しい女性が二人も現れ目の前で親しくされたらこうなるだろう。

 

「G36、別に大した関係じゃない。フルンゼの同級生さ。

 リーナことアンジェリカとアーニャことAN-94だ。

 どっちも所属は陸軍だ」

 

 二人はフルンゼ名称記念軍事アカデミー時代の同級生だった。

 ウズベキスタンの高麗人出身でロシア軍に志願して士官となったアンジェリカと戦術人形のAN-94だ。

 

「よろしくな、これがあんたの嫁さんか?」

 

「ああ。最愛の人さ」

 

「妬けるねぇ、私と寝た夜のこと忘れたのかい?」

 

「お前みたいなのと寝るぐらいならゴリラと寝たほうがマシだ。」

 

「私とはどうなんだ?」

 

「火に油を注ごうとするな、嫁に殺される」

 

「いつの時代もロシアの男は嫁には頭が上がらないんだな」

 

「女に上がらないんだ。人形と結婚したがるのもチェーシャがいないからな」

 

「ご主人様、仕事中ですので身内の話はそこまでにしてくださいね?」

 

 親しげに話す3人にG36が嫉妬して割り込んだ。

 そこへさらに人がやってくる。

 

「アーチポフ中佐」

 

「ん?この間の将校か」

 

 やってきたのは正規軍のエゴール大尉だった。

 

「本日付で連絡将校として派遣されました」

 

「よろしく、まあ連絡将校と言っても人手が足りないときは容赦なく使うからな」

 

「了解です」

 

 彼も連絡将校として派遣されたのだった。




・アンジェリカ
ウズベキスタン共和国タシュケント出身のロシア陸軍将校
ロシア軍は一応志願なら世界中あらゆる国から入隊できるシステム、CIS諸国ならなおさら。
スペツナズ出身将校で男勝りな性格で姉御肌で意外とモテるがコーシャにはタイプではない。
フルンゼ名称記念軍事アカデミーの同級生。
相性はリーナ

・AN-94
コーシャと知り合いのAN-94。
アンジェリカが所属していたスペツナズにもいるが別個体。
AK-12キチではない。
山岳兵出身で趣味はチェスと登山。エルブルス山やマッターホルン、モンブランに登頂経験がある。チェスに関しても全ロ人形チェス大会でチャンピオンになる腕前。
前の配備先はコーカサス地方のカラチャイ・チェルケス共和国。
相性はアーニャ
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